【競走】決意を胸に駆け抜けた国立のトラック “此処ぞの場面”で躍動した「K」の文字/第109回日本陸上競技選手権大会

競走

第109回日本陸上競技選手権大会が東京・国立競技場で開催された。慶大からは現役学生6名が出場し、女子やり投で倉田紗優加(環3・伊那北)7位入賞、女子800mで仲子綾乃(総4・浜松西)が6年ぶりに自己記録を更新する力走を見せた。一方で、その他の種目では入賞を逃す場面も多く、“此処ぞの場面”での厳しさを突きつけられる結果となった。各選手が国内最高峰の舞台で得た収穫と課題を胸に、次なる目標へと向かう。

舞台は東京・国立競技場

今季の日本一を決める日本選手権。今大会は、今夏東京で開催される世界陸上の代表選考を兼ね、出場選手にとっては、国内最高峰の舞台であると同時に、世界への切符を争う重要な一戦となった。慶大からは、学生選手権で実績を残し、参加標準記録を突破した6名の現役選手が名を連ね、それぞれが日本の頂点に挑んだ。

〈大会結果〉

名前

種目

記録

結果

林明良(政3・攻玉社)

男子200m

21秒17(-1.0)

予備予選1組 5着

岩井章太郎(環4・同志社)

男子110mH

14秒21

準決勝2組 8着

仲子綾乃(総4・浜松西)

女子800m

2分07秒00(PB)

予選3組 5位

倉田紗優加(環3・伊那北)

女子やり投

55m08

7位入賞

鈴木太陽(環4・宇都宮)

男子1500m

3分55秒18

予選1組 14位

坂本紗季(環1・福岡大大濠)

女子400m

59秒03

予選2組 6位

〈女子やり投・倉田紗優加(環3・伊那北)〉

表彰台を狙っていた倉田

女子やり投に出場した倉田紗優加(環3・伊那北)。出場選手中2位の自己記録を持ち、優勝候補不在の中で世界大会の代表入りも視野に入る位置からの挑戦だった。「1投目に自己ベストを投げること、60メートルを必ず超えることを目指していた」と話したように、序盤からの勝負に懸けていた。しかし1、2投目ともに記録が伸びず、序盤は11位と出遅れる。3投目に55メートル台を投げて入賞圏内に浮上したが、その後も苦しい展開が続いた。

「集中力が切れたら負けると思っていました」

後半は雨脚が強まるなかでも「集中力が切れたら負けると思っていた」と気持ちを切らさず6投を投げ切った。結果は7位。自身初の日本選手権入賞となった一方で、表彰台までは約3メートル届かなかった。それでも、試合後はメンタル面での課題、調整方法など、次の成長を見出すいい機会になったと前を向いた。

〈男子1500m・鈴木太陽(環4・宇都宮)〉

序盤にアクシデントに見舞われた鈴木

男子1500mには鈴木太陽(環4・宇都宮)が出場。本来は長距離を本職とする鈴木。今大会を最後の1500mレースと位置付け、“決勝進出”を目標に臨んだ。しかしスタート直後、思わぬアクシデントに見舞われる。集団の密集の中でバランスを崩し、転倒。

「転倒している時はスローモーションでした。『絶対に決勝に行く』という気持ちが強すぎて、気持ちが前のめりになっていたのかもしれません」。

転倒後も懸命に前を追った

すぐに立ち上がって前方に追いついたが、悪い流れを立て直すことはできず、中盤以降は徐々に集団から後退。組14位に終わった。最後の1500mはほろ苦い結果となった。

〈女子800m・仲子綾乃(総4・浜松西)〉

果敢に2位集団に食らいついた仲子(写真中央)

女子800メートルに出場した仲子綾乃(総4・浜松西)。資格記録が出場選手中最も遅かった状況にも、まずは出られることに感謝して、最後の日本選手権を全力で楽しもう」と決意を胸に大一番に臨んだ。レースは日本記録保持者の久保凜(東大阪大敬愛)が序盤から飛び出す展開。「着いていけばタイムは出ると思っていた」という言葉通り、序盤から果敢に2位集団に食らいついた。

後半の粘りも記録に繋がった(写真奥)

後半はやや離されるも、残り150メートルで粘りを見せてフィニッシュ。記録は2分7秒00と、高校時代にマークした自己記録を0.29秒更新。大学入学前の自分をようやく超えた瞬間だった。

