【野球】春季リーグ戦開幕前インタビュー③ 木澤尚文選手×長谷部銀次選手 ~チームを支えるピッチング~

野球対談

延期となっていた東京六大学春季リーグが8月10日に開幕する。

それに先立ち、慶應スポーツでは開幕前インタビューを実施した。

第3回は層の厚い慶大投手陣から4年生のお二人、木澤尚文選手(商4・慶應)、長谷部銀次選手(総4・中京大中京)にお話を伺った。

――初めに他己紹介をお願いします

木澤:銀次のピッチャーとしての持ち味はやはり力強いストレートが武器だと思うんですけど、それ以上に普段は物静かで真面目なんですけど、マウンドに上がった時の威圧感は、完全にバッターを抑え込んでいるので、普段とのギャップが銀次らしさかなと思います。

長谷部:木澤は、マウンドの上では冷静に見えて、ピッチングもエースとして堂々と投げているところが、同級生から見ても尊敬できるピッチャーだなと思っています。グラウンドでも、グラウンド外でも、常に野球を考えているというか、冷静に自分に何が足りなくて、どうやったら上手くなれるんだろうと探求している部分を見ていると、一選手として尊敬できる選手だなと思います。

 

――お互いの好きなところは

木澤:4年生ということで、野球の話になるんですけど、ピッチャーでミーティングする時も、銀次が率先してまとめてくれるので、長谷部の姿には助けられています。

長谷部:木澤がそう言ってくれていたんですけど、僕としては副将として、エースとしてチームを引っ張っていく、プレーで引っ張っていくのはもちろんですけど、チームに足りないところとかあったら遠慮なくズバッと言うときは言ってくれたりして、頼もしいなと思います。

 

――お互いに投手として尊敬しているところは

木澤:長谷部のまっすぐは実際にキャッチボールしていても、捕った後ミットを持っていかれるというか、そういうスピード以上の圧があるので、配球とかでまっすぐだと分かっていてもバッターが押し込まれているというのがベンチから見ていても思うので、スピード以上のまっすぐの威力というのが、うらやましいです。

長谷部:木澤のすごいところは、シンプルに速いところですかね。150キロを超えるボールっていうのは僕には投げられないので、すごいなって思います。あと、カットボールとスプリントっていう2つの決め球の精度が高くて、狙って三振をとれるっていう部分はすごいなと思います。

 

――先日のアンケートで、自粛期間中はお二人とも朝ヨガにはまっていたということで、ご一緒にされていたんですか

木澤:銀次と僕は部屋が違うんですけど、銀次は部屋で、僕はただすることがなくてYou Tubeで探してやっていたので、一緒にやっていたわけではないです。

 

――今も朝ヨガは続けていますか

木澤:いや、もともとピッチャー陣は朝にウエイトルームで体をほぐしてから、皆グラウンドに入ったりしていたんですけど、そこで自粛期間は自分で体を動かす時間が自由にあったので、いつもじゃないことやってみようかなっていう時に、ヨガをやっていました。

 

今季副将を務める木澤

 

――春のリーグ戦が延期になった時の心境は

木澤:最初はリーグ戦自体ができないと思っていたので、コロナの感染者数がどんどん増えていってなくなるかなと思ったところで、延期ということで春のリーグ戦を開催できる可能性があるというところにまだ安心したというか、どちらかというとまだいろいろと成長できる時間が増えたっていう風な解釈をしていました。

長谷部:僕も似たような感じなんですけど、自粛前の自分の状態を考えた時に、完全ではないというか、このままリーグ戦に入っても、自分の力を出し切れたかというとそうでもなくて、成長できる時間を与えてもらえたという捉え方をしていました。

 

――自粛期間の練習状況は

木澤:グラウンドで野球はできなくて、まず全体で練習を合わせることもできなかったのは痛かったですけど、その分自分自身のピッチャーとしての能力を上げることに集中できました。寮のウエイトルームは人数制限をした上で使えたので、そこでシンプルに筋力の向上をしたり、ボールを投げられるところを探して河川敷でキャッチボールしたりしました。自粛入る前と自粛後では、フォームをいろいろ変えながら試したので、投げているボールの質は上がってきたかなと思います。

長谷部:僕自身も自分の能力を上げることにフォーカスしていました。体も硬くて、筋肉も弱いことが課題だと思っていて、朝ヨガもそうですけど可動域を増やすトレーニングを中心に行ったり、ウエイト場で下半身中心のトレーニングを行ったりしていました。

 

