【野球】投打の要が新緑の風吹かし宿敵撃破!春季最終戦で接戦を制す 早大③

野球戦評

5月30日(火)東京六大学野球春季リーグ戦 早大3回戦 @明治神宮野球場

3回戦までもつれ込んだ早慶戦。序盤から慶大先発・外丸東眞(環2・前橋育英)と加藤孝太郎(人4・下妻一)の投げ合いとなった。試合が動いたのは4回、主砲・廣瀬隆太(商4・慶應)に今季5本目となる左越本塁打が飛び出し、1点を先制する。外丸は5回に吉納翼(スポ3・東邦)にこの試合初安打を許すも、直球を変化球を低めに集める投球で散発4安打に抑え、リーグ戦初完封。投打の軸が最終戦に力を発揮し、慶大は宿敵・ワセダとの熱闘を制した。

 

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早大0000000000

◆慶大出場選手

打順守備位置  
1[3]吉川海斗(法4・慶應)
2[5]本間颯太朗(総3・慶應)
3[4]廣瀬隆太(商4・慶應)
4[9]栗林泰三(環4・桐蔭学園)
5[2]宮崎恭輔(環4・國學院久我山)
6[7]齋藤來音(環4・静岡)
7[8]水鳥遥貴(商3・慶應)
8[6]斎藤快太(商3・前橋)
9[1]外丸東眞(環2・前橋育英)

慶大バッテリー:○外丸ー宮崎

早大バッテリー:●加藤、伊藤樹ー印出

慶大本塁打:廣瀬5号(4回)

早大本塁打:なし

華の早慶戦第3ラウンド。早慶戦が平日に行われるのは4年ぶり、火曜日に行われるのは9年ぶりのこと。火曜日ながら8000人もの観客が、学生野球の最高峰である早慶戦の舞台を見届けた。勝った方が3位という大一番、勝つのは三色旗か、燕脂か。勝負の明暗は外丸、加藤の両先発に託された。

慶大は授業が休講になったことから、試合前から三塁側応援席は上段まで満席になっていた。試合開始の「若き血」が球場に響き渡る中、慶大の1回表の攻撃が始まった。ここ2戦では初回に複数得点をあげており、この試合も序盤から主導権を握りたいところ。吉川海斗(法4・慶應)と本間颯太朗 (総3・慶應)が凡退し、打席には廣瀬。両エースの投手戦ともなれば、好機を作ることは難しい。主砲の一発に期待がかかるが、ここは勝負を避けられ四球。しかし、栗林泰三 (環4・桐蔭学園)の打席中に廣瀬は牽制死、初回は無得点に終わる。

先発のマウンドには誰もが認めるエース・外丸。今季既に10試合に登板し、防御率は1点台と抜群の成績を残している。立ち上がり、早大1番・尾瀬雄大(スポ2・帝京)の放った打球を、遊撃手・斎藤快太 (商3・前橋)がファンブル。握り直して送球するもここは尾瀬の足が勝り、先頭に出塁を許す。2番・中村将希(教4・鳥栖)の打席、第2戦で打線が湿った早大は、初球からヒットエンドランを仕掛ける。結局犠打で1死二塁となり、外丸は毎試合と同じくピンチでギアを上げ、3番・熊田任洋(スポ4・東邦)を左飛、続く印出太一(スポ3・中京大中京)を遊飛に打ち取り、ピンチを脱した。

2回表、5番・宮崎恭輔 (環4・國學院久我山)が左線二塁打で1死二塁と好機を作る。しかし好調の齋藤來音 (環4・静岡)は擦った当たりの左飛、1戦目よりケガから復帰した水鳥遥貴 (商3・慶應)は外角低めの直球を引っ掛け一ゴロに倒れ、ここも先制とはならなかった。2回裏、外丸は打たせて取る投球で内野ゴロ3つに抑えると、3回表に吉川が敵失で出塁するも得点には結びつかず。出塁こそするものの、3回まで両打線ともエースの前に攻めあぐねていた。

このまま投手戦が続く雰囲気が漂う中、この男に一打が生まれる。4回表、先頭の廣瀬に対し、加藤の初球は外角に大きく外れる。2球目、印出はインコースに構えるが、加藤の135キロの直球は逆球となりど真ん中へ。それを見逃さなかった廣瀬の思いっきり叩いた打球は、左翼スタンドに飛び込むリーグ戦通算18号の本塁打となった。ここ2戦で、四球こそ多く選んでいるものの安打が無かった廣瀬。試合が拮抗している中、目を覚ますような一撃が、主砲のバットから生まれた。1点を先制した慶大だが、外丸は試合が動いてもブレることなく腕を振り続ける。直後の早大の攻撃で上位打線を迎えるが、たった7球で封じ込め、試合の流れを完全に掴む。

