第101回関東学生陸上競技対校選手権大会(関東インカレ)を控える慶大競走部。注目選手が2人の2年生・三輪颯太(環2・西武文理)と田島公太郎(環2・九州学院)だ。短距離ブロックの三輪は高校3年時に全国高校陸上大会で100mと200mの2冠に輝いた実績を持つ。一方長距離ブロックの田島は、今年行われた第98回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)で1年生ながら関東学生連合の一員として7区を完走した。今回は注目の2人に対談形式でお話を伺った。
コンマ何秒の世界でより速く、三輪
高校時代に2冠に輝き、鳴り物入りで慶大に入学した三輪。しかし昨年は決して順風満帆なシーズンではなかった。挫折を味わった三輪は自ら練習を工夫し、1秒にも満たない時間で勝負する世界で勝つために努力を続けていた。
声援を力に、田島
今年の箱根駅伝で7区を完走した田島。20kmの間応援の声が途絶えることはなかったという。応援の存在の大きさを感じた田島は有観客で行われる関東インカレで声援を力に変え、1部残留のため「自分が得点源に」と意気込んだ。
※今年行われた第98回箱根駅伝において、沿道での応援の自粛が求められていました。新型コロナウイルス感染拡大防止にご協力ください。また、関東インカレにつきましても、大会HPをご確認の上、応援をお願いいたします。
お互いの印象
――他己紹介お願いします
三輪:田島くんは実は大学で同じ学部でクラスも一緒だったので、最初から関わる機会が多かったです。最初はどんな子か全然知らなかったですが、第一印象は、話し方とか僕以外との関わり方を見ても誠実さが伝わってくるなと思いました。今は、誠実さにプラスして人懐っこさもあり、先輩からも結構愛されていると感じています。陸上のことについても真面目で、競技場では仲間への田島のゲキが良く聞こえて、熱い男だなと思います。それが箱根にもつながっていると思っています。
田島:高校の時から三輪くんのことは、100mと200mの2冠を達成した人ということで一方的に知っていました。(三輪が)どこの大学に行くんだろうと情報がないまま、入学が近づいてきたら急にラインのグループにいて(笑)、「やばいな」と思って……そんな人に気安く話しかけられないと思っていました。三輪はすごいストイックなので「俺に話しかけるな」という雰囲気の人だと思っていたら、同じくクラスになり、話してみたら想像の8倍くらいおっとりしていてどんな話でも柔らかく受け取ってくれました。練習の時でも、青い炎というか、静かにクールにこなして、やるべきことを自分で考えていました。三輪は練習にやり投げも導入していて、冷静な視点で自分を常に客観視しつつ、通常思いつかないような点を課題として取り上げているクレバーな面があるから、2冠をできるのだと思いました。
――クラスと競技中の雰囲気は違いますか
三輪、田島:違いますね。
三輪:田島は周りと接するときはフレンドリーで誠実ですが、試合だと熱い面を持っています。
田島:三輪はクラスではおっとりしています。僕はまだ三輪のレースを生で見たことがないですが、配信で見ると顔をアップで見ることができて、クラスでは見ないような鋭い目つきで前を真っすぐ見据えています。その時も心のどこかに冷静さを保っているように見えます。競技と私生活のメリハリがはっきりしていると思います。
――やり投げをやっていた目的
三輪:肩回りが動かないと感じていて、腕振りでも肩回りを使うので改善したいと思っていました。やり投げの練習をしている人を見て、あの練習は100mでも使えそうだと思い、2週間くらい投擲(とうてき)ブロックに参加しました。自分の課題を解決手段が多くあったから魅力を感じました。
――田島さんは他競技・種目の練習を取り入れていますか
田島:長距離は陸上の中でも異端児で、短距離や投擲などはウエイトを取り入れたりもしていますが、長距離は重くなればなるほど前に進まないので、軽さが命です。練習内容としては真逆で、取り入れることは難しいですね。
日々の生活
――ブロックを越えた交流は
