ゴール時に小さく拳を握る中田主将。その時、早大の姿は無かった。
勝利には様々な形がある。第85回早慶レガッタでは本当の勝利とは何なのかを考えさせられた。ときには、自然が牙をむくこともある。本大会、隅田川は、早大に対してゴールすることすらも許さなかった。ボートという競技の難しさ、奥深さを誰よりも両校クルーが感じたことだろう。「5連覇に関してよりも3750mを漕ぎきれたことに誇りを感じる」と中田幸太郎主将(経4)。技術云々の前にまずは漕ぎきりゴールすること。それがいかに重要なことか全員が再確認する大会となった。
4月17日(日)第85回早慶レガッタ@隅田川
15時20分対校エイトスタート
対校エイトクルー紹介
| 慶應義塾大学 | 早稲田大学 |
コックス | 米澤一也(政4) | 藤川和暉(法4) |
ストローク | 北原敬梧(法3) | 竹内友哉(スポ4) |
7番 | 中田幸太郎(経4) | 石橋広陸(スポ3) |
6番 | 田中将賢(法4) | 石田良知(スポ3) |
5番 | 高田直人(総3) | 是澤祐輔(スポ4) |
4番 | 廣橋光希(法4) | 木金孝仁(社4) |
3番 | 高林拓海(理4) | 伊藤大生(スポ2) |
2番 | 内田優志(法3) | 東駿佑(政経3) |
バウ | 寺坂僚太(経3) | 内田達大(スポ3) |
試合結果
10時45分 女子対校エイト(1000m)
1着早稲田大学 3分32秒52
2着慶應義塾大学 3分41秒56
2.5艇身差
第2エイト 中止
15時20分 対校エイト(3750m)
1着慶應義塾大学 15分44秒35
2着早稲田大学 水没
コンディションは最悪。試合当日の朝から雨が降り続け、まともには立っていられない程の強風が吹き抜けた。好天に恵まれることの少ない早慶レガッタにおいても、稀に見る荒天。途中、第2エイト、カヌーエキシビションなどの一部レースが中止となり、対校エイトの試合開催も危ぶまれた。
しかし、天は両校対校クルーを祝福するかのように、突然晴れ渡った。ただ、風だけは吹き止まなかった。15時20分、対校エイトレースがスタート。荒れ狂う隅田川の波に負けず、両校スタートを決めた。ただ、一瞬だった。突然、「バウサイドから大変強い波が来て、ストレッチャーまで一気に水が溜まった」(早大是澤祐輔主将・スポ4)。
スタートから間もなく、早大対校エイトに大きな波が襲う。
浸水により艇は一気に重くなった。慶大に離されていく。選手たちは焦った。焦りが前年度インカレ覇者の漕ぎを狂わせる。「北斗星に波が入らないように、プラスチック板をつけていたが、波をもらってしまうような漕ぎをしてしまっていた」(早大内田監督)。1度水が入ると、もう立て直すことは出来ない。ストロークを重ねる毎に艇に水が入る。艇の内部に水が溢れた時、早大対校クルーは悔しさから絶叫した。是澤主将は「自分が勝てなかった悔しさよりも、後輩やマネージャーに勝利するところを見せられなかったのが1番心残り」と涙を堪え語った。結果、早大は沈没。2年連続で結果が残らない早慶レガッタとなった。
沈んでいく中、クルーは悔しさのあまり絶叫。顔を歪めた。
船に救助され、帰還する早大クルー。慶大とは対照的な帰還となった。
一方慶大。スタートでは僅かに早大に詰められた。しかし、焦りはなかった。「(コックスの)米澤のコールを信じて、8人心1つに漕ぐ」(中田主将)事だけを考えた。早大は序盤に沈没し独り旅となった慶大対校クルー。ただ、一切手を抜かず、全力を出し尽くした。
レース終盤、早大がいない状況でも、最後の1本まで出しきった。
「5連覇に関してよりも、3750mを漕ぎきれたことに誇りを感じる」と中田主将。最悪のコンディションの中、3750mを漕ぎきる力強さ。これは練習の賜物。日本最速を本気で目指す慶大端艇部の底力だろう。5連覇を成し遂げた慶大。「5年の間に代は変わっていくが、クルーが変わっても同じように勝ち続けられたことに誇りを感じる」と慶大小澤監督。クルーが完全に入れ替わろうが、勝ち続けるのは慶大端艇部の強さが本物だということ。