春季最終戦にて第5号が飛び出した

このまま畳み掛けたい慶大は5回表、斎藤快太 (商3・前橋)が遊撃手への内野安打で出塁し、外丸の犠打で2死二塁とする。打席には最近5試合で19打数10安打と、絶好調の1番・吉川を迎える。追加点の欲しいところ、初球を引っ張った良い当たりは右線際へのファウル。ここで加藤にこれ以上点を取られまいと意地を見せられ、変化球で一ゴロに打ち取られた。

追加点をあげられなかった5回表の直後、早大打線が外丸に襲いかかる。三塁側応援席からは「波乗りジョニー」が聞こえる中、先頭の5番・吉納がカウント0−1から直球を中前に運び、外丸はこの試合初安打を浴びる。続く野村健太(スポ4・山梨学院)が犠打で送り1死二塁とし、打席には小澤周平(スポ2・健大高崎)。1回戦の4回裏に外丸から同点適時二塁打を放っている好打者だ。それがバッテリーの頭によぎったのだろう、コーナーに直球を投げ分けるもこの試合初の四球を与える。マウンドに宮崎が行き外丸に声をかける。この声で落ち着くことができたのか、山縣秀(商3・早大学院)とはストライクゾーン内で勝負し、142キロの直球でねじ伏せ、加藤には低めに落ちる変化球で空振り三振に切ってとった。外丸はどんな時でも決して動揺することなく、自分の投球を見せ最大のピンチを脱した。昨秋の屈辱を味わった男は、ここ一番で強さを発揮した。

7回表、2死から水鳥が右線への当たりを放つと、病み上がりを感じさせない好走塁で二塁を陥れ、続く斎藤快はバットを一度も振ることなく四球を選ぶと、外丸に打順が回る。外丸に代打は出ず打席に向かうも、水鳥が三盗死。またもや追加点は奪えなかった。

離脱した水鳥は早大1回戦で復帰を果たした

この大一番を外丸に任せた堀井哲也監督の采配は吉と出るか、凶と出るか。7回裏、先頭の印出の打球に栗林泰が飛びつくも、ミットには収まらず。先頭打者に出塁を許すと、打席には前の打席で安打を放っている吉納を迎えるが、1点差でも犠打ではなく強攻策に出た早大。早大・小宮山悟監督の策は実らず、二ゴロの併殺打崩れで走者が入れ替わる形で1死一塁、続く野村は堅実に犠打を決め2死二塁とする。ここで打席には小澤。5回と同様に宮崎が外丸に声をかけにいき、ピンチに強い外丸は落ち着いて投じ、中飛に抑えた。外丸―宮崎のバッテリーが、強力稲穂打線に付け入る隙を与えない試合運びを立ち上がりから見せ、1点のリードを守る。

今季の外丸にはわずか1点のリードで十分であろう。しかし、最後まで何が起きるか分からないのが早慶戦。東京六大学野球で早慶戦が最終週に組み込まれるようになったのは、昭和17年秋以来だが、それが現在まで守られているのは、華の早慶戦という名に相応しい熱戦が繰り広げられてきたから。覚えているだろうか、昨秋の早慶1回戦、慶大は9回表に一打勝ち越しの本塁打を放つも、その裏に逆転サヨナラを許し、結局優勝を自ら手放すという激闘があったことを。そんな早慶戦を象徴するかの如く、先頭の熊田が中安、続く印出が4番ながら犠打を決め1死二塁となる。神宮には何かドラマが起きそうな匂いさえしていた。吉納の二ゴロで二塁走者は三進し、2死三塁。迎えるは、ここまで今季通算打率.179、本塁打2本の野村。打率は低いが、一発が出れば逆転サヨナラ、勝ち点を落とし4位という場面。ここまで大活躍をしてきた外丸の真価が試される時となった。外丸は、全球直球勝負を挑んだ。2球目、野村の打球は右翼ポール際に大きく打ち上がり、早大ベンチは湧き上がる。しかしその打球は右にそれ、大きなファウルとなった。直球が狙われていると分かっていても、外丸は自分の直球を信じた。4球目、9回ながら144キロを計測した渾身の真っ直ぐは、野村のスイングを上回り、ふらふらと上がった弱い打球は一塁ファウルゾーンへ。フェンスを恐れることなく吉川が追い、確実に捕球。この瞬間、外丸は大舞台早慶戦で自身リーグ戦初完封を成し遂げたとともに、宿敵撃破。勝利した慶大は勝ち点を取得し、3位で春を終えることとなった。

早慶戦3回戦、最後の試合はまさに投手戦という形となり、春季リーグ戦は幕を閉じた。外丸が昨秋の早慶戦で悔しさを抱き、冬を乗り越え迎えた今季リーグで、試合を重ねるごとに成長した。その真価を、この早慶戦という舞台で証明した。打つ方では廣瀬が会心の一打を放ち、結局その本塁打の1点を守り抜いた形となった。

