昨年の雪辱を晴らすべく臨んだ2部参入プレーオフ決定戦、対戦相手は2部10位の青学大となった。試合序盤は緊張感もあったか動きに硬さが見えた慶大イレブンであったが、熊澤維吹(文4・國學院久我山)が空気を一転させる。21分、慶大は左サイドから攻撃を仕掛け、菱川天風(総4・桐蔭学園)から完璧なクロスが送られると、このボールに熊澤維吹が走り込み高い打点から頭で合わせ先制ゴールを奪う。さらに51分には華麗なパスワークから田中雄大(商2・成城学園/三菱養和SCユース)が右足で冷静に流し込み追加点。慶大が試合の主導権を確実に握ったかと思われたが68分、青学大にゴールを許し点差は1点に。2部昇格のためには勝利が絶対条件となる慶大は5バックで守備重視のフォーメーションを作るも、青学大の猛攻を止め切れず幾度となくピンチを招く。試合終了間際にはゴール前へボールを運ばれ失点をしかけたものの、DF陣が凄まじい集中力を見せ同点ゴールを与えない。試合最終盤はボールを保持される展開が続いたものの、1点のリードを守り切ったまま試合終了。慶大は昨年のリベンジを果たし、見事2部返り咲きを決めた。
2023/12/2(土)11:00キックオフ @ブリオベッカ浦安競技場
【スコア】
慶應義塾大学2―1青山学院大学
*慶大は2年ぶりに2部昇格が決定
【得点者】
21分 熊澤維吹(慶大)
51分 田中雄大(慶大)
68分 森夲空斗(青学大)
◇慶大出場選手
GK
1 竹内秀太(商4・桐蔭学園)
DF
2 内藤豪(法3・駒沢大高)
5 山口絋生(商3・國學院久我山)
3 山本献(商4・國學院久我山)
MF
11 塩貝亮太(商4・暁星)
20 田中雄大(商2・成城学園/三菱養和SCユース)
14 角田惠風(商2・慶應/横浜F・マリノスユース)→73分 6 道家拓真(環4・加島学園)
8 菱川天風(総4・桐蔭学園)→70分 23 千代田和真(政4・慶應)
FW
7 熊澤維吹(文4・國學院久我山)→90+2分 17 荘司慈英(商3・慶應)
29 茅野優希(政3・慶應)→77分 13 朔浩太朗(理1・学習院高)
10 塩貝健人(政1・國學院久我山)→81分 25 香山達明(経3・慶應志木)
昨年の12月3日、慶大は2部残留をかけた一戦でまさかの逆転負け。3部降格を余儀なくされた。今年度は雪辱の舞台を経験した山本献(商4・國學院久我山)が主将となり、3部を一年間戦い抜き3位フィニッシュ。2部自動昇格とはならなかったが、2部参入プレーオフ決定戦に進出することとなった。2部再昇格をかけた一戦の対戦相手は青学大(2部10位)、試合会場は昨年悲劇を味わったブリオベッカ浦安競技場となった。慶大の2部昇格の条件は『勝利』のみ。引き分けも許されない非常に厳しい条件となるが、荒鷲軍団の勝利への執念を見せてほしい一戦となった。
慶大ボールで試合開始。前半開始から15分ほどは慶大イレブンにプレッシャーがあったか動きに硬さが見え、青学大ペースで試合が進む。しかし守りからリズムを作った慶大は徐々にボールを保持し始め、相手陣内へじわりじわりと攻め込み得点の機会を伺う。すると20分、慶大はこの試合初のコーナーキックを獲得。ニアサイドへ低弾道のボールを送るもここは中に陣取る味方までボールが渡らず先制とならない。ただその直後の21分、山本献がセンターサークル付近でボールを持つと、左サイドへ抜け出した菱川天風へ絶妙なスルーパス。これが菱川天風の足元にピタリと収まりそのまま中へクロスを送る。するとこのクロスボールに反応した熊澤維吹がペナルティエリア内へ素早く侵入し、高い打点から頭で合わせる。この強烈なヘディングシュートが相手ゴールネットに突き刺さり、慶大が待望の先制点を奪った。
