【競走】「親友でありライバル」東叶夢×安田陸人(後編) 箱根駅伝予選会直前特集②

競走

箱根駅伝予選会まであと9日!慶スポでは本番を直前に控えた選手方・スタッフ・コーチにインタビューを行いました。箱根駅伝予選会特集1日目の本日は、共に1年間長距離ブロックを牽引し続けてきたこの2人!慶大競走部に入ったきっかけや駅伝の魅力、本番の意気込みまでを2部構成でお送りします!これを読んで是非当日も声援を送りましょう!

――今シーズンの調子を振り返って

:代替わりして最初の数か月は練習も順調で、「この姿勢でチームを引っ張っていくんだ」と強く思っていました。1〜2月に行われた学生ハーフマラソンでもいい記録が出て、自信もついたのですが、その後疲労骨折をしてしまい、気づかないままシーズンを過ごしてしまいました。そのため本調子で走れず、シーズン全体としてはかなり苦しいものでした。公式戦にも出場しましたが、納得のいく走りはできませんでした。それでも一度しっかり治して体を作り直し、今は痛みもなく、最後の予選会には万全の状態で臨めそうです。予選会に向けて準備を重ねる時間になったので、怪我の期間も決して無駄ではなかったと思います。

「シーズン自体はかなり苦しいものだった」(東)

安田:自分は2、3年生の頃はオーバーワークや無理が重なり、怪我を多発していましたが、2025年になってからは大きな離脱もなく、10月まで走り続けられています。ただ、走れてはいるものの思うように力が入らず、3月に1500mで自己ベストを出して以降、関東インカレや全日本インカレの3000m障害では足が動かない感覚が続きました。結果だけ見れば入賞できましたが、それは周りの応援に支えられた意地の走りで、納得のいく内容ではありませんでした。

それでも夏合宿以降は調子が上向き、今が一番走れている状態です。去年の4〜5月に感じた「うまく走れている感覚」に近づいていて、練習内容もそれに通じるものがあり、自分の感覚を取り戻しつつあると思います。

「今が1番走れている状態」(安田)

――東選手は、今年は学生ハーフマラソンで自己ベストをマークし幸先のいいスタート切ったと思います。この好結果の要因は?

監督のメニューや方針に対して疑問を持つ選手が多かった中で、自分は「まずは監督の指示を全部やり切って結果を出す。それでもダメなら文句を言っていいけれど、それまでは待ってくれ」と伝えました。だからこそ、自分が結果を出すことには強い責任を感じていました。代が変わって3ヶ月間取り組んできた成果として良い結果を残せたことで、自分のやってきたことを肯定できましたし、チームにとっても前向きな流れを作れたと思います。
特に冬シーズンは毎年チーム全体で好記録が出にくい時期だったので、その中でいい結果を出せて、チームに1番最初に自分がいい波を持ってこれたのかなと思います。。学生ハーフでは、箱根駅伝で区間上位を走った選手たちと並走し、最後に競り勝つこともできて、自分が箱根路を走るビジョンが明確に初めて見えたレースでした。自分にとっても大きく意識が変わる、転機となったレースだったと思います。

「箱根路を走るビジョンが初めて明確に見えたレースでした」(東)

――安田選手は、5月の関東インカレ3000m障害で入賞されるなど、チームに貢献してきたと思います。その点での自己評価は?

副将として、4年生として関東インカレの残留に貢献するという責任感がありました。そのプレッシャーで走りが狂いそうになりましたが、調子が悪い中でも3000mでラスト1周まで粘り、チームの声援に支えられて入賞できました。我慢して結果を残す経験は、全日本インカレでも意地を見せる形につながりました。シーズンを通して調子が悪くてもある程度我慢する経験ができたことで、今後もし調子が落ちても復活できる自信につながっていると思います。

「かっこ悪いところ見せられないなと」(安田・写真は今年の関東インカレ)

――今年長距離ブロックでは、安田選手をはじめ多くのメンバーの飛躍が見られました。東選手は主将の立場から見て、この結果がチームにもたらした影響をどのようにお考えですか?

僕らって結構チームの中で仲良いというか、ふざけ合ったりするような時間が多いので、そういった選手がタイムを出すと、刺激になると同時に、「自分たちもやっぱりやれるんじゃないか」と思うことができました。


――今シーズンの中で1番の正念場は?