3位で今春を終えた慶大。開幕戦を振り返ると、法大相手に守備が崩壊し、0−10と大敗での幕開けとなった。法大戦、明大戦では打順がなかなか決まらず、試行錯誤しながらの戦いとなった。その中で、外丸はもちろんのこと、投手陣ではオールドルーキー・谷村然 (環4・桐光学園)の台頭、森下祐樹 (総4・米子東)の大車輪の活躍が光った。その他にも荒井駿也 (商2・慶應)、小川琳太郎 (経2・小松)など若手投手が奮闘した。野手陣では経験が多い選手が少なく、試合ごとにメンバーが入れ替わることもあったが、佐藤一朗 (商4・慶應)、村上真一朗 (文4・城北)など4年生らの上級生としての意地、善波力 (商4・慶應)の復活の一打も見られた。水鳥は体を張ってチームを救い、本間は初の4番も経験し、レギュラーを掴んだ。斎藤快は慶大の内野を守り抜き、1試合5打点をあげた試合もあった。横地広太 (政1・慶應)や村岡龍 (商1・慶應)、上田太陽 (商1・國學院久我山)ら3人の1年生野手が神宮デビューを果たした。選手全員が自分にできることを模索し、勝ち点こそ落としたものの、一戦一戦を戦い抜き、いずれも3回戦以降に持ち込む健闘ぶりを見せた。完全優勝の明大とは4戦目の9回まで互角に戦ったほどだ。自力優勝の可能性が消滅しながらも、「慶應の歴史に恥じないように。泥を塗ってはいけないという思いで、勝ち点3を目指してやろうと思った」と齋藤來が語ったように、誰も下を向いてはいなかったし、有言実行で勝ち点3を奪取した。東大戦と立大戦では齋藤來や栗林泰らの調子も上がり、二人が中軸に座ることにより打線が機能し始めた。吉川がリードオフマンとして定着し、宮崎は扇の要として、また打撃面でも最終的には.327と結果を残した。最終週の早慶戦、2回戦では18安打15得点をあげ早慶戦史上最多得点差を記録するなど、実力を遺憾なく発揮した。そして、最終的に打率は1割台と相手陣からの徹底的な分析に苦戦した廣瀬も、ここぞという時に圧巻の本塁打を放ち、高橋由伸氏が保持する通算最多本塁打記録の23本にあと5本と迫る18本まで通算本塁打数を伸ばした。当初は戦力が不安視されたが、リーグ戦を戦っていく中で、「勝ち方」が確立され、チームが上昇気流に乗り、稲穂刈りも成し遂げるところまでに至った。しかし、慶大野球部の目指す場所はここではない。自慢の主砲であり、頼れる主将の廣瀬を軸に、秋季リーグ戦での王座奪還、そして日本一へと挑戦し続けていくことだろう。

そして、戦っているのは野球部だけではない。誰もがそれを感じる春になったのではないか。今季からは応援席が復活し、応援団と観客が一体となって声援を送る環境が復活した。各六大学応援団のリーダー、チアリーディング、吹奏楽団や、OBOG、学生たちが待ちわびた神宮である。新歓がなかった、ましてや入学式すらなかった世代の4年生にとっては、特に。選手たちの力になろうと、応援団たちも懸命にエールを送り続けた。勝っても負けても変わらずに。選手たちは応援に力をもらいながら、それに応えようと、白球に観客の想いを乗せて戦い続けたことだろう。選手だけではなく、さまざまな人が熱くなれる「神宮」が、確かに帰ってきた。

 

◆選手コメント

外丸東眞(環2・前橋育英)

緊迫した展開が続きましたが、全員で勝ち切ることができて良かったです。
春リーグたくさんのご声援ありがとうございました。秋リーグでは優勝できるように頑張りますので、引き続き応援よろしくお願い致します。

廣瀬隆太(商4・慶應)

今までチームにあまり貢献できていなかったので、決勝点のホームランを打ててよかったです。

(記事:野上賢太郎、写真:北村可奈)

 


【應援指導部】

6月17日 第七十回「六旗の下に」開催
場所:府中の森芸術劇場 どりーむホール
開場:14:00 開演:14:45
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♦概要

東京六大学の応援団、応援部、應援指導部が集結する、伝統あるステージ。オープニングでは六旗紹介が行われ、各校の応援歌に合わせて順番に塾旗、校旗、団旗が掲げられる。続いて各校ステージでは、六大学それぞれの特色を生かした演舞を披露する。圧巻のフィナーレステージにもご注目ください。

♦連盟委員長、Y.M
「六旗の下に」とは、東京六大学の応援部が一堂に会し行う、迫力あるステージです。本年度で七十回目を数える「六旗の下に」は、本年度は慶應義塾が主催です。日本の応援の先導者としての自負を持ち、作り上げます。

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