幸先よく先制に成功した慶大は勢いそのまま追加点を狙いに行く。27分には、先制ゴールの熊澤維吹が相手ゴールライン際でボールをキープし、ペナルティエリア内の塩貝健人(政1・國學院久我山)へボールを託す。パスを受けた塩貝健人は中へ切り込みシュートを放つもここはキーパー正面に飛び、惜しくも追加点とはならない。その後30分以降は両チームともにペナルティエリア付近までボールを運ぶものの、シュートでプレーを終えることが出来ず、得点は生まれなかった。ただ慶大は1点を先取したことで前半終盤は余裕も生まれ、守備と攻撃において良いリズムで試合運びができていたと言ってよいだろう。このまま1-0で前半は終了し、慶大の1点リードで試合は後半へ。
後半は前半の中盤以降でリズムをつかんだ慶大ペースで試合が進む。まずは48分、慶大がペナルティエリア右の好位置でフリーキックを獲得し、山本献の正確なクロスがファーサイドへ送られる。ここは相手に弾かれてしまうもボールは後方へ流れ、コーナーキックに。この得点のチャンスに菱川天風からペナルティエリア内中央へピンポイントクロスが送られると、再び熊澤維吹が頭で合わせる。体勢を崩しながらもうまくミートさせたシュートを放つもボールは惜しくも枠外へ。後半開始早々チャンスを量産する慶大は51分、右サイドから攻撃を展開し、熊澤維吹から塩貝亮太(商4・暁星)へパスが送られると、塩貝亮太はシュートではなくパスを選択。塩貝亮太からのグランダーのパスがペナルティエリア内にフリーで陣取る田中雄大(商2・成城学園/三菱養和SCユース)の元へ渡ると、田中雄大が落ち着いて相手ゴールへ流し込み欲しかった追加点を奪う。ゴール後、田中は応援エリアの選手たちの元へ駆けつけ共に喜びを爆発させた。
2点のリードを奪い完全に試合の主導権を握っていた慶大だったが60分台に入ると、相手選手の負傷により足が止まる時間が度々生まれる。すると保っていたリズムを崩されたか68分、右サイドからの攻撃を許し簡単にクロスを上げられると、一瞬の隙をつかれヘディングシュートを決められてしまう。あっという間の失点だっただけに選手たちも円陣を組み直し、気持ちを入れなおして残りの時間に臨むこととなった。
残り時間20分を切った時点で慶大は選手交代で、3-4-3のフォーメーションから5-3-2の守備的なフォーメーションに変更。1点を守り切る体制に入った。しかしながら守備の人数が増えたにも関わらず、それをものともしない青学大の猛攻に苦しむ。40分台に入ると、コーナーキックやフリーキックから得点を狙われ、ポストの横をかすめるような危機一髪のシュートを放たれる場面も目立ち、慶大にとって我慢の時間帯が続く。後半アディショナルタイム以降は青学大がさらに攻撃の時間を増やし、質より量で慶大ゴールに迫り続ける。慶大は再三ゴール前にボールを運ばれ同点のピンチを招くものの、竹内秀太(商4・桐蔭学園)、山本献ら4年生がDFラインの統率を取り、簡単にはゴールを割らせない。青学大の怒涛の攻撃に苦しむも最後は相手陣内へボールを運ぶなど時間を上手く使った慶大。最後はヒヤヒヤする展開となったが1点のリードをきっちりと守り切り、2-1で試合終了。慶大の2年ぶりの2部昇格が決まった。
