前回の早慶戦勝利から33年という歳月が経った。強敵・早大に挑み、敗れてきた33年間だ。今年こそ、勝つ。慶大送球部はチームスローガンである「ONE」をひっさげ、敵地・早稲田アリーナに乗り込んだ。前半4点のビハインドを抱えるも、後半からは慶大ペース。横溝卓也(法4・慶應)のロングシュートが効果的に決まり、早大に追いすがる。1点差でむかえたラストワンプレー。熱気を帯びたアリーナで最後に笑ったのは、早大だった。
11/30(土) 15:30試合開始 @早稲田大学戸山キャンパス 早稲田アリーナ
得点者:田中5、横溝4、塚本4、畠山4、小椋2
開戦の口火を切ったのは慶大。畠山真和(環2・氷見)のロングシュートが決まり、34年ぶりの早慶戦勝利を目指す戦いが始まった。前半はロースコアの展開を狙った慶大の思惑どおりに試合が展開していく。中でも光ったのがセットプレーのディフェンス。フリースローを獲得する度、ベンチからは大きな歓声が飛んだ。それでも相手は1部常連の早大。スピード感あふれる攻撃で、慶大を突き放す。
点差が5点に広がったところで、慶大が最初のタイムアウトをとった。ここから流れが変わる。まず頼れる点取り屋・塚本清修(政3・慶應)が切り込んで1点を返すと、GK清水大毅(経4・慶應)がスーパーセーブを連発。チームの副将も務めるムードメーカーがチームを勢いづける。前半最終盤で畠山が技ありのシュートを沈めて7―11。前半を4点ビハインドで折り返した。
点差こそ開いたものの、ロースコアの試合展開は慶大の狙い通り。本当のドラマは後半戦に待っていた。
後半の幕開けは鮮やかなスカイシュート。味方のパスに田中稜(環3・近江兄弟社)が完ぺきに合わせた。直後の攻撃で早大が取り返すも、ここから慶大の時間が始まる。塚本のPTに横溝のロング、そして最後は田中の速攻がゴールネットを揺らし、11―12。敵地・早稲田アリーナに『若き血』がこだまする。
次の1点をめぐる激しい攻防が続いた。慶大がパスカットで攻撃を防いだかと思えば、早大はうまく体を入れてチャージングを獲得する。貴重な1点を叩き込んだのは、慶大9番塚本だった。テンポを変えたロングシュートでキーパーをずらし、12―12。後半開始10分で、前半のビハインドを取り返すことに成功した。
おたがい思うように得点を奪えない中、後半18分には早大がタイムアウトを要求。残り10分で1点差、早大の背中が見えてきた。
なんとしても得点が欲しい慶大は、前半から継続していた7人攻撃で積極的に仕掛ける。しかし、この仕掛けが裏目に出てしまう。後半22分、こぼれ球に素早く反応した早大が無人のゴールめがけて自陣から遠投。GK清水もポストにぶつかりながら決死のセービングを見せるも、一歩及ばず。さらに直後のプレーでもGKの交代でもたつき、簡単に得点を許してしまう。2度目のタイムアウト後も失点を重ね、その差は後半最大となる4点差。直後の攻撃で畠山、横溝が連続得点を挙げるも、早大の攻撃を守り切れない。3点差のまま、残り90秒という局面を迎えた。
もう時間のない慶大。タイムアウトから決死の攻撃が始まる。まずはロングシュートのリバウンドを小椋省吾(商3・早稲田)が拾って2点差。直後のディフェンスでは早大の7人攻撃をしのぎ、お返しとばかりに無人のゴールに叩き込んだ。
1点差。歴史が動く瞬間か。総立ちの観客の、悲鳴にも似た声は、たしかにその時を予感させた。緊迫の残り15秒。早大のタイムアウトが終わり、試合が再開されると、この日一番の歓声が上がった。前に詰める慶大。サイドへの長いパスが出た。試合終了のブザーとともに、ボールは慶大ゴールに突き刺さった。19-21。慶大送球部の、歴史への挑戦が幕を閉じた。
1部昇格とインカレ出場を目指した今シーズン。悔しい春シーズンを経て、夏は徹底的に鍛えぬいた。充実の秋、最後は1点に泣いた。チームの集大成を見せるべく臨んだ早慶戦。格上の早大相手に最後の最後まで食らいつき、実際に食いかけた。「差は縮まってきているな」。佐藤主将は早慶戦をこう総括する。2点差という数字は、チームにとっての課題であると同時に、たしかな成長の証ともいえるだろう。来年は塚本、田中をはじめ、今年も主力を担ったメンバーが4年となり、チームを作っていく。あと一歩届かなかった夢の続きは、彼らが示してくれるはずだ。
(記事:野田快 写真:船田千紗、野田快)
佐藤圭一郎(経4・湘南)
