延期となっていた東京六大学春季リーグが8月10日に開幕する。
それに先立ち、慶應スポーツでは開幕前企画を実施した。
第5回は攻撃の中心を担うことが予想される正木智也選手(政3・慶應)だ。
今季、正木に期待が集まるのは必然なのかもしれない。昨年、打線の中心を担ったのは、プロ入りが決まった柳町達(R2商卒・現福岡ソフトバンク)や、郡司裕也(R2環卒・現中日)をはじめとする4年だった。そのなかでも正木は2年ながら長打力と勝負強さを武器に活躍。昨春にクリーンアップを任され、全試合にスタメン出場を果たし、打率.324を記録した。また、昨季には計7打点を挙げる活躍などで見事にベストナインを初受賞し、リーグ優勝に大きく貢献した。まさに、名実ともに慶大の顔となっている。打線の中心であった選手が抜けた今、正木にかかる期待は高まる。
正木自身、そのことを強く感じているように見えた。昨年まで不動の4番として君臨した郡司。正木はその後ろの5番を任されることが多かったが、常に虎視眈々と4番の座を狙っていたという。しかし、それは最後までかなわなかった。「郡司さんの存在が大きくて」。郡司の後を打つ打者だからこそ分かる存在感の大きさがある。技術的な面だけでなく、チームから集める信頼や、チームに与える影響力。「郡司さんを超えるような4番打者にならなくてはいけない」。そう言い切った正木には、強い覚悟が見て取れた。一番近くで「4番・郡司」の背中を感じ、4番への意識が強い正木。だからこそ、新時代の慶大打線の中心となれるのではないだろうか。
もちろん、中軸を任されることに対するプレッシャーもあるだろう。それでも、正木はグラウンド上で表情を変えることはない。クールな表情の裏で、熱い気持ちを抱え、常に自身にかかる期待と戦っている。追い求めるのは、「自分らしい」4番打者。「郡司さんとは違った4番でも良いと思いますし、自分らしいものを見つけられたら」。大きな変化が予想されるチームの中で、いかに自分の色を出せるか。今年の慶大にとって「自分らしい」という言葉は、ふさわしい言葉だろう。自分らしさを体現するうえで、自身の理想の打撃は「逆方向に本塁打が打てること」と語る正木。昨春の東大2回戦ではライトスタンドへの本塁打を放つなど、理想とする打撃に少しずつ近づいている。理想を追求した果てにある、「自分らしい」4番打者の姿。その存在が今年のチームのカギとなるような気がしてならない。昨季、リーグ戦優勝を勝ち取り、日本一を成し遂げた慶大は、その中心となった選手が抜け、堀井哲也新監督が就任した。チームの変化の中心で、正木が「自分らしい」スタイルを追求し、自身のプレーで慶大の色をどのように塗り替えていくのか、楽しみにしたい。
(この記事は昨秋の取材をもとに、発売中止になった春季リーグ戦東京六大学野球合同誌用に執筆しました)
(記事:菊池輝)