――自粛期間に球速を上げる練習などはされましたか

木澤:球速を上げる練習というのは違うんですけど、低めのまっすぐでバッターを刺しこめるようになれればいいなと思って練習していました。具体的には、フォームの中で下半身の使い方で、沈み込んで下半身を使うやり方だったのを、重心やお尻の位置を高くすることで、うまく前傾させながら下半身を使うというフォームに変えたりしていました。

長谷部:僕はストレートの球速を上げるというよりは、今あるストレートの精度を上げるといった部分と、ストレートを更に速く見せるための変化球の取得といった部分を中心に取り組んでいました。ストレートはクロスのボールを、自信を持って投げ切れるような練習をしていました。変化球は腕を振ってストライクゾーンだったり、低めに落としたりっていうのを徹底的に意識して練習していました。

 

――7月のオープン戦で自粛期間中練習してきた手応えはありますか

木澤:実際に2か月の間はバッターに投げることができなかったので、自分の投げる球の判断ができなくて、スピードがかかっていたりとか、キャッチャーに聞いて判断しかできなかったものを、実際にバッターに投げていったんですけど、最初はやはりそこにギャップがあって、自分がいいと思ったボールでもバッターにはじき返されたり、自分が納得いっていないボールでも、バッターからファウルがとれたりといったところでギャップを感じていました。でもそこを埋めて、だんだん調子は上がってきています。

長谷部:僕もバッターに投げるという感覚が落ちてきているなというのは感じてはいたんですけど、練習してきた変化球の精度であったり、ストレートを生命線で投げ切ることだったりは少しずつ試合の中でできるようになったと感じているので、ここからリーグ戦に向けてもっと調子を上げていけたらなという感じです。

 

――全体練習が再開したのはいつ頃ですか

木澤:6月の頭くらいです。

 

――全体練習が再開できた時の心境は

木澤:嬉しかったです。

 

――その雰囲気はいかがですか

木澤:まだ全体練習が始まったといっても、完全に全員でできているわけではなくて、人数を制限した中での練習ということで、なかなか例年とは違う形ですけど、それでも野球ができなかった分、リーグ戦という目標に向かってみんなで練習できるというのは、今までの雰囲気とは違って独特ないいイメージというか、新鮮なものを感じます。

長谷部:自粛期間で一気に伸びた選手が多々いて、そういった選手が全体練習で一緒に練習していく中で刺激を与える部分も、自粛明けで全体練習がやれるようになってからできていいなと思いました。

 

――自粛期間、それぞれ一番成長した部分は

木澤:僕自身としては、先ほどもお話したんですけれども、低めのストレートが変わってきたなという感じで、今までは高めではフライがとれても低めだと芯に当てられることが多かったんですけど、今は低めのまっすぐでもフライアウトとれるということは、バッターが思っているよりボールが一歩伸びてきているというところだと思うので、やってきたことは正しかったなと。

長谷部:僕は変化球の精度が一番向上できたんじゃないかと思っていて、試合の中のストライク率も自粛前と比べて上がってきているので、成果を出せたと感じています。

 

――自粛期間にみえてきた課題は

木澤:どうしても強いボールを投げようとか、強いボールでしかバッターを抑えきれないという固定概念があって、最初は力いっぱい投げてバッターと勝負しなければならないという風に思っていたんですけど、なかなかそれでバッターが速いボールが来ると思った状態でボールを投げても対応されるので、そこから押したり引いたり上手く緩急を使いながら、バッターとの空気を感じながら対応していくというのにシフトチェンジしてから、目一杯投げていた時よりも試合を作れるようになってきたなと思います。

長谷部:投げる部分以外で、チーム全体の連携の部分が詰め切れていないと思うので、それは自粛が明けてから非常に感じた課題だと思いました。

 

――チームとして成長した部分は

木澤:さっき銀次が言った通り、ピッチャー含め野手含め、今までAチームに絡んでなかったようなメンバーもどんどん入ってきてくれたので、実際そこからレギュラー争いに絡んでチーム全体としてレベルが上がったというのは間違いなくあると思います。

長谷部:1年生から4年生まで全員が、レギュラー争いをしているというか、ガツガツ全員で競い合うではないですけど、そういう空気感が出てきているのはいいことなのではないかなと思います。

 

――自粛期間、一番伸びたなと感じた選手は

木澤:僕は1年の廣瀬(隆太=商1・慶應)かなと思います。春先は大学野球もスピード感についていけなくて、高校とのギャップに苦しんでいるんじゃないかなと感じていたんですけど、自粛期間どんどん考えながら練習している姿を見ていたので、自粛明けで守備でもそうですけど、バッティングの面では特にスピードボールに負けないようにと、外野まで飛ばしていけるようになっていましたし、伸びたなと思います。

