全員で掴み取った、劇的な勝利だった。秋季リーグ戦1勝10敗と、慶大は苦しい秋を送ってきた。迎えた1部・2部入替戦、フルセットまでもつれ込む緊迫した展開。12-14と相手にマッチポイントを握られてもなお、選手たちは諦めなかった。値千金のブロックなどでこのピンチを乗り切り、土壇場で大逆転。フルセットの激戦を制し、慶大が1部残留を決めた。
2018年10月27日(土)
秋季関東大学男子バレーボールリーグ戦
1部・2部入替戦 慶大×青学大
@駒澤大学玉川キャンパス体育館
得点 | ||
慶大 | セット | 青学大 |
25 | 1 | 20 |
25 | 2 | 14 |
24 | 3 | 26 |
18 | 4 | 25 |
17 | 5 | 15 |
入替戦。そこでは互いの意地がぶつかり合い、他の試合では味わうことがない独特な緊張感が漂う。同じコートで慶大の前に行われた試合では、1部11位・国士館大の攻めたジャンプサーブがネットにかかって試合終了。コート横に控えていた慶大の選手たちは、残酷ともいえるその入れ替えの瞬間を目の当たりにした。
そんな大一番を迎える慶大に、頼れる男が帰ってきた。それは、秋季リーグ第5戦から戦線を離脱していたエース・マルキナシム(総3・川越東)。マルキが抜けて以来、決定力の低さが課題となった慶大は、右のエース富澤太凱(経3・慶應)がマルキの分も受け持つかのように、孤軍奮闘していた。しかしこの日ついに、慶大のダブルエースが復活したのだ。
運命の一戦は、開始直後、相手クイックを真下に叩き落とす樫村大仁(環2・茨城高専)のブロックから始まった。練ってきた青学大対策がピタリとはまり、ワンタッチで速度を緩めてからレシーブでつなぐ「ブロックアンドレシーブ」で細々とブレイクを重ねていく。サイドアウトでは、コート上唯一の4年・岩本龍之介副将(商4・仙台第二)と1年ながら抜群の安定感を誇る小出捺暉(環1・駿台学園)が確実にサーブレシーブを成功させ、チームの安定に貢献。終始リードし続けた慶大は、最後も相手レフトのスパイクを2枚で落とし、25-20で第1セットをものにした。
続く第2セット、慶大は青学大を攻略した。相手スパイクをワンタッチでつなぎ、富澤、さらにはセッター吉田祝太郎(政2・慶應)がスパイクで反撃。10-6の場面からは、3連続ブロックポイントを決めるなど、試合は完全に慶大のペースに。このセット3度の大量連続得点で大きなリードを奪った慶大は、終盤に入っても清水柊吾(総2・広島城北)のクイックや吉田のノータッチサービスエースなど好調を維持した。最後は樫村が強烈なクイックを放ち、25-14でこのセットも慶大が奪取。1部残留に王手をかけた。
第3セット、青学大は第2セット途中から交代で入ったセッターをセット始めから起用し、サイド選手も交代。ここから、「向こうの攻撃パターンが変わった」(宗雲監督)。レフトへの速いトスに対応できず、相手にファーストサイドアウトを取られてしまう。さらに、スパイクミスなどが重なり、慶大は2点差を追う展開に。17-19からは、マルキのスパイクやブロックなどで4連続ブレイクに成功し、逆転した慶大だったが、この秋季リーグを通して散見された「終盤のミス」でまさかの連続失点。終盤に逆転を許し、24-26でこのセットを落としてしまう。
切り替えたい第4セットだったが、立ち上がりに富澤のスパイクがブロックに落とされてしまう。続くマルキのスパイクもアウトになり、ダブルエースを軸とする慶大に動揺が走った。そこからは清水・樫村のクイックで確実にサイドアウトを切っていく慶大。しかし、タッチネットやスパイクミスが重なり、徐々にリードを広げられる。8-15の場面から、富澤の気迫のスパイクなどで4連続得点を奪って食い下がった慶大だったが、反撃もそこまで。広がった点差を縮められぬまま、18-25の大差で第4セットも落とす。1部の座をかけた戦いは、運命の最終セットに突入する。
すべてが決まる第5セットは、序盤から互いにブレイクを取り合う緊迫した展開に。富澤のブロックなどで上々の滑り出しを見せた慶大だったが、その後はスパイクがなかなか決まらず、サイドアウトを一度で切れない。途中、吉田が足を攣って倒れ込むアクシデントが発生。だが、タイムアウト明けにはすぐに復帰し、吉田はその後も富澤を中心に攻撃を組み立てていった。2点差を追いかける展開が続き、12-14と相手に先にマッチポイントに到達される。富澤の強烈なスパイクでサイドアウトを取り、13-14。ここを乗り切れなければ、2部降格・・・慶大は窮地に追い込まれた。
