今年の新入生歓迎号では、世界を舞台に活躍する陸上・山縣亮太選手に1面を飾っていただきました。今回は特別に紙面には載りきらなかったインタビュー全文を公開!ぜひお読みください!
──決して陸上強豪校ではない慶大に入学を決めた理由は何ですか?
強豪校からもお話をいただいていたのですが、慶大の環境が一番面白そうだなと思ったのがきっかけです。
──どういったところが面白そうだと感じましたか?
当時グラウンドにも何回か行ったのですが、競争部にコーチがいなかったので選手が自分たちでメニューを考えるなど主体的に動いている姿を見て良いなと思いました。
──慶大でタイムを縮めることができた理由は何ですか?
自分でメニューを考えて自分の中で納得感を持って前に進むことができていたことが精神的な話ですが一番大きかったと思います。
──部活と学業の両立はどうされていましたか?
競技のことを考えている時間や部活動で練習する時間を合わせても6時間くらいだと思うので、それ以外の時間を競技以外の事でも同じように頑張るという気持ちで乗り切っていました。
──大学時代に思い出に残っていることは何ですか?
キャンパスで様々な友達ができて、その中にセーリングのオリンピック選手もいました。夏にその友達に湘南の海で船に乗せてもらったことが思い出です。
──普段からアスリートの友達と過ごされていることが多かったですか?
履修している授業の関係もあり、自然と體育會などでスポーツをやっている知り合いが多かったです。
──大学時代の学びで印象に残っていることはありますか?
僕はスポーツビジネスの研究会に入っていたので、実際にスポーツをする選手としてではなく、かけっこ教室などイベントの運営について勉強したり、実際に開催してみたりしたこが面白かったです。
──研究会での卒業論文はどのようなテーマで書きましたか?
アメリカに競技の拠点を移すことを考えていたので、アメリカで日本人のスプリンターが活動するにはどのように環境を設定すべきかということについて論文を書きました。
──大学時代の経験で今に生きていることはありますか?
競技の事と結びつくのですが、とにかく自分で考える歯車を回さないといけません。競技で言えばコーチなどアドバイスをくれる人がいるが、学校の授業でも何でも、自分で解決したいという課題意識とそこに対する具体的な解決策をどのように練っていくのかということは人任せにはできません。自分の経験や自分の考える力が大事だと思います。
──日本新記録を出されたときのお気持ちは?
9秒台をずっと出したいと思っていましたが、初めて意識したのは2012年頃でした。そこから日本記録・9秒台を達成するのに9年かかったので、本当にうれしかったです。でも、一番はやっぱり安心したっていうのが大きかったですね。特にここ3年ぐらい調子が良くなくて、あまり調子が上がらない中で、もしかしたらこのまま引退しちゃうのかなとか、そんなに深刻には考えていないですが、頭をよぎる中で出せた記録だったので、そういった意味での安心感が大きかったですね。
── 9秒台を大きな目標としてきた中で、今後の目標とは?
世界に目を向けると、9秒8とかそのレベルでないとなかなか戦っていけない世界かなと思うので、まだまだ貪欲に記録の更新を狙っていきたいと思います。
──100 mを専門にやられてきた中で、200 m への挑戦はあり得るのか?
200 mの挑戦を考えています。100 m で記録を出せたら200 mも挑戦したいなと思っていたので、今年からできればチャレンジしていきたいですね。
──コーチを付けられてから、練習や考え方などにどのような変化がありましたか?
自分だけでその競技について考えるにも引き出しの量には限界があるので、そういうところで第三者視点とかそういうものを頂けるという意味で、非常に練習の幅が増えたなというふうに思います。ただ一方で、僕の気持ちの問題なんですけど、どうしてもコーチに要求するものが多くなってしまうと、なかなか自分で考える、答えを出すということが時々できてないなと自分が思う時があったりして、人任せにしてしまっている部分はどうしても自分の中で強くコントロールしていかなければこれからもいけないところかなと思っています。
──怪我など様々な逆境を乗り越え、走ることと向き合っていく中で、得られたものはありますか?
