間もなく開幕する東京六大学リーグ戦では応援席も復活する。そのリーグ戦応援に向けて行われるのが應援指導部の総合練習だ。神宮球場を再現し全体の流れの確認を行うと同時に、観客に応援を「指導」することの課題や重要性を確認し、本番に向けて細部まで練られた練習に取り組んでいた。
再現
ホールの通路に立って席に向かって呼びかけ、時には振り返って試合状況の確認も行うチアリーディング部員。そして鳴り響く吹奏楽団の演奏。スクリーンには恒例のスコアボードも映し出され、神宮球場を再現して應援指導部の総合練習が行われた。この練習は、毎シーズン野球の六大学リーグ戦開幕前と早慶戦前に行われ、吹奏楽団・チアリーディング部の両部門で応援全体の流れを確認するものである。
今季より応援席が復活することも踏まえ、総合練習は2日間行われた。1日目にはコンセプトや変更された感染対策、誘導、配置や全体の流れなどの説明が行われ、2日目はそれを実際にアウトプットする機会である。根性論でただ体力勝負の練習をするのではなく、頭も体を使う綿密に練られた練習だ。
2日目の練習では早速、法大との試合想定練習(慶大後攻)に臨んだ。エール交換では法大のエールも流してから慶大のエールに入るなど、昨季よりさらに実践を想定した練習に進化している。そして若き血からバンドコールの流れや、1カウントも省略しない練習を計5イニング分(表・裏)行った。
熱意
これまでと最も異なることは応援席に観客が入り、声出し応援が解禁されたことである。そのためメイン台、応援席前方の通路(ブロック列)、そして応援席の階段で部員が応援を先導する。8回まではメイン台やブロック列の部員は選手側ではなく観客側を向いて踊っており、応援を「指導する」ことを重要視していることが伝わってくる。
応援席の階段の通路にいる部員は左右を見渡しながら「○○でお願いします」と笑顔で呼び掛けていた。しかし、ただ情報を伝えれば良いのではなく、野球サブ(野球応援責任者)の3年生が「人間が人間に声を掛けてアプローチしているのだから、感情を共有し合うもの」と伝え方の改善点を述べた。このポジションは、常に観客を先導しないといけないが、適切で観客が盛り上がるような声掛けをするために戦況も把握する必要がある。難易度が高いが観客と応援を作る上で最も核となる役割を果たしているため、さらなる練習と経験が求められている。
さらに、応援席とブロック列を行き来する時のテンションや誰がサインを出すのかなど、考えないといけないことが増えた。しかし、マスクを外して表情で魅せることができるようになり、部員の熱意は昨年以上だ。5回に行われた「塾生注目」で、チアリーディング部3年のMさんは「今年は桜が散るのが早いですがなぜだと思いますか」「野球部と應援指導部の応援の熱で桜が早く散りましたー!」と応援を盛り上げた。Mさんは「桜が散っているなという話は普段から同期でしていたので、より身近に感じて応援につなげるということを意識してもらいたかった」とその思いを語った。
執念
9回には全員がブロック列で、ここまでは違い部員も選手に向かって応援していた。8回までに作り上げてきた観客との応援をさらにパワーアップしたパフォーマンスを披露した。チャンスパターンが鳴り続け、野球サブが回ってみんなを鼓舞して盛り上げるなど全力を出し切った応援だった。
9回が終わって同点だったが今年はギアの入れ方が違う。「総合練習だからって都合よくサヨナラ勝ちすると思いましたか」。延長戦の突入だ。「神宮ではそんなに都合よくいかない」と延長戦も実施することにしたという。これにはさすがの部員も驚いたようだがすぐに切り替え動きを確認。9回に全力を出し切った後の10回とあって体力的なつらさもあったが、全員が最後まで演奏し、踊り、声を出し続けた。チアリーディング部3年のSさんは「思いつかないような練習をしているから慶應の応援は強い」、同じくHさんは「本番でどんな状況がきても想定できる」と練習の充実感を口にした。
応援席がある状態での応援は今の4年生ですら初めての状況であり、まだ100点には遠いのかもしれない。しかしその中でも、観客に対して動く方向を指示したり、何と言えば良いかを伝えたり、視覚的にも聴覚的にもまとまった応援を作り上げる努力をしていた。その先にあるのは、視覚・聴覚だけでなく、「野球部に勝ってほしい」という思いが一つになる瞬間。その瞬間をゼロから自分たちの手で作り上げるため、部員は「執念」を燃やし続けている。
♢練習後・応援企画責任者コメント(一部抜粋)♢
Sさん:本年度の応援企画のコンセプトは「KEIO PRIDE」を掲げています。リーグ戦においていろいろな大学の応援を見る中で、他大学と慶應は違うなと思うこともあるかもしれませんが、それが慶應の誇りでもあると思います。論理的で素晴らしいスライドもあるこんなに良い総合練習をしているのは慶應だけです。そういうところで、誇り高き異端として頑張っていきましょう。
Fさん:久々にみんなのマスクを外した顔や笑顔を見ましたが、それはお客さんも一緒だと思います。久々に応援を近距離で体感するにあたってお客さんをうれしい気持ちにさせることや選手を後押しすることも私たちの役目だと思うので、その役割を楽しみながらもこなしていけるように頑張っていきましょう。
Mさん:厳しいことを言うようですが集中できていないと思いました。様々意識するポイントがあったと思いますし、当日はもっと増えます。(集中できていないというのは)今自分が何のために何をしているか専念できていないという意味です。いろいろ考えることで注意が散漫なり、結果的に中途半端になってしまうということがあると思います。自分は今これをやるということに集中するということをやってほしいと思います。
♢副代表・村上圭吾さん♢
率直にまだまだだと思いました。今いる全部員が2019年以前の応援は初めてで、4年生も初めてというのが一番難しいなと改めて実感しました。ただ、その中でゼロから作っていくというところに関しては、コロナ禍で応援とは違うところでもいろいろ試行錯誤はしてきたので、部として自信を持って作っていけたらいいと思います。慶法戦から積み重ねて最後にいい慶早戦にできればと思っています。
(取材:長沢美伸)