4年生、そして今季限りでの退任を表明した岩崎陸監督にとってのラストゲームとなった関東大学リーグ入れ替え戦。今後のためにも2部降格は避けたい慶大だったが、PK失敗などもあり二点を先行される苦しい展開を強いられる。それでも粘り強くゴールに迫り、0-2から工藤真子(総1・日テレ・メニーナ)の技ありゴール、1-3から堀井美月(環4・常盤木学園高)の得点で二度1点差に追いすがる執念を見せたが、最後まで同点に追いつくことはできず。2-3で敗れ、来季は2部の舞台で戦うことが決まった。
第30回関東大学女子サッカーリーグ1部2部入れ替え戦
2016/12/11(日)13:30KO@東京国際大学坂戸キャンパス第3グラウンド
慶應義塾大学2-3筑波大学
【得点者 (アシスト)】
〔慶〕55分 工藤真子、73分 堀井美月(栃木栞)
〔筑〕8分 轟晴奈(上津原千賀)、52分 内田好美、60分 内田好美(水谷有希)
◇慶大出場選手
GK野村智美(総3・作陽高) |
DF奥本くるみ(環1・浦和レッズレディースユース)→46分 志鎌奈津美(環2・常盤木学園高) |
DF田中康子(総4・常盤木学園高) |
DF下山田志帆(環4・十文字高) |
DF加藤楓琳(総1・常盤木学園高)→56分 宮田あずさ(環4・文京学院大学女子高) |
DF井原美和(薬2・大和高)→56分 宮川渚(理4・成城学園高) |
MF栃木栞(環4・十文字高) |
MF工藤真子(総1・日テレ・メニーナ) |
MF中島菜々子(総2・十文字高) |
FW堀井美月(環4・常盤木学園高) |
FW松木里緒(環1・常盤木学園高) |
関東リーグ最終節筑波大戦後、創設から11年間女子ソッカー部を率いてきた岩崎陸監督の退任が発表された。インカレ出場を逃し、関東リーグでは早々に2部降格が決まるなど、失意の1年となった今季。しかし、4年生と岩崎監督にはまだ最後の仕事が残されていた。「後輩に1部の舞台を残す」。TEAM2016の全てを懸けて、2部2位筑波大との入れ替え戦に臨んだ。
1週間前に完敗を喫した好チーム筑波大相手に、やはり慶大は序盤から主導権を握られた。5分、6分と立て続けに枠内シュートを浴びた後、8分、CKをニアで合わせられ先制点を許す。立ち上がりの不安定さを露呈した慶大だったが、徐々に落ち着きを取り戻すといつもの丁寧なパスサッカーで少しずつ相手ゴールに迫るようになった。そして26分、慶大に絶好の同点機が訪れる。工藤が得意の仕掛けからエリア内で倒され、PKを得たのだ。しかし、下山田志帆(環4・十文字高)の狙いすましたPKは、無情にも右ポストを直撃。今季これまで確実にPKをモノにしてきた彼女だけに、悔しいワンプレーとなってしまった。それでも慶大は両サイドの奥本くるみ(環1・浦和レッズレディースユース)、井原美和(薬2・大和高)が効果的に攻撃に絡み、劣勢の中でもチャンスを模索する。40分にはCKのこぼれ球が混戦の中ゴールラインを超えたが、オフサイドの判定。可能性を感じさせながらも1点ビハインドで前半は終了した。
後半、岩崎監督は何度も観客を沸かせるプレーを見せていた奥本に代えて志鎌奈津美(環2・常盤木学園高)を投入し、勝負に出た。しかし慶大はまたしても立ち上がりでペースをつかめない。51分、カウンターで抜け出され1対1の局面を迎えると、ここはGK野村智美(総3・作陽高)が足に当てるファインセーブで難を逃れるも、わずか1分後、中盤での不用意なロストから再び同じようなカウンターで1対1を沈められ失点。0-2とされてしまう。さらに54分にも筑波大の強烈なミドルがポストを直撃するなど試合が終わりかねない勢いだったが、なんとか持ちこたえると、56分、今度は慶大のカウンター。松木里緒(環1・常盤木学園高)からのスルーパスに堀井が抜け出すと、そこからボールは左サイドに走りこんだ工藤へ。チップ気味でGKのタイミングを外した工藤のシュートは、美しい軌道を描いてネットを揺らした。1点差に詰め寄った慶大は活気を取り戻し、宮田あずさ(環4・文京学院大学女子高)、宮川渚(理4・成城学園高)の2人の4年生を同時投入。同点弾を奪いに行く。
