24年度に引退を迎えた4年生を特集する「Last message~4年間の軌跡~」。第2回となる今回は、野球部の佐藤駿(商4・慶應)。3年春の東大1回戦で「8番・中堅」としてリーグ戦初出場・初スタメン・初安打を記録するなど華々しいデビューを果たした一方で、幾度となく怪我に苦しんできた。堅実なプレーでチームを支えてきた佐藤が卒業を目前に控え、これまでの軌跡や部活動での歓喜や苦悩、そして未来への決意を語った。
小学1年生から野球を始めた佐藤は、中学3年生の時に野球の全国大会で優勝。その決勝には慶大関係者も視察に来ており、クラブチームの代表から『こんな実績なら絶対に慶應へ』と背中を押された。彼が慶大野球部を意識し始めたのはこの頃である。「その後色々調べて、実際に大学野球の試合を観に行くうちに、自分の中で六大学野球が憧れの舞台になっていました」。翌年の春、彼は慶應義塾高校野球部に入部した彼は、その後7年ものあいだ慶應野球部で戦い続けた。
慶大野球部では、入部1年目から春秋リーグ戦連覇や大学選手権優勝といった全国屈指の実績を目の当たりにした。「入部当初は、レベルの高さに正直驚かされました」と佐藤は述懐する。大学野球は高校時代とは比べ物にならない練習量と個々の高いレベルが求められ、部員全員が『日本一』という共通の目標に向かって、切磋琢磨する環境が整っていた。先輩たちのプレーが佐藤にとって大きな刺激となった。「特に1年生の時、福井(章吾、令4卒・現トヨタ自動車)主将など先輩方の活躍を間近で見たことが、その後の野球人生の大きなモチベーションになりました」。
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走攻守全てでスキルを着実に磨いてきた
2024年。最上級生となった佐藤にとって、この年は勝負の年となった。キャンプシーズン前、就職活動と野球のどちらを選ぶか悩んだ。「キャンプなど重要な時期と就職活動が重なっていてどちらも大事な時期だとは理解していましたが、就活を優先するとなると野球でベンチに入ることすら難しいと考え、野球を選びました」両立ではなく、野球一本に絞ることを決断し、彼は4年目のシーズンを迎えた。しかし、ここで佐藤は怪我に泣いた。慢性的な怪我は、佐藤にとって4年間で最大の試練だった。「調子が良い時も、スタメンを掴んでいた時も、怪我で何度も台無しになったことは、本当に辛かったです」。今年の春季リーグ戦開幕当初はスタメンで出場していたが、怪我により戦線離脱。シーズン途中に復帰を果たしたが、主に守備固めや代走要員としての出場だった。
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早慶1回戦で執念の走塁を見せ、出塁した佐藤
もがく佐藤の支えとなったのは仲間の存在だった。佐藤の代には、キャプテン・本間颯太朗(総4・慶應)をはじめとする強い同期がいた。「今年の4年生は仲が良く、一人一人が日本一になるために必要なことを真剣に考え、共に練習してきました。同期が練習試合で活躍するのを見ると、自分も負けていられないと思い、自然と気持ちが奮い立ちました」。負けず嫌いな性格である彼は、ライバルの存在を自らの力に変えた。また、チーフコーチの深松(結太、商4・慶應)がバッティングについて具体的な改善点を示し、励ましの言葉をかけたことも大きな支えとなった。「その言葉があったからこそ、最後まで自分を信じてプレーできました」。迎えた4年生最後の早慶戦。佐藤自身も初戦に代打での出場で安打を放ち、終始ベンチから懸命な声援を送るなど、プレーでもサポートでも慶大の2連勝に貢献した。最後まで諦めずに戦い続けた佐藤の4年間が報われた瞬間だった。
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試合後の塾歌を聴き、涙ぐむ佐藤(写真中央)
慶大野球部での4年間は佐藤の人生にどのような影響を与えたのだろうか。彼が語ったのは”未来への希望”だった。
「大学で全力で日本一を目指して戦った日々は、二度と味わえない経験です。もちろん怪我や門限など様々な苦労や制約があって、正直大変でした。ただ、全力で物事に打ち込む経験は、どんな困難にも立ち向かう自信となりましたし、それを乗り越えたからこそ、今後どんな壁も乗り越えていけると思っています」
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苦労や制約、度重なる怪我など試練を乗り越えた
最後に、佐藤選手はこれから野球を始めたい若い世代や、慶大野球部の未来の後輩たちに向けてこうメッセージを送る。「野球は本当に素晴らしいスポーツです。頑張れば頑張った分だけ必ず自分に返ってくる。できれば慶應を目指して、限界を決めずに挑戦してください。引退後には、野球のことを考えなくてもいいという解放感も味わえるはずです。皆さんも自分の道を信じ、全力で走り抜けてほしいです」 。慶大野球部で培った仲間との絆、先輩たちの努力、そして自身の挑戦。野球での経験を力に変え、佐藤は新たな人生を歩みだそうとしている。
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全力で駆け抜けてきた佐藤の今後の活躍にも期待だ
(取材・記事:竹腰環)