野球の東京六大学秋季リーグ戦が開幕し慶大は17日に初戦を迎えます。そして毎試合選手たちにエールを届けているのが應援指導部です。今回は應援指導部の情熱溢れる総合練習の様子をお伝えします!
写真の切り取り、許可のない転載は固く禁じています
スクリーンに映し出されるスコアボード、「がんばれ!」と響き渡る声援や演奏。本当に神宮球場にいるかのような雰囲気に包まれた横浜市内のホールで、應援指導部の総合練習が行われた。この総合練習は、春と秋の東京六大学リーグ戦と野球の慶早戦前の計4回行われる。普段はチアリーディング部と吹奏楽団は別々に練習していて合同練習は少ないため、総合練習は應援指導部全体で応援の流れを確認する貴重な機会だ。
練習前のウォーミングアップの時間には部門ごとのミーティングが行われた。吹奏楽団が最初は曲ごとに、次に全曲通した演奏をしていると、その曲に合わせてチアリーディング部員も自主的に踊っている姿が見られる。まだウォーミングアップの段階にもかかわらず、チアリーディング部員全員が自分の動きを念入りに確認していて、「応援が好き」「踊るのが好き」という気持ちがすでに伝わってくる。
そして全体練習が本格的に始まった。始まった瞬間ホール内の空気は一変し、これまでの和やかな雰囲気から緊張感のある雰囲気に変わった。総合練習では今季からプロジェクターを使用し、より一層実践的な練習を実現。企画したのは3年生で、4年生も驚く完成度である。
感染対策も怠らない。総合練習も2回に分けて実施し、休憩中に音を出さない時にはドアを開け換気をしている様子も印象的であった。部員の体調にも気を配る。「上級生が水を飲んでと言ったら飲んでください」、「上級生は下級生の異変に気付いてあげてください」。応援は上級生だけで作り上げるものでない。部内で上級生と下級生の連携が取れていなければ、目指している「観客と一体となった応援」を実現できない。上級生にはこのような思いがあったのだろう。また、全力で応援することを何より大事にしている。「きつい時に惰性でやるか、1回水を飲みその後全力でやるか」という言葉に表れているように、自分自身を管理する力も求められているのだ。
練習の最初に行われたのはA~Cまであるバンドコールだ。今季から取り入れたものであるが、全部員が適応。一人一人の意識の高さがうかがえる。この秋から内野席での応援ができるようになり、すぐ後ろには観客がいるため、「背中で先導する」必要がある。そのため良い影響だけでなく悪い影響も与えてしまう。「後ろから見るとすごく目立つので、ただ試合を見ているだけのように思われないように」という野球サブ(野球応援責任者)のコメントを体現していた。
野球のルールや表記の解説も行われた。ポジションと番号の関係性や本塁打や安打、失策の表記など細部にわたりスクリーンで確認。これが「ロジカルな応援」をする上で最も大切なことである。ロジカルな応援とは、スコアボードから得られる情報をもとに生身の人間だからこそできる、その場面に応じた応援のことである。ルールを知ることで選手の立場から応援することができ、毎場面選手に勇気を与える応援につながっている。
その後エール交換や塾歌の練習、「BAT FOREVER」が行われると、ここからより実践を想定した練習に入る。スクリーンには1回表東大の攻撃の表示。慶大の守備を想定し「頼むぞ増居!」「がんばれがんばれ慶應!」や、遊ゴロなら「いいぞいいぞ朝日!」という掛け声が響く。1球ごとにストライクボールも表示され、それに合わせた声援が送られる。2回以降には振り逃げやけが人が出た場面もあり、ここまで本番を想定するのかと驚くほど綿密に練られた計画である。
1回表だけで15分ほど声を出し続けていた部員たち。しかし応援は始まったばかりで、2年生男子部員は「実際の試合より短いのに声を切らせていてはダメ、切らせないように経験が必要」と語る。
チアリーディング部員は曲間の声援について「試合状況に応じて、例えば相手が4番なら『絶対抑えるぞ』と言って、ただ頑張れではなくレパートリーを増やしている」という。さらに声だけでなく動きも変えてエールを送っていた。1年生部員が「先輩は声援の種類が多く、選手一人一人に届く応援」と感じているように、曲間の声援は経験が必要とされる難しいもので、チアリーディング部員の見せ場の一つであると言える。
