9月13日に開幕した東京六大学野球秋季リーグ戦。春は5位という悔しい結果となった慶大は、秋季リーグ戦では春の雪辱を果たしたい。初戦となる法大戦は、引き分けや延長もあり、最後まで白熱した激闘となった。今回の記事では、第1、2、3、4回戦の応援席の様子をレポートする。
9月13日(土)慶應義塾大学 7―7 法政大学(第1回戦)
~試合概要~
今春5位に終わり、リベンジを果たすべく開幕した秋季リーグ戦。5回までに7点を先行される苦しい展開となった慶大は7回、2死満塁から代打の1年・加藤右悟(環1・慶應)がリーグ戦デビューで走者一掃の二塁打を放ち、反撃を開始。8回には林純司(環2・報徳学園)、小原大和(環3・花巻東)の安打などで1死満塁を作り、ここから2点を加えて2点差に迫る。そして9回に2死二、三塁から小原の適時打で、最大7点差を同点に追いついた。その裏8回から登板した5番手・水野敬太(経2・札幌南)が好投し、試合はプロ併用日のため9回打ち切り、7ー7の引き分けに終わった。
1回表の攻撃前には部員からひとこと。「先日、阪神タイガースが優勝マジックを0にし、リーグ優勝を果たした。そこで慶應義塾大学の優勝マジックがいくつか調べてみた。そしたらあることがわかった。たったの『10』であるということだ。今日まず勝って、優勝マジックを9にするぞ」と、初戦への強い意気込みをアピールした。
5回までに法大に7点を先行され、劣勢に立たされるが、慶大はこのままでは終わらない。5回表には、壇上の部員からひとこと。実は、9月13日には、明治神宮球場の隣にある国立競技場で、東京2025世界陸上選手権大会も開幕していた。「世界陸上の最初の種目知っているか。競歩である。ずいぶんスローペースで始まっているらしい。我々のスコアボードを見てほしい。慶大の打線も思っているよりスローペースで進んでいる。でもここから、もっともっとはやい競技が待っているらしいぞ。つまりここから上げていくしかないだろ」と、世界陸上にかけて、慶大打線の追い上げを声高らかに叫んだ。
すると終盤の7回から、慶大打線の反撃が始まる。『若き血』の斉唱から始まった7回表は、小原大和(環3・花巻東)が中前安打でチーム初出塁を果たす。それに続いた渡辺憩(商2・慶應)、常松広太郎(政4・慶應湘南藤沢)により1死満塁の好機を演出。2死となった後、吉野太陽(法3・慶應)の代打として起用されたルーキーの加藤右悟(環1・慶應)が、リーグ戦デビューで走者一掃の強烈な二塁打を放ち、一気に3点を返す。応援席はルーキーの活躍に歓喜し、それまで漂っていた劣勢の雰囲気は一変する。
8回表にも慶大打線は2点を追加し、2点差まで詰め寄る。9回表には吉開鉄朗(商3・慶應)、林純司(環2・報徳学園)の連打で同点のチャンス。ここで『ダッシュケイオウ』の演奏により、応援席のボルテージは最高潮に。2死二、三塁で小原が打席に立つと、左前に2点適時打を放ってついに7対7の同点に追いついた。応援席で固唾をのんで見守っていた部員たちは、同点になった瞬間弾けるような笑顔を見せ、互いに抱き合い、喜びを噛み締めた。
この日はプロ併用日であったため、この激闘は9回引き分けに。序盤のスローペースで劣勢に立たされながらも、怒涛の追い上げで7点差を同点にまで持ち直せたのは、最後まで慶大を信じ続けた応援のおかげであろう。勝利とはならなかったものの、慶大の底力を見せつける、価値のある試合だった。
9月14日(日)慶應義塾大学 ⚫7-8⚪️法政大学 (第2回戦)
~試合概要~
慶大は1回表にいきなり4点を失い、劣勢が予想されたが、中塚遥翔(環2・智辯和歌山)の本塁打などで1回戦と同様に驚異的な追い上げを見せ、6回には一時逆転に成功する。しかし、8回表に追い付かれると、最後は延長11回に力尽き、7対8で敗れた。
