春季リーグ戦で優勝し、全日本大学野球選手権大会では準優勝を果たした慶大。春秋連覇・日本一を目指して臨んだこの秋は、一時首位を独走するも、第4節・明大戦で勝ち点を落とし、優勝の行方は最終週の早慶戦に持ち越された。明大が立大から勝ち点を獲得したことで、慶大は早慶戦で2連勝すれば優勝、2勝1敗なら明大との優勝決定戦、勝ち点を落とせば明大の優勝となる。
一方、ワセダは5勝5敗で現在4位につけており、早慶戦の結果次第では2位に浮上する可能性もある。優勝の可能性はないものの、慶大にとって難敵であることに変わりはない。4年生の有終の美を飾り、”忘れ物”である日本一をつかむためにも、まずは早慶戦で2連勝し、春秋連覇を成し遂げたい。そこでケイスポは、早慶戦を前に闘志を燃やす慶大の選手・スタッフ・首脳陣にインタビューを行った。
今回は上田誠コーチ!(このインタビューは10月25日に対面で実施しました。)
――今シーズンここまでを振り返って、投手陣の活躍をどう捉えていますか
春は四苦八苦しながら、渡辺和大(商4・高松商業)におんぶに抱っこという形でやっていきました。それでも優勝ができて、全日本選手権でも準優勝できました。ただ、やはり課題もありましたね。一つは渡辺和の負担を少なくしたいということ。それから、来年どうするんだという話です。だから秋は計算をしながら、渡辺和の負担を減らす次のピッチャー、つまり2回戦の先発を作る。それから3年生以下で、次の慶應を背負ってくれる選手を育て上げる。その全部を満たして勝とうというつもりでした。熊ノ郷(=熊ノ郷翔斗、環2・桐蔭学園)や小宅(=小宅雅己、環1・慶應)など、いろいろなピッチャーが出てきましたし、広池(=広池浩成、経4・慶應)も復活しました。今のところはうまくいっているのではないかと思います。渡辺和も肩の具合で苦しい時期がありましたが、今はもう完全に元気です。ソフトバンクからの指名も受けて、やっと全員で早慶戦を迎えられると思っています。
――先日の取材で広池投手は、奪三振率の向上や球質に手応えを語っていました。上田コーチから見て、今季の成長はどこにありますか
広池は数値をとても気にする選手なのですが、それを僕が一度崩しました。僕はとにかく勝てるピッチャーになってほしいと思っています。例えば150キロでものすごい回転数の球でも、真ん中に行けば六大学の選手は打ちますよね(笑)。少し曲げたり、ストライクからボールにしたり、そういうボールを振らせることでもっと高い次元にいけますよね。広池は今まで、連打でランナーが出ると、長打やホームランを打たれることが多かった。それをなんとかしようと、夏に取り組みました。
渡辺和の課題はフィジカルやフォームでしたが、逆に広池の場合はピッチャーとしてのバッターへの向かい方です。もちろんメンタルは強い子だと思いますが、どうやって打ち取るかという野球への考え方が、僕とはかなり離れていました。それを一つの選択肢として理解してもらうように取り組んだのもあって、今季はうまくいっているのかもしれません。今のところ順調に来ていると思います。
――広池投手の新しい考え方と、上田誠コーチの伝統的な考え方の融合が結果につながっていると
そうなんじゃないかなと思います。
――データ分析と、ご自身のこれまでの経験をどう組み合わせて指導に生かしていますか
数値化や可視化の問題は、独立リーグに行ったときに散々勉強しました。だから、ある程度はアナリストの人たちと話ができます。僕も参考にしますし、向こうからも言ってきてくれます。例えば「スライダーが少し膨らんでいます。前はこうでした」と言われて、それなら少しフォームを変えてみようか、という具合です。慶應はアナリストをものすごく頼りにしています。僕もすごく尊重していますし、助かっています。アナリストのおかげでできていることが多いので、うまくいっているのではないかと勝手に思っています。「このピッチャーはどうか」と聞くと資料が送られてきて、それを見て僕の指導に生かします。僕のほうからも「これはなぜ打たれてしまうんだろう」と質問すると、「こうですね」と回答が返ってくる。非常に「半学半教」的であり、慶應らしいですね。
――2月の就任から、投手陣全体で意識的に変えたことはありますか