田島:長距離は特殊です。
三輪:でも合宿所が田島と同じで一つ屋根の下で暮らしています。
――合宿所での生活
三輪:僕は寮に入ったのが昨年の冬からで、それまで一人暮らしをしていて、一食欠けてしまうなど栄養面が難しいと感じていました。生活リズムも崩れてしまったのですが、寮に入ってから共同生活になるので、生活リズムが整って、記録も上がりました。
田島:熊本が出身で上京して来てホームシックにもなりかけたのですが、常に周りに仲間がいて精神面で支えになり、寂しいという感情はなかったです。周りに同じブロックで競っている仲間がいることで、自分で生活を律しやすいです。見られているという緊張感もありつつ、うまく和ませることができる仲間もいて充実した生活が送れています。
――部活と授業の両立は
三輪:昨年はオンライン授業がほとんどだったので、SFCキャンパスに行く移動時間がなかったです。今年は合宿所に入って、合宿所から競技場までが近いことがあって、対面授業が増える中でも陸上への時間は確保できています。高校に比べても授業数は少ないので勉強と陸上の両立はできていると思います。
田島:授業を決める時の抽選にことごとく落ちてしまって(笑)、キャンパスに週1回しか行ってないです。その日が練習のオフ日なので、すごい両立できています(笑)。
入学してからを振り返り
――三輪さんは昨年1年間苦しいシーズンを過ごしたと聞きました
三輪:陸上を中学からやってきて、6年間毎年自己ベストを更新してきたのですが、去年が唯一更新できなかったです。でも挫折を味わえた良い経験だと今は考えています。それを上手く良い方向につなげられたらと思っています。昨年は学びを得た年でした。
――田島さんは箱根駅伝にも出場
田島:高校が強豪校で厳しく、監督の完全管理下のチームでしたが、慶大は自主性を重んじていて、高校と大学とのギャップを感じていました。その時に楽な方に流れるのか、自分に厳しくするのか常に考えていました。1年目は大きな大会などで貴重なレースを経験し、いかに自分の意志で生活を送るかということを感じました。
――強豪校出身、なぜ陸上強豪校ではない慶大に進学
三輪:入る学部を考えた時に、スポーツ推薦だとスポーツ科学を学ぶ体育科に入ることになると思いますが、大学で勉強も楽しみながら競技をやりたいと思っていまいした。理系と文系が合わさった環境情報学部という面白そうな学部が慶大にあり、魅力的に思えたので慶大に入りました。
田島:長距離のコーチから慶大の話を聞く機会がありました。僕がいた高校のチームは県駅伝を14連覇していたのですが、高校2年の時他校に負けてしまいました。それまで当たり前だと思っていた「勝ち」が実はそうではないと、盲点となっていたことに気づきました。そこで「勝ちの伝統」はどうやって作られてきたのだろうと思い、それを自分で作りたいと考えました。関東には箱根駅伝常連校もあるのですが、慶大はポーツ推薦がなく勉強で入ってきた「雑草軍団」で、そこで箱根駅伝に行ったらかっこいいと思いました。推薦がいないというチームに憧れて入学しました
――三輪さんは高校時代との違いは何か感じていますか
三輪:一番違うと感じるのは周りの環境で、高校の時は地面も土で整備されてなかったですし、部活の仲間も本気で陸上をやっているというより青春しに来ているという人も多かったです。慶大は本気でやっている人しかいないので、誰とでも陸上のことについて本気で話せることが面白いです。陸上のことを常に考えていられる良い環境です。高校の時は顧問がメニューを決めてそれを自分なりに工夫したりはしていましたが、大学では自主性を大事にしていて、自分で考えないといけないです。しかし、陸上について考える時間は増えているので楽しいです。
――長距離の田島さんが思う短距離の難しさ
田島:長距離では数秒差で勝負がつくことが多いですが短距離はコンマの世界です。長距離はラスト1週のスパートのかけ方やスタミナを温存しておくかなど、レース内でのストーリー性が重要になってきます。短距離ではそれまでいかに準備をしてきて、自分のフォームを研究して、スタートラインに立つまでが(長距離より)重要になってくると思います。僕たち(長距離)はレース内での展開、短距離は準備期間がものを言うのだと思います。
