慶大‐東海大
選手達に今季最高の笑顔が弾ける―関東大学リーグ第8週の2戦目、この日慶大は現在2位と優勝争いを演じる強豪・東海大と敵地で対戦。会場は東海大ファンで埋めつくされ、まさに完全アウェー状態での試合となったが慶大は格上相手に少しも怯むことなく真っ向勝負を演じる。試合は終盤までもつれる展開となったが、ラストに劇的な結末が待っていた。
1Q | 2Q | 3Q | 4Q | 合計 | |
慶大 | 11 | 21 | 22 | 25 | 79 |
東海大 | 21 | 18 | 17 | 21 | 77 |
1Q、立ち上がりは両者とも硬さが見られシュートが決まらない。それでも慶大は本橋のアシストから蛯名のレイアップで先制すると中島もドライブで続く。すると東海大もミドルシュートを連続で決め返し応戦。しばらく点を決め合う展開となるが、慶大はアウトサイドシュートの確率が悪く徐々にオフェンスが停滞し始めると、東海大に連続速攻を決められリードを奪われる。家治がミドルを沈め何とか打開しようとするが、アウトサイドが好調な東海大にスリーポイント、ミドルと連続で決められ離されてしまい11-21で1Qは終了。2Q、慶大はターンオーバーで始まる重苦しいスタートを切ってしまう。それでも「苦しい時にディフェンスを頑張って我慢できた」(中島)と、ディフェンスからリズムを掴む。統率のとれたプレスでボールを奪うと本橋の速攻が決まり、蛯名も好スティールからワンマン速攻。これで勢いを取り戻した慶大は伊藤、中島の得点で一気に逆転。しかし東海大も黙ってはいない。すぐさま連続でスリーポイントを沈め、簡単には主導権を譲らず。流れを失いかけた慶大だが家治がバスケットカウントを奪い何とか踏ん張ると、ラストオフェンスでは24秒ギリギリでハーフラインから放たれた本橋のスリーポイントが見事に決まる。後半への望みを繋ぎ、32-39で前半終了。
3Q、慶大が強い攻め気を見せ反撃。家治、蛯名、伊藤と連続で得点を奪い3点差まで詰め寄ると、ディフェンスでも集中力を保ち24秒オーバータイムを奪う最高の立ち上がり。一方の東海大は慶大の好守を前に動揺し、シュートが落ち始める。オフェンスが停滞する東海大を尻目に慶大は家治のドライブ、中島のスリーポイントで44-44の同点に追いつく。そしてここから試合は一進一退の攻防に。東海大はスリーポイントで勝ち越すと、慶大は家治が華麗なステップインでゴール下を沈める。しかし優勝するためには絶対に負けられない東海大も集中力が俄然増し、ミドルシュートで次々と得点。一方の慶大も臆することなく家治、蛯名が攻めて得点し54-56と東海大がわずか2点リードして3Qを終えた。
運命の最終Q、家治が連続得点を決め勝利に向かって自らチームを牽引すると、中島もスリーポイントを決める。しかしエース#0満原を中心に高さで勝る東海大に対してディフェンスリバウンドで苦しみ、ゴール下で失点。だがそれでも慶大の気迫は簡単には折れない。伊藤の好ディフェンスで相手のリズムを崩すと、蛯名の懸命なルーズボールから家治が速攻を沈める。すると蛯名のアシストで本橋がゴール下を決め逆転。3点のリードを奪い東海大をいよいよ窮地に追い込むと場内が騒然とする。ここで黙ってはいない東海大がミドルシュート、フリースローで連続得点と意地を見せ再逆転。残り1分7秒で72-74と逆に慶大が追い込まれてしまう。しかしこの絶体絶命の場面で頼れる主将がエースとしての真価を発揮。ボールを受けた家治が思い切り良くスリーポイントを放つとこれが見事に決まり慶大がまたしても逆転する。続く東海大のオフェンスも本橋の気迫のリバウンドで凌ぐと、蛯名が得点し残り10秒で77-74となる。ここで東海大が最後のチャンスに賭けるべく、タイムアウトを請求。そして東海大のラストオフェンス、ここで相手シューターのスリーに対して蛯名が痛恨のファールを犯してしまう。このスリーショットを素晴らしい精神力で全て決められ同点に。そして残り7秒を残しての慶大オフェンス、「迷わず自分で行こうと思っていた」(伊藤)とドリブルで攻め込んだ伊藤が厳しいチェックを受けて体勢を崩しながらシュート。ブザーと共に放たれたボールは美しい放物線を描きリングに吸い込まれた。その瞬間殊勲のヒーローの元にコート上の選手、ベンチ、応援団が全員笑顔で雪崩込む。これまで苦悩を続けてきた慶大バスケ部に歓喜が訪れた瞬間であった。
