開幕前取材第5弾は今年再び慶大に戻ってこられた林卓史助監督。投手出身の林助監督だが、投手に野手に関係なく、日々熱心な指導をされている。選手からの人望も厚く、もはや慶大野球部に欠かせない存在だ。今回は秋の開幕前にあたり林助監督がどのような想いをもって指導されているか伺った。
――今年、慶應義塾大学に戻ってこられた経緯を教えてください
以前つとめていた大学野球部の方が一区切りついたのと、大久保監督が200人を一人で率いるのは大変だということとのタイミングがあったので、大久保監督を助けるために戻って来ました。
――選手に指導をされるときに大事にされていることはありますか
なるべく思ったことを全部言ってあげるということです。慶應の学生は特に甘やかされて生きてきてしまっていて直言されたことがないのではないかと思うので、駄目出しが最高のアドバイスだなと思ってそれを毎日言うようにしています。練習でミスするんじゃないかな、練習でこれじゃダメなんだけど言おうかな、どうしようかなと思いつつ、試合でエラーする方がかわいそうだなと思うので。みんなの前で恥かく方が、ね。それでチームが負けてもう取り返しのつかないことになったら、みんなの青春を壊してしまうのだったら今言ってやった方がいいと思います。結果的にだめだめだめとか、下手くそ下手くそ下手くそっていうことばっかり言ってしまうことになるのですが。
――けっこう厳しく指導されているのですか
厳しくといいますか、思ったことは言おうと思っています。
――林助監督さんが考える慶應大学の選手像はどのようなものですか
んーどうですかね。やはり『練習は不可能を可能にす』を体現するような選手がいいと思います。そういう選手でいてほしい。今2年生の三重高校出身の内田蓮(総2)みたいな選手がいいです。野球はうまくないけれど一生懸命やって、ボールに食らいついて。わかってない学生が多いですけれど、それがわからないと勝てないです。僕はうまくない、いい選手いないってよくいいますけれど、うまくないですし。明治のような層のあるチームとの差を埋めなければいけません。
――プレーだけではなくて泥臭さというか気持ちがやはり大事になってくるということですか
そうですね。そうやっていうと精神論とか根性論とかのようになってしまいますが、それも大事ですけれど、なんとかよく考えてやる、体ができるようになるまでやる、それができるかどうかだけですね。でも学生もよくやっています。よくやってるというか学生よくなっていると思います。ミーティングもいいミーティングしてるなと思いますし、それが勝つところまでつながればいいなと思います。僕も勝つところまでつながるようにしてあげないと、と思います。
――ミーティングではどういうことをされているのですか
学生が、例えば試合の振り返りをデータ部がだして、ファーストストライクをスイングした時は打率どれくらいだったとか、今日のゲームのこういうところがこうだったみたいなのを僕らが指摘するのは簡単です。最初は僕がそれをやっていたんですけれど途中でやめたら学生同士がちゃんとやるようになって、僕がやっている時よりすごくいいミーティングをするようになって、その成果は着々と出てると思いますね。地力がついて、社会人ともちゃんとゲームになってるなとか、この間できなかったことがちゃんとできるようになってるなとか、こうしなきゃいけないなというみんなの意志の統一がすごくできてきていると思います。誰かがやるだろうとかこれどっちだっけということがなくて、こうやってやろうというのが学生の中ででてきているな、と思います。そのことに関しては、これは慶應の学生だなと思いますね。独立自尊か、半学半教かわからないですが、でも、これはたいしたもんだなと思いますし、勝つ資格があることの一つだなと思います。
――一つの方向にみんなが向かって行っていますね そうですね。少しずついい方に、監督の考えも伝わってなってるんじゃないかなと思いますし、それを後押しするのが僕の仕事ですね。
――では、リーグ戦に向けても上向いてきていますか
そうですね。よくなっていると思います。よくなっていますけれど野球ですからね。すごくチームの雰囲気はいいですけれど、ピッチャーが誰もいないところに打たれてしまったとなると、もう野球にならないですからね。それは、結果につなげるようにやるしかないですね。