――短距離から見て長距離の難しさは
三輪:短距離は自分で決められたレーンを走り、1人でも成り立ちます。長距離はレース内での展開と、自分のレーンはなく大人数で走って、1500mが「陸上の格闘技」というくらい周りとの駆け引きが生まれてくることが難しいなと思っています。短距離は、厳密にいえば速い選手と走ると力むこともありますが、1人で走っても記録は出る世界なので、長距離は他の人との駆け引きが難しく見えます。
競走部OB・山縣亮太選手(H27総卒・現セイコー)について
――山縣選手はどういう存在
三輪:種目も一緒で、山縣選手への憧れも慶大に決めた理由の一つです。実際に入部して山縣選手とも話す機会ができて、憧れの存在がこんな身近にいるということが今でも信じられないです。そういう面でも恵まれている環境だなと思いますし、身近にお手本がいるので参考になります。
田島:山縣選手という存在は大きいですし、種目は違っても無視できる存在ではないです。話しても面白い発想を持っていたり、面白い視点で物事見ていたりしていました。種目は違いますが、刺激を常にもらい続けています。
三輪:僕はやり投げの練習も、山縣さんから影響を受けました。山縣さんを参考に、別の視点から見るのも良いと考え、投擲部門に行ったというのもあります。
山縣選手インタビュー記事はこちらから→【新入生歓迎号】特別公開!山縣亮太選手 インタビュー全文 | KEIO SPORTS PRESS (keispo.org)
関東インカレに向けて
――意気込みをお願いします
三輪:昨年も100m、200mで出場しましたが、結果は予選敗退で苦しいシーズンになりました。今年は、昨年のシーズンベストもすでに更新していて調子も上がってきていると実感しているので、1部残留に少しでも貢献したいです。
田島:今年も昨年と同じくハーフマラソンの予定ですが、ここ最近長距離種目が得点源になっていなく、投擲ブロックなどが頑張って1部残留できていると思うで、今年は僕が得点源になるつもりでいます。昨年も出場して感覚もつかめているので、経験を活かして先頭争いをしていけるようにしたいです。
※関東インカレは短距離、長距離のほかにも跳躍や投擲競技なども行われ、合計点を大学ごとに競う。
――今年は有観客
三輪:僕が高校3年の時にセイコーゴールデングランプリという国立競技場で行われた大きな大会がありました。僕が出場した時は無観客で、観客がいない国立競技場は臨場感はありましたが、空しい気持ちがしました。しかしこの間同大会の観戦に行った時は有観客だったので、以前と全く雰囲気が違いました。応援してくれる人が身近にいてくれることで自分の力にも変えられます。関東インカレも国立競技場で行われるのですが、観客がいる中で走れることを楽しみにしています。
田島:ハーフマラソンは昨年よみうりランドで行いました。観客がいなく、21.0975km、60分かかる試合を静まり返った中走って、寂しかったです。補助員さえいない場所もあり、本当に心細く、自分のペースがつかめないところもありました。箱根駅伝に出場した時は20kmのレースで1回も声援が途切れることなかったです。そういう環境で走ってみて、心が折れかけた時に背中を押してくるのが声援なのだと感じました。長距離は長い時間走るので、声援の存在は大きいです。今回も(国立競技場内は)有観客ということで本当に楽しみで、いいところを見せたいです。
――9年ぶりに国立競技場で開催
三輪:昨年の場所と比べたら大きな場所で観客もいますし、オリンピックが行われた場所で走れることに感動も覚えます。気持ちが高ぶります!
田島:ハーフマラソンは昨年遊園地を走りましたが、今年はちゃんとした施設で走れることが楽しみです。市街地に出て、オリンピックが行われた場所を60分間占有できるというのは貴重な経験だと思うので、思いっきり走りたいです!
――お忙しい中ありがとうございました!
(取材 長沢美伸、一色裕登)