早慶戦で慶大が最後に優勝杯を手にしてから42年。ここ数年で着実に早大との実力差を埋めていた慶大であったが、前回の早慶戦では3-4で惜敗。42年分の雪辱を晴らすべく挑む三色旗のユニフォームと、連勝記録を途絶えさせるわけにはいかない重圧を背負う臙脂色のユニフォームが新横浜の地で激突した。
2018年5月12日(土)16:30F.O. @コーセー新横浜スケートセンター
慶應義塾大学2-0早稲田大学
Period | 1 | 2 | 3 | Score |
慶應義塾大学 | 0(18) | 1(12) | 1(18) | 2(48) |
早稲田大学 | 0(14) | 0(24) | 0(13) | 0(51) |
※()内はシュート数
早慶戦は伝統の一戦であると同時にアイスホッケー界随一の大イベントでもある。慶大サイドの観客席は歴史的勝利に立ち会うべく集まった慶大ファンで埋め尽くされ、應援指導部も駆け付けた。選手は音楽とカラフルな光とともに登場し、会場のボルテージは早くもマックスに。1人1人の選手をスポットライトが照らし選手紹介が行われ、旗手を務めたDF小嶋遼亮(経1)は三色旗を氷上にたなびかせた。早大による優勝杯の返還、そして両校のペナント交換が行われ、両校主将が固い握手を交わした。
役者は揃った。慶大と早大の間にパックが落とされ、フェイスオフ。
第1ピリオドではスピード感のある攻防が展開され、慶大はDF在家秀虎(総4)を中心にしっかりと足を動かして守り、そこから攻めにつなげるというサイクルが上手く機能した。FW永田雅宗(総4)がポストをかすめるシュートを放ったり、小嶋がフリーでゴールを狙ったりと慶大に再三チャンスが訪れた。あと一歩が遠くスコア自体は0-0で得点には至らなかったものの、内容では慶大が早大を上回った。
しかし第2ピリオドは一転して早大に攻め込まれる時間が長くなった。慶大は度重なるピンチを迎えたが、1年生ながら先発を任されたGK木村初穂(総1)が大舞台で魅せた。「緊張はなかった」と語る木村は、早大の矢のように降り注ぐ猛攻を180㎝80kgの大きな体で全て防いでみせた。上級生が1年生の頑張りに応えないわけにはいかない。18分、FW長谷川真之介(政3)はスピードをつけて敵陣に切り込むと、パックをFWスーリック(総4)に繋いだ。スーのシュートは早大GKに阻まれるも、そのリバウンドをFW田中陸(政3)ががら空きのゴールマウスに沈め、先制点をもぎ取った。足を動かして、当たって、泥臭く点を取る慶大のホッケーが実を結んだ瞬間であった。リンクに若き血が轟き、スコアを1-0として、試合は第3ピリオドへ。
しかし6分、わずか1点の点差を守りたい慶大は、ミスから早大にペナルティーショット(サッカーでいうPK)のチャンスを与えてしまった。まさに絶体絶命のピンチだったが、慶大のゴールの前に1人で立ち塞がった木村は再びゴールを守り切り、慶大ベンチと観客席を沸かせた。1年生の奮闘に勇気をもらった慶大と、絶好の得点機を逃した早大、大盛り上がりの慶大観客席と、沈む早大観客席。両校の距離は1点とは思えないほどに離れていた。されど差は1点。残り時間は僅か。早大も最後の望みをかけGKをベンチに上げて6人攻撃を仕掛けてきた。そして18分、FW滝智弥(政4)はスピードで早大選手を2人置き去りにし、さらにスライディングする早大選手2人をかわして、無人の早大ゴールを射抜いた。観客席の「行け!滝!」との声援に応え主将は自らの手で、長かった緊張状態に終止符を打った。すでに早大に為す術はなく、スコアは2-0で歴史的な勝利を収めた。
ブザーと同時に木村に駆け寄った慶大は、全員で喜びを分かち合った。表彰式で42年ぶりの優勝杯を受け取った慶大。滝は優勝杯を高らかに掲げた。慶應の名前とプライドを背負って60分間を戦い抜き、塾歌を誇らしげに歌う選手達の姿は慶大ファンに感動を与えた。そしてMVPには1年生の木村が選ばれた。この試合の立役者であり51本のシュートを全て止めた木村に温かい拍手が送られた。慶大はどの大学にも負けないハードな練習を乗り越えてきた。まさに慶大サイドに掲げられた横断幕の“練習ハ不可能ヲ可能ニス”という1文が、体現された瞬間だった。
長年脈々と受け継がれてきた慶大の泥臭いホッケー、全日本女子代表監督でもあり慶大ヘッドコーチの山中武司氏の最先端のホッケー理論、献身的な学生トレーナーである野崎大希(商4)の組む厳しいトレーニング、スタッフ、マネージャーのサポート、OB、OGからの支援、ファンからの熱い応援、チームスローガンである體育會生としての“覚悟”といったその全てが早慶戦勝利という形で花開いた。
滝率いる慶大の1年はまだ始まったばかりで、秋リーグ、インカレ、そして冬の早慶戦と厳しい戦いが続く。しかし練習は不可能を可能にすることを慶大は身をもって証明してくれた。慶大スケート部ホッケー部門の新時代が幕を開ける。
(文:鈴木啓仁 / 写真:髙橋春乃)
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以下コメント
主将/FW滝智弥(政4・慶應)
――今の率直な気持ちは
僕が慶應に入学したのが高校からなので、慶大の勝利は7年前から1回も見たことないですし、スタッフの方々も本当に40年間見てないということだったので、素直に嬉しいです。でもまだ正直勝ったんだなーという感じで、全くまだ実感を持てていないです。
