ツールの共有や2部門体制への移行。應援指導部89年の歴史の中でも2022年は大きな変革があった1年だった。さらに応援活動の制限も緩和されつつある中、総合練習や部員への取材を行ってきた担当記者の視点で、應援指導部の1年間を振り返る。
「應援指導部員だからできる」
激動の1年だった。2022年春、神宮球場のメイン台で応援を指揮していたのはチアリーディング部に所属する2年生女子部員。彼女たちは東京六大学の応援団が集まる「六旗の下に」でも応援指揮を務めた。夏には應援指導部が受けていた処分が解除されると、聴覚に訴えて応援する吹奏楽団と、視覚に訴えて応援するチアリーディング部の2部門で活動することが発表された。
3年ぶりの内外野応援が実現した秋季早慶戦を経て、迎えた12月の定期演奏会。新たにチアリーディング部に加わった男子部員も女子部員と一緒にステージに乗り、今まで音楽に触れてこなかった部員も吹奏楽団の一員として演奏し、3年間続けてきた改革の一つの完成形を示した。
全部員でのミーティングなど、話し合いを重ねてたどり着いたのがこの形だった。特にこの1年は、「やりたいこととやるべきことが両立する部活」という大きな目標達成のための手段の一つとして、ツールの共有が行われた。応援指揮や塾旗など應援指導部が持つツールを、性別や学年に関係なく希望する人ができるように変えたのだ。それは「旧リーダー部/吹奏楽団/チアリーディング部だからできる」ではなく「應援指導部員だからできる」という部員一人一人のアイデンティティの再認識にもつながる。
今後はその体制を強固なものにするとともに、部が変わったことやその意図が十分に伝わっているとは言えないのが現状であり、さらなる情報発信が課題になる。
同時に、組織のあり方を変えることをゴールにしてはいけない。体制が安定した時に、部員が「やりたいこととやるべきことが両立する部活」であると感じられ、より良い応援を作れなかったら意味がない。2023年に向けて、副代表・村上圭吾さん(3年)は「応援のスペシャリストであるという意識をもっと強めていきたい」と語った。今年はその環境が整った1年だったのではないか。
応援できるありがたさ
応援面でも変化のあった1年だった。野球では2019年以来の内野席での応援。1年時に内野応援を経験している4年生を含めた部員全員で試行錯誤を繰り返し、一から新しい応援の形を作っていく様子が見えた。特に秋のリーグ戦開幕前の総合練習では、部員の「人を想う気持ち」を強く感じた。「体育会の人たちの努力を全て知れるわけじゃないのですけれど、ちょっとでも應援指導部の応援が力になったと思ってもらえる一心で応援させてもらっている」。前応援企画責任者のKさんのこの言葉にすべてが詰まっている。
コロナウイルスの影響でそれまで当たり前だった「試合会場に行ってみんなで応援する」ということができなくなった。その苦しさを知っている代だから、応援できるありがたさを誰よりも感じている。野球以外の様々な競技の応援にももっと行けるようになることが予想される来シーズン。自分たちと同じ慶大生の試合を応援しに行くという文化を取り戻すためにも、應援指導部が果たすべき役割は大きい。
新たな一歩
思い返せば東京六大学史上初の女性主務は2018年、慶大野球部の小林由佳さんだった。多様な世の中を先導してきた慶大の体育会だが、その体育会を応援しているはずの應援指導部は、長く続いているという理由で神聖視されていた伝統の中に取り残されていたのかもしれない。大学に処分されたから変えたのではなく、そのことに気付いてあるべき姿に自らの意思で変えたのである。リーダー部の廃止は退化ではなく、まだ見ぬ景色への新たな一歩。大きく変わったことでまだ迷いがある部員もいるかもしれないが、一人一人があるべき姿を追い続け輝こうとしていた。一度神宮球場に足を運んで、見てほしい。部員の表情は確かに明日への希望に満ち溢れている。
(記事:長沢美伸)