そんなとき、サーブが回ってきたのはマルキだった。ネットにかかれば終了の場面、ベンチからずっと選手たちを見守ってきた伊藤祥樹主将(総4・清風)も、このときばかりは目をつぶって手を固く握りしめる。マルキが力強く放ったボールは白帯をかすめ、相手コートへ。この大事な場面で、ついに慶大の努力が実を結んだ――第3セット以降ずっと苦しめられてきたレフトからのスパイクを、吉田・清水が2枚でシャット。値千金のブロックポイントだった。これで14-14と土壇場で同点に。続くマルキのサーブも、鋭い軌道を描いてネットイン。相手が乱れたところを、すかさず清水がダイレクトで打ち込み、ついに逆転に成功する。互いにスパイクでサイドアウトを取り合い、16-15。清水がサーブを放つと、貫いてきた「ブロックアンドレシーブ」で相手攻撃を切り抜け、最後を託されたエース富澤が、見事にスパイクを打ち切った。ボールがコート外へ弾かれた次の瞬間、笑顔とともに泣き崩れる選手、駆け寄る応援メンバー、そして彼らの中で涙を流す伊藤主将の姿があった。
この大逆転劇を、誰が想像できただろう。ミスをしたら即試合終了の場面でも臆することなくジャンプサーブで攻めたマルキ、必死につないで最後に託されたボールを決め切った富澤。2人にかかったプレッシャーは、きっと私たちには想像もできないものだろう。そんな中で、ダブルエースは意地を見せてくれた。そして、変化した青学大の攻撃に見事に対応してみせた伊藤主将の存在も忘れてはならない。コート上で戦う者、ベンチから支える者、応援席から声を出し続ける者…チーム全員で掴み取った、素晴らしい勝利だった。
主力選手の負傷という不運な出来事で計画が狂い、新たにチームを作っても完成度はどうしても他大にかなわない・・・非常に苦しい2か月間だった。だが、それでも決して諦めず、今すべきことを見失わなかった慶大。この勝利は、そうした努力が実を結んだ賜物だろう。全日本インカレまで残り1ヶ月。伊藤祥樹主将体制の集大成となる。「最後に4年生が笑って終われるように」(富澤)、「4年生のために勝つ」(清水)。また一回り強くなった慶大が、思いをひとつに最後まで走り続ける。
(記事:藤澤薫 写真:太田彩恵・藤澤薫)
以下、コメント
宗雲監督
――今の率直なお気持ちは
感激・感動した、すごく良い試合でした。
――秋季リーグ閉幕からのこの1週間は
今まで通りでした。けが人が多かったので、マルキが帰ってくることを前提に、もう一回一枚岩になりましょう、毎日毎日を積み重ねましょう、と話していました。それは伊藤キャプテンが上手くリーダーシップを取っていました。本当にすごく良い練習をしていたので、やるべきことはやったな、全部やり切ったな、という1週間でした。
――第1・2セットはブロックが好調だった
こちらが対策を立てたので、それがちょうどはまってくれました。
――途中から調子が落ちてしまった
3セット目になってなぜああなったかっていうと、向こうの攻撃パターンが変わった。セッターが代わったので、レフトのトスがすごく速くなったんですよ。そこに対応するのに2セットかかっちゃったんです。レフトの子がもう全然止まらなかった。でも、それも伊藤がちゃんと5セット目に色々対応してくれて、何とか。マルキも最後に意地を見せてくれて、何とかできたと思います。
――相手にマッチポイントを握られてからの逆転劇だった
それはね、厳しかったですよ。でも、心の中で「まだ諦めない」っていう気持ちをもってやっていました。多分選手もそうなんじゃないかな。それが最後本当に、マルキも意地のサーブを、富澤も止められ続けたけど最後の最後大事なところでやっぱりエースとして決めてくれたので、やっぱりみんな諦めていなかったですね。
――試合後、選手たちになんと声を掛けたか
とにかく感動したよっていうことですね。チームが色々紆余曲折あったけど、これでステージが上がったんじゃないかなって。そういう話をしました。
――今年度残り1ヶ月に向けて
これでほっとしてというか、全日本インカレに向けて、「タイトル獲ろう」っていう目標に向けて、もう一回仕切り直しが良い感じでできたので、頑張りたいと思います。
伊藤祥樹主将(総4・清風)
――今の率直なお気持ちは
素直に嬉しいです。
――この1週間はどう過ごしてきたのか
チーム全員で雰囲気作って勝ちにいこうということで、練習の雰囲気もガラッと変わったし、みんなの意識レベルも全然違うものになって。そんな1週間を過ごせて、試合前にこの1週間に対して後悔とかない状態でみんなできたはずなので、それが良かったのかなと思います。
――チームの雰囲気は
最初は良かったんですけど、途中で落ちてしまいましたね。
