【ラグビー】一目惚れした楕円球を追い続け 伝統を体現した〝黒黄の門番〟/4年生卒業企画「光るとき」 No.50・伊吹央(蹴球部)

ラグビー

25年度に引退を迎えた4年生を特集する特別企画「光るとき」。第50となる今回は、蹴球部の伊吹央(経4・慶應)。5歳で楕円球と運命的な出会いを果たした伊吹は、黒黄ジャージーとも馴染みの深い人生を送ることとなる。蹴球部へ入部した後、2年時からコンスタントに出場を続け、伝統の「魂のタックル」の体現者として欠かせない存在となった伊吹。そんな彼の4年間を紐解くと、彼の〝黒黄の門番〟としての矜持が浮かび上がった。

 

一目惚れした楕円球

幼稚園からの帰り道、自宅近くの公園でふと目に入った楕円形のボール。「あんな形のボールを見たことがなくて、興味を持った」と話す伊吹はその後、一目惚れした楕円球と20年近い時間を過ごすこととなる。

小学校受験を経て慶應義塾幼稚舎に入学した伊吹にとって、慶大蹴球部の試合を観戦することは自然なことだった。「10歳上の兄の同級生が秩父宮のピッチに立っている姿を見て『大学に上がったら蹴球部に入りたい』という気持ちが徐々に芽生えた」と振り返る伊吹は、迷いなく蹴球部の一員に加わった。

2年生で対抗戦デビューを果たし、怪我による離脱も少なかったことで、試合に出られない期間もほとんど無かった伊吹。一見、順風満帆な蹴球部生活を送ったようにも思える。しかし、そんな伊吹にも苦しい時期があった。1年生の秋シーズン、伊吹は対抗戦出場の1歩手前まで漕ぎ着けても、最後の最後で結果が出ない日々が続き、シーズン終盤に向けて右肩下がりに調子を落とした。伊吹は「努力を積み重ねている自負はあったが、結果には結びつかなかった」と当時を振り返る。

それでも伊吹は努力を怠ることはなかった。「すぐに結果には繋がらなかったが、腐らず努力を続けたことで、2年生以降の試合出場に繋がった」と言う伊吹は、上級生になるにつれ、右肩上がりにチームにとって欠かせない存在へと進化していった。伊吹は、すぐに成果が反映されなくても、粘り強く努力を重ねることの大切さを学んだ。

 

体現した魂のタックル

伊吹はディフェンスを強みとするプレイヤーだった。慶大伝統の「魂のタックル」を体現し、インゴールを目指す相手選手を封じ続けた。「外までボールを回されても伊吹がいる」という安心感が、25年度、慶大の武器となった「アグレッシブに前へ出るディフェンス」を実現させた。また、伊吹が秀でているのはタックルのみではない。相手がボールを回しながらの前進ではなく、キックによる陣地の獲得を図っても、安定感抜群のハイボールキャッチを持つ伊吹が立ちはだかった。伊吹は言わば〝黒黄の門番〟だった。

早大・矢崎由高(スポ3・桐蔭学園)に鋭いタックルを浴びせる伊吹

さらに伊吹は、WTBとFBを主戦場としながら、時にはCTBでもプレーし、試合中のポジション変更にも円滑に対応できる適応力を持っていた。伊吹はひとりでチームの戦術的な幅を広げることができる稀有な存在だった。伊吹は自身のプレーについて「モットーは『やるべきことをやる』。どんなに細かいことでも自分のやるべきことを認識し、ひとつ残らずこなすことを練習中から意識していた」と語る。

伊吹と同じWTBのポジションで4年間しのぎを削った石垣慎之介(政4・慶應)は「ひとつひとつのプレーに対して意味を持たせ、上手くいかなかったらその原因を自分で分析したり、周りとコミュニケーションを取りながら解決していた。そのような『レビュー力』が伊吹の器用さの源」と伊吹を称えた。日々の練習から全ての要素に対して細部へのこだわりを欠かさず、さまざまなアプローチで原因分析と改善を繰り返した伊吹は、試合において一部の要素を重点的に意識することなく、様々な局面に柔軟に対応できる適応力を習得していた。ラストイヤーとなった25年度、春季交流大会、秋季対抗戦、大学選手権の全試合に出場したという事実が、伊吹の貢献度の高さを物語っている。

 

伝統を背負う矜持

一貫校時代から長きにわたり慶應ラグビーに身を投じた伊吹。日吉グラウンドを去った今、彼が改めて実感したのは、黒黄ジャージーが繋ぐ世代を超えた連帯だった。「監督・コーチの方々、一緒にプレーした先輩方だけでなく、世代を超えた沢山のOBの方に支えていただいた。長い歴史を持つ慶應ラグビーならではの縦のつながりに救われた」。慶應ラグビーに関わる全ての人たちの多岐にわたるサポートがあったからこそ、真摯にラグビーに向き合えたと伊吹は話す。

4年間、絶え間なく分析と努力のサイクルを実行し、ラグビーと向き合い続けた伊吹は、楕円球と過ごす生活の区切りに、後輩に向けてメッセージを残した。「蹴球部で過ごす4年間は一瞬で過ぎ去る。しんどいことや辛いことも沢山あると思うが、そういう時間こそ他の場所では味わえないかけがえのないもの。苦労も楽しい思い出も、全部まとめて濃い4年間を送ってほしい」。

伝統の体現者として、黒黄の門番として、常に他大学の前に立ちはだかり、相手に低く鋭い「魂のタックル」を浴びせ続けた伊吹。歴史ある慶大蹴球部で、黒黄ジャージーに袖を通してグラウンドに立ち続けたという矜持を胸に、伊吹は新たなステージへと歩みを進める。

(取材:神谷直樹、髙木謙 記事:髙木謙)

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