正に天と地の結果となった両校対校クルーだが、勝敗を分けたのはレース中での漕ぎだけではない。「アップからラフコンと分かっていて、水も多く入ると分かっていたので、水上ではなく、陸上でアップをした」(中田主将)。陸上でのアップ、トレーニングの重要性はニュージーランド留学で学んだ。そして、「後ろ(にいたクルー)が水が多いと言って、米澤が冷静に掻き出そうといった」(中田主将)。少しでも思ったことは先輩後輩関係なく言い合う。練習からコミュニケーションをとり続けた。また、対校エイトのコックスを2年連続で務める米澤一也(政4)の経験も慶大の大事な財産だ。どんな状況でも焦らないコックスがいる。その結果、良い状態でレースに臨む事が出来た。様々なところで顔を出す「チーム力」。試合のレース以外でも勝つこと、漕ぎきることに真剣に取り組み続けた慶大対校クルーが「チーム力」で早大に勝った。これが今年の早慶レガッタだろう。
誇らしげに整列する対校クルー
荒天の中、ゴールしたことに敬意を表したい。
早慶レガッタ5連覇という輝かしい偉業を成し遂げた慶大端艇部。しかし、まだまだシーズンは始まったばかり。慶大のスローガンは「日本最速」。「インカレ、全日本で勝つというのが僕たちの最終、最大の目標なので、それが達成されなければ今までのクルーと同じ」(中田主将)。この早慶レガッタを皮切りに、破竹の勢いでシーズン中、全ての大会で1度も負けない最速のクルーとなる事を誓う。
(記事・高橋廉太朗 写真・高橋廉太朗、岩本弘之、佐賀裕真)
中田幸太郎主将(経4)コメント
(レースを振り返って)9人でしっかりと漕ぎきれたので、それに尽きるかなと思う。そして、そこが評価するべきところで、クルーの強さを見せたところ。(5連覇に繋がった最大の要因は)新しい漕ぎを試し、レースに近づくにつれて研ぎ澄まされていったこともあるが、やはり、本当に下級生や同期が漕ぎだけでなくプライベートでも支えてくれて、本当に良いクルーだなと思った。その他にも、第2エイトも今日はレースが出来なかったものの、高め合うことが出来たし、他のエイトに乗っていないメンバーも、みんなで一緒に切磋琢磨して自信を高めていってくれた。そういった総合的な面で慶應が勝ったのかなと思う。(日本最速という目標に近づいた実感は)まだまだかな、とは思う。しかし、今回見せた強さは本物だと思うので、またここから漕ぎを作っていく事が必要。ここからもう一度強さを確認していかなければならないと思うが、自信にはなったと思う。(本格的にシーズンが始まったが、シーズンの目標は)全部勝つつもりでタイトルを獲っていきたいと思っている。特にインカレ、全日本で勝つというのが僕たちの最終、最大の目標なので、それが達成されなければ今までのクルーと同じ。それが達成されてこその127期だと思うので、全力で頑張っていく。
以下、両校主将、監督による記者会見。
慶大中田主将
試合で意識したのは米澤のコールを信じて、8人心1つに漕ぐこと。5連覇に関してよりも3750mを漕ぎきれたことに誇りを感じる。後ろが(浸)水が多いと言って、米澤が冷静に掻き出そうといった。アップからラフコンと分かっていて、水も多く入ると分かっていたので、水上ではなく、陸上でアップをした。水に出たら、あとは漕ぐだけだと思った。
早大是澤祐輔主将(スポ4)
順風、ラフコンだったので、ハイウェザーを意識した。水没し、多くの方に迷惑をかけてしまった。2年連続で実力を出し切れず、残念。自分が勝てなかった悔しさよりも、後輩やマネージャーに勝利するところを見せられなかったのが1番心残り。主将として未熟だが、僕がカバーできないところを竹内にカバーしてもらっていた。スタート時はほぼ水なく、バウサイドから大変強い波が来て、ストレッチャーまで一気に水が溜まった。リガーまで波が来てからストロークの竹内が気付いて掻きはじめた。
慶大小澤監督
求められるのは速さではなく、強さ。それを選手が実践できた。5年の間に代は変わっていくが、クルーが変わっても同じように勝ち続けられたことに誇りを感じる。
早大内田監督
漕ぎきった慶大に敬意。早大がゴールできなかったのは、様々な要因がある。大きな波を一発食らって失速した。試合前には、とにかく素早いキャッチで前に進みなさいと指示した。私の経験に基づいて選手には指示を出した。37年前の私のレース(6000m)とコンディションが被り、勝ちたい気持ちがあった。北斗星に波が入らないように、プラスチック板をつけていたが、波をもらってしまうような漕ぎをしてしまっていた。