このような1カウントも省略しない練習を、1回表、2回裏、5回表、6回裏、8回裏を想定して行った。慶大に得点が入った場面では、すぐに曲を中断し旗を持って若き血を歌う。チアリーディング部員だけでなく、吹奏楽団も左右に動いたり、身振り手振りで応援したりしていた。これは見栄えを意識したものだという。「視覚に訴えて応援する」のがチアリーディング部で、「聴覚に訴えて応援する」のが吹奏楽団ではあるが、両者はその枠組みを超え、より良い応援を作り上げる努力をしていた。
5回にはチアリーディング部曲、「さくらんぼ」と「勇気100%」を踊った。試合はリードされている展開。これからが応援の本番であると伝わるパフォーマンスで、応援のギアを上げた。拡声器を使って部員同士でも盛り上げていく姿が見えた。また、この回に行われた「塾生注目」を務めた2年生は、その言葉について「3日前から考えていた」といい、この総合練習も試合と同様の気持ちで臨んでいた。應援指導部が新しくなって輝きたいという思いと、野球部に優勝してほしいという思いが合わさって考え付いた言葉だった。
6回裏には、外野席では見栄えが悪いという理由で行われていなかったが、今秋の内野席での応援解禁に伴って行われるバトンを使った応援の練習が行われた。内野席だからこそ見られる応援に神宮球場でも注目してほしい。また、野球サブが、今年からプロジェクターを使用した総合練習になったことを踏まえて「システムはレベルアップしましたが、私たちの表情と声もレベルアップしませんか!」と呼び掛けると、より一層熱い応援が披露された。当然、この言葉は試合当日には使えない。この総合練習を「練習」ではなく「本番」と同じように位置付けているからこそ言える言葉である。
8回裏、活動全体を監督する乃坂龍誠さんから熱い言葉が掛けられた。
「まずは1年生、誰よりも進化した姿見せろ!」
「2年生、来年サブだぞ、3年生越えろ!」
「3年生みんなが作っている応援、集大成ここで見せろ!」
「4年生……ラストシーズンやるぞ!!」
今の4年生は苦しんだ。応援への憧れを抱いて入部し、制限のない100%の応援ができた1年時。思うように前に進めなかった2、3年時。そしてようやく希望の光が見えた今。應援指導部を変えてきた4年生からの言葉に応えるように、8回裏の応援は盛り上がりを見せた。ファンファーレから始まり、リードされている終盤ということもあって、吹奏楽団も全員が立って応援する。戦況把握を務めていた応援企画責任者が曲のサインを送り、応援指揮が笑顔で部員へ伝える。得点が入ると若き血をこの日一番の声で歌い、すぐに次の応援歌へ。再び点が入ると「スリー慶應」、本塁打が出た場面では「おおわが慶應」と様々な種類の応援を見せた。
総合練習だけでも3時間を超えるが、最後までチアリーディング部員の足は高く上がり、吹奏楽団の音も乱れることはなかった。そして総合練習は8回裏を想定した応援で終えた。
「球場の雰囲気を変え、勝たせなければ意味がない」。そのために必要なのは「表情、体を大きく動かす、全力で」の3つだ。最後までこの3つを貫き、一人一人が失敗を恐れずに輝こうとしていた。それでも主役は選手たち。だからこそ、複雑な野球のルールを理解して選手たちの目線で応援できるようにしている。選手たちの気持ちは選手にしか分からない。しかし、部員たちのその努力や選手たちのこと必死に考える姿勢は絶対に選手たちにも伝わっている。應援指導部員の「人を想う気持ち」が多くの人々の心を動かすのだ。
應援指導部代表・小竹栞さんのコメント
春に比べて部員一人一人が成長してできることが増えているということを実感しています。その反面、いろいろな人が言っていましたが、まだまだできることがあったり、新しいことを取り入れたり、より進化しなければならないです。私たちの真価を問われていると思ったので、4年生としての、この代としての集大成の応援を見せられるようにまだまだ努力を続けて行きたいです。
(記事:長沢美伸)