【Last message】世に知らしめた右肩上がりの急成長、一躍スター街道へ/4年生特集「Last message〜4年間の軌跡〜」 No.28・黒澤世吾(アメフト部)

アメフト

24年度に引退を迎えた4年生を特集する「Last message~4年間の軌跡~」。第28回となる今回は黒澤世吾(商4・慶應志木)。アメフト未経験で入部しながら、圧倒的な練習量と天性のセンスでメインWRに成長し、慶大パスユニットの中心的存在に登り詰めた。関東オールスターに選出されるまでの飛躍を遂げた、4年間で誰よりもアメフトに情熱を注いだ黒澤のアメフト人生に迫る。

 

 

慶應志木高校では柳町一葉(法4)らと共にサッカー部で活躍した黒澤世吾(商4・慶應志木)。しかし彼は、大学で新たなスポーツに挑戦することを決める。自身のフィジカルを考慮した上での決断だったが、新天地への選定には時間を要した。その最中、友人の兄の勧めで黒澤はホワイトボウルを観戦。この時、アメフトに進む決断をしたという。今までの足をメインに使う球技から、手を積極的に用いる競技、その中でもキャッチが仕事のWRを選択するという一見無謀な黒澤の挑戦が、ここに幕を開ける。

入部時、黒澤は「2年秋シーズンで試合に出る」ことを目標として掲げる。とはいえ、彼の前にまず立ちはだかったのは、アメフトの参入障壁で最も大きい「専門用語、ルール、作戦を覚えること」で、特に苦労したという。グラウンドでは経験者の水嶋や藤崎に教えを請い、最後まで残って猛練習。クタクタで家に帰ればアメフトを座学。まさに「アメフト漬け」の1年を送る。そして、「誰よりもアメフトに懸けてきた」という甲斐あって、2年で宣言通りWRのスタメンを勝ち取った。こうして一躍、同期のトップレシーバーに名乗りを上げた。

レシーバーとして、できる仕事は全てやってみせる

ラストイヤーとなる今年、慶大は自身の強みをパスユニットと分析。WRは黒澤の他に藤崎、水野、久保という4人がメイン。誰にボールが飛ぶかわからないというプレースタイルを確立した。「誰に投げても確実に捕球できるWRで、QBも松本のセンス良い送球チョイスや水嶋のスクランブルがある。ディフェンスはやりづらいと思う」と、この戦術には本人も自信を持っていた。黒澤が暴れられる環境は、ここに整った。

黒澤の今年を振り返って最も大きいのは、やはり第2節の明治戦。この日はまさしく「黒澤フィーバー」だった。前半だけでTD2本、後半にも1本決めて、スコア上は一人で18得点。当日を振り返り「僕に全て集めて、という予定ではなかった。ただ、ゴール前で絶対に開くだろうと思ったところが当たって、そこにパスを完璧に打ち込んでくれた」と語る。今季TOP8で、WRとして1試合3TDを唯一決めた黒澤の活躍は、関東中に衝撃を与えた。「他大学の選手に、明治戦すごかったねと声をかけられた」という嬉しい一幕もあったと笑う。彼の活躍は、チームをさらに勢いに乗せる。

この日の黒澤。間違いなく翔んだ、最高の衝撃

続く立教戦でも、黒澤の熱は止まらない。4Qで4点リードの状況から、トドメの一発となる63ydの超ロングTD。勝利を決定づけるビッグプレーを見せた。彼はこれを4年間のベストプレーの一つと感じているといい、「緊迫した試合だったが、自分の分析に自信があった。絶対に俺に投げろ、と伝えて、その結果63ydのTDが取れた。今まで培ってきた知恵が発揮されたし、他のレシーバーのブロックや、信じてくれた水嶋も素晴らしかった」と振り返る。

一方で、シーズンを通してみればいいことばかりではなかった。勝てば全国大会が決まる東大戦でまさかの敗北。今年の東大は実力があったとはいえ、黒澤だけでなく、チームメイトの多くが絶対に勝てると思っていた中で、苦杯を嘗めた。「アップセット2連勝からの気の緩み」を大きな敗因として分析した黒澤は、全国大会が懸かる最終戦に向けて、全員で心を入れ替えるよう主導した。前田監督も「あの敗戦を糧にして、チームがもう一度成長するための意識がしっかりと芽生えた」と振り返り、結果的には全国の切符もチームの成長も、両獲りすることができた。

気を引き締め直し、中央戦でパスユニットを再興

全国大会では王者・関学大を相手に奮闘するも及ばず、UNICORNSとしての1年は、ここに幕を閉じた。一方で、その後に行われた関東オールスターゲームに選出された黒澤。「kachicom.com」の一員として、藤崎とともに最後の調布を駆け抜けた。ラストシーズンの目標に「UNICORNS日本一、オールスター召集」の2個を掲げていた黒澤は、「未経験から始めても、自分の努力次第でオールスターは目指せるという証明になったかな」と回顧する。本人は「背中で見せるタイプではないかも」とは言うが、努力を目の前で見てきた先輩が関東の代表として輝く姿は、後輩たちにとってもいい目標となっている。  

現役生活を終え、ここでいい思い出としてアメフトを引退するのもありだと思っていたという黒澤。実際に自分の使っていたグッズは、その大半を後輩にあげてしまった。しかしその後現在まで、社会人チームからの誘いを数多く受けている。この状況で、彼はアメフトを続けるという選択肢も視野に入ってきたと語る。指導者向きではないという自覚があるため、引退か選手かの2択にはなるが、自分の後悔しない選択をするために、今は悩んでいる最中だ。2024WR部門最多TDという輝かしい成績を自身のアメフト形見にするか、次なるステージに進んで再び黒澤フィーバーを巻き起こすか。彼の最善の決断を待つばかりだ。

AS出場という夢を果たした黒澤が次に叶える夢とは、何か。

(記事:東 九龍)

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