【應援指導部】恩返しの慶早戦へ~選手を思う応援と華やかな企画~/慶早戦前 総合練習

應援指導部

野球のリーグ戦開幕前と慶早戦前に、応援全体の流れを確認するために行われている総合練習。慶早戦仕様の総合練習では、試合想定練習以外にも試合前企画や内・外野合わせなどにも取り組んだ。部員たちは、さらなる磨きをかける場として総合練習に臨んでいた。

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リーグ戦開幕前の総合練習の様子はこちらから

 

総合練習は吹奏楽団、チアリーディング部それぞれのウォーミングアップで始まる。吹奏楽団はパート別、全体で音程合わせを入念に行い、その間にチアリーディング部員は5~6人で集まり自主的に練習していく。慶早戦直前となる今回の総合練習。入念に最終確認を行う部員の表情からは、今日の練習時間を使って本番並みのパフォーマンスレベルに持っていくのではなく、すでに完成しつつある状態で総合練習を迎えてさらなる磨きをかけるのだという高い意識が感じられた。

ウォーミングアップ後にまず行ったのは一貫校企画の練習。3年の時を経てついに神宮に帰ってきたこの企画は、應援指導部と一貫校生を合わせた約170人で行い、慶大スタンドの一体感を醸成する。その後始まったのは試合終了後セレモニーの練習。セレモニーでは「丘の上(勝利時のみ)」「慶應讃歌」「若き血」、退場曲として「慶應ワルツ」を披露する。この4曲の中で部員が口をそろえて好きだと語るのは「慶應ワルツ」だ。ワルツという曲名通りテンポよく「のりやすい」(チアリーディング部・3年)、曲調が特徴であり、大学から楽器を始めたという吹奏楽団1年も「普段吹くことがない」というこの曲が1番好きだという。また「春の慶早戦で勝利した際に演奏していたのが印象的」(吹奏楽団・1年)と語る部員もいる。

聴覚に訴える吹奏楽団

この試合前企画や、当日以外の企画を担当しているのが「作戦サブ」である。1、2年生が具体的な企画を作り、それを実現させる役割を担っている。今年の秋は、コロナ前の企画を復活させるというプレッシャーもかかる中、「お客様にとっても大事な試合ということを理解した上で、期待に応える企画を考案するのが私たちの使命」と力強く語り、熱心に取り組んでいる。

練習開始から約1時間。入念に試合前企画の練習を行った後は、試合想定練習に入る。練習開始時、応援企画責任者は「メンバー全員でないと内・外野の応援は作れない」と部員全員に伝え、部門・学年を乗り越えて一体となって応援することの意義を説いた。今回の慶早戦で應援指導部が目指すのは「社中一帯」を感じられる場の創造。まずは應援指導部が一体となり、その姿を見せることで応援に来た人たちも含めて慶應全体の一体感を作り出すことを狙う。ここで使うのは今年の総合練習から導入し、ロジカルな応援を実現させているスクリーンに映し出されるスコアボードだ。一貫校の吹奏楽部員はこの練習を初めて目にして「高校とは全然違って、本当に試合を想定して本気で練習している」と驚きを口にした。こうした高校生の隣に座り親切にサポートをしているのが大学1・2年生だ。チアリーディング部の人数も高校と比べて圧倒的に多く、大学ならではの練習の雰囲気に緊張する高校生の緊張を解いていく。しかし、日々厳しい練習をやり遂げている1・2年生ですら、常にどんな場面であるのか考える必要があり、1イニング終了の時点ですでにかなりの時間も要するこの練習は大いに体力を消耗するようだ。そんな1・2年生からは上級生に対する尊敬の念が聞かれる。「体力配分がとにかくすごく、特に4年生はずっと全力で応援していてすごい」(吹奏楽団・1年)という言葉にあるように常に気を抜かずに、さらには全体の様子にも気を配りながら練習している上級生は應援指導部が目指す応援を作り出す上では欠かせず、その雄姿は確かに印象的だ。