前日の同点劇から一夜。日中の最高気温は35度が予想されるなどまだ夏の暑さが残る中、今季初勝利を目指し法大2回戦に臨んだ。初回、エースで主将の外丸東眞(環4・前橋育英)は4点を失うが、應援指導部員からは絶えず励ましの声が送られていた。その裏、壇上に上がった應援指導部員は「選手を信じて最後まで応援しようぜ」と、第1試合のように9回に追い付き、さらにこの日は延長戦で勝ち越すことを見据え一塁側の塾生および塾員を活気づけた。すると、早速その声に応えた打線が3点を返し、1イニングに3得点挙げたときにのみ演奏される『スリー慶應』が神宮に響き渡った。
5回表、今季のチア曲である『学園天国』が演奏されると、懐かしのポップな曲調にメガホンが揺れ、応援席は大いに盛り上がった。7対7の同点で迎えた9回裏、サヨナラのチャンスでリーグ戦初出場の4年生・小山春(政4・鎌倉学園)が代打で登場すると、スタンドからはこの日一番の歓声が上がる。慶大を代表する応援歌の『ダッシュケイオウ』が鳴り響く中、大きな声援が送られたが、惜しくも得点を挙げることは出来ず、試合は延長戦に突入した。
延長10回開始前、枝廣代表が壇上に上がると、先日の全早慶野球戦で愛媛県を訪れた際に購入したというみかんジュースをポケットから取り出し、一気に飲み干して見せた。法大のイメージカラーと同じオレンジ色のジュースを飲み、野球でも法大を飲み込む展開に持ち込みたいところだったが、延長11回に勝ち越されると、そのまま逃げ切られ試合終了。3連休の中日、多くのファンが応援に駆け付けたが惜しくも敗れ、今季初勝利は3回戦以降にお預けとなった。
9月15日(月)慶應義塾大学⚪️6ー1⚫️法政大学(第3回戦)
〜試合概要〜
慶大は初回、常松広太郎(政4・慶應湘南藤沢)の内野ゴロで先制。先発の渡辺和大(商3・高松商業)が5回1失点と好投すると、1-1の6回に渡辺憩(商2・慶應)が左翼線へ2点適時二塁打を放ち勝ち越し。一宮知樹(経1・八千代松陰)がリーグ戦初安打初本塁打となる2点本塁打を放つなど、この回一挙5得点で6-1とした。以降は坂中大貴(商4・高松商業)、荒井駿也(商4・慶應)、小川琳太郎(経4・小松)の4年生リレーで無失点に抑え、小川琳が8、9回も零封。今季初勝利を挙げ、法大との対戦成績を1勝1敗1分のタイに持ち込み、勝ち点は4戦目へ託された。
怒涛の試合展開となった1・2回戦を経て迎えた法大3回戦は、祝日の敬老の日に行われた。この日もスタンドには多くの観客が詰めかけ、熱気あふれる応援が球場全体を包み込んだ。
初回の攻撃前には応援企画責任者のO.Hさんが前日のスコア(慶大⚫️7−8⚪️法大)にかけて「今日こそは“七転び八起き“の精神で、絶対慶應が勝っていい祝日にするぞ」と檄を飛ばした。その1回に無死満塁から常松広太郎(政4・慶應湘南藤沢)の内野ゴロの間に三塁走者が生還し先制。幸先の良いスタートを切る。
4回裏に得点を許し、1−1と両軍拮抗する展開が続く中で迎えた6回。メイン台に上がった部員からは「1対1だぞ。これは振り出しに戻っただけだ。ヒットもこっちの方が多分多いぞ。絶対に勝つ流れは慶應にあるぞ。大きな声で後半も応援お願いします」と力強い呼びかけ。応援の熱気を一層高めた。この応援に応え、慶大打線はこの回に6安打5得点の猛攻を見せ、スコアは6−1と一気にリードを広げた。
9回表の攻撃時に壇上に上がった枝廣代表からは「敬老の日」にちなんだこんなパフォーマンスも。神宮歴70年だという2人の塾員を応援席全体に紹介し、「今年は六大学野球100周年でもある。この節目の年にお二人に優勝をプレゼントするぞ」と声かけ。
そのためには絶対に負けられないこの試合。裏の法大の攻撃では2死一、二塁とされるも小川琳太郎(経4・小松)が無失点で抑え、6−1で勝利した。
これで1勝1分1敗とした慶大。法大から3季ぶりの勝ち点を得るために、翌日の4回戦に望みを繋ぐ。
試合後インタビュー 代表・枝廣二葉さん
Q.今季初勝利となりました。率直な今の感想は?