トレーニング方法と、ランニングに対する考え方を随分変えました。「中南米トレーニング」と呼んでいるもので、関節部を鍛えて、ケガをさせないというものです。ケガをするのはみんな肩や腰、膝といった関節じゃないですか。そこを重点的に鍛えるトレーニングを昔から勉強していたので、練習メニューとしてきっちり落とし込もうと思いました。それによくついてきてくれたと思います。もちろん強制ではなく自由にやらせているのですが、みんな自主的に取り組んでくれています。また、ランニングはかなりないがしろにされていたので、何のためにやるのかという話し合いをして、説明しました。股関節のインナーマッスルを鍛えるにはこういう方法しかない、といったことですね。今の時代はみんな知識がたくさんあって、頭でっかちなんです。だから「こうやれ」と押し付けるのはだめで、ちゃんと説明するようにしています。おかげで本当に自主的にランニングに取り組んでくれています。
さらに言うと、学生スタッフに宮腰くん(=宮腰悠生、環4・慶應)、齊藤くん(=齊藤光汰朗、総4・仙台三)、髙垣くん(=髙垣空逢、商3・慶應湘南藤沢)の3人がいて、うまく投手陣を動かしてくれています。もう感謝しかないですね。例えばその日3人がいないと、僕は落ち込みます(笑)。本当にこの3人のおかげでやれています。
あとは4年生ですね。ベンチに入れない子がたくさんいます。僕も学生のときは大した選手ではありませんでしたが、最後までやりきったという自信はあるんです。途中で「俺は試合に出られない」とふてくされてしまうと、面白いもので、学生野球ではそれがチーム全体に蔓延してしまう。嫌な雰囲気になって、いつも横で遊んでいるだけ、というふうになってしまいます。でも今年の4年生は本当に一生懸命取り組んでくれているので、試合に出ている選手も「俺もやらなくては」という雰囲気になっています。だから4年生に感謝ですね、本当に。
――表舞台に出ていない4年生も含めて、チームができあがっていると
そうです。ピッチャーも一つのチームなので。野手とは違う場所で違う練習をしているじゃないですか。そこでダラけていると、それに乗っかる選手も出てくるのですが、今年はそれがまったくありません。今年の4年生は本当に素晴らしいと思います。
――2月の取材では、課題が多すぎるとおっしゃっていました。そこから投手陣全体で成長したと感じる部分はありますか
人によって全然違うんですよ。スピードを上げなければいけない、コントロールをつけなければいけない、スタミナがない。いろいろな課題があります。62人いるので、なかなか難しいところもあります。それでも見られる範囲で全員を平等に見るようにしています。たとえ神宮で投げなくても「ピッチャーをやっていて面白かった、紅白戦やオープン戦でいい結果が出て野球をやっていて良かった。息子ができたら息子にも野球をやらせたい」と、そう思えるようにして送り出したい。それが一番ですね。試合に出られない子も、夜にLINEで動画を送ってきて「今日はこんなピッチングだったので感想をください」と言ってきます。夜中の1時ぐらいなので、仕方ないな(笑)と思いながら返しています。全員平等というのが僕のやり方です。渡辺和だから、広池だからということではなく、ピッチャー全員にいい刺激を与えられればいいと思ってやっています。
――秋の投手MVPを、先発の二人以外で選ぶなら
やはり鈴木佳門(経2・慶應)でしょうね。苦しい場面で出ていって、うまく抑えてくれました。もう一人挙げるとすると、水野敬太(経3・札幌南)です。1死二、三塁のような場面で出ていって抑えてくれたので、試合が締まりました。
――福岡ソフトバンクホークスから指名を受けた渡辺和投手とは、指名後に何か話しましたか
僕は出張で北海道に行っていたので、指名の瞬間は一緒にいませんでしたが、次の日にこちらへ戻ってきてハグしました。本当に良かったです。
――来年、二本柱が抜けた後の先発候補は
もちろん鈴木佳門や熊ノ郷、小宅、水野など、たくさんいます。1年生にも面白い子がいて、品川(=品川千尋、商1・慶應)というピッチャーです。147キロぐらい投げるので、大化けする可能性があります。
ピッチャーというのは面白くて、突然"覚醒"するんですよ。高校時代は「何これ」という選手が、ちょっとしたフォームのコツを覚えたり、フィジカルがあるラインを超えたりすると、急に「あれ、こんなピッチャーだったかな」というのが出てくる。うまく後押ししてあげれば出てくるので、大いに期待しています。
――今季はまだリーグ戦で投げていないものの、今後の飛躍を期待する投手は
