【ソッカー(女子)】就任5年目の集大成で昇格を目指す黄大城監督/リーグ戦再開直前インタビュー企画第1弾

ソッカー女子

関東大学女子サッカーリーグ戦2部を今季ここまで12試合戦い、10勝1分1敗で勝ち点31、自動昇格圏の首位を走っているソッカー部女子。9月28日のリーグ戦再開に向け、インタビュー企画第1弾となる今回は、黄大城監督にインタビューを行った。(このインタビューは9月9日に行いました)

 

――自己紹介をお願いします。

群馬県出身で、高校卒業まで群馬県にいました。小学校は地元のクラブ、中学校は前橋ジュニアという群馬県でも結構強いチームに入って、(中学時代は)中町(=公祐、現ソッカー部男子監督)さんと一緒のチームでしたし、中町さんとは実家も車で15分くらいだったので縁がありました。そこから桐生第一高校に行って、大学は慶應のソッカー部に入りました。大学卒業と同時に京都サンガに入団して、4年で引退した後、株式会社リクルートという一般企業に就職しました。
就職から2、3年経った時に、ソッカー部(男子)に淺海(=友峰)前監督が就任されて、淺海監督は(テソン監督の塾生時代)1年生の時に4年生だったので面識もありましたし、僕が現役を引退したことも知っていたので、「一緒にやらないか」と声を掛けられて、個人的にもソッカー部という組織に1番いろいろな経験をさせてもらったので、チームに携わることを決めました。最初はサラリーマンコーチとして、平日は仕事をして週末だけ練習に来る形だったのですが、コロナが流行り始めたタイミングで女子部の監督がいなくなってしまい、急遽「女子を見てくれないか」という話を貰いました。(女子部の監督就任)1年目はサラリーマン監督で、週末しか行かない形だったのですが、もちろんそれで勝てるわけもなく、全敗して2部に落ちて、目の前で選手の泣き崩れる姿を見た時に、引き受けた責任として「このままサラリーマン監督は出来ないので(監督を)辞めます」というのは無責任だし、僕がサラリーマン監督として関わった4年生はそれでサッカー人生が終わってしまったということを考えた時に、何かしらの成果をしっかりと残したいと思い、仕事を辞めて、4年前にソッカー部専任になりました。今年(2025年)で監督5年目になります。

 

――高校から大学に進学する際、慶應、そしてソッカー部を目指した理由を教えてください。

正直、慶應のサッカーを全然知らなくて、明治(大学)と中央(大学)のどっちかにしようと思ってて、(高校時代に)明治のユニフォームを着て練習試合に参加した時にたまたま相手が慶應で、その時に初めて「慶應のサッカーって強いんだ」と。慶應はまだ(関東大学サッカーリーグ)2部で、明治と中央は1部でたくさんプロを排出する大学だったので、当時はそんなに(慶應に入ろうと)意識はしていませんでした。ただ、いろいろ紆余曲折あって、「慶應を受けてみないか」と高校の監督に言われました。
もちろん(慶應は)スポーツ推薦はないので、受験しなきゃいけなくて、(高校までは)受験というものにあんまり縁がなかった状況で、中央にスポーツ推薦で受かって、中央に行こうかとも思ったのですが、ただ、慶應っていうブランドに惹かれて、「ダメ元で受けてみよう」と思い、慶應のことを知って、ソッカー部のことを調べて、というのが目指した経緯です。

塾生時代のテソン監督

 

――大学時代はどんな4年間でしたか。

入学した時は2部で、4年生に淺海(=友峰)前監督がいて、中町(=公祐)さんが(湘南)ベルマーレから帰ってきてソッカー部に入部した年で。僕らの代は4人プロに行けて、たまたま1年生に良い選手が集まった年だったので、1年生の時に2部優勝して1部昇格を果たせました。1年生から試合に関わらせてもらったこともあって、個人的には思い描いていた以上の経験をさせてもらったのが1年生の時です。
2年、3年、4年とずっと1部で戦っていたのですが、やっぱり一番印象に残っているのは最後の年で、(同期で)プロに行ったのが4人いたのと、1個下に藤田息吹(平25政卒)という今はファジアーノ岡山でやっている選手がいて、1年生に武藤嘉紀(平27経卒・現ヴィッセル神戸)とかもいて、良い選手が揃っていたので、ライバルのワセダには早慶(定期)戦やリーグ戦で全部勝っているし、「全国制覇するぞ」っていうことしか頭になかったです。ただ、インカレ準決勝で明治に負けちゃって、全国制覇の夢は叶わなかったのですが、サッカーを通した成功体験と、ソッカー部で4年間過ごした社会経験というのは、自分をプロとしても、一般社会でのサラリーマン生活でも礎となっている経験が出来た4年間だったと思います。