スクリーンに映し出されるスコアボード

1回表に続いて行われた5回裏を想定した練習ではまず、土曜日のチアリーディング曲「さくらんぼ」の練習。リーグ戦開幕前の練習に比べ一段とキレが増しており、実戦で経験を積んだ部員たちの成長が見られた。この回もチアリーディング曲中に本塁打を打たれるなど野球サブ(野球応援責任者、3年)がさまざまな展開を考えていて、部員たちも何が起こるか分からない本番に対応できるように一人一人が真剣に取り組む。さらにこの回には、2年前に慶大の優勝を阻んだ早大・蛭間拓哉(スポ4・浦和学院)にも言及。蛭間の登場で、球場全体が苦手意識に包まれるが、野球サブは「それをどう食い止めるかが大事である」と語った。さらにそのような雰囲気を変えるためには曲間での応援を周りの人と一緒にやることもいいのではないかと提案し、改めて応援は1人で作るものではないということを実感させられた。

9回表、4-6で負けている展開で迎えたが、この回に慶大は逆転に成功した。最後まで諦めないことの大切さと同時に、最後まで気を抜かないことの重要さも伝え、9回裏へ臨んだ。2死満塁で最後の打者は蛭間。ここは抑えて慶大が勝利した。本番で同じ状況になったら観客はサヨナラ打を期待する雰囲気に包まれるだろう。「我々は球場の雰囲気に飲まれそうになった時の最後の砦で味方である。ポジティブにそして頭は冷静に、今まで積み上げてきたものを最大化する」。野球部が逆境に立たされている時こそ応援が必要とされているのである。

野球サブは試合想定練習後、「スライドもこだわっていて『BAT FOREVER』や流れも試合想定で行い、かつ、マインドセットという場面でも一人一人が、例えば今日だったら廣瀬さんがけがで運ばれるなど、いろいろな展開を乗り越えて本番に強くなる準備をしているので、それを極限まで詰めるのが私の仕事だと思っています」とコメントした。

慶大の応援をまとめているのが応援指揮である。吹奏楽団、チアリーディング部のどちらの部員も務めることができる。ある日行われた応援指揮の練習では2年生6人の練習が行われていた。先輩からアドバイスをもらうだけでなく、動画を撮影し自分の動きを客観的に振り返り、時には同期同士でアドバイスし合い、互いに切磋琢磨していた。各部の練習もあるために練習時間をたくさん確保できているわけではないが、現状に満足せず同期と共に前に進み続け成長した頼もしい姿を神宮の大舞台でも披露する。

 

試合想定練習が終わると再び試合前企画の練習に取り組んだ。ステップスと呼ばれる企画では、チアリーディング部の男子部員も踊りを披露する。ステップスの踊りの時は、直前の応援とは異なる表情を見せていた。応援の時は選手に思いを届けようという必死な姿に選手たちも、そして観客たちも心を打たれる。一方ステップスでは、部員は楽しそうに満面の笑みで踊っていた。それはメジャレッツのチームスローガン「華魅」を最も感じられる瞬間であった。そんな彼女たちの姿に負けず、男子部員もダンスに取り組む。初めての挑戦でも必死に振り付けを覚え、ついていこうとしていた。まだ全て覚えきれていない1年男子部員も「とにかくがんばります」と意気込んだ。ただ、吹奏楽団ではメロディーが薄くなってしまっているという改善点も見つかり、当日までに完成度を上げていく。

華やかに魅せる

なぜ普段踊りをしない部員も踊るのだろうか。男子部員がチアリーディング部メジャレッツと一緒に踊るという風景は、観客にも注目され、試合前から一体感を作ることができる。しかしもう一つ大切なことがあるのではないか。メジャレッツ以外の人が踊りに挑戦することは、お互いがお互いの気持ちを理解することにもつながっている。

