【Last message】チームの「さきがけ」としてボールを投げ続けた4年間/4年生特集「Last message〜4年間の軌跡〜」 No.30・水嶋魁(アメフト部)

アメフト

24年度に引退を迎えた4年生を特集する「Last message~4年間の軌跡~」。第30回となる今回は、アメフト部の水嶋魁(商4・海陽学園)。アメフト攻撃の要・QBのポジションでチームをけん引。実戦経験を豊富に持つ彼は、今年のUNICORNSが誇った関東屈指のパスユニット、そして彼らが残した全国ベスト8という成績に大きく貢献した。文字通りアメフトに全てを捧げた、彼の大学4年間を追った。

 

 

11月23日。選手や観客、スタッフが引き上げたユニバー記念競技場で、名残惜しむように一人フィールドを歩く男の姿があった。彼の名は、水嶋魁(商4・海陽学園)。激動の4年間をQBという重要な立場から支え続けた、慶大UNICORNSが誇るエースである。

出身は愛知県屈指の名門校・海陽学園。アメフトが強い関西、そして将来を見据えていい大学への進学を望んだが、第一志望の京大には浪人を経てもわずかに手が届かず。少し不本意の念もありながら、慶大の門をくぐった。

入部当時の慶大は不祥事の影響で1部下位リーグ(BIG8)に所属していたため、他大学より圧倒的に強かった。そのため、経験者の水嶋は出場機会を多く得ることができ、2戦目ではいきなりMVPを獲得する強烈なデビューを飾る。UNICORNSの新・背番号0は、ここで始動した。

水嶋をさらに成長させたのは3年春に起こった部の不祥事。水嶋は関わっていないが、彼と共にQBを務めていた選手が退部。「本音では実力で1番を勝ち取りたかった」とはしつつも、先発出場をほぼ確約された彼は、個人よりチームにより多くの時間を割けるようになった。TOP8の各大学によるレベルの高いディフェンスに揉まれながら、自らのフィジカルを強化、そして「見ていて面白いプレースタイル」を磨いていった。

下級生から積極的に試合に出場。投げるだけではない、見ていて楽しいプレーを

運命のラストイヤーとなった今年度。QBは水嶋の他に松本和樹と山岡葵竜による3人制が確立。さらに、WRも4人体制として、パスユニットの強化が図られた。なかでもQBは1プレー1人しかフィールドに立たないため、競争も激しい。チームメイトからは「ギコい(=ぎこちない)」「ビジネスフレンド」という声もあったQB3人だが、本人たちはこの体制をいい刺激として捉えていた。山岡は「特にQBとしてのメンタリティや人間性の面でたくさん学ばせてもらった。最高の先輩、そして最高のライバルとして過ごした3年間だった」と語り、水嶋も「2人にしかない部分もあるし、補いあえたのはいい結果。普通に喋るし、めっちゃ仲悪いとかもないし。1人より3人の方が環境的に上手くなるし、何より俺が一番楽しい」と、強力なライバルの出現にも前向きだった。

左から山岡・水嶋・松本。タイプの異なる3人

これまでとは比べ物にならない強力なパス攻撃態勢を整えた慶大は、下馬評を覆してTOP8を荒らしていく。格上と目された明大と立大を討伐し、関東3位で全国大会に出場する権利をもぎ取った。過去最高のシーズンとなったが、オフェンスリーダーを務めた水嶋の感想は「しんどさが勝った」という。水嶋が見積もっていたチームのポテンシャルと現実との乖離に苦しみ、チームのモチベーション維持や自らのコーチングに満足がいかなかったと振り返る。「アメフトで夢を追っているのに、眠いとかバイトとか、アメフト以外の理由を言い訳にして、その夢から離れてしまう。その選手が悪いとか責めるとかというよりは、自分がアメフトを好きにさせられないのかなっていうのに腹が立った」と語る彼は、彼自身も就活などで多忙な中で、少しでも部を、攻撃陣をいい方向に持っていこうと、精一杯に舵取りをした。

試合では背中で、試合以外では言葉で、チームを引っ張る

全国大会では、前年学生王者の関学大と激突。新生UNICORNSの全てを出し切って闘い抜いたものの、関学大の前に屈した。

敗戦時は常に悔し涙を流し闘志を燃やしていた水嶋だが、この日の試合後はまた違った姿を見せた。ただ一人グラウンドに残って片膝立ちで、まるでグラウンドの声を聞いているかのような姿が印象的だった。その時のことを尋ねると、彼いわく「終わってしまった虚無感もありつつ、リーダーとしてもっとこうできたんじゃないか、その振り返りでしたね」。UNICORNSが大好きで、常にチームのことを考えてきた水嶋は、自分の引退が決まってもなお、自分が為すべきだったことに思いを巡らせていたのだった。

最後の瞬間、誰よりも長くフィールドに

卒業後は一般企業に就職しつつ、アメフトに関わる道を選ぶ。選手かコーチかを未だ決めかねているが、「アメフトから離れることは絶対にないです」と笑う。どこまでもアメフトの夢を追い続ける水嶋は、春から新しい「0」キロポストに立つ。

次のステージでも、鬼がかった活躍に期待だ

(取材・記事:東 九龍)

※本企画および本年度のアメフト記事に掲載した写真について、UNICORNSのロゴがあるものについては、慶應義塾大学アメリカンフットボール部よりご提供いただきました。シーズン中より多大なご協力をいただき、ありがとうございました。この場を借りて感謝申し上げます。

タイトルとURLをコピーしました