4年次の早慶定期戦では決勝ゴールを挙げ、MVPに輝いた

 

――プレイヤーとしては、ご自身はどんな選手でしたか。

左サイドバックだったのですが、左利きで、センターバックとかもやりましたけど基本的には左サイドを主にしている選手でした。このサイズ(185cm)があって、スピードがあって、走れて、左利きでキックにも自信があるタイプだったので、ポテンシャルだけはすごかったと思います(笑)。
マチ(=中町公祐)さんとか、僕の同期で清水エスパルスに行った河井陽介(平24政卒・現カターレ富山)とか、中盤に良い選手がいたので、走れば(ボールが)出てきましたし、今みたいにサイドバックが内側に入るサッカーというよりも、ガンガン上下動しながらオーバーラップしていくことが、自分の中では正で、1つの美学だったので、そういった意味で周りに活かされながら、自分に自信をつけてプレーの幅が拡がっていった4年間だったと思います。

 

――今、女子部はウイングバックがサイドに張る形を取っていますが、それは現役時代のテソン監督の考えがつながっているのでしょうか。

そこはあんまりなくて、というのも、監督になって分かったのですが、やっぱり女子と男子って、同じサッカーだけど戦術の考え方が違ったり、やらなきゃいけないことや意識しなきゃいけないところが違う分、あまり自分の現役時代のプレーを選手に求めたことはないかなと思います。

 

――プレイヤーとして指導を受けてきた監督の中で、ご自身の指導スタイルに影響を与えられたと思う監督を教えてください。

プロ1年目に出会った大木武さんという、南アフリカワールドカップ(2010年)でも日本代表のコーチをされていた方で、「この人のもとでサッカーをやってみたい」というぐらいサッカー選手から結構人気のある方で、サッカー観が強い監督です。
「チームとしてある程度のコンセプトがある中で、あとは選手の力量としていろんなことの色付けをしていく」監督が大学でもプロでも多かったのですが、大木さんは僕が京都サンガに入団するきっかけにもなった方で、「このチームで、この監督のもとでサッカーやってみたいな」というのが京都を選んだ一番の理由なので、そういった意味でも影響を受けた方です。
サッカーとしては、距離感を縮めながらボールをつなぐサッカーで、練習でもずっとポゼッションとか、細かいエリアでのゲームばっかりやっていましたし、その中でもいろんな約束事があって、今まで接したことがないサッカー観だったので、自分の中でも面白いと思っていました。
こうやってスタイルを貫いていくことが、勝った負けた以上に自分を成長させてくれるというのは1プレイヤーとして思ったことなので、非常に影響を受けた監督です。

 

――女子部のスタイルとしては、どういったところを貫いていきたいですか。

もちろん結果が大事だし、みんな結果を出すために頑張っていますが、サッカーを通して何を学ぶかという事と、サッカーが上手くなるために、みんなで頭を揃えて戦うことによって得られる成長幅を僕自身すごく意識していて、サッカーを通して得てきたものはフィールドが変わっても礎となる部分で、自分がサッカーから離れてサラリーマンになっていろんな挫折とか経験とかをした時に、サッカーによって得てきたことが活きてきましたし、特に女子の場合はプロを目指す人が少ない分、大学まで来てサッカーをやることの意味をしっかりと考えて、結果を出すことと同時に、社会に出ても役立つ考え方とかマインドは、自分が現役時代に得られたからこそ、選手たちに伝えていきたいです。
その中で確立されてきた今の女子部のスタイルとしては、「相手を見ながら自分たちで判断をしていく」というスタイルです。その判断の引き出しとか材料はたくさん提示していますけど、基本的には選手がピッチ上でどれだけ迷わずに決断してプレー出来るかが大事なので、そこを支えていきたいと思います。

 

――指導するうえで大切にしている言葉はありますか。

いくつかあるのですが、やっぱり、「選手ファースト」というのは常に頭の中に置いています。「選手がどうか、選手がどう思うか、選手がどういう状態か」というのに応じて声を掛けたり、練習メニューを組んだり、(ミーティング等)いろんな時間を過ごすときも、自分は大学リーグの他の指導者と比べて年齢が若く、選手経験が豊富ということもあって、選手の立場に立つということは自分の中で意識していることの1つです。
他に意識しているのは、指導者をやっていると「なんで出来ないんだ」とか、「なんでなんだ」と思うことが結構あって、でも、選手からすると選択肢が自分の中になかったりとか、技術的に追い付いてなかったりすることもあるので、感情的に物事を伝えるのではなく、選手のチャレンジ精神や前向きな姿勢を削がない声掛けをするというのは意識しています。

 

