2025年6月29日(日)第97回早慶対抗水上競技大会 @東京アクアティクスセンター
東京オリンピックの舞台となった東京アクアティクスセンターにて、伝統ある第97回早慶対校水上競技大会が開催された。歴史を刻むこの地で、両校のプライドをかけた熱い戦いが繰り広げられ、会場は應援指導部の応援で熱気に包まれた。葉山部門はエキシビションとして日本泳法の種目を披露した。
<日本泳法とは>
日本泳法とは、江戸時代から明治時代にかけて北は水戸、南は鹿児島で興った日本古来の泳ぎ方のことで、古式泳法とも呼ぶ。海に囲まれ川も多い日本では、自然環境に合わせてさまざまな泳ぎ方が誕生し、主に武道として発展してきた。
現在、日本水泳連盟公認の13の流派があり、葉山部門は水戸で発展した水府流水術を中心に継承している。水府流水術は、幼少期に徳川家康から水泳を習った初代水戸藩主徳川頼房が武士に水泳を奨励し、2代目光圀が庶民の身を守るため一般にも広めたことが起源で、那珂川沿いで下町流と上町流の2流派が発展していった。そして1830年に9代目徳川斉昭が「水府流水術」に統一し、江戸後期では武芸の1つとして教授された。明治時代に2流派に再び分裂したのち、1970年に設立された水府流水術協会によってその泳法と歴史が今日まで伝承・普及されている。
日本泳法は速く泳ぐことは難しいが、覚えやすく疲れにくいという特徴があり、遠泳など長距離を泳ぐのに適している。また武術としての側面もあり、顔を水面上に保って泳ぐ敵前水泳であることも特徴で、身体的技能に加え精神的な面まで追求され、水に対する心得や護身の方法も重視されてきた。
1902年の創部当初から日本泳法を用いた遠泳を行ってきた葉山部門。現在海上遠泳では日本泳法は使っていないものの、全国大会での入賞や日本泳法の試験での合格などを目標に練習を重ね、日本泳法の伝統を受け継いでいる。
1957年に開催された第2回日本泳法大会で初めて入賞を果たし、2024年の第69回大会ではOBの三木絃士朗さんが横体競泳競技で男子個人2位、泳法競技で男子個人6位、泳法競技女子個人では当時2年生の妻井安那(政3・Lycée Français de Bruxelles)が3位に輝くなど実績も豊富で、力強い泳ぎに定評がある。今回のエキシビションでは9つの種目を披露した。
演技種目
1.一重伸(ひとえのし)
横向きで顔を水面から出し、下の手である先手と上の手である受手で水をかいて煽り足で進む、伸びのある「伸泳」(熨斗泳)が特徴。水府流水術の基本形の泳ぎだ。
2.二重伸(ふたえのし)
一重伸と同じ体勢で、手で水を1度かく間に煽り足を2度行う。力強い足の動きから、優雅に伸びる。
3.両輪伸(りょうりんのし)
顔を上げて正面を見て、いわゆる「平体」で泳ぐ。一重伸を平体にした形で平泳ぎに似ているが、煽り足を使う。
4.突き泳ぎ
平体で顔を上げ、煽り足で進みながら槍を突く泳ぎ。今回のエキシビションでは安全なスティックが使われたが、水中戦闘術としての一面が色濃く表れた泳ぎ方である。
5.横泳ぎ競泳
横体でクロールのように水をかく泳ぎで、水中での先手の素早い動き、水面から出るパワフルな受手の動作とスピーディーな煽り足による迫力満点の泳ぎだ。古来の日本泳法ではほとんどない顔を水につける泳法で、ゴーグルをつけることも特徴の一つ。競泳と言う名の通り速さを競う泳ぎで、日本泳法の全国大会では種目の一つとして採用されている。
6.片抜手雁行(かたぬきてがんぎょう)
横泳ぎに近い泳ぎ方だが、抜手と言う日本泳法固有の技術を使い、掻き終わった受手を、顔の前を通し水面を這わせるようにして素早く戻すのが特徴。
7.早抜手(はやぬきて)
平体で顔を出し、クロールのような腕の動きに煽り足を合わせた泳ぎ。テンポが良く、平体の中ではトップクラスに速い泳ぎ方である。
8.大抜手雁行(おおぬきてがんぎょう)
抜き手で力強く泳ぎながら、雁行陣(がんこうじん)と呼ばれる斜めの隊列を保つ集団泳法。
9.大抜手三段(おおぬきてさんだん)
煽り足をしながら、平泳ぎのように水中で水を2度掻いたあと、クロールのように体の横で腕を大きく回して掻く。
美しく優雅な水府流伝統の泳ぎに力強さを兼ね備えた葉山部門の見事なパフォーマンスに、観客から大きな拍手が送られた。8月23日・24日には、第70回日本泳法大会が千葉県国際総合水泳場にて開催され、葉山部門の心技体を鍛えた選手たちの活躍に大きな期待がかかる。「継往開来」をスローガンに、水の王者たちは伝統を受け継ぎ、未来を切り開いていく。
主将コメント 新保直希(政3・慶應)
――早慶戦を振り返って
葉山部門は普段、活動について多くの人に知っていただく機会があまり多くありません。
早慶戦を機に、私たちの名前が少しでも多くの方の心に残れば幸いです。
――これからの意気込み
今月末からの合宿では3つの遠泳を行います。
今シーズンの葉山部門の集大成として、最高の形で終われるよう頑張ります。
(記事:柄澤晃希、取材:河合亜采子、柄澤晃希、丸山晃央)