【男子テニス】特集②４年生の強さⅠ井上主将編

 

 

今回の王座進出に欠かせない存在。それが２年前王座準優勝を経験した４年生たちだ。そしてその中でもひと際熱い心でチームをまとめる井上主将(総４)、独特なテンポとセンスが光る長谷川副将(総４)、慶大庭球部初のマネージャーで試行錯誤しながらチームを支えてきた内田マネージャー(経４)の３人に注目したい。彼らを突き動かすものとは何か、そして最後の王座の果てに彼らを待つものとは。４年生それぞれの物語の終章が幕を開ける。

 

 

主将・井上、最後の挑戦

主将として選手として、日本一を目指し戦ってきた井上主将(総４)がついに頂点への一歩を踏み出した。今季は怪我に泣かされた不遇のシーズンだったため、この王座が最大で最後の全国優勝のチャンス。今までの苦労と努力を無駄にしないためにも、慶大主将・井上が集大成を見せるときだ。

昨年の主将は高校時代からの実績と実力というカリスマ性のある会田前主将。その後継の立場には大きなプレッシャーが伴っただろう。だが井上は井上のやり方でチームをまとめ、昨年はなし得なかった王座進出を見事果たした。

まず井上が取り組んできたのは「自主練」への意識の改革だ。選手一人一人が自分の練習を考えることで、チームの中の個を強化。個々の選手の成長はチーム全体の底上げにも繋がった。

しかしまだ「試合で練習の成果を出しきれていない」。本番で力を出しきる難しさが依然として大きな課題だった。

忍耐を重ねたシーズン序盤

選手個人としても、今季は個人戦で思い通りに力が出せないシーズン。夏の関東学生の前に井上を悩ませたのは腰の痛みだった。インカレに照準を合わせた井上は、大事を取って夏関を欠場した。しかし満を持して臨んだインカレでは初戦で転倒。不運にも足首を痛め、単複ともに棄権となった彼の無念は想像に難くない。

頼れる主将復活

だがリーグ戦では強い主将が戻ってきた。４年間を共にした”戦友”長谷川(総４)とのダブルスでは早大以外で全勝。特に大きかったのはフルセットの末掴んだ法大戦での勝利だった。ダブルス終了時に慶大が目標としていた「最低でも２勝１敗」ができなかったら、王座進出はなかったかもしれない。

さらにその後のシングルス３連敗で後がない慶大を救ったのもこの男だった。爆発的な威力をもつフォアハンドを中心にポイントを組み立て、ミスも少なくストレート勝ち。自らの手で全国を引き寄せた。

法大戦の最後、Ｓ１志賀(政２)の勝利によって王座進出が確実になった瞬間、井上の目から熱いものが流れた。そして信頼し合い、共に戦ってきた後輩を真っ先に讃えた。チームの仲間への信頼、それは主将への信頼となって選手からも返ってくる。「王座優勝して井上主将を胴上げしたい」(志賀)。支え合い、一丸となったチームを率いて、今度こそ全国優勝なるか。慶大一熱い男・井上が今、その全てをかけて大学テニスの頂点に挑む。

◆井上悠冴(いのうえゆうご)

湘南工科大学付属高校を経て現在総合政策学部4年。使用ラケットはバボラ・ピュアドライブ。50ｍ走のタイムは８秒と以外な数字だが、その肉体は鍛え抜かれており、課題は「胸筋がバックハンドの邪魔をすること」だという。

挑戦し続けるマネージャー

慶大庭球部が日本一になることだけを考え、コートの外で戦ってきた人がいる。庭球部初のマネージャーにして影の大黒柱である内田亜美さん(経４)だ。あるときはＯＢや大会本部との連絡などの事務をこなし、またあるときはその年のチームをどうするかといったチーム運営に携わる。そんな彼女には「チームを勝利に近づけるマネージャー」という表現がふさわしい。

中高の部活時代から体育会テニス部の「勝ちにこだわる」姿勢に憧れていたという内田さんは、１年生の２月にその門をたたいた。それは奇しくも坂井監督が就任し男子が１部に昇格、日本一を目指すチームへと変貌する年だった。以来、たった一人でマネージャー業をこなしてきた内田さん。その心にいつもあったのは「チームを動かしたい」という熱意だ。だがそれゆえ、タオルや飲み物を渡したり甲斐甲斐しく世話を焼くといったマネージャー像を抱く部員との食い違いに悩むこともあったという。しかし千里の道も一歩から。勝利のために自分がするべきことを考え、チームに入り込み試行錯誤を繰り返した。そしてその努力にタイミングも味方する。まさに部全体が変革を迎え、バラバラだった部員のベクトルが勝利という一つの目標に向けられた時期。気づいたことをすぐに伝えるなどの彼女の小さな積み重ねも血となり肉となって新チームを成長させた。チーム力を重んじ、「勝つために」全員で行動する現チームの姿勢の裏に、彼女の大きな情熱があったことは間違いない。その庭球部に今年、待望の新マネージャーが入部した。「これからは二人三脚でがんばります」と晴れやかに語る内田さんから後輩へと、そのマネージャー魂が受け継がれていくのだろう。

この王座決定戦は内田さんにとっても最後のチャンスとなる。「本当にとにかく王座優勝したい」。願うことはそれだけだ。偉大なる先人たちが夢にまで見て、それでも成し得なかった王座奪還。慶大がその栄光の座についたとき、彼女の努力は最高の笑顔へと昇華する。

◆内田亜美(うちだあみ)

慶應義塾湘南藤沢高校を経て現在経済学部４年。可憐な容姿だが、入部以来部のマネージメントを一手に引き受けてきた敏腕マネージャー。憧れのテニスプレーヤーは慶大の監督である坂井利彰監督。監督の熱きレジェンドは内田マネージャーを通し部全体にしみこんでいる。

By Asuka Ito