みなさんは「Mature Cup」という大会があることをご存知だろうか。
Mature Cupの開催趣旨には「 さらなる成長のためにも試合の出場機会に恵まれていない学生達に は『真剣勝負』を経験してもらいたい」という一節がある。現在1 36人のプレーヤーが使用することができるグラウンドは1つだけ 。Aチームでない上級生のプレーヤーが使用できる時間はもちろん限 られている。対外試合となればなおさらだ。この試合に出場した選手は対外試合も久しぶりという選手も多かった。
少しでも多く試合をするために勝ち進みたい慶大。 初戦の國學院大戦は6対3で敗戦を喫したものの、 点差を離されながらも粘り強く戦い、 幾度も一打同点の場面を作った。敗者復活戦に回り、 桐蔭横浜大との対戦。 リーグ戦ではボールボーイを務めた吉田将大(商4・慶應) のホームランなどで主導権を握った。しかし、中盤に追いつかれ延長タイブレークに持ち込まれる。 1点を追う10回裏、 1死満塁からリーグ戦では代打を務める長谷川晴哉(政4・八代) の適時打でサヨナラ勝ちを収めた。最終戦の3位決定戦では、 同点の2回に小田悠太郎(政4・慶應湘南藤沢) の適時打など一挙6点を奪うと、リードをそのまま守りきり勝利。 第2回のマチュアカップは3位に輝いた。
このMature Cupで1番を背負った井上圭(政4・慶應志木) は「春のリーグでやっていた全員でいい試合に持ち込むことができていた」と1試合目の後に振り返った。「リーグ戦は何試合も逆転勝ちがありましたが、それはチームの力だと思う」としたうえで、「メンバーが変わったとしてもチーム全員でそういうことができていたからこの試合も結果として出たのかなと思います」。慶大の強みである一体感は、もちろんメンバー外の選手たちにも浸透こそ、だから六大学を制覇できたのだと再確認した。そんな井上圭も試合に出たことで気づいたことがあった。「試合を出てみて(リーグ戦メンバーの)辛さもわかった。神宮ではもっとプレッシャーのかかった場面でやっていて大変だと思う」。この試合も部員の声援こそあったが、神宮球場では應援指導部、そしてたくさんの観客の前でプレーしなければならない。力にもなるが、もちろん重圧ものしかかる。「秋に向けてサポートの仕方もこれから変わるんじゃないかなと思います。それが生きてくればよりチームも強くなる。他大学以上に自分たちが成長して、チーム力を上げて臨んでいきたい」と力強く決意を語ってくれた。
そう、この試合は「引退試合」ではない。「真剣勝負の中でしか掴むことができないもの」を見つけるために用意された舞台なのだ。それがサポートのため、自分がさらに強くなるため、得るものは人それぞれ。しかし、それらはすべてチームのために還元されるに違いない。太田はその力強い速球で今度は慶大のピンチを救うことになるのだろうか。
「真剣勝負」という触れ込みではあるが、それは勝敗だけに主眼を置くものではない。あくまで選手達は楽しんでプレーしているように見えた。 試合自体エラーも多く、 確かにレベルではリーグ戦には劣ってしまう。 それでも彼らが必死でプレーしていることも確かだった。 ヒットが出れば何より喜び、三振したら悔しい苦笑い。なかなか見ることができない「 純粋な勝負」がそこにはあった。
神宮でも使用されるチャンスパターンに加え、 高校野球でお馴染みの曲や工夫を凝らした替え歌で試合を盛り上げ ていた。5回終了時にはゆずの「栄光の架橋」 を相手チームとともに歌うなど、ときには「共鳴」して楽しい雰囲気を作り上げていた。 普段はレギュラーとして活躍する河合大樹主将(総4・関西学院)も「いつもはサポートを中心にやってもらっているので、野球を思い切り楽しんで欲しい」とスタンドから応援の声を出し、3位決定戦ではボールボーイとしてグラウンドで試合を見届けた。
この3試合を経て4年を中心にさらに団結が深まったのではないだろうか。慶大が作り上げてきた4年中心にチーム一丸で戦っていく野球を深めるきっかけとして、この取り組みは大きく作用しているに違いない。
秋は4年にとってラストシーズンになる。 今度こそ悔いなく戦い抜けるか。真剣勝負で感じた「思い」 が彼らの背中をそっと押してくれるだろう。
(記事:尾崎崚登)