「3部初代王者」を目標に掲げた今シーズンの慶大。結果は3部3位に終わったが、結果的には2部参入プレーオフ決定戦で勝利を収め、大きな目標の一つであった2部昇格を無事達成した。今シーズンはけが人やコンディション不良の選手が多く、慶大にとっても難しい戦いを強いられたシーズンとなったことだろう。だからこそ代わってピッチに入った選手たち、ベンチ入った選手たちが各々のできることをやり切り、one teamで最後まで戦い抜いたことは来年以降の大きな糧になることだろう。塩貝健人は1年生ながらリーグ戦15得点でリーグ得点王を獲得。スーパールーキーの今後のさらなる飛躍から目が離せない。さらにDFラインでは、内藤豪(法3・駒沢大高)、山口絋生(商3・國學院久我山)、入江修平(政3・慶應)といった下級生の頃から試合に出場している選手たちのキャプテンシーに来年は期待したいところ。また、田中雄大、角田惠風(商2・慶應/横浜F・マリノスユース)、荘司慈英(商3・慶應)といったゲームコントロールに長ける選手たちの指揮能力のさらなる向上にも期待がかかる。そして攻撃面においては、塩貝健人はもちろんのこと、朔浩太朗(理1・学習院高)、藤井漱介(商1・静岡学園)、立石宗悟(法2・桐蔭学園)ら若鷲たちが得点を量産し、慶大を1部へ導いてくれることに期待したい。来シーズンの慶大の2部での戦いが今から楽しみだ。
▽以下、監督・選手インタビュー
♦淺海友峰監督
――1年で2部返り咲きです!今の気持ちを教えてください!
すごいホッとしています。なんとしても2部には戻らないといけないという思いがあったので。
――試合前は選手にどんな言葉をかけましたか?
サッカーと本気で向き合える状態を作ってほしいということと、去年はここで負けていて乗り越えなきゃいけないということを話したんですけど、しっかり4年生中心に頑張ってくれたと思います。
――試合後は?
よく頑張ったというところと、4年生が逃げなかったところが素晴らしかったという話をしました。
――どのようなゲームプランで試合に臨みましたか?
失点までは想定通りでした。3点取ろうということを話していたんですけど、2点目を取った後に引いてしまったので、そこは攻撃的にいく必要があったのかなと思います。やっぱ2-0のサッカーの怖さを感じる試合になりましたね。最後は5-3-2にしたんですけど、その形はあんまり出したくなかったと今思います。
――先制点をとって追加点、という理想的な試合展開になりました。選手の戦いぶりをどう評価しますか?
前半15分くらいは動きが硬くて大丈夫かなと思っていたんですけど、だんだんとボールを受けれるようになってからうちのペースで進んだかなと思います。後半のしたたかさみたいなところはまだ足りないし、相手にボールを持たれてからは太刀打ちできていなかったなと感じたので、ここから伸ばしていきたいです。
――来年に向けて新チームが始動しますが、どんな戦いをしていきたいですか?
3年生にこの経験を糧にしてもらわないと困るので、4年生が残してくれたものをより良い形にしてほしいなと思っています。
♦DF 山本献(商4・國學院久我山)選手
――1年で2部返り咲きです!今の気持ちを教えてください!
ずっとチームを昇格させなきゃいけないということは、自分がキャプテンになった時から思っていて、それが全員の力を合わせて達成できたので嬉しいです。
――去年は入れ替え戦で敗北。3部降格と悔しい思いをしましたが、どんな思いで今日の試合に臨みましたか?
この場所にトラウマだったり、個人的には悔しい思いだったりが詰まっていたんですけど、そういったことを考えてしまうとキリがないので、まずは目の前の試合に集中するということをチーム全体としては意識して臨みました。
――今日の試合を振り返っていかがですか?
前半を1-0で折り返したのは去年の展開と同じだったので、メンタル面を含めてチーム全体で後半は追加点を取りに行こうと強気で攻められたことで追加点を取れたと思いますし、踏ん張って粘って勝ち切ることができたのが収穫だなと思います。
――主将として戦ってきた1年間を振り返っていかがですか?
