【Last message】~その走りは“誰か”のために~己に克ち続けた駅伝主将/4年生特集「Last message〜4年間の軌跡〜」No.17・田島公太郎(競走部)

競走

24年度に引退を迎えた4年生を特集する「Last message~4年間の軌跡~」。第17回となる今回は、慶大長距離ブロックを先頭で引っ張り続けてきた田島公太郎(環4・九州学院)。“慶應を箱根路へ”、その一心で駆け抜けてきた4年間。主将の重圧、未練との闘い、仲間との絆、ラストラン―彼は最後に何を思うのか。

箱根に捧げた4年間

田島にとって慶大競走部での4年間は、全て箱根駅伝のための時間だった。

 

大学入学時の彼のキャリアはいわゆる“エリート”だった。中学から陸上を始めるとすぐに長距離選手としての才能を発揮し、高校は駅伝の強豪・九州学院へ。都大路にも2年連続で出走した。

都大路を力走する田島

「“箱根駅伝を目指す”ことはチームの中だとほぼ全員がもつ感情だったので、問題は“どの大学で箱根を目指すか”というところでした」

 

そんな田島が選んだのは慶應義塾大学だった。慶大コーチの保科光作氏からの熱烈な勧誘を受け、「この人の元なら4年間精一杯やり尽せる」と慶大競走部への入部を決めた。

彼の目標は箱根駅伝への出場だった。その目標はすぐに叶った。1年生時の箱根予選会、チームトップの快走を見せた田島はその年の関東学連選抜チームに選ばれ、本戦ではオープン参加ながら7区に出走した。

1年生にして箱根路デビューを果たした(第98回大会)

次の目標はチームとしての本戦出場だった。2年生の冬からは駅伝主将に就任し、結果でも精神的支柱としてもチームを引っ張り続けてきた。どんな時も彼を支えたのは同期だった。

「4年間でチームの雰囲気や取り組みが大きく変わり、チームの水準も比べ物にならないほど上がりました。※安倍や小林など、同期のみんなが箱根への思いをしっかり持ち、僕が箱根を本気で目指そうと思える環境を作ってくれたんです。一人ひとりが異なる強みを発揮し、チームのために身を削ってくれたことで、次第にチームは一つになり、僕も『彼らのために頑張りたい』思いが強くなりました」

※安倍:安倍立矩(理4・厚木)、小林:小林真維(商4・都立三田)

同期の安倍(写真左)とは4年間苦楽を共にした

 

迎えた最後の箱根駅伝予選会。慶大は29位で敗退し、本戦出場には届かなかった。

「予選会が終わった直後は、一旦抜け殻のようになりました。それまであった揺るぎない目標が急になくなったんです。走る理由も頑張る理由も見失い、アイデンティティが消えたような感覚でした」

集大成となる予選会では日本人全体15位の力走

 

これまで競技に対する未練を抱き続けてきた田島。高校時代、都大路を走ったときには不完全燃焼だった。しかし、大学では「やり切った」という思いがある。

「高校時代の未練は、最後に結果を残せなかったことから生まれたと思います。それを考えると、大学でも箱根駅伝にチームとして出場できず、タイムも自分の目標としていたレベルには達していないので、結果だけ見ると未練が残りそうなものです。でも、不思議と今はやり残したことがあるかというと、そうは思っていません。『やり切った』と素直に言うことができます」

「『やり切った』と素直に言うことができます」(写真右)

 

競技を続ける中で、田島は『誰かのために走ること』の意味を知った。

「『君の走りに元気をもらった』『感動した』と言われることが何度もありました。僕の走りでそういう感情を持ってくれる人がいることが本当に嬉しかったですし、大きな支えになりました。これからは、人に感動を与えられるアスリートになりたいんです。極端に言えば、僕が走る姿を見て涙を流してくれる人が1人でも2人でもいてくれたら、それだけで十分だなと」

思いは後輩たちに受け継がれていく

 

予選会を終えても、大学駅伝シーズンは続いた。出雲駅伝、全日本大学駅伝、そして箱根。1月2日、田島は高校時代のチームメイトの応援のため4区の沿道にいた。目の前を母校の襷をかけたランナー達が駆け抜けていった。そこで彼はこう思ったという。

「やっぱり行きたかったな」

 

【Last message】

「僕が大学生活で成し遂げたことの中で、最高の同期に出会えたことが一番誇れることです。全員で目指した夢は叶いませんでしたが、一緒に箱根を目指した時間は生涯においても本当に貴重で大切な時間でした。本当にありがとうございました。来年からも僕なりに頑張るので、応援していただけたら嬉しいです。後輩たちには、自分たちが納得できる形で終われることを大事にしてほしいです。最悪結果が残らなかったとしても、『心の底からやりきりました!ありがとうございました!』と言えるような、濃い1年間を過ごして」

”克己”

 

(取材・記事:竹腰環)

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