長谷部:僕は同じ4年生のピッチャーの関谷(航平=総4・川越東)が自粛明けて、ストレートの勢いとかピッチングの安定感というところで、安心して見られるかなというのは思っていて、今言ったみたいにストレートの勢いが上がったり、落ちる変化球の精度が高かったりとかという部分で、伸びたと感じています。

 

久しぶりのリーグ戦登板となる長谷部

 

――ご自身の投手としての役割はどのように感じていますか

木澤:春先は先発でいくぞと言われてはいたんですけど、夏の週間で5試合という短期決戦の中では、先発だったりリリーフだったり言っていられないので、先発ももちろんしますし、リリーフでも全試合出るつもりで、苦しそうな場面だったら全部僕が行くんだという気持ちで準備しています。

長谷部:僕はマウンドに上がった一球目から自分の全力のボールをしっかり出し切って、チームに勢いを与えるというか、流れを生むピッチングという部分を出来たらなと思います。

 

――試合前や登板前のルーティーンがあったら教えてください

木澤:コーヒーを飲むのが好きです。

長谷部:僕は結構緊張しちゃうので、足とかペチペチ叩いて、緊張を紛らわそうとしています。

 

――長谷部選手は2年春以来のリーグ戦出場ですが、どのような心境ですか

長谷部:緊張してはいるんですけど、ラストシーズンですしワクワクしている部分の方が大きいです。緊張に負けないようにやれたらなと思います。

 

――木澤選手は緊張されていますか

木澤:めちゃくちゃ緊張しています。準備は妥協なくやってきたつもりですけど、いざどんどん近くなってくると、今のままでいいのかと夜寝る前とかに思いますし、4年間終わっちゃうというところで焦りも感じているんですけど、でもやってきたということには絶対的に自信があるので、自分のためじゃなくみんなのために一生懸命投げるだけだと思うので、頑張ります。

 

――自粛前の今季のリーグ目標が「全勝優勝」でしたが、リーグ戦の形が変わって、目標にも変化はありましたか

木澤:変わらないですね。短期決戦になっただけで、よりわかりやすくなったというか。もう一校と一試合ずつやっていくだけなので。全部勝たないと優勝に手が届かないところがあると思うので、最初の東大戦から短期決戦で一喜一憂している場合ではないので、全部落とさずに勝っていくしかないかなと思っています。

 

――他校の注目している選手は

長谷部:同じ左腕として、早稲田の早川選手(隆久=スポ4・木更津総合)、今西選手(拓弥=スポ4・広陵)というのは意識するというか、負けたくないなというのはあるので、もし投げ合う機会があったら絶対負けたくないです。

木澤:どのバッターも手強い感じですけど、去年やった感じだと早稲田の瀧澤選手(虎太朗=スポ4・山梨学院)とかは、なかなか差し込めると思ったボールを見事にセンター前にはじき返されて悔しかったので、今年は何とか抑えればなと。

 

――警戒している他校は

木澤:全部警戒していますけど、日程が1試合やって、また1試合やって1日空いて2試合なので、絶対初戦の東大戦は落とせないところと、立教明治で頑張って勝って、最後の早稲田法政に関しては心身共に回復していると思うんですけど、最後気力勝負で、向こうもばててきていると思うので。どこ一校っていうのは変わってきちゃうと思うんですけど、最後はタフな戦いになるんじゃないかなと。

長谷部:どのチームもすごいチームなので、気持ちの中に波を作るというよりも一戦一戦に自分たちのベストを出す準備ができたらなと思います。

 

――今季のリーグ戦で優勝するためのキーパーソンは

木澤:バッターだったら若林(将平=環3・履正社)かなと思います。正木(智也=政3・慶應)がマークされる中で、若林がどれだけランナー返してくれるかというところで、得点が変わってくるんじゃないかと思います。

長谷部:僕はピッチャーだと増居(翔太=総2・彦根東)が大事な場面で投げてくれるんじゃないかなと思っていて、先発でも中でもフル回転してくれると思うので、彼のピッチングにかかっている部分はあるんじゃないかなと思います。

 

――4年生になって心境の変化は

木澤:今まで下級生の頃は自分のことだけやっていればいいという甘い考えでやっていたと感じていました。自分自身の状態を上げてくことが間違いなく第一ですけど、その中でどう全体に声掛けしていったり雰囲気作っていったりところで、ピッチャーはもちろんですけど練習とかでも野手と積極的にコミュニケーション取ったりとか、そういったところでいよいよラストなんだなというのは練習中に感じることは多いです。