しかし、次の得点は筑波大だった。60分、自陣でボールを奪われると、エリア外からの強烈なミドルがGK野村の手をかすめネットに突き刺さった。再び2点のリードを得た筑波大はその後、攻撃陣がその高い技術をフルに発揮し始め、慶大は防戦一方。嫌なムードで時間だけが経過していく。敗色濃厚の74分、その雰囲気を一変させたのは、エース堀井だった。栃木栞(環4・十文字高)がドリブルでバイタルエリアに侵入すると、DFを引き付けて、PA内左で待っていた堀井にパスを通す。ワントラップして最後のDFと対峙した堀井は、次の瞬間、迷うことなく左脚を振り抜き、GKのニアを撃ち抜いた。少ないチャンスをモノにして再び1点差に詰め寄り、追いすがる慶大。しかし、試合巧者の筑波大を前にそれ以上のチャンスは作れなかった。2-3のまま無情な試合終了の笛が鳴り響き、その瞬間、筑波大の1部昇格、慶大の2部降格が決まった。
岩崎監督はこの試合を、「今までで一番いいゲーム」と振り返る。大一番で1年生が躍動し、エースが最後まで諦めないスピリットをゴールで体現したこの試合は、確かに彼女たちや我々の記憶に残り続ける試合となるだろう。試合終了の笛を聞いた瞬間、一番にピッチに泣き崩れたのは1年生の工藤だった。その悔しさを忘れてはならない。この試合こそが、TEAM2016を引っ張ってきた4年生たちが残した置き土産だ。この経験と、岩崎監督の遺産を武器に、来季慶大は新しい監督の下で関東リーグ、大学リーグともに2部からの出直しを図る。
(記事 桑原大樹)
試合後コメント
岩崎陸監督
(今日の試合を振り返って)2016年のこのチームは、1年間いろんな苦しいことがありながらも慶應女子部史上一番レベルの高い場所で勝負をしたんですけど、力が足りず降格という形になってしまって、1年間本当に頑張った選手たちに対して申し訳ないです。今日の試合は今までで一番いいゲームができたと思うので、この1年間、これまでの経験をふまえて選手たちを引き上げられなかった自分の責任だと思っています。(退任の意志を選手たちに伝えたのはいつか)先週の試合後です。(退任の決断に至った経緯)11年間女子部の監督やってきた中で、創設当初は3年くらい頑張ってやればなんとか形になるんじゃないかと思ってやってたんですけど、女子部自体に魅力があったことや、いろんな方のご支援を頂けたことで、こうして11年間できて、今回は自分自身でも1つの区切りなんじゃないかなと。(2部降格という結果について)確かに1部に残りたかったし、1部に残すというのは今年の大きな使命でした。慶應にとってこの1部と2部を行ったり来たりというのは宿命みたいなもので、その中でチームを進化させながら頑張ってきたのが慶應の歴史なので、結果としてはこうなってしまいましたけど来年以降また1部を目指していいチームを作ってくれたらと思います。(試合後のミーティングで選手たちに伝えたことは)4年生がここまでチームを引き上げて、関東リーグ1部に上がったし大学リーグもインカレ出場を果たしたりしてきたので、結果として今回は1部に残ることはできなかったけど、4年間やってきたことを誇りに思ってほしいと。3年生以下には今日からまた新しい時代を作ってほしいということを言いました。(ソッカー部女子を率いた11年間を振り返って)一言ではちょっと語り尽くせないですけど、こんなレベルの高いチームになるとは思わなかったし、本当にこの大学を代表するチームになったと思っています。地域の方々などたくさんの方に応援されてできているこのチームを引き継いで、サッカーの面でも強くなって、これから多分百年以上の歴史ができるチームだと思うので、この慶應の中でもいい組織、チームになってほしいなと思います。
田中康子主将(総4・常盤木学園高)
(TEAM2016最後の試合となったが振り返って)本当に最後の試合で今年は勝てないことが多くて、残留には引き分け以上だったんですけど勝って最後は笑って終わりたいと思っていて、応援に来てくださったたくさんの方にも恩返ししたいと思っていたけど、この結果になってしまい悔しい気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいです。(4年間を振り返って)私は慶應を強くしたいという思いで入ってきたので、そういう意味で3年生の頃に入れ替え戦を経験して1部に上がってインカレにも出られたというのは描いていたビジョンに適っていて、苦しみながらもうまくいく楽しさを感じられて、去年インカレに行けたのはいい思い出です。でも今年1年は正直こんなことになるとは思っていなかったというか、4年として難しい1年になるとは思っていたんですけど、関東リーグ1部だったり大学リーグ1部という1番高い舞台でこんなにも勝てないことが続いてしまって、先輩方たちのありがたみや、引っ張っていただいて付いてきたんだなというのを感じ、自分が主将としても4年としても後輩を引き出せなかったというのは力不足で申し訳ない気持ちでいっぱいです。(後輩たちへのメッセージ)今は本当に2部でもレベルが高いですし、最後は1年間の積み重ねで結果はついてくると思うので、1年間を通して自分たちができることを最大限発揮できれば絶対に1年間で1部に昇格できると思うので、自分もOGとしてサポートしていきたいと思いますし、TEAM2017全員で頑張り続けてほしいなと思います。