――主将として迎えた早慶戦、どのようなモチベーションで臨んだか
春大会で目標としていた結果には全く届かなくて、実は春大会で早稲田に負けてしまっているのですが、そのときは自分たちのやりたいホッケーも何もさせてもらえず、本当に完敗してしまいました。そこから本当に始まったというか、みんな早稲田に対してこの早慶戦で絶対リベンジするっていう気持ちをチームが全員持っていたので、特に僕が何も言わなくてもチーム全員が強い気持ちを持って戦ってくれたと思います。
――第2ピリオドで先制するまではかなり拮抗した展開でした
第1ピリオドのスタートから自分たちの目指していたホッケーを続けることができていて、正直こんなに良いホッケーが続けられるんだ、と自分たちで思いながらやっていたくらいだったのですが、絶対勝てるなっていう風に全員が信じてやり続けていたのではないかなと思います。
――第3ピリオドを迎える前のチームの雰囲気は
正直今までは勝っていても本当に勝てんのかなといったような、ここから逆転されてしまうのではないか、みたいな気持ちっていうのが、口には出していなくてもみんな持ってしまっていたところがありました。今日は本当に3ピリが始まる前全員が勝つぞ、と今日は勝てる、本当に心から100パーセント全員が信じていたので、それがプレーに出たのではないかなと思います。
――自身の得点シーンを振り返って
相手がキーパーを上げて、6人で仕掛けているということに最初気づいていなくて、パスもらってパッと顔を上げたらキーパーがいなかったので、そこは落ち着いて決めることができたなと思います。それまでチャンスも何回かあった中で結構外していて、止められてしまっていたので、みんなを絶対勝たせたいという思いもあったので決められて良かったなと思います。
――今後に向けて
何よりまだ春シーズンが終わっただけで、これまで40数年間先輩方が築いてきた歴史があっての今日の勝利だと思いますし、昨シーズンの先輩方がこの今のチームのDNAというのを作ってくださったと思っているので、少しは報いることができたとは思います。でも本当に何よりもシーズンが始まったばっかりなので、秋リーグ、インカレ、そしてまた早慶戦と、これ以上の結果を出さないと今日勝った意味がないと思うので、しっかりトレーニング期間、全員で体づくりからもう1度見直してステップアップできるように頑張りたいと思います。
今大会MVP/GK木村初穂(総1・苫小牧東)
――今回の試合を振り返って
今回の試合は僕が1年生で出るということを前日に言われて、1年生なので相手は格上ですし向かっていくだけだなと思いました。自分のプレーを60分間続けられたらいいなと思い、結果的にこういった結果で終われたので、本当に良かったです。
――早慶戦という伝統ある試合で1年生ながらゴールを守り続けましたが、プレッシャーはあったのか
プレッシャーというものは正直全く感じませんでした。先輩方からも頑張れという風に声をかけて頂いたので、あとは緊張するというよりも年に2回しか無い舞台なので楽しもうと思って挑みました。
――ペナルティーショットでのシーンを振り返って
相手は生江選手(生江大樹・早大2)という方で、高校の時から対戦したりしていて、よくゴールを決められていた本当に良い選手なので、向かって行くだけだなと考えました。結果的にはポストに救われて、入れられなかったので良かったです。
――何か監督から言われていたことは
とりあえず本当に自分の全力を出しきれという風に言われました。
――今後はどのようなプレーをしていきたいか
明日から氷上練習は少なくなって、オフシーズンに入るので、ここで体を作ったりしっかり走り込んだりして今以上に強い体を作りたいです。キーパーは他にも3人居て、4人で争っていかないといけないので、まずは原点に戻って秋リーグにしっかり繋げられるようなオフシーズンにしていきたいと思います。
FW田中陸(政3・慶應)
――勝利の味は
勝つのは約半世紀ぶりなので最高です。
――この試合で意識していたことは
勝つことよりもまずは目の前のゲームプランを毎ピリオドごとに徹底しました。
――具体的なゲームプランは
足を動かして後ろまで戻ることや、早大はテクニックのある選手が多いのでパックウォッチャーにならないように意識しました。
――先制点を決めた時の気持ちは
必死だったので正直あまり覚えてないのですが、慶大らしい点の取り方をできて観客の方々に若き血も歌って頂けて、本当に嬉しかったです。
――ここぞというときにチャンスをものにする秘訣は
普段のトレーニングから常にハードワークをして、結果がついてこないことがあってもくじけず、ひたむきに取り組み続けることだと思います。
――ご自身のアピールポイントは
普段はあまり目立たないタイプで、足を動かすことやシュートブロックをするなどの地道な裏方を務めることができることです。体力面での負けん気の強さにも自信があります。
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テレビ放送予定
BS朝日/2018年5月22日(火)23時~『湧永製薬スポーツスペシャル 第64回早慶アイスホッケー春季定期戦』