――加藤投手の次にくるような選手はまだ現れていない状態ですか
でも強い社会人野球と対戦しても抑えることができるんですよ。だんだんよくなっているなと思います。岡野新二(商1)とか高橋佑樹(環1)とかですね。ですが、リーグ戦であたる明治を考えると、柳が来た後、斎藤がきて、星が来て、水野が来てと…。目の前のバッターアウトにすればいいだけですけれど、、、。
――一番のライバルみたいのは明治になってきますか
明治はいいチームだと思います。それは早稲田に勝たなければいけないですよ。慶應大学野球部は早稲田に勝つというのはもう存在意義ですから。早稲田に勝たなければいけないけれど、明治と先に対戦しますし、春の優勝チームでもあるし。明治に勝てるようにやらなければいけない。そう思います。隙がなくていいチームですね。
――どうやって攻略していきましょう
特別なことはないと思います。ストライク振って、ボール球振らないで、ピッチャーが低めに集めて、ボールを出さず、シングルヒットに抑え、エラーをしないということしかないと思います。それを丹念にできるかどうか、だと思います。
――前後してしまうのですが、春のリーグ戦を振り返って良かった点と悪かった点はどこでしょう
学生は学生なりに一生懸命やっているなというのはすごくよかったと思っていますけれども、僕が1番思ったのはやはり東京六大学幸せだな、こんなお客さん見に来てくれるんだというのはすごく思いました。悪かった点はエラー、三振に少し慣れてる学生がいるかなと思いました。それは野球への謙虚さとか野球をできることへのありがたみとかそういうことだなあと思います。監督ともよく話しますけれど、今はすごく変わってきていて、すごくよくなっているなと思いますね。だから秋も本当に楽しみです。でも野球ですからね、ピッチャーがね、これ本当に野球ですから。
――やはりキーはピッチャーですか
秋はまだリーグ戦に出たことがないピッチャーが投げるだろうし不確定の様子ではあるなというところですね。でもよくなってますよ。すっごくよくなってます。ただ、野球ですからね。
――ピッチャーは野手からも探したようですね
そうですね。もうなんでもありだなと思いまして。加藤を抜いた投手の防御率が6.7で、6.7だと東大抜けたら毎試合10点取られてると考えられるんですよね。そしたらなにやったっていいと思いませんか?だから探れる可能性は探りましたし、探ったつもりです。あと、僕大学野球の監督とかコーチを13、14年間やっていますけど高校時代のポジションが本当に適したポジションかわからないよなというのがすごくあります。ショートだった選手にキャッチャーをやらせたらすごく活躍してプロ注目選手になった等ありますし。特に慶應野球部は全員受け入れますし、自分のやりたいって言ったポジションをやってるだけみたいなところはありまして、本当の適正とかチーム事情で違うんじゃないかなと思います。髙橋亮吾(総1)はだいぶいいといいと思います。みんながビックリするようなピッチャーになる可能性があるなと思います。
――重なってしまいますが、最近伸びた選手や調子が特にいい選手はいますか
野手だったら河合大樹(総2)がすごく活躍してるんですよね。あとは山本瑛大(商4)ですね。ピッチャーは、本当によくなっていますね。髙橋伶介(政1)は手応え本人もあるんじゃないかなと思います。まああとは神宮で投げられるかどうかですね。6月、7月頃はまだ高校生と試合して高校生に打たれましたけれど、今は別人できっちりピッチングして相手のいいバッターも抑えてます。
――神宮で初めて投げるピッチャーを出すのは緊張しますか
緊張しますけれども、みんな通らないといけないですよね。ドキドキするけれども、行けるはずだと言って、なるべく根拠を持って、そんな心配しないでと、自分の力出してくれればいいだけですけどね。特別急にマウンド行って速くなれとか急に抑えろとは思いません。自分の力を出して欲しいだけですけれども、みんなマウンド上がると急に狙いだしたりとか、急にいいピッチャーになりたがったりしますね。
――他大学で特に警戒している選手はいますか?