怪我をするということは何かしら取り組みとして間違っていることがあるから、それを教えてくれるための怪我だと僕は思ってやってきています。怪我をする度に軌道修正をしながら機能改善をしたり色んなことを改善しながら前に進んできて、自分の動きの癖を直したりとか、そういう怪我を根本から治すことって、すごく時間がかかることなんです。根本的に怪我を2度と起こさないように治していこうって思った時に、すごく根気のいる地道なトレーニングっていうのが必要になっていって、それをやっていく上で毎日何かを継続するっていうことが、ここで言えばその正しい動きを毎日習得するためにちょっとしたリハビリみたいなことを毎日毎日やるんですけど、ある時にやる気になって2時間ぐらいリハビリをするのと、毎日ちょっとずつリハビリを続けていくのって、後者の方が圧倒的に力になるんですよ。継続することの大事さっていうのは実は怪我からすごく学んでいることかなと思います。
──怪我などを乗り越えていく上で、大切にされている言葉や支えになってきた言葉などはありますか?
あんまりないですね。(自分の経験を糧にというか…) 言葉ではないですけど、自分の中ですごく意識してるのは、実はその結果よりも成長を楽しんでるみたいなのはすごくあります。もちろん結果は大事ですし、社会人になってアスリートとして結果をないがしろにはできないんですけど、結果っていうのはあんまりコントロールできづらいところがあるというか、色々な要素が絡んでくる話なのでそれを100%コントロールしろというのは無理な話なんです。その上で、結果に囚われすぎるっていうのもやっていて楽しくないというか、先が見えないんで面白くなくて、それよりはさっき言った自分の中で課題意識を常に持ちながら、それをクリアしていくことに自分のモチベーションを持って、そこに楽しみを見出すことの方が、さっき言った継続につながっていくなとは個人的には思っていて、それが意識していることですかね。
──「走る」ことをどのように捉えていますか?
どのように捉えてますかね。すごい奥が深い、見た目はシンプルで単純なスポーツ、100 m 走ってタイムを競うだけなんですけど、それ故にというか、なかなかその他との差別化じゃないんですけど、自分が一番になるためには、本当に細かいところまで考えていかないと、一番にはなれない、そういう世界であると、100 m に関しては思うので、それがこの競技の難しいところであり醍醐味であるのかなというふうに思います。とにかくすごく細かいことまで考えなければいけないというのが辛いところであり、この競技の面白いところかなと思うので、そういった意味で充実感は非常にあるスポーツかなと思ってます。
──自分自身で改善点を見つけようと努力している子供たちや陸上競技者に向けてメッセージ
その姿勢はまず、これからも大事にしてほしいなと思います。それがすぐに何か大きい結果に結び付かなくても、長い目で見た時に、必ず自分の中にどんどん蓄積されていって、何かの拍子にふと思い出して、その時抱えてる課題に対して答えを導いてくれることもあると思いますし、まずその姿勢はすごくずっと大事にしてほしいなと、自分で考える姿勢は大事にしてほしいなと思います。どうしても100 m 選手とか、短距離選手ってすぐに結果を求めがちなんですけど、すぐに結果が出なくても、もっともっと長い目で見た時に必ずいい結果が出るということを、信じて、これからも頑張り続けてほしいなと思います。
──新入生へのメッセージ
慶大生全体で言えば、先ほど言った自分で考えて課題に取り組んでいくということももちろんですが、慶應は横のつながりが面白い学校なので、そこを意識して友達をたくさん作ってほしいと思います。體育會に入りたいと思っている人は、チームとしてナンバーワンを目指すというのが體育會組織で、これから社会に出ていく一歩前の皆さんにとって学校のキャンパスライフとは別の非常に貴重な社会との接点で最後の学びの場になると思います。體育會組織やチームの運営について考えること、選手として入って活動するだけが體育會活動ではなくそういう組織運営について学べると思うので頑張ってほしいと思います。
──お忙しい中、ありがとうございました!
(取材:佐藤光、長沢美伸)