――ソッカー部という組織の1番の魅力を教えてください。

すごく愛情深い組織だなと思います。(選手として)ソッカー部で過ごした4年間は結構理不尽なことが多かったし、「これ意味あるのかな」と思うこともあって、「いやこれが伝統なんだ」と自分を押し付けながらやらされていた感覚も当時はありました。ただ、今振り返ってみると、チームのため、組織のため、これだけ世のため人のために動ける組織は珍しいし、これだけ人に関心を持ってくれる組織は珍しいなと、ミーティングで「やっぱりお前はこうだ」と言われると、当時は耳が痛い話でしたけど、これだけお節介になってくれる、自分の成長とか組織の中での立ち位置を気付かせてくれる組織はなかなかないと思います。
あとは環境面も含めて、卒業生たちがこういった環境を整えてくれて、良き伝統として残してくれていますし、就職活動などいろいろなところで面倒を見てくれるという意味でも愛情深い組織だと思います。(指導者として)戻って来てからも、「やっぱり変わらないな」と、ソッカー部らしくて良いところだと思っているからこそ、変わらなきゃいけない事と、変えなきゃいけない事、一方で変えちゃいけない事のバランスは監督として意識しなくてはいけないところだと思います。

 

――ここからは今年のチームについて伺っていきたいと思います。リーグ戦を10連勝で折り返しましたが、この結果を監督としてどのように捉えていますか。

出来すぎでしょう(笑)。リーグ戦って勝ち点を積み重ねるものなので、選手たちにも勝ち点に応じたご褒美を設けているのですが、1番(のご褒美)は10連勝で、この後大阪遠征に行くのですが、僕がUSJを全員に奢るという内容で、まさか10連勝出来ると思ってなかったので、20万くらいチケット買って(苦笑)、というくらいの出来です(笑)。

 

――今年のチームのどんなところが強みですか。

人数が少ないので、今まではいる選手の中でどうにかしなくてはいけなかったのですが、今も人数は少ないものの、それぞれの組み合わせによっていろいろな戦い方を出来るというのは今年のチームの特徴だと思っていて、なんでそれが実現出来ているかというと、1人が複数のポジションを出来る。それぐらい、器用に、真面目に、愚直に、チームのやり方を頭に入れながらプレーしているからこそ、「この試合はこの選手をここで使うから、後ろをこの選手でいこう」というやり方が出来ているのが、このチームの特徴だと思います。

守部葵(環4・十文字)はDF・ボランチでプレー

 

――戦いの中で、どんなところが上手くいっていると感じますか。

今やっているサッカーは、僕が監督1年目から試行錯誤しながらチャレンジしてきたモノの集大成だと思っていて、その理由は、僕が5年目なのでそろそろ監督として成果を残さなくてはいけないという事。あとは、僕の(監督)1年目に、(高校生の時に体験で)練習参加して、「ソッカー部でやりたい」と思って来てくれたのが今の4年生で、(その下の学年含めて)僕が指導の中で貫いてきたことを感じて、ソッカー部に入ってきてくれた子が(今の選手)全員なので、進路の中で、慶應という1つの大学のブランドと、どこでサッカーをやるかという点でちゃんと意思決定をして、高い壁にチャレンジしてくれた子達が揃っているという点でも1つの集大成になると思います。
そういった中で、上手くいっている事としては、やっぱり得点力は1つの魅力だと感じていて、「たまたま取れた」ではなく、自分たちで意図を持ってビルドアップして、意図を持って相手を崩して、再現性の高い得点を重ねられているところが1番上手くいっているポイントだと思います。

攻撃をけん引するストライカー・野村亜未 (総3・十文字)

 

――ここはもっと良くしたいと思っている点はありますか。

セットプレーの守備、コーナーキックもそうですけど、長いボールに対するヘディングですね。これは男子と女子の大きな違いで、男子みたいに片手でジャンプ出来る子とか、相手に乗ってジャンプ出来る子がなかなかいないので、やっぱりゴール前で事故が起こりやすい。加えて、大きく弾き返すことが出来ない分、コーナーキックとかロングボールを多用するチームが相手だと、事故が起こりやすいので、そこの強化は必要ですし、時間がかかるポイントだと思っています。
あとは、もっとクオリティを上げなきゃいけないなというのは早慶(定期)戦を戦って1番感じたことですね。

GK・中村美桜(理4・慶應湘南藤沢)を中心とした守りにも注目だ

 

――リーグ戦はポゼッションして支配する展開が多いですが、練習でもポゼッションのためのメニューを中心にしているのでしょうか。

自分の中ではポゼッションばっかりやっている認識はあまりないのですが、ただ、「何のためにポゼッションをするか」というのは自分の中で1つ大きな目的があって、それを選手に落とし込むということはやっています。あとは単純に、ボールを取られない事とか、1本でいけるところを2本、3本つなぐとミスの確率はより高まるので、そこの確率をより下げるための基礎的なトレーニングというのは多くやっていると思います。