――落ちてしまった雰囲気はどう復活したのか
いやーもうわからないですねそれは。僕たちベンチの人たちは信じることしかできなくて、逆に選手たちを信じて、技術どうこうというよりも、もうずっと励ましていましたね。3セット目とか、「いけるいける!」「信じろ信じろ!」っていうことをずっと言っていて。まあそれを最後まで、託されたものを表現してくれた選手が最終的に雰囲気を作って良いプレーをしてくれたのかなと思います。
――素晴らしい逆転劇でした
いやもうあれは、奇跡としか言えないんじゃないですかね。多分実力でもないですよ、あれは。そう思います。完全に負け試合だったので、あそこは。
――それでも勝ち切れた今日の勝因は
みんなの気持ちが、最後プレーに出たんじゃないですかね。最後、青学もあそこでちょっと引いたというか、雰囲気的に一回落ちたなっていう感じがしたので、勝ちを意識して、ちょっと堅くなったり、気持ちが弱くなったのかなと思います。マッチポイントを握られても弱気にならなかったところは、青学よりも上だったのかなと思います。
――この勝利をどう生かしていきたいか
今日は今日で一回リセットするというか。どういう展開になっても諦めないっていう姿勢は今日学んだと思うので、そこは継続して、試合臨むにあたって、そういう気持ちでやるっていうのは多分今日学んで、生かせると思います。でも、自分たちの目標はここのレベルじゃなくて、上のレベルにあるので、またひとつひとつプレーの精度を上げていったりだとか、チームの連携っていうところも上げていって、完成度的に高くしなくちゃいけないし、あと1ヶ月しかないので、時間がないっていう意識をみんな持って、必死になってやるしかないですね。
――最後の1ヶ月に向けて
4年間積み上げてきたものを、1ヶ月で全部出し切って、良い思いできるように頑張ります。
岩本龍之介副将(商4・仙台第二)
――今の率直なお気持ちは
嬉しいです。良かったです。
――独特な雰囲気だったが
昨日の練習後にみんなにも話したんですけど、入替戦の会場ってなんか妙な空気が流れているというか、いつもと違う。僕は2回経験していたのでわかったから、そういうのはあるだろうけど、試合が終わったあとに悔いが残らないように力を出し切ろうっていう話をしていたので、緊張はあまりしませんでした。
――粘り強い守備もたくさんあった
ブロックがすごく良かったので、それでかなり守りやすかったです。
――サーブレシーブは
正直1部と比べるとサーブが、とくにフローターサーブがあんまり強くなかったので、(小出)捺暉と2人で広めに取れたので、良かったなと思います。
――あの逆転劇を振り返って
正直負けたと思いました。この点数取れればっていうのが最初取れなかったのがあって、最後向こうがマッチポイント握ったときも、マルキのサーブ、まあ(相手を崩す)可能性はあるんですけど、可能性なので、ちょっとこわかったっていうのは正直ありました。でも(マルキは)良く打ってくれたし、みんな最後まで頑張ったなって思います。
――今日の勝因は
間違いなく、「絶対に勝つ」っていう気持ちだけだと思いますね。最後ああやって勝ち切れたのは、本当にそれに尽きると思います。
――この経験を今後どう生かしていきたいか
最後のリーグ戦が終わってから1週間、みんなで雰囲気を上げていこうってやって、だいぶチームの雰囲気も良くなって、それにつられてプレーが良くなる、良いプレーが出るっていうこともあったので、それを何よりも継続したい。あと1ヶ月、ちょっとしかないので、みんなで頑張って継続して、良い雰囲気のまま全カレに向かってちょっとずつでもスキルアップできたらなと思います。
――最後の1ヶ月に向けて
僕も学生スポーツをできるのはあと1ヶ月なので、悔いなく終われるように、できることは全部やりたい。やっぱり、応援してくれる人に感動を与えられる、今日みたいなバレーボールがもう一度したいです。もう一度します。
富澤太凱(経3・慶應)
――今の率直な気持ちは
まずはほっとするとともに、本当に長い長いリーグ戦が終わったなと、改めて感じています。
――この1週間をどのように過ごしたか
まず練習の雰囲気を上げることを第一に全員で考えて、本当に部員一人一人が、練習の雰囲気を少しでも上げるっていうことを1週間意識して練習取り組んで、本当に今日はそれが出たのかなって思います。
――今日の試合を具体的に振り返ると
確かに最後決め切れたのは本当に自分の自信にもなりましたし、チームに勝ちをもたらせたのは本当に良かったんですけど、振り返ってみるとやっぱり3セット目取り切れないところであったり、4セット目チームが苦しいときに自分にトス集まってきているのに決め切れないっていうのも、決定力の無さを今一度痛感したなって思います。