やはり明治の柳とか立教の田村とかはいいピッチャーですね。あのピッチャーとやったら本当に1点取るのがどれだけ大事か、1アウト取るのどれだけ大事かというのが、よくわかると思います。まあそういう選手と対戦することをずーっと想定しながら毎日練習でうるさく言ってるつもりなんですけどね。
――そういったいいピッチャーと当たる時、選手のモチベーションは上がりますか
そうですね。いいピッチャーと当たったらよーし打つぞって上がらなきゃいけないですよね。そういうことを言わなきゃいけないし言ってるつもりです。ケイスポでいうと、新聞が売れたらよーし作るぞと燃えなきゃいけないし、逆に新聞が売れなかった場合はよーし今度こそって燃えなきゃいけないですしね。だからどっちにしてもモチベーションをあげなきゃいけないですよ。いいピッチャーだったら絶対打つぞとモチベーションをあげなきゃいけないですし、逆に特にいいピッチャーというわけでなければよーしこれは確実に打つぞと打たなきゃいけないし。ピッチャーもそうですね。打たれたら余計に燃えなきゃいけないし、抑えたら余計によーしといかなきゃいけないし。ちょっと打たれて、しゅんとなる選手がいるんじゃないかなと思いますが、でもそれが変わってくれたら結果も変わると思います。打たれた、いいバッターがきた、びびったとなったらダメだと思います。打たれた、よーしもういっちょいったろうと。いいバッターきたよーし、となったら、なってくれると思うけど、そうするようにもっていくのが俺の仕事かなと思いますね。そういうピッチャーを作って、そういうピッチャーを選んで試合にだすのが1番大事なのではないかなと思います。
――そういった意識にするために必要なことは何でしょう
それは、毎日ノート書いたり話ししたり声だそうということを言ったりはしますが、1番はその選手が自分がどうなりたいかが本当に大事ですね。スライダーこうやって投げろとかは教えてあげられるとしても、いいピッチャーになりたいとか、負けたくないとかというのを教えるのはけっこう難しいと思います。そうじゃないぞ、こういうもんだぞっていうことを言ってはやれるけれど、本当にそうだなと本人がわかってくれるかどうかは素質です。適性もあると思うし、逆に俺しかいないんだってなったらそうなるやつもいるかもしれないです。でも俺しかいないんだっていう状況にもうなってるとは思いますね。
――秋のリーグ戦で選手に何を期待しますか
もう一生懸命やってくれることだけですね。一生懸命かつ慶應の選手らしくやってくれることばかりで、よくて驕らず悪くて腐らずやってくれたらそれでいいです。でもすごいよくなってるから期待できます。あとは、あー野球やっててよかったなとか、慶應の野球部にはいってよかったなと4年生が思って卒業して欲しいですし、できるようにしてやらなきゃいけないなと思います。それには1番は優勝ですね。優勝と早慶戦に勝つことだと思います。これ、一生記憶に残りますからね。自分も学生の頃やるの怖かったけれど、負けたら一生負けたんだと思ってやるんだと思っていました。今の学生はどこまで思ってるかわからないけれど、そういう気持ちで卒業させてやりたいなと思っています。ちょっと期待してることからはずれるけど。でもそういうふうなことをあじわってるくれることを期待してるっていうことですかね。
――チームでここが見て欲しいというかアピールポイントはどこでしょう
今取り組んでいる最中ですが、慶應はチームが一つになってるなとかチーム一丸でやってるなというところがアピールポイントになるようになって欲しい。みんながしっかり振ろうぜとか、みんながストライクで勝負するんだみたいなことがアピールポイントになってもいいなと思うけど、チームとして、個人ではなくて集団としての取り組みみたいなのがアピールポイントになるようなチームになって欲しいです。
――お忙しい中ありがとうございました!
取材:田中 壱規・木下 恵