それはチアリーディング部にもかかわらず楽器を演奏している彼女からも伝わる。高校時代にバンドをやっていたこともあり、部門を越えた取り組みの一環として今年の春に始めたという。「楽器を演奏するのが久しぶりで刺激になって、チアで踊っていても曲をより聞くようになった」と取り組みに価値を見出している。これまでの「常識」を越えた取り組みを積極的に行う應援指導部は、応援という伝統ある文化の中に新しい風を吹かせているのだ。

男子部員も参加

次に取り組んだのが「陣中見舞い」企画の練習である。陣中見舞いでは早慶両校のメインステージに相手校の4年生が登り、パフォーマンスを披露する。これもまた、慶早戦ならではの企画の一つである。

そして、この総合練習の中でも最も重要と言っても過言ではない「内外合わせ」の練習を行った。これまでの今季のリーグ戦とは違い、慶早戦ではメイン台が内野と外野の2か所に設置され、その音や動きを合わせないといけない。3年ぶりの分かれての演奏であり4年生も経験が少ない。さらに当日は練習より距離も離れている上に、多くの観客がいる中で行わなければならず、特に吹奏楽団と応援指揮には高い技術が要求される。

中心となっていたのは吹奏楽団に所属する応援企画責任者のMさんだ。Mさんの指示に従い吹奏楽団員はホールの左右に分かれ、それぞれ内野と外野を想定。7回に歌う若き血の入りの部分やバンドコールなどを入念に確認していた。音を合わせるのに大きな役割を担っているのが、内野と外野の境目の三角州エリアで指示を出す部員である。この指揮者の動きを見て、内外野に1人ずついるユニコンと呼ばれる人たちが応援を指揮し、内外野それぞれの吹奏楽団の指揮者のもと演奏する。内野の吹奏楽団の指揮者は外野の指揮者を見たり音を聴いたりせずに、とにかく中央の指揮者の動きだけに集中していた。部員間での意思疎通のために最も大切なことは、一緒に応援を作り上げている仲間を信じること。「選手を後押ししたい」という同じ気持ちを全員が共有しているからこそ、距離が離れていても合わせることができるのかもしれない。部員たちの想いは一つなのだ。

指揮者の動きに集中して合わせる

應援指導部員は、試合前の華やかな企画は笑顔で楽しみ、試合になったら必死に選手たちを応援で後押していた。本番ではさらに完成度の高いパフォーマンスで魅了する。「人のために頑張れる人たち」が見せるさまざまな表情は、應援指導部と観客の想いを一つにして、選手にその想いを届けるのだ。

 

應援指導部代表・小竹栞さんのコメント

ーー今日の練習を振り返って、代表としていかがですか

慶早戦は試合前企画などもあり、例年やることが増えて部員も一生懸命だと思うのですが、その中で1年生から4年生まで部員一人一人が同じフィールドで活躍しているということを、4年生になって全体を見られる余裕ができてから感じ取れるようになりました。いろいろな人の頑張りが見られた総合練習だったと思っているので、試合に向けて実りのある練習だったと考えています。

ーー当日まであと1週間ありますが、もう少し詰めたい部分は見つかりましたか?

はい。本当にやることがいっぱいで手が回ってないところもたくさんあり、このままでは応援席に持って行けないというところもたくさんあります。この1週間部員全員が慶早戦のことしか考えずに慶早戦2連勝に向けてそれぞれがやるべきことをやって、最大の準備をして臨んでいきたいと思います。

ーー4年生は最後の野球早慶戦です。そこに懸ける思いは

本当にすごく大きく、とにかく2連勝したいという気持ちでいっぱいです。私たちの代はこれまで本当に恵まれていて、色々なドラマチックな展開や感動的なシーンを野球部の皆さんに見せていただいて、應援指導部に入って良かったと思わせてくれた存在でもあります。部員の皆も言っているのですが、そういう野球部に恩返しできるような形で、やることがたくさんあってどうしても試合を楽しむことができずに頭がいっぱいになってしまいがちな慶早戦ですが、試合に熱中して最後は悔いなく終えるように楽しんでやり切りたいと思っています。

 

(記事・取材:五関優太、長沢美伸)

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