──今日の試合を振り返って
スローガンが「ONE」ということで、本当に会場が一つになって応援してくれました。最後一歩及ばなかったのは、自分たちが引っ張りきれなかったことが原因だと思います。いつもだったらキャプテンがシュートを決めないと流れが悪くなるところを、周りがカバーしてくれて、2点差で最終的には終わることができました。負けたことは負けたことですごく残念ですが、来年以降慶應が強くなるってことは感じましたし、頼もしい後輩たちだったなと思いますね。
──試合前のゲームプランはどういったものでしたか
僕たちはディフェンスが得意だったので、相手の展開をスローペースにしようとしていました。相手のシュートが外れていたというのもありますが、点数が少ない状態で試合が続いていって、19-21というロースコアに持ち込むことができました。展開としてはすごくよかったので、もう少しシュートが決まってこっちが23、24点くらい取れればな、というところです。
──どういったところに早大との差を感じましたか
やっぱり体は強いですね。あたりが強いので、押し切られる部分というのがもちろんありました。ただ例年に比べるとそれも少なくなってきましたね。去年とか3年生で(早慶戦に)出た時はあたりで押し切られました。でも今年は一発でフリースローを取れたりして、早稲田も相変わらず強いですが、差は縮まってきてるかなと思いました。
──後半には一時同点に追いつく場面がありました。あのときの心境はいかがでしたか
ずっと試合展開を冷静に考えていました。なので、「あ、ここでいけるぞ」とは思いましたね。早稲田に2点差つけられた後、3点4点と差をつけられたら試合が苦しくなるから、そういう時にディフェンスに一番力を入れました。
──これで4年生は引退となります。最後に、来年の下級生に向けてひとことお願いします
技術的にもマインド的に一つになるってところも、すごく良くなっています。あとは、今の3年が今の4年に比べて個性が強いので、結集すればすごく強いチームになるし、バラバラになってしまうリスクもあります。ただ、これから早稲田にも勝てる強いチームになるんじゃないかな、その土台作りはできたのかな、と思うので、あとは後輩たちに託します。
塚本清修(政3・慶應)
──今日の試合を振り返って
めちゃくちゃ悔しいんですけど、自分たちの思い通りのペースではできました。(試合前は)ロースコアの展開で点を抑えて、最後勝ってやろう、と考えていました。試合プラン的には思い通りにできてはいたんですけど…。1点とか2点のところで負けたのは、この1年間そういう試合が多かったので、最後までそれが克服できなかったということかなと思います。
──ゲームプランは具体的にどういったものでしたか
ディフェンスで詰めて、サイドに打たせることです。相手も強いのはわかっていましたが、そこはとにかく意識してディフェンスで守ることを考えていました。
──前半4点差で折り返しました。後半に向け、ハーフタイムではどんなお話をされていましたか
ディフェンスは前半11点ということで、結構抑えることができていました。なので、後半押せる所、勝負所を見極めて、速攻で仕掛けていこうという話をしました。
──後半途中、同点に追いつきました。あの時の心境を教えてください
同点に追いついて、会場も盛り上がっていたんですけど、自分としてはずっと冷静でした。
同点になっても、絶対に早稲田は最後来ると思っていました。ずっと冷静に気を抜かないようにはしていましたね。
──惜しくも2点差での敗戦となりました。早稲田との差はどこにあったとお考えですか
うーん…。今年度、慶應も早稲田も実力は拮抗していたと思います。ただ、本当に(慶大のメンバー)全員が試合に勝つんだというイメージができていたか、という所ですね。早稲田は全員で「絶対に勝つ」というイメージを共有できていたと思います。慶應も一つになってイメージを共有していたんですけど、試合に出ている人と出ていない人の間でイメージの差があったかもしれません。そういうところの気持ちの差があったかな、と考えています。
──新しいシーズンが始まります。来年のシーズンに向けてひとことお願いします
僕は慶應義塾高校からハンドボールを始めて、次で慶應7年目になります。これまでずっと負け続けてきたので、来年のシーズンこそはインカレに出て、1年後早慶戦絶対勝てるように頑張ります。