高い技術力で攻撃の中心を担う野口初奈(環3・十文字)

 

――先ほども、人数があまり多くはないというお話がありました。リーグ戦と皇后杯予選が連日で入るようなケースもありましたが、運用の難しさはありますか。

すごくありますね。監督5年目ですけど過去の先輩たちは本当に少ない人数で、リーグ戦にサブキーパーが出たりとか、ほとんどサッカーをやったことがない選手をフィールドに送り出さなきゃいけなかったりとか、そういった状況で戦ってきました。一方で、それがこの組織の1番の魅力なんじゃないかなって。人数とか、経験年数とか、関係なく、スポーツ推薦で集めている大学に立ち向かわなきゃいけない。その難しさは感じているけど、それをなくしちゃったら他の大学と一緒だし、僕が監督をやる意味もないので、難しいけどやりがいの1つです。
ただ、ケガという意味で言うと、人数が少ないのでリスクは排除していきたい部分で、ウエイトトレーニングとか、強度のコントロールとか、休ませることとか、そういったところは男子よりも気を付けなきゃいけないところだと思います。

 

――今年のチームが発足してから、成長を感じているところはありますか。

単純にみんな上手くなったと思います。技術的な部分ももちろんですが、「相手がこうだから、こうした方が良い」という引き出しが増えています。
あとは、上級生は僕と付き合いも長いしある程度分かっているところもありますが、1・2年生の台頭が思った以上に早くて、立ち上がりも早いし、2年生も高いレベルで自覚をもって、ソッカー部に帰属してくれているので、もちろん上級生がいるからこその台頭ですけど、シーズン当初と比べると下級生の台頭というのは挙げられると思います。

2年生ながら左シャドウとして貢献を見せる髙松芽衣(環2・植草学園大学附/ジェフユナイテッド市原・千葉レディースU18)

 

――大学時代、プレイヤーとしてご自身が昇格を経験されていますが、その経験を指導者として還元できそうなところはありますか。

昇格を経験したから還元出来るものかは分かりませんが、やっぱりリーグ戦なので、後期になってくると自分たちの立ち位置とか、背負っているものによって戦い方が変わってくるチームが多くて、対戦も1周しているので情報もたくさん持っているという点でも、戦い方が変わってくる。うちも今、首位で、逃げ切れば昇格出来るという状態の中で戦う選手のメンタリティーと、一方で他の大学も残留とか、入れ替え戦ラインとか、いろいろな心理状態の中で戦ってくるので、そういったところに対してはより敏感に、どう選手たちを送り出してあげるかという点は、自分のサッカー人生が活きるポイントになると思っています。

 

――今後の戦いに向け、キーとなってきそうな選手は

難しいですね(笑)、誰でも挙げられるので。でもやっぱりキャプテン(=小熊藤子、環4・山脇学園/スフィーダ世田谷ユース出身、来季からWEリーグ RB大宮アルディージャWOMENへの加入が内定)じゃないですか。理由は、サッカーをやめていく人がほとんどという中で、サッカーを続ける、かつ日本で最高峰のレベルに身を置いてプレーすることの1選手としての自覚と、このチームに何をもたらすか、何を残すかというところは、アンドで捉えてほしいと思います。両軸をちゃんと捉えた中で彼女が最後、どういう存在であり続けるかというのは大事ですし、特に昇格を目指しているチームのセンターバックなので、簡単な失点をしてしまうとゲームを難しくしてしまうという意味でもキーになる選手だと思います。

プロ内定の主将・小熊藤子(環4・山脇学園)が昇格に向けキーとなる

 

――最後に、残り6試合に向けて抱負をお願いします。

相手がどう来るかという事と、自分たちがどうしたいかという事とのせめぎ合いがサッカーだと思うのですが、ただ、監督になって感じるのは、試合が始まったらやることがないというか、力が入っても仕方ないですし、なので、「どれだけ選手を良い状態で送り出してあげられるか」というのが監督の8割くらいの仕事だと思います。
あとは試合を見ながら戦術とか交代とかを考えるだけで、基本的には準備段階が監督の仕事で、勝負の世界は時の運もあるし、「絶対負けるな」とか「絶対勝て」と言ってもそれは不可能なことなので、選手たちがピッチ上で迷わず、自信を持ってプレー出来るように送り出したいです。
それさえ出来れば、さっきも言ったように今の選手たちは上手くなっていて、力があって、送り出し方さえ間違わなければやってくれる選手たちだと思うし、僕の選手に対する信頼という部分はどこの大学よりも揺るぎないものがあるので、人がいなくて負け続けた苦しい時代も経験してきて、ここでサッカーしたいって思ってくれた選手たちだからこそ、優勝を掴み取ってくれる、何かを成し遂げてくれるメンバーだと思います。

 

(インタビュー:柄澤晃希)

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