:昨年は4年生が多く実力者も揃っていたため、最大のチャンスと言われていたにもかかわらず、29位と最悪の結果に終わりました。その直後はチームの雰囲気も不安定で、チームも自分自身もこのままで大丈夫なんだろうかという雰囲気はありました。辞めたい、寮を出たいという声もあり、チームがバラバラになっていました。

そこで「まずはやってみよう」と自分が率先して行動し、監督とも相談した上で、予選会後から年末までは全員が本気で取り組む期間にしました。自分も全力で練習に取り組み、その結果、冬のトラックシーズンで自己ベストを更新し、年末にはチームが再び「箱根駅伝を目指すぞ」と団結できる状態になりました。

また、自分はミーティングを重視しており、形だけでなく本音を言い合える場を作りました。それにより、お互いの熱意を確認でき、本気でチームと向き合うための必要な過程になったと思います。

「『とりあえずまずはやってみようよ』と」(東)

安田:この108代はスターや個人で得点を取れる選手が少ないと言われていましたが、競走部全体で「5月の関東インカレ1部残留」という目標に向け、幹部として戦略を議論しました。108代のスローガン「此処ぞ、勝ち鬨」もこの関東インカレに向けて作られたもので、4~5月はまさに「此処ぞ」の場面でした。関東インカレで得点が期待される層、出場が届きそうな層、応援で支える層に分け、それぞれがどう自分ごととして貢献できるか声かけを行い、結果的に残留を決めることができたので、良かったと思います。

――今回の予選会、走りで期待に応えたいと思うような存在は?

:僕はちょっと目の前で言うのはあれですけど、安田ですね。それこそロードレースで1回も勝ててなくて。安田は親友でありライバルですし、安田に対して「絶対負けないぞ」と思っているのは本人に伝わっていると思います。それと同時に、安田も僕には「絶対負けないぞ」と思っているのが伝わっていますし、予選会僕に勝てると思っているな、というのは感じ取っています。でも僕としては「なんで勝つと思っているんだ」と。とはいえ直接対決で勝てていないので、今年はちゃんと僕が倒したいです。

やっぱりいつも安田が1番応援してくれていて、怪我で安田走らないけど僕が走るみたいな試合は多くて、そういう時に「まじ頼むよ」とか言われるんです。僕は当たる時は当たるけど、外すことがほとんどなので、最後の予選会ぐらいはもう思いっきり当たったところを見せつけたいです。負けたら多分安田は悔しいんだろうけれど、僕が最後勝つ姿を見せてやりたいなと思っています。

「彼に直接対決で勝てていないので」(東)写真左

安田:僕は過去2年間出走できなかったのが、かなり自分の中で悔しくて。自分が走っていたらもっと良い順位が取れていたのかもしれない、と毎年振り返って思います。1個上、2個上の先輩たちの代は最強のメンバーと言われていたんですけれど、そこに自分が加われなかったことがすごく悔しいので、そういった先輩たちにここまで強くなったんだぞというところを見せたいです3年越しのリベンジで、1年生の頃とは変わった自分を、卒業された先輩方が応援に来てくださるので、その先輩たちの前で日本人先頭集団で走っている姿を見せたいなと思っています。

「過去2年間出走できなかったのがかなり悔しくて」(安田)

――東選手の「負けないぞ」という思いに対しては?

安田:東は絶対そう思っているだろうなと思うんですけれど、予選会になったら絶対負けない自信あるんで。東だけでなく鈴木太陽(環4・県立宇都宮)とも、3人で仲が良いんですけれど、3人とも「自分が1番強い」と思い合っているので、その東と鈴木には絶対に負けられない、負けたくないなと思っています。

――他大学で意識している選手は?

:僕は順天堂大学の主将・石岡大侑(スポ科4・出水中央)です。高校時代からのチームメイトで、当時は僕が主将、彼は全国トップクラスのタイムを持ちながらも、チームではわがまま王子のような存在でした(笑)。大学1、2年生の頃は苦戦していましたが、今は順天堂大学の主将としてチームを盛り上げる優れたキャプテンになっています。メディアや本人、後輩からもその姿を聞きます。飲みに行って話す中でも参考になることが多く、「あいつが頑張っているから俺も頑張ろう」と刺激を受けています。自分のチームも負けたくないという思いが、結果を出すモチベーションになっています。

「あいつが頑張っているから俺も頑張んないと」(東)

安田:僕は東京大学キャプテンの秋吉拓真(工4・六甲学院)選手です。彼が2年生の時の予選会後、知り合いのツテで初めてご飯を食べました。その時、彼は高校時代から僕のことを知ってくれていて、以来、東京六大学陸上や記録会で会うたびに声をかけてくれたり、調子や大学後の陸上競技の話をしています。同時に、僕も東京大学で箱根を走ることを目標にしていたので、それを実現した彼への嫉妬心もあります。昔は彼の方が遅く、僕を尊敬してくれていたのが、今は逆転しているので、予選会での初めての直接対決で追いつき、追い越したいと思っています。