堀井美月(環4・常盤木学園高)
(今の率直な気持ちは)1部を残せなかったことが一番悔しいです。(今シーズンを振り返って)今シーズンは勝てた試合は2つだけで、悔しいシーズンでした。自分自身もFWとして点を取りきれなくて、勝ちきれない試合が多かった苦しいシーズンだったなと思います。(4年間を振り返って)1年生の時は入れ替え戦で勝てなくて1部に上がれず、2部残留だったんですけど、そこから今までの先輩も含めて皆で1部に上げて、インカレも経験できたし、自分はずっと試合に出ていたんですけど、そういう面で4年間慶應の選手としてピッチに立たせてもらったということは、なんと言うか、宝物みたいなものだと思います。そんな中で、4年生で最後に後輩達に1部の舞台を残したかったという思いはありましたけど、4年間通しては、慶應で良かったと思える4年間でした。(入部当初と今とで変わった部分は)入部当初は、今と比べると結構自分勝手な考え方をしてしまったりしていたんですけど、年々自分が引っ張っていく立場になって行く中で、どうしたらチームとして勝てるのか、周りに比べて技術が高い訳では無い中で、チームとしてどうやっていくのかということを考えるようになって、4年生になって、そういう周りのことを考えながらプレーをしたりできるようになったのかなと思います。(ソッカー部で学んだことは)色々ありますね…。でも、本当にサッカーだけではないというところが一番大きくて、ピッチに出ている人はもちろん戦うんですけど、それ以外の人たちのサポートだったり、運営の人たち無しにはここまで来れなかったと思いますし、応援してくださっている方々も、慶應だからこんなに応援してくださっているのかなとか思ったりして、普段の自分達の姿勢だったり、振舞いだったり、そういう小さいことですけど、そういう所が応援される理由なのかなとも思うし、そういう事も含めて学んだことは本当に多かったですね。(後輩達に向けて伝えたいことは)1部の舞台を残せなかったことは本当に申し訳ないんですけど、絶対慶應はこれからもっと強くなると思ってますし、だからこそ来年も1部で戦って欲しかったんですけど、2部という結果になってしまって、でもそこからまたすぐに這い上がれるチームだと思うので、来年入ってくる新入生も含めて、特に来年の4年生には、一番はやっぱり全力でサッカーを楽しんで欲しいなと思います。(自身の今後に向けて)今後はもうサッカーをすることは無いんですけど、社会人として、このソッカー部で培ってきた、努力することだったり、一つ一つ積み上げることは絶対に社会に出ても生かせると思うので、この4年間ほど濃くて悔しい経験をするのかは分からないですけど、そういうことに立ち向かえるようにこれからも頑張って行きたいです。後はOGとしても、ソッカー部をサポートしていきたいと思います。
栃木栞(総4・十文字高)
(今日の試合を振り返って)後輩に1部の舞台を残せなかったのが本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。(前節の筑波大戦からどのようなイメージで戦ったか)シンプルにやるっていうのと、リスクを侵すところところと侵さないところをはっきりとやって、とにかく相手の背後とか嫌がるプレーを続けようということを意識しました。(TEAM2016での1年を振り返って)本当に苦しいシーズンで勝てない試合ばっかりで、今日もそうですけど、こんなに多くの方が応援してくださってるのに、勝利という結果で恩返しできなかったというのは本当に申し訳なくて、本当に苦しいシーズンでした。(女子ソッカー部としての4年間を振り返って)こんなに応援されるチームの一員として自分が4年間戦えたことっていうのはすごく幸せだったなと思います。(後輩にメッセージ)この悔しさを来年必ず1部に上げて、その次の年にインカレベスト4という自分たちが達成できなかった目標を必ず達成してほしいと思います。