〈男子110mH・岩井章太郎(環4・同志社)〉

大舞台で2本駆け抜けた岩井

男子110mHには岩井章太郎(環4・同志社)が出場。初の日本選手権、岩井は自己記録更新と決勝進出を目標に掲げた。予選では4着となり、準決勝進出の可否がタイムに委ねられた。「半分諦めていた」と話した岩井は、結果表示板に着順での準決勝進出者の最後の枠に自分の名前を見つけた瞬間、「もう1本走れる」と喜びをかみしめた。

電光掲示板の結果を待つ岩井

次の準決勝では、自己ベストを上回る走りが必要とされた。岩井は得意の“後半ののび”に懸けたが、レース中に右足を攣るアクシデントが発生。思うように加速できず、組8着でフィニッシュ。それでも、「今あるベストは尽くせた」と振り返った。全力で挑んだ2本のレースは、大舞台での貴重な経験となった。

〈女子400m・坂本紗季(環1・福岡大大濠)〉

大学2レース目が日本選手権となった坂本

女子400mには坂本紗季(環1・福岡大大濠)が出場。今季は記録会への出場が1度のみで、日本選手権がほぼデビュー戦となった坂本は、初の大舞台で「シーズンベストの更新」と「経験を今後に生かすこと」を掲げて臨んだ。前半から果敢に飛び出した一方、後半はブランクの影響もあり失速。組6着でレースを終えた。

〈男子200m・林明良(政3・攻玉社)〉

200mに出場した林

男子200m予備予選には林明良(政3・攻玉社)が出場。前半100mでのコーナーワークをポイントとして臨んだが、組5着で予選通過には届かなかった。両選手共に、記録的にも課題が残る結果となったが、日本最高峰の舞台で得た手応えと反省は、今秋以降の糧となる。

 

今大会は、彼らにとってどのような意味を持ったのか。

 陸上に魂を売っている人たちと同じ場でアップし、招集し、スタートしたことは自分の中で大切な財産になりました」(鈴木)

今までのレースでは経験したことのない熱気と迫力がありました。緊張もありましたが、楽しさの方が大きかったです」(岩井)

「世界陸上の代表を争うという普段の試合では体験することができないプレッシャーの中で試合ができたのはとても良い経験になりました」(倉田)

 日本選手権という国内最高の舞台。その舞台に立つことだけでも、一人の競技人生には大きな財産となる。ただ、彼等も勝負師。経験の先に求めるのは、確かな結果だ。

「予選を走り終えて、決勝や表彰台の景色も見てみたいと思いましたし、もっと今まで見たことのない景色を見に行きたいと本気で思いました」(鈴木)

「いつかまたこの舞台に帰ってきて、そのときは優勝争いができるような強い選手でいられるように頑張ります」(坂本)

悔しい気持ちでいっぱいですが、とてもいい経験となりました。次の試合に繋げたいと思います」(林)

「この日本選手権で今度は勝った上で、世界と本気で戦いたいと改めて強く感じました」(倉田)

高みを見据え挑んだからこそ、突きつけられた現実があった。それでも、理想と現実の“差”こそが、彼らの今後の一番の原動力となる。

 

【試合後インタビュー】

〈女子800m・仲子綾乃(総4・浜松西)〉

 

――日本選手権を戦い終えた率直な感想をお聞かせください

仲子:決勝に進むことはできませんでしたが、ベストを絶対に出したいと思っていたので、それが達成できてよかったです。後半は自力の差が出てジリジリと離されてしまいましたが、前半速かった分のタイムの貯金と、最後もなんとか粘れたことが、自己ベストを6年ぶりに更新できた要因だと分析しています。

――同組は、日本記録保持者の久保選手や卜部選手など錚々たる顔ぶれとなりました。どのようなレースプランで試合に臨まれましたか?
仲子:速い選手に引いてもらって高速レースができる良い機会だと考えていました。着いていけばタイムは絶対に出ると思っていたので、最初から積極的に出て、ついていけるところまでついていこうと考えていました。レースでは、想定していた通りのレース展開ができたと思います。

――レース直後には感極まる場面がありました。その時の涙のわけは?