――2セット先取してから苦しい展開が続いたが
結構不安な部分もあったり、強気になったりと、不安定なところでした。けど5セット目に入ってしまって、ここは何としても踏ん張ろうっていうチーム全体の意識が伝わってきたので、僕も何としてもここで仕事をしようっていう強い意志で戦いました。
――最終第5セットはエースらしいプレーが出たが
本当にあのトス1本がただセッターから上がってきたというものだけじゃなくて、本当に色々な人の思いが詰まったトスだったので、本当に打ち切れて良かったです。
――途中は相手のブロックなどに苦しめられる場面もあったが
ちょっと下手でしたね。やはり相手は僕よりも一枚も二枚も上手な選手ばかりなので、そこで自分の慢心が出てしまって、そうやってブロックにかかるっていう場面が多かったので、そこは常に自分より上の人間に向かっていくという気持ちを忘れないように戦っていきたいなと思いました。
――残りの今シーズンに向けての意気込み
最後に4年生が笑って終われるように頑張ります。
マルキナシム(総3・川越東)
――今の率直な気持ちは
1部残留できて良かったです。内容はどうであれ、勝って良かったです。
――2セット先取してから苦しい展開が続いていたが
個人的にはここ1週間でチームを離れていた状態から練習に参加して、ちょっとずつ上げていったんですけど、上げ切れていない部分もあって、チームに迷惑をかけることもあったというのが個人的な感想で、チームはリーグ戦で途中で諦めてしまう展開が多かったんですけど、それが今日はみんな諦めなかったのでそういう面は良かったかなと思います。
――チームを長い間離れていた、今日にかける思いは
夏とかはずっと使ってもらっていたのに離れてしまって、申し訳ない気持ちと、結果を見て歯がゆい気持ちがあって、でも頑張らなきゃいけないと思ったときにけがの部分があって練習も満足にできないという状況があって、そういう葛藤はしてたんですけど、結果的に入替戦で勝てて良かったです。
――けがの不安がある中、今日試合に出ようと決めたのは
色々な人から声をかけてもらいました。他のチームの選手からも僕が出ないと慶應勝てないよとか、キャプテンも監督もOBの栗田さんとかも声をかけてくださって、そういうのもあって、出たら全力でやろうという気持ちになっていました。
――最後、5セット目の見事なサーブについては
正直そのサーブよりも2点前くらいの相手のレフトの選手からチャンスが巡ってきたときに、ミスをしてしまってチャンスで返してしまったのがやってはいけないミスで、そのミスをしてしまった時点で次自分にサーブが回ってくるのがわかっていたので、サーブで取り返すしかないっていう思いがあったので、正直13―14とか意識していなくて、いつも通りサーブが打てたかなと思います。今考えるとちょっとヒヤッとする場面だったなあと思います。
――残りの今シーズンに向けての意気込み
万全なコンディショニングをして、またみんなで日本一を目指したいなと思います。
清水柊吾(総2・広島城北)
――今の率直なお気持ちは
「勝ってよかった」というよりは、「1部残れて安心した」っていう気持ちが大きいです。
――今日のチームの雰囲気は
リーグ戦が終わって1週間、チームで雰囲気を上げていこうって話していたんですけど、昨日の最後の練習があんまり雰囲気良くならなくて、ちょっと心配だったんですけど、今日は入りからすごく雰囲気も盛り上がっていたし、アップのときからみんな声出していたので、良かったです。
――ブロックについて
結構作戦通りでした。もしサイドに振られてもワンチだけは取りに行こうって思っていたので、それが上手くいったのかなと思います。
――見事な逆転劇だった
正直、前でブロック構えていて、「あ、負けたな」って思ったんですけど、うまいこといったので良かったです。
――今日の勝因は
最後まで諦めない気持ちだと思います。
――残り1ヶ月に向けて
4年生のために勝つっていうのを一番において、1ヶ月しっかり日本一目指して頑張りたいと思います。
出場選手 | |
サイド | 小出捺暉(環1・駿台学園) |
センター | 樫村大仁(環2・茨城高専) |
オポジット | 富澤太凱(経3・慶應) |
サイド | マルキナシム(総3・川越東) |
センター | 清水柊吾(総2・広島城北) |
セッター | 吉田祝太郎(政2・慶應) |
リベロ | 岩本龍之介(商4・仙台第二) |
途中出場 | 加藤真(商2・慶應) |