この結末を誰が予測しただろうか―リーグ9位と低迷を続ける慶大が2位の強豪に勝利を収め見事ジャイアント・キリング達成。アウェーの観客を静まり返らせる最高に痛快な逆転劇であった。個々の能力では相手が上回っていた。しかし慶大が上回ったのはゲームを通じての精神力。選手各自が40分間自分の役割を全うし続け、ビハインド時でも攻め気を失わず戦い続けた。これまでの試合ではミスをしたらそれを引きずり、相手に大差を付けられることが多かった。だがこの試合では「一人一人が強い気持ちを持ってコートに立てている」(家治主将)と、苦しい状況でも戦う気持ちをチーム全員が共有。これはリーグ戦を通じての大いなる成長と言える。そして成長できた要因には選手達が連敗中の苦悩の時期でもチームの幾多の課題から目を逸らさず、立ち向かったことにある。その姿勢こそが慶大の真骨頂であり、「慶大」が「慶大」であり続ける所以なのだ。この1戦で選手たちは自信を取り戻したに違いない。リーグは残り2試合あり、入れ替え戦に進むことも確定しているが、残りの試合もこの試合のように強い気概をもって臨めば必ず勝利できる。「強い」慶大の姿が蘇った。
By Shota Kajigano
佐々木HC
伊藤が最後ちゃんとやってくれましたね。明治の時に出来なかったことを修正してくれたので良かったです。あとは家治がその気になってくれたのと、本橋がルーズボールをしっかり取ってくれたのが、こういうもつれる試合を勝ち取った原因ですね。(7週目までと8週目の違いについては)ディフェンスのピックアップの練習、不利な状況からディフェンスを立て直すかということに重点を置きました。ディフェンスに意識がむいたし、これが出来ないと入れ替え戦も勝てないので、それがよかったですね。(選手の精神面の成長について)これだけ負ければある意味開き直るしかないので、言われてることをやってみようという心境にやっとなったと思います。あとは家治が本来の姿に戻って、精神的な支柱になりかけているのでチームにとっては安心感を持てる要素になったと思います。家治は先々週から少し落ち着いてきました。それが良いところですね。(入れ替え戦については)入れ替え戦についてはもう覚悟は出来ています。勝ち癖というか勝ち方を全員が理解出来るくらいやらせないとまだ安心できないです。なのでもう1回勝ちたいです。入れ替え戦でどこと当たろうが、もう1回1部リーグで勝つ経験を積んで、自分たちもやれるという気持ちにさせて入れ替え戦に臨みたいです。
家治主将
2連勝というのはリーグ戦初めてで本当に嬉しいです。1巡目は歯が立たないくらい負けたんですけど、今日は相手のホームコートで完全アウェイの中、自分達のバスケットをするために練習から全員で頑張って勝てて良かったです。昨日専修に勝てて、1勝に満足しないでもう1勝しようということをチームとして言っていて、今日の試合に望んだ結果が勝利に繋がったんで、言うことはないです。(7週目までと8週目の違いは)試合出る、出ない、上級生、下級生関係なしに思ってることを言い合うミーティングをしました。それから全員で練習してきて、こうやって練習外でもコミュニケーションをとれたのが、苦しい時でもみんなで守って攻めようという気持ちになれたのが7週目との違いですね。それがこういう結果に繋がったと思います。(家治選手は段々と調子をあげているが)前半は考えすぎて自分のプレイに集中出来ていなかったです。やっぱり自分の調子が良くないとチームの調子も上がってこないと思いますし、自分のやるべきことはやらなければならないと思いました。もう1回どういうプレイが自分は得意で、どうすればいいのかというのを去年のDVDを見て、もう1回自分のプレイを見直したというのが結果に繋がったと思います。