「自分の目標を実現した彼に対して嫉妬心がある」(安田)

――予選会への意気込みをお願いします

:僕自身は、目標としてチームトップを狙い続けてきました。ハーフマラソンでは、10kmまでにどれだけ余裕を持てるかが鍵だと思っています。余裕がなければ良いタイムは出せないので、10kmまで落ち着いて走り、後半も落ちずに上げられるレース展開を意識しています。

チームとしては、箱根駅伝プロジェクト開始以来の最高順位「18位」を目標にしています。なぜ18位かというと、今年から20位以内に入ることで、学連選抜として1人を確実に箱根本選に送り込めるからです。順位が下がれば、新入生が入りたいと思えるチームにならないですし、将来的に寄付やクラウドファンディングをお願いする際の説得力も失われます。今年は4年生が多く出走するので、後輩に財産を残す意味でも、チーム全体の順位を上げることは重要です。粘り強さが順位向上のカギになるので、そこを特に意識していきたいです。

「後輩たちに“財産”を残したい」(東)

安田:僕は日本人先頭集団に食らいつくことを目標にしています。1年生の予選会以来、ハーフマラソンの経験は東や他のチームメイトに劣りますが、この3年間ハーフに向けた練習はやってきたので、自信は誰にも負けません。

自分が日本人トップで走れば、チーム順位も上がり、沿道の部員から「安田さんが日本人トップで走っている」と聞いた後輩たちも元気が出て後半に粘れると思います。まずは自分が先頭集団で粘り抜くことが、チーム順位向上と目標達成につながると考えています。

――安田選手は昨年、そして2年前の箱根駅伝予選会は直前の怪我で出走が叶いませんでした。その時の心境は?

「もう今年は走れないんだ、と確信しました」(安田)

2年前は、痛み止めなどを使いながら「なんとか走れないか」と保科監督とも相談して、ギリギリまで挑戦していました。でも、予選会の10日前くらいに、自分の足の限界を悟りました。雨の中で5000mを2本走るポイント練習があったんですが、2000mを過ぎたあたりで足の感覚がなくなり、「もう今年は走れないな」と確信したんです。

当時は3・4年生に本当に尊敬している先輩が多くて、その先輩たちのためにも走って恩返ししたかったのに、それが叶わなかったのがすごく悔しかったです。しかも、自分でも「2年目で飛躍する年だ」と思っていたので、それを形にできなかったのが心残りでした。当日は補欠としてチームに入り、円陣や見送りなどでチームを送り出しましたが、「自分が走れない」ことに対する悔しさや、支えてくれた人・先輩たちへの申し訳なさが強くて、正直かなり辛かったです。

去年は、9月の中旬に「今年もダメか」と早めに諦めがついた分、気持ちを切り替えることができました。当日は駐屯地の大応援団の皆さんと一緒に、声が枯れるくらい応援しました。もう切り替えができていたので、悔しさよりも「仕方ない」「最後の年に全力を出そう」という前向きな気持ちで臨めました。

――予選会当日、ユニフォームを着てスタートラインに立っている時、どういった心境になっていると思いますか?

:僕はずっとチームトップになることが目標なので。安田は「日本人トップ」と色紙に書いていますけれど、僕の目標は「チームトップ」なので、すなわち日本人トップにならないといけないのかもしれないんですけど(笑)。やっぱり予選会はチームで1列に並んでスタートするという点で、僕は最後の年というのもあって、どうしても1番前でスタートしたいと思っていて。でもそれはキャプテンだから1番前に立つというようなものではないし、その時に先頭に立っていられるような状態を作るというのがまず1番の目標で、今はそれに向けてかなり研ぎ澄ませていっているところです。スタートラインに立った時、僕は緊張するたちではないので、どっちかというと、今年は楽しめたらいいなと思っています。

「どうしても1番前でスタートしたいと思っていて」(東)

安田:自分は結構大きい大会になると緊張しがちなタイプで、緊張してしまうと足が固まって本来の走りが全然できないタイプです。でも中途半端な緊張を超えて、泣きそうになるぐらいの緊張だと、逆に馬鹿力を発揮できるとところがあるので、どっちかですね。中途半端な緊張をしないようなメンタルを作っていきたいです。そして、緊張が前腿で感じられるんですけれど、そこの前腿の状態で決まるかなと思うので、この前腿の状態を最高な状態に持っていけるようなメンタルを作っていきたいなと思っています。

「この前腿の状態を最高な状態に持っていけるように」(安田)

――東選手、安田選手、ありがとうございました!

 

(取材:吾妻志穂、小林由奈、中原亜季帆、野村康介、編集:中原亜季帆)

 

 

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