自分自身がやってきたことがかっこいいことじゃなくても、先頭に立ってピッチで走り続けるということが一番大事なことだなと思っていたので、ずっと試合に出させてくれた監督に感謝したいですし、1年間けがなく完走できて良かったなと思います。とにかくいろんな人が1年間を通して自分のことを支えてもらってやってこれたので、ここまで来ることができたのはチームの仲間であったり同期であったりのおかげなのかなと思っています。
――来年、1部昇格をかけて戦う後輩へメッセージをお願いします!
1試合1試合後悔なく臨んでいくということをコンセプトとしてやってきたので、そういったところを考えて1試合1試合やっていけたらいいのかなと思います。
♦MF 菱川天風(総4・桐蔭学園)選手
――今のお気持ちは
嬉しさもあるのですけれど、去年自分も1年前にここでピッチに立っていて、逆転負けというのも経験しているので、すごい安堵の方が大きいかなというのが率直な感想です。
――最後の試合でアシスト、ご自身のプレーを振り返って
自分の持ち味は左足のキックというところだったので、そこでチームの勝利に貢献できて、最後の試合でそういうプレーができてすごく良かったなというふうに思います。
――去年逆転負けで降格したこの会場で、どんな思いで臨んだか
今年2部に上がるというのは自分たちの中で絶対目標でやってきて、優勝というのをチームでやっぱり目指していたのですけれど、そこが途中で途絶えてしまったという中で、そこからいかに上級生、4年生が昇格という目標をぶらさずにどう戦っていけるか、逃げずに戦えるかというところはすごく考えて生活してきました。
――ソッカー部の4年間を振り返って
慶應としても個人としても、決して順風満帆な4年間ではなかったのですけれど、最後2部に、慶應のあるべき姿というところに少しでも近づけたというところでは良かったのかなと思います。
――来年2部で戦ってくれる後輩たちへ
絶対1部昇格してくれという感じです。
♦MF田中雄大(商2・成城学園/三菱養和SCユース)選手
――今のお気持ちは
ホッとしているというのと、去年は自分は怪我をして試合に出れずにスタンドで応援していて、スタンドから4年生が悔しがる姿というのを見ていたので、今年こそは4年生を最後笑顔で送り出したいなというところで本当に安心というか、嬉しいというよりもホッとしているというのが今の感想です。
――ゴールの瞬間を振り返って
茅野くん(=茅野優希)が上手くスルーして自分のところでフリーでシュートを打てたので、あとはもう枠入れることだけを考えて落ち着いて蹴りました。
――今日の試合全体を振り返って
特に前半、自分たちが良い形でボールを持ったり攻撃できたりしていて、実際ゴールも奪うことができて。去年前半1ー0で折り返して、最後の最後に2点やられて降格したので、もう1点、2点取りに行くという中で、後半自分がゴールを決められたのでよかったです。
――来年2部でどう戦っていきたいか
自分たちの学年は4年生になった時に1部でやっていたいという気持ちがあるので、もちろん降格しないのもそうですし、昇格できれば最高の1年になるのかなと思います。
♦FW熊澤維吹(文4・國學院久我山)選手
ーー2部昇格をかけて、このチームで最後の試合でした。どんな思いで本日を迎えられましたか?
4年生が最後にチームのためにできることは「昇格」だけだと思うので、その舞台を絶対残したいと思いました。
ーー天風さんからのパスから先制点でした。振り返っていかがですか?
本当に良いクロスが上がってきて、良い形で入ってボールを触って点を取ることができたので、めちゃめちゃ痺れました。
ーー昨年の悔しい試合を経験されて、今のお気持ちを率直にお願いします
去年の借りがあって(ブリオベッカの舞台が)「苦い場所」という記憶があったので、今日このように勝って昇格を決めて、新しい記憶に塗り替えられたことはすごく良かったと思います。
ーー2部で戦う後輩たちへエールというか、一言メッセージをいただけますか?
みんなで勝って最後に笑って終われたので、本当に良かったです。厳しい場面が絶対にあると思うので、その時は同期たちを信頼してしっかりと乗り越えて、1部に昇格してほしいなと思います。
(取材:長掛真依、金子拓登、佐藤光、松田英人)