(勝負所で)いつもはミスをするとディフェンスが崩れてしまうことが多かったんですけど、今日はミスした時にこそ声を出してディフェンスを頑張れました。それが功を奏して相手が離そうとした時についていけた、それが最後の逆転に繋がったと思います。みんなで守る意識を40分間続けたのが良かったと思います。(下級生の成長は)今までは苦しい場面だと人任せになってしまったり、試合経験のなさからミスが出たと思うんですけど、勝負所で自分がやるということが出来るようになってきましたし、一人一人が強い気持ちを持ってコートに立てていると思います。技術面も成長しているんですけど、メンタルの部分も成長してきているので心強いです。(来週に向けて)2連勝したのは初めてでチームの雰囲気も良いので、リーグ最終週迎えて、良い形でリーグを締めくくりたいです。もう1回1週間チームみんなで練習しっかり頑張って試合に臨みたいと思います。絶対勝ちたいと思います。
蛯名
正直嬉しいです。ここ2試合そうなんですけど競り続けて最後に抜け出せたので、集中力なのか体力なのかは分からないですけど少しは成長できたのかなと思います。今までは追いついても離されたり、リードしてるのに集中力が切れて逆転されたりという展開が多かったんですけど、昨日今日は違ってチーム全員で勝てたので嬉しかったです。 (緊迫した場面が続いたがその時の心境は)高校のときからそうなんですけど、ラストの時とかもあまり緊張はしなくて、逆にワクワクする部分がありました。やはりそういう勝負所でオフェンスリバウンドをとってやるぞとか、シュートをしっかり決めるとか集中力を保てるかどうかが重要ですし、やっぱり見てる人に「うぉー」ってなってもらいたいというのはあるので(笑)チャンスがあれば僕もシュートを狙いますし。まあ、今日は伊藤に持ってかれたんですけど(笑)(ディフェンスについて)今日は狩野選手に付いてたんですけど、僕はシューターのマークが本当に苦手で特にスクリーンを使われちゃうとフリーになっちゃうんで困りました。逆に1対1を仕掛けてくる選手の方が得意なんですよ。最後の場面(終盤3点リード時に狩野選手のスリーに対してファウル)も打たせまいとチェックに行って触るか触らないか微妙なところだったんですけど笛を吹かれてしまって、先生の指示ではスリーを打たせないことと絶対にファウルはしないということだったんですけどやってしまいました。(オフェンスではリバウンドに多く絡み、ドライブでファウルをもらうなど目標と言っていた酒井前副将を彷彿とさせるプレーでしたが)そう見て頂けたなら非常に嬉しいところなんですけど、でもバスカンが取れなくて今日も1本滑っちゃってもったいない所があったし、フリースローも決めきれなかったのでまだまだです。地味な所を確実に出来る選手になりたいですね。ミスを少なくして堅実なプレーをすれば自然と下級生も付いてきてくれると思うので、それを心がけたいと思います。(試合中よく伊藤選手に話しかけているが何を話しているのか)センター陣の使い方について言ってます。どうしても止まったときはセンターに入れたいので、中島をハイに入れて本橋をローに入れて相手が中に寄ってきたら外にさばかせるとか言ってます。(来週はホームですが)ホームですね。見に来てくれる人が多いと嬉しいので、絶対に勝ちたいと思います。
本橋
このアウェーの中、勝ててアツいですね。(笑)本当に嬉しかったです。(試合を振り返って)離されまいと皆が一丸となってそれぞれの役割を果たし、かつ皆のプレーが噛み合っていました。以前はリードしてても前半の終わりにミスとかで悪い流れを作って後半逆転されることもあったんですけど、今日は前半にいい流れで終えたことが後半逆転できた要因だったと思います。昨日の専修戦もそうなんですが、自分達に流れを持ってくるべき所で持ってこれるようになったのは成長だと思います。