ほんとにようやく1勝目を成し遂げられて嬉しいです。1日目、土曜日が7対7で、昨日が7対8で、3日目もほんとにタフな試合になるだろうなと思っていました。その中で打線が開花し、ピッチングも粘り強い先発の渡辺のピッチングと4年生の継投が見事に決まって、ものすごく嬉しいです。
Q.このカードは試合終盤、特に7回以降に試合が動くことが多くありました。終盤にかけての応援何かに関して意識されていたことはありましたか?
今年の慶應は中盤粘って終盤に打線が開花する展開が多いので、試合終盤こそ応援の力が必要だなと思ってます。合宿では“1音でも大きく、ひと振りでもキレよく、踊りもスマートに”を意識して鍛えてきたので、今日はその成果を発揮しきれたと思います。
Q.ご自身はどういった心境で試合終盤の出番に臨まれていますか?
『自分を見ててくれ』とはいつも思ってますね。終盤は4年生、自分とかが登壇することが多くて、その時はいつも自分の姿を見た下級生、同期が『ここで頑張んなくちゃな』って思ってもらえるような気迫を出したいですし、そのためには自分がキツイ時でも気遣わせずに選手のためにと思い続けてやっています。
Q.今日は9月15日、敬老の日ということで、9回には慶大OBの方々を応援席全体に紹介するというパフォーマンスもありました。元々企画されていたことだったんですか?
ほんとに考えてなかったんです。今日は少し点差にも余裕があったので、何か1つユーモアチックなことやりたいなと思ってました。そこで、敬老の日だなと思ってスタンドを見渡した時に、いつも慶應の試合を見守ってくださる常連さんがいたので、8回に『ちょっとよろしいですか?自分が紹介したら、立ってください』って一応ご本人に根回しはしていました。自分の力だけじゃなくて、常連さんの力も借りようと思ってたので、快くお引き受けいただき感謝しています。
Q.勝ち点をかけた第4戦への意気込みをお願いします。
これまで観客の皆様の後押しを受けてこの3連戦を戦ってきました。明日は平日となり客数が少ないかもしれないんですけど、その分自分たちが思いを背負って、必ず勝ち点1を取りますので、引き続き応援のほどよろしくお願いします。
9月16日(火)慶應義塾大学 ●4―7○ 法政大学(第4回戦)
~試合概要~
先発・水野敬太(経2・札幌南)は4回までに2本の本塁打を浴びる苦しい立ち上がり。後続の投手陣も小刻みに加点を許し、6回表終了時に4点差をつけられる。打線は6回裏、竹田一遥(環1・聖光学院)の安打から無死満塁のチャンスを作ると、押し出し死球と2本の内野ゴロの間に3点を返し、1点差に詰め寄った。必勝を期す慶大は7回から外丸東眞(環4・前橋育英)をマウンドに送るも、8回表に3つの失策などが重なり3点を失ってしまう。8回裏に渡辺憩(商2・慶應)のソロ本塁打で1点を返すも、反撃はここまで。慶大は4-7で敗戦し、勝ち点獲得とはならなかった。
春期リーグ戦に続いて4回戦までもつれた慶法戦。大学が夏季休暇中なこともあり、神宮球場には應援指導部のほとんどの部員が駆けつけた。この日も暑さの厳しい応援席だったが、慶大応援席は暑さを凌駕するほどの熱気に包まれていた。
初回にメイン台へと上がったO.Hさんからは「今日までの3戦すべて先制点を取ったチームが勝利している。だから、8回でも9回でもなく、この初回に全力で応援してほしい。」との掛け声が飛び、初回から応援席のボルテージを高めにかかる。先制を許した直後の3回には越後副代表が登壇。「法政倒してビタミン摂取するぞ!」と、法政カラーの“オレンジ”にかけた言葉で盛り上げた。
3点差をつけられ流れを掴みたい5回裏の塾生注目で、メイン台に上がったのはK.Tさん。「法政のオレンジは炎で、慶應のブルーは水!どのゲームでも水タイプは炎タイプに強い!」とまたも法政カラーを活かした塾注を披露し、応援席の流れを切らせない。一時は1点差に迫った慶大野球部だが8回に3失点を喫し、球場全体を法政大の優勢ムードが覆い始めた8回裏。再びメイン台に上がったO.Hさんは「土曜日は7点、日曜日も7点、月曜日には6点取った!今日はまだ3得点だから、ここからもっと点を取ってくれるはずだ!」と叫ぶ。するとこれに応えるかのように渡辺憩がソロ本塁打を放ち、4点目を奪取。応援席には「若き血」が響き渡り、反撃の流れを作った。