長谷部:4年生でラストということで、僕自身リーグ戦の経験が全然ないので、気持ちの変化というよりは、木澤も言ったように自分のこと以外に目を向ける必要があるなと思っていて、例えばピッチャーだったらマウンドに行くピッチャーをいかに自信をもって上げられるか、上がってからも声でどれだけ後押しできるかとか、自分が投げる以外の部分でも貢献できる部分はあるんじゃないかなと4年生になってから考えるようになって、自分自身投げるときはもちろんチームのために、自分の結果よりも、どんなにかっこ悪くてもアウトをとればいいと年生になってから思います。

 

――堀井哲也監督からお二人それぞれに何かかけてもらった言葉はありますか

木澤:先発リリーフに限らず、フル回転で毎日投げるつもりで準備してくれというのは言われたので、今長谷部が言いましたけど、どんなに状態が悪くても、どんなに不格好なピッチングでもしっかりゼロに抑えてベンチに帰ってくる、最小失点で帰ってくるという、粘り強くタフなピッチングをしていこうというふうに気合が入りました。

長谷部:1点もやれない場面や緊迫した場面に登板したとしても、そこでいかに自分のボールを投げられるかという部分が大切だというお話をいただきました。

 

――堀井監督からチームに話されていることは

長谷部:チームに最近おっしゃることは、チーム力のことで、たとえチームに欠ける選手がいたとしても、そこから新しい選手が出てきて、その選手が対抗することやチームの中で不安材料があるだけでチーム力が上がるという話があって、ここから技術面だけでなくチーム力も上げていける部分で、自分たちはまだ成長できるんだなと感じました。

木澤:ピーキングというか、状態を公式戦に合わせていくにあたって、監督が自分から合わせにいっても、ピッタリ合うわけではないし、かといって適当にやっても良い結果は望めないしということで、自分のコントロールできる範囲でベストを尽くして、淡々と自分のやれることをやる、自分のやってきたことしか神宮で出せないということをおっしゃっていました。

 

――選手からかけられた言葉で印象に残っているのは

長谷部:マウンドに上がるときに、大串(=亮太、法4・慶應)がボール持って待っていてくれるんですけど、その時に毎回「頼むぞ」と声をかけてくれるのが、僕の中でスイッチが入るというか。投球練習が終わった後、内野手ひとりひとりが目を見て声かけてくれるというか、ひとりでマウンドに立っているんじゃないなと感じて心強いです。特定の言葉ではないですけど、一人じゃないというのは感じることです。

木澤:刺さった言葉というか、チームスタッフの吉田(=龍正、法4・慶應)が、「権利には責任が伴う」と言っていて、4年生になって練習を自分で決めたり、チームに対して積極的に関わったりできるようになって、上級生になるにつれて権利が与えられてきたと思うんですけど、その中で4年生に対して「その分4年生お前たちには、全責任が伴うぞ」と言われて、自分たちが決められる分、年生が誰よりも率先して結果を出さなければならないとプレッシャーを改めて吉田が伝えてくれて、とても刺さりました。

 

――リーグ戦への意気込みを教えてください

木澤:もともとは結構、本来のリーグ戦だったら具体的な数字を目標にしていたんですけど、もうこういうことも言っていられないような短期決戦なので、どんな状態でも試合を作って後ろのピッチャーに託す、リリーフと出るからには流れを断ち切って慶應の流れを作る、どんなに状態が悪くても試合を作るということだけだと思います。

長谷部:僕は投げた試合は必ず抑えてチームのピッチングをしたいと思います。

 

――最後にファンの皆さんへひとことお願いします

木澤:昨年のチームは日本一になりましたけど、全勝優勝はできなかった悔しさはチームの共通認識にあると思うので、今年は堀井新監督のもと、チームの体制がいろいろ変わって一からチームを作ってきて、やっとそれが神宮でできるというところで、僕たち自身も楽しみにしていますし、その慶應の野球をファンの皆さんに見ていただけたらなと思います。

長谷部:堀井新監督に代わって、瀬戸西中心に新しいチームを作り上げてきて、チームの中で不安材料があるだけで今年のチームスローガンは「本氣」なので、熱い野球を神宮でひとりひとりできたらなと思っているので、応援していただけると力になりますし、皆さんに力を与えられたらなと思います。

 

――ありがとうございました!

(この取材は7月31日にオンラインで実施しました。)

(取材:松田真由子)

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