仲子:6年ぶりに自己ベストを更新することができたのが素直に嬉しかったんです。

――今大会は仲子選手にとってどのような意味を持つと思われますか?
仲子
:最後の日本選手権で、その時点で自分ができる最大限を尽くすことができたと思います。

――大学競技人生も残り少しとなりました。残りのシーズンに向けて意気込みをお願いします
仲子
:秋シーズンも目指す試合があるので、そこでまたタイムを更新して上のラウンドに進めるように頑張ります!

 

〈男子200m・林明良(政3・攻玉社)〉

――日本選手権を戦い終えた率直な感想、そして今後の意気込みをお聞かせください

林:悔しい気持ちでいっぱいですが、とてもいい経験となりました。次の試合に繋げたいと思います。今年は去年に比べると上手く行かないところが多いですが、今まで積み上げてきたものを信じて秋シーズンも頑張りたいと思います。まずは今度の早慶戦勝利のために必ず得点して、100mと200mともに自己ベストを更新します。

 

〈男子1500m・鈴木太陽(環4・宇都宮)〉

――日本選手権を戦い終えた率直な感想、そして今後の意気込みをお聞かせください
鈴木
:悔しさと情けなさと陸上競技は楽しいという気持ちともっともっともっと強くなりたいという気持ちです。日本最高峰の舞台で挑める幸せを噛み締めつつ、「出るだけじゃ終わらない」という意気込みで臨みましたが、転倒してしまった焦りから、その後もずっと肩に力が入ってしまい、集団の流れに全く乗れませんでした。ただただ自分が弱かったです。
それでも、陸上に魂を売っている人たちと同じ場でアップし、招集し、スタートした経験は、自分の中で大切な財産になりました。僕が今一番見たい景色は10月の箱根駅伝予選会での歓喜の瞬間です。走り終わった後、仲間や応援してくださった皆さんと一緒に歓喜の「若き血」を歌う景色を見たいです。自分自身もハーフマラソンという長い距離に対しては全くの模索状態です。まだまだ挑戦者として歩める日々を楽しんでいきたいと思います。僕らのジャイアントキリングにご注目ください!

 

〈女子400m・坂本紗季(環1・福岡大大濠)〉

――日本選手権を戦い終えた率直な感想、そして今後の意気込みをお聞かせください

坂本:一流の選手たちと同じ会場でアップしたり、実際に同じ組で走ったり、間近で走りを見ることができたりしたことが、この大会で出来た一番貴重な経験だったと思います。また、憧れの国立競技場で走れたことが率直に嬉しかったです。これまでたくさんの方々に応援、サポートをしていただきました。その恩を忘れることなく、感謝の気持ちを持ってこれからも走りで返していけたらなと思っています。いつかまたこの舞台に帰ってきて、そのときは優勝争いができるような強い選手でいられるように頑張ります。

 

〈男子110mH・岩井章太郎(環4・同志社)〉

――日本選手権を戦い終えた率直な感想、そして今後の意気込みをお聞かせください

岩井:緊張もありましたが、楽しさの方が大きかったです。世界陸上の代表権がかかっている大会であるため、会場の雰囲気は今まで経験したことのない独特の熱気と迫力があり、とてもワクワクしました。予選/準決と2本走りましたが、自分としては今あるベストを尽くせたと思っています。これからはまず、自己記録の更新を1番の目標にしてます。練習の調子を考えると自己記録更新も時間の問題だと思うので、このまま練習の精度をあげて残りの大会で結果を残したいです。

〈女子やり投げ・倉田紗優加(環3・伊那北)〉

――日本選手権を戦い終えた率直な感想、そして今後の意気込みをお聞かせください
倉田
:なんだかふわふわしていて、「もう終わっちゃったんだ」という気持ちです。順位も記録も受け入れられなかったんだと思います。日本代表の座を争うという普段の試合では体験することができない雰囲気、プレッシャーの中で試合ができたのはとても良い経験になりましたが、そのような状況で力を発揮できないということがわかり、メンタル面、調整方法の見つめ直しなど成長の機会を見出すことができたと感じています。同時に、日本選手権で勝って世界と本気で戦いたいと改めて強く感じた試合にもなりました。伸び代は山積みなので、それら1つ1つに丁寧に向き合い、PB更新はもちろん、セカンドベストを60mにのせたいです。そして、日本を代表して世界で戦える選手になりたいです。

 

(取材:山口和紀、竹腰環)

タイトルとURLをコピーしました