いよいよ週末に控える早慶戦。応援席が完全に復活し、期待と不安を抱え、吹奏楽団・チアリーディング部の全部員が参加する総合練習が行われた。今回の総合練習から1年生も参加。これまでとは規模の違う絶対に負けられない一戦に備え、当日の試合前後の企画や誘導の流れを確認するとともに、満員の応援席の「応援指導」のため、試合を想定した練習に臨んだ。
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早慶戦では、他のカードとは違い試合開始3時間前の10時から試合前企画が行われる。男声ワグネル・ソサィエティ合唱団や落語研究会など普段は見られない他団体の演出に注目だ。そのため土曜日と日曜日でタイムスケジュールが変わったり、時間を調整するための應援指導部の企画が存在していたりと柔軟な対応が求められる。さらに、下級生や一貫教育校生のためのステージも用意されており、その概要も説明された。
試合後にもセレモニー企画が実施される。「おおわが慶應」「若き血」「慶應ワルツ」と一通りの流れを確認。さらに4年生が早大側でパフォーマンスする「陣中見舞い」、「早慶讃歌」など企画は盛りだくさんである。この早慶讃歌は今年野球殿堂入りを果たした作曲家の古関裕而氏によってつくられた曲であることも、応援企画責任者のSさんから解説された。慶大が掲げる「ロジカルな応援」はこのようなところから体現されているのだろう。
また、当日の誘導についても説明が行われ、自らの立ち位置を知ることで、当日どういう層を盛り上げていくのかを事前に考えることが大事となる。
ここまで約1時間半。ようやく試合を想定した練習に入る。総合練習でも4割近い時間を試合前後の企画や誘導の解説に割いており、早慶戦の規模の大きさが伝わると同時に、応援以外の業務の重要性を確認し、一人一人が役割を全うすることで3万人規模の大学スポーツナンバーワンのイベントが実施できるのだ。
総合練習では毎回恒例のスクリーンに映し出されたスコアボードをもとに行う試合想定練習。顔写真は両校野球部からの提供だと言う。応援企画責任者のMさんは「いろいろな状況の中、本質を見失わずに行動できるかが一番重要」と語り、普段と異なる客層への対応についても相手の立場に立って考えることが必要だと述べた。さらに野球応援担当(野球サブ)のKさんは、内外野分かれることに加え他業務もあるため、下級生にも重要な仕事を任せられる可能性があることに言及し、1年生を含め部員一人一人が意識を高く持つ必要性を語りかけた。
そして「練習」という名がつくものの、本番さながらの緊張感を持ち、まずは1回の攻防に入った。観客席の階段(ブロック列)で応援を指導する部員は動きを分かりやすく示すと同時に應援指導部員にもサインを出すなどと両立させながら取り組む。初めて総合練習に臨む1年生も堂々と演奏。人数が増えた上に上級生も4カード12試合で経験を積み、リーグ戦開幕前より迫力を肌で感じることができた。
しかし、6回裏の直後、本来ならばすぐにエール交換に入らないといけないタイミングで準備が遅れ、後の振り返りでは野球サブから厳しい言葉が飛ぶなど、多数の業務をこなす中での応援に課題も見つかった。
早慶戦では内外野2か所に応援席が設置され、7回には両方が合わせて演奏する。そのため、テンポも少し下げ、音がずれない工夫をしていたが、チアリーディング部員もこれにうまく対応し踊った。チャンスが続き、「ダッシュケイオウ」を連続で踊り、演奏し、選手を鼓舞する。この曲は昨年の野球部主将・下山悠介さん(R5商卒)が一番好きな応援歌と語っており、選手からの人気も根強い曲だ。
9回には塾生注目が行われ「みんな大好き『若き血』歌うぞー」と盛り上げてからこの名応援歌をみんなで熱唱。9回も「ダッシュケイオウ」を続けて披露して盛り上げた。その裏も守備でも部員の声が途切れる瞬間は1秒もなく、全力応援を貫徹した。
野球サブが「必ず早稲田に2連勝しましょう!」と呼びかけると、今日一番の大きな返事が返され、試合想定練習を締めくくった。
そして練習の最後に、応援企画責任者のMさんが「慶早戦に負けたら今まで頑張ってきたことが意味なくなってしまう。最後はみんな笑って終わりたい。やっぱり応援は楽しいし、その楽しいことを神宮球場に来た人だけじゃなくて、日本中に伝えたい。応援は楽しいという気持ち、勝つためにやっているんだという気持ち、一緒にやり切ろうという気持ちをどんどん伝播させよう」と観客みんなと応援を作り上げたいという思いを共有した。部員もホール響き渡る返事でそれに答えた。
今回の早慶戦に懸ける思いは特別だ。3年間満足に活動できずにいた。声援を選手に届けることができたとしても應援「指導」部としての本分は発揮できずにいた。応援活動をできずに卒業していった先輩方、当日来られない方などいろいろな人々の思いを背負っている。「少しでも執念を持っている人、どうしても勝ちたい、何があっても勝ちたいと思っている人が多い方が勝つと私たちは信じている」(野球サブKさん)。前日までに作り上げたロジカルな応援で当日観客と一緒に応援席を盛り上げて、最後は気持ちで勝った方が勝つ。その執念は、応援席に来る人々の目にも焼き付くことだろう。
(取材:長沢美伸)