(自身のプレーを振り返って)僕は得点力があまりないので、ディフェンスだったりルーズボールを頑張ろうと意識したんですけど、満原さんに20点くらい取られてしまってそこは反省です。けれどリバウンドやルーズボールを重要な場面で取れたのでそこは一つ成果が出てよかったです。(この勝利がチームに与える影響は)残りのリーグ戦では勝つことも重要なんですけど、入れ替え戦が決まってるということでそれに向けてどう戦うかとか、チームの雰囲気も重要でそういう意味で昨日今日の勝ちは大きいですね。(次戦に向けて)来週はホームなので是非勝ちたいと思います。日大と青学ということで苦しい戦いを強いられると思うんですけど今日みたいに各個人が役割を果たしてチームが噛み合えば勝てると思うので頑張っていきたいです。
中島
昨日の久しぶりの勝利からいい流れをそのまま継続し、チーム全員でディフェンスとオフェンスができて、格上の相手に勝てたことはうれしいです。(前回との違いについて)苦しい時間帯に我慢できるようになったことが大きいと思います。前は相手の流れになったらガッと離される場面があったんですけど、ディフェンスを頑張ったりリバウンドを頑張ったりして速攻を仕掛けたこととか、あらゆるところで我慢できたことが勝利につながったと思います。(東海大のインサイド陣について)途中僕がセンターという場面があって、数字としてはリバウンドも少ないし、満足できるものではなかったんですけど、ガードとか周りの助けもあって持ちこたえることができて、自信になりました。(ドライブとスリーポイントについて)パーセンテージはすごい低くて、精度がいいとは言えないんですけど、スリーとドライブのタイミングは自分の中でわかってきました。前まではスリー打てる場面なのにドライブだったり、相手が出てきているのにスリー打ったりしていて、使い分けができていなかったんですが、それが見えてきたような気がします。(入れ替え戦について)チームではだいぶ切り替えができているので、残り2試合も勝ち負けももちろん大事ですけど入れ替え戦につながるよう、内容にこだわっていきたいです。(来週の試合に向けて)今日はアウェーゲームで勝てて、ホームで勝ったら格別な嬉しい思いができると思うので、勝ちたいです。入れ替え戦に少しでもいい雰囲気で臨めるようこの2試合大事にしていきたいと思います。
伊藤
(ブザービーターを沈め、勝利の立役者となりましたが今の気持ちは)今は落ち着いたんですけど、最高です笑(試合を振り返ってみて)初めてアウェイで試合をやって、こういう雰囲気でやったのも初めてだったんで、飲まれないように意識していました。出だしもそこまで悪くなかったので離されないように喰らいついていく気持ちで試合を展開していこうと思っていました。(2連勝してみてチームはどうか)一人一人が本当に勝ちを意識しています。入れ替え戦は決まってしまったんですけど、一戦一戦大切にしてチームがより良い方向に持って行くよう一人一人が考えているんで本当に良い雰囲気でやれていると思います。(緊迫した場面での心境は)緊迫した場面は結構好きなんで楽しめたんですけど、ただフリースローが入らないんで練習していかないとだめですね。(最後のシュートについては)佐々木先生からも最後はいけと言われていたんで、迷わず自分で行こうと思っていました。自分が決めてやろうという気持ちでやりました。(自身の課題は)シュート力ですね。スリーポイントも積極的に狙えばドライブも活きてくるので。今は自分で攻めていく場合が多いんですけど、これから進んでいく上でポイントガードとして自分が攻める場面と周りを生かす場面を使い分けれればもっと良いガードになれるかなと思っています。(1年生だが緊張はあるか)ほとんどないです。他のチームの1年生も活躍しているので、そんなこと言ってられないですし、チームを引っ張っていく気持ちで頑張っています。(最終週はホームゲームですが)今日みたいにアウェイでも勝つことが出来ましたし、来週はホームで応援しに来る人がたくさんいると思うので、堂々と慶應らしいバスケットを見せていきたいです。
コメント