齊藤(=齊藤眞俊、商2・慶應湘南藤沢)や、本多(=本多大輝、理2・県立長野)というピッチャーなど、1年生から3年生までたくさんいます。3年生の鷲見(=鷲見旺宥、環3・岐阜)というピッチャーにも期待しています。慶應は4年生になって出てくればいいんですよ。他の大学は1年生からどんどん投げているじゃないですか。慶應では1年目はあまり期待せず、3年間かけて4年生のときにブレイクする、覚醒するというのが一番いいと思っています。4年秋からでもいいですよね。それこそ広池も先発としては秋からじゃないですか。
――投手陣でチーム1の努力家は
これは渡辺和大じゃないですかね。何を努力しているかというと、とにかく投げます。「もうやめて」というぐらい投げて、自分の調子を作る。ブルペンにいるのが大好きで、目を離すとバッティングピッチャーをやっていたりします(笑)。ボールを投げるのが好きな子ですね。トレーニングもランニングも、好きではないと言っていますが、努力しますよね。3年生のときは成績が冴えなくて悩んでいましたが、本当に努力していると思います。素晴らしいですね。あのような選手がいることを誇りに思います。
――チーム1のお調子者は
小原(=小原大和、環4・花巻東)じゃないですか(笑)。お調子者というか、周りを明るくしようと頑張っているんです。小原と横地(=横地広太、政4・慶應)、この2人はもうすごいですね。ムードメーカーです。あとは3年生の大村(=大村昊澄、法3・慶應)。大村もまた違ったタイプのムードメーカーで、ずっと声を出している選手です。ベンチにいるだけで雰囲気が全然違います。
――堀井哲也監督とは、投手起用についてどう話し合っていますか
だいたい試合の前日にこちらでプランを作って、神宮に向かうバスの中で「今日はこういう形でいきたい」と伝えます。監督も「そこは逆にしたい」などと意見を言ってくれて、「分かりました」と話が進んでいきます。試合中も修正があって、「やっぱりこうしましょう」となることもあります。お互いに言いたいことを言って、ベンチではくだらない話もしながら、いい感じでやっています。
――堀井監督とは長い付き合いですね
僕の野球の師匠なんです。高校野球に携わっていたとき、年中聞きに行って、いろいろなことをアドバイスしてもらいました。本当に尊敬しています。
――学生スタッフに任せていることと、ご自身で決めることはどう分けていますか
例えば1、2年生の試合、B戦の結果報告は、今だと髙垣くんがしてくれます。「今度のベンチ入りはどうしましょうか」「この選手を上に上げたい」といった話です。1軍のAの選手の調子をまとめて報告してくれるのが宮腰くん。新人は齊藤(光汰朗)くんです。3人がうまく機能して、いろいろな報告をしてくれます。LINEでやりとりしたり、飲みに行ったりして、言いたいことを言わせて(笑)、こちらも言う。年は離れていますが、友達のような感じでやっています。
――捕手陣との連携は
もちろん取っています。ピッチャーがいい投球をするには、キャッチャーがそういうサインを出して、リードしてくれなければいけないので。2月、3月のキャンプで、配球論をパワーポイントで全員に説明しました。7月にもキャッチャーとピッチャーを全員集めてやりました。パターン化しないように、ということです。
例えば、得点圏にランナーがいて、カウントが1-1になったとします。そこでもう1球適当なボールを投げておいて、最後に得意のスライダーやフォークを投げようとすると、その1球前で打たれてしまうんです。カウントを取りに行って、2ストライクを取ろうと思ってしまうと。だから得点圏やここぞという場面では、勝負球を初球から使わなければいけない。ためる前に打たれてしまう、という話をずっとしました。それからキャッチャー陣は、いつもベンチでメモを取るようになってくれました。キャッチャー陣のことはすごく信用しています。
――投手に言葉をかけるとき、一番気をつけていることは
リスペクトすることではないでしょうか。頭ごなしに言う指導者も他の大学にはいるかもしれませんが、僕は最大限その人間をリスペクトして、その中で一緒に考えて頑張ろうと。リスペクトすることを一番心がけています。
――投手同士で教え合う場面はありますか。中心は誰ですか
やはりありますね。渡辺和だったり広池だったり、いろいろなところでやっています。田上(=田上遼平、商4・慶應湘南藤沢)もそうですし、いろいろな選手が下級生の面倒を見てくれています。
実は夏の北海道キャンプに、普通ならベンチに入ってもいい4年生をみんな連れていかなかったんです。こちらに残して、代わりに2年生以下をたくさん連れていきました。下級生に伸びてほしいからです。ただ、4年生がふてくされるのは嫌だったので、残った4年生に栗林組(=栗林兼吾、商4・小山台)や西本組(=西本省太、経4・慶應志木)といったチームを作ってもらいました。10人ぐらいでチームを組んで、トレーニングやランニングをやってほしいとお願いしたら、想像以上によくやってくれました。4年生が組長で、それに下級生がついて、いい雰囲気でやってくれました。それは良かったと思います。
