慶應義塾体育会を深掘りしていく連載企画 、「What is ◯◯部? 」。第37回目は、なんと日本で唯一の遠泳部である水泳部葉山部門。現在、慶應義塾高校時代から葉山部門で活動している現主将・竹崎優人(法3・慶應義塾)、大学から水泳を始めた松本幸太郎(商2・高知学芸)、そして各種大会でも実績を残す妻井安那の3選手に対談インタビューを行った。
竹崎:僕は慶應義塾高校出身で、高校にも同じ部活がありますが、そこで葉山部門に入りました。理由としては、新しいことをやってみたかったというのが一つありまして、遠泳をやっている部活は慶應にしかない部活だと思うんです。なので、高校時代の3年間を捧げるものとしては、すごく面白そうだなと思って入部しました。
松本:僕は外部からの入学で、水泳の経験もそれほどありません。小学校の頃に少しやっていた程度ですが、「海で泳げる」と聞いてすごくわくわくしましたし、初心者にも丁寧に指導してくれるところがいいなと思いました。だから、水泳未経験の僕でもやっていけるかなと思って、この部を選びました。
妻井:いくつか理由がありますが、1つはチームスポーツへの強い憧れがあったことです。これまでずっと競泳を続けてきたこともあって、大学ではチームスポーツに挑戦したいと考えていました。さまざまな部活動を見て回る中で、葉山部門なら水泳を続けながらもチームスポーツの魅力を兼ね備えている点に惹かれて、入部を決めました。あとは、