9回に登壇した枝廣代表は、春秋八回戦にわたった慶法戦での、両校の総得点数を算出していく。すると「48-47」で慶大の総得点数が1点上回っていることが判明。「だから、この試合は絶対勝てるぞ!」と、応援席を強烈に後押しした。野球部は走者を出すも、9回1死一塁から二塁への併殺打で試合終了...かと思われたのだが、ビデオ判定の結果判定はセーフに。ここで應援指導部が繰り出したのはファンファーレ「勝鬨」だ。塾生注目につなげるために使用される同曲は、試合中に1回も流れないこともしばしばのレアな曲だ。使用機会の少ない「勝鬨」を繰り出してまでの応援には、應援指導部の“執念”を垣間見た。
惜しくも試合には敗れたが、應援指導部の熱い応援は、最後まで選手たちを猛烈に後押しし続けた。次節の対戦相手は、昨春から野球部が1勝も挙げられていない明大である。まず1勝、そして勝ち点1を掴むために、應援指導部はスタンドで闘い続ける。
【試合後インタビュー】 代表・枝廣二葉さん
Q.試合を振り返っての感想
慶法戦は春も秋も死闘だと思ってるので、野球部も指導部も、応援してくださる観客の皆さんも必死に、それぞれのできる事をやれたのではないかと思います。
Q.4日に渡る試合だったが、1日目・2日目と応援のアプローチを変えたところは?
(部員にも)日に日に疲れがたまっていったり、自分の力だけで気持ちを上げていく、というのは大変です。なので、皆が同じように練習をしてきましたし、合宿を通して気持ちも1つになったので、そういうことを試合前に全体に呼びかけることで、(部員全体の)気持ちを1つにした、というのはありましたね。
Q.リクエストの後に「勝鬨」を流すのは予め決めていたのか?
全く決めてないですね。1回応援が止まってしまった、というところで応援において0から1を作り出すのはとても難しいです。あの時は自分が塾生注目をやって、すぐに自分たちが誇るダッシュケイオウに入る流れを思い描いたので、あれはもうリクエスト中に自分の中で考えていたことです。
Q.今後のリーグ戦に向けての意気込み
9勝2敗であとは勝てばいいだけだと思うので、1週空けての慶明戦も、“天王山”とは言われてますけど、昇りきります。
T.さん
Q.試合を振り返っての感想
4日目ということで、法大とは春も4日間対戦しましたし、因縁の対決と言ってもいいものでした。なので全員が「絶対に勝つ」という気持ちでやっていたんですけど、結果的には負けてしまって、悔しい気持ちが一番強いです。
Q.4日に渡る試合だったが、1日目・2日目と応援のアプローチを変えたところは?
1日目・2日目はスタートダッシュを決めたいというところで、まずは応援する熱い気持ちをぶつける、というところを意識していました。4日目になるとお客様も平日ですから減ってきますし、アプローチの仕方は色々と考えました。例えばお客様の前に立って応援を引き出す役割があるんですけど、そこで個人的な小噺をしたりとか、アプローチを変えていったところはありました。
Q.応援の際の「笑顔」が印象に残ったのですが、普段から気をつけているのですか?
そうですね。笑顔はお客様にも波及して、それが雰囲気として野球部に届くと思いますので、私だけではなくて部員全員が笑顔を意識しています。応援を指導する側である我々の顔が暗いと、お客様の雰囲気やトーンもどんどん暗くなっていってしまうので、そこはプライドをもっています。どんな状況であっても笑顔で、雰囲気良く、というのはすごく意識しているところです。
Q.今後のリーグ戦に向けての意気込み
初戦は負けという形で終わってしまったんですけど、まだあと4カードあります。六大学野球のリーグ戦の面白いところは最後までどの大学が優勝するか分からない、というところにあると思いますし、最後の1カード、慶早戦の1試合で優勝が決まる、というのはよくあることです。ここで負けてしまいましたけど、慶明戦までの2週間で、吹奏楽団であれば演奏、チアリーディングであれば動き、で全員が発声であったりお客様へのアプローチというところで慶法戦で出た反省を活かしていって、あと4カード必死にやっていきたいと思います。
(記事: 中原亜季帆、柄澤晃希、鈴木拓己、小野寺叶翔)