――最近、選手に雷を落としたことは
ありますね。小宅です。抜群の素材なんですよ。ただ、故障などでうまくいかなかった。腐っていたとは言いませんが、肩が痛い、肘が痛いといろいろな故障があって、良くなって投げ始めては、また痛くなる。それを春からずっと繰り返していたので、これはなんとかしなければと思いました。雷を落としたというより、ショック療法ですね。それで本人が「もう一回やります」と言って、一から積み上げていったら秋に間に合いました。本人はものすごく努力しましたね。
――選手の皆さんから「マックさん」と親しまれています。関係性が良好な理由は
馬鹿にされているだけですよ(笑)。僕は上から目線で言ったことは一回もありませんし、対等だと思っています。友達とは言いませんよ。「俺は友達じゃないんだよ」と年中言っています(笑)。でも、対等な関係で話してあげるのが一番いいのではないでしょうか。向こうはただのおじいさんだと思っているでしょうけど、こちらは絶対に押し付けません。「こうやったほうがいいんじゃない」「走ったらいいんじゃない」ぐらいの感じです。ただ、嫌味はひたすら言っていますけどね。例えばランニングで手を抜いていたら「いいねぇ、手を抜いてて」とか(笑)。投手陣とは楽しくやれています。本心で僕のことをどう思っているかは分かりませんし、変なのがやってきたと思っているかもしれません。でも、こちらは愛情を持って接しているつもりです。
――「マックさん」という呼び名の由来は
アメリカに野球留学していたとき、「誠」という名前から、みんなに「マック」と呼ばれていました。留学から帰ってきて塾高で監督をしていたとき、アメリカで一緒だった仲間が一度グラウンドに遊びに来て、「Hey!! マック」と言っていたんです。それで高校生もみんなマックと呼び始めて、それからずっとです。また、たまたま上田さんがもう一人、和明さん(上田和明コーチ)とご一緒することになったので、僕はマックさん、和明さんはダッチさんと呼ばれるようになりました(笑)。
――こちらはお読みになりましたか
読ませていただきました。
――ご自身の描かれ方で、意外だった部分はありましたか
恥ずかしいの一言ですね。でもよく書いてくれました。
――本には載っていない、ベンチの中の七條部長の姿を教えてください
ものすごく熱い方で、部員よりも声を出していました。本人はそもそもサッカーをやっていたんですよ。同じ英語科の教員だったので、僕が誘いました。彼はイギリスに留学していて、英文学が専門です。ちょうど部長がいなくなってしまったので、メールをしたら「いいよ」と返事が来て。それからの付き合いなので、十何年も苦楽を共にしてきました。
――今度本紙では七條部長にインタビューを行います。これだけは聞いておけ、という質問はありますか
サッカー選手だった七條さんが、なぜ野球を好きになったのか、は気になるところです。慶應高校には75周年の記念誌があって、ものすごく分厚いんです。それを七條さんが編纂されました。慶應は第1回大会から出場していて、当時は全国に70校ぐらいのチームがありました。そのときは予選で早稲田実業に負けましたが、第2回大会では勝ち上がって全国大会で優勝したんです。2023年の優勝は、それ以来の107年ぶりだったんですよ。それだけ日本の野球界をリードしてきたというところを、七條さんがすごく面白く思って、いろいろなことを調べて本にしたんです。マニアックな本ですよね。誰が読むんだという話で(笑)。でも、歴史をきちんと整理してくれたのはすごいことだと思います。
――エンジョイ・ベースボールを掲げた前田祐吉・元監督から受け取ったもので、一番大きいものは何ですか
僕は公立高校にいて、転勤で慶應の中等部に2年いて、それから慶應高校で監督をやれと言われました。ちょうど前田さんが大学の監督をしていた時期です。行ってみたら、僕が想像していたのとは全く違う世界の野球でした。選手が自主的にやるというか。前田さんはもうおじいさんでしたが、選手と本当に普通に接していて。こんな野球も世の中にあるんだと思いました。練習時間は短くて、あとは自分たちで補う。こんな野球はすごいなと。
前田さんにはよく「日本の野球を悪くしているのは高校野球だ」と言われました。坊主頭で直立不動、みんなそろって礼をするじゃないですか。「上田君、神聖な場所だからやるのか」と聞かれて「そうですね」と答えたら、「教室に入るときに、みんな頭を下げているか」「相手の会社に行くときに、みんなで並んで礼をするか」と。社会のルールを落とし込め、社会のルールが野球部のルールだ、そうさせなさいと言われたりもしました。あれは衝撃的でした。高校野球を改革しなさい、ともよく言っていましたね。
――2023年の塾高の優勝で、エンジョイ・ベースボールが世に広がりました。前田さんの「高校野球を改革しなさい」という言葉どおりになったと感じますか
なかなか、まだですね。逆にああなると、「うちはあんなことはできない」という反発も多いので、難しいです。坊主が悪いわけでもないし、直立不動で挨拶するのが悪いわけでもない。そうやってきた人たちに今さら変えろというのは無理です。でも、野球をやる人口が急激に減っていますから。坊主が嫌だという子もいるじゃないですか。僕も嫌でした。普通の髪型で野球ができるというのは、今は全国に広がっています。強豪校も髪の毛を伸ばしているし、公立高校でも普通に伸ばしているところが多くなってきました。これはいいことではないかと思います。
――「脱・坊主」の先駆けは、やはり慶應なのですか
そうです。慶應は戦前からですからね。戦後すぐに甲子園に出たとき、負けてバックネット前を通って三塁側に引き揚げてくると、「髪を切って出直してこい」「二度と来るな」と言われたそうです(笑)。そういう世界でした。でも、慶應高校のOBたちはそれを自慢しているんです。「そんなことを言われたのは俺たちだけだ」と。それは「すごいな」と思って聞いていました。前田さんも「坊主だと野球が強いのか」と言っていました。それは違う、と僕も思います。
――エンジョイ・ベースボールが有名になるほど、誤解もあると思います。違うと感じる受け取られ方は
独立リーグで3年間、香川オリーブガイナーズにいたのですが、四国の学校に行ったときは完全に誤解されていましたね。髪の毛を伸ばして、チャラチャラ楽しく野球をやっている、と。「それでは勝てないですよ、うちのチームでは」と言われました。別にチャラチャラやっているわけでも、楽をしているわけでもありません。エンジョイ・ベースボールという言葉が一人歩きしているんです。「どうすればいいんですか」と聞かれても、「今まで通りやればいいじゃないか」と。そういう話を、四国の高校や大学の先生たちとよくしました。
――チャラチャラやることと、エンジョイ・ベースボールの違いはどこにありますか
エンジョイ・ベースボールというのは、ある程度自分で計画を立ててグラウンドに出てくることではないでしょうか。いわば、旅行に行くときにツアーで行くのか、自分で時刻表や地図を見て行くのか、の違いです。ここに行ったら、この街にもう少しいたいなと思えば、もう一泊すればいい。そういうのが旅行の楽しさなのに、ツアーのバスで「はい、乗ってください。快適ですよ」というのは面白くないだろう、という話を塾高の監督をしていたときによくしていました。今も同じですね。
――七條部長の本は、アメリカ野球の原点まで遡っています。慶應の野球のどこにアメリカが残っていると思いますか
たくさんあると思います。あまりスモールベースボールではないですよね。打たせますから。「でかいのを打て」と。この間は1安打に抑えられましたけど(笑)。やはりそういうところはアメリカンスタイルではないでしょうか。しっかり振って得点を取る。
――本のタイトル『「エンジョイ・ベースボール」とは何か?』の問いに答えるなら
スポーツというのは本来、明るいものであり、楽しいものです。それをわざわざ暗くして修行僧のようにやるべきではない、ということだと思います。それに尽きますね。
――上田コーチにとって、早慶戦とはどんな舞台ですか
明大戦に勝って優勝を決めたかったですけどね。早慶戦に優勝がかかるというのは本当に大変なことです。最終週の最後の最後に優勝を決められるかどうか。春もそうでした。明治と立教の結果次第ではありますが、本当に名誉なことです。塾生・塾員の皆さん、ぜひ見に来てください。応援に来てください。応援の力で勝たせてください。
――早慶戦に向けて、二本柱以外で注目してほしい投手は
鈴木佳や熊ノ郷、小宅、沖村(=沖村要、商4・慶應)、水野。全員ですね。全員の力と、ベンチに入ってくる何人かの選手の力も借りて、優勝したいです。
――最後に、早慶戦への意気込みをお願いします
絶対に勝ちます。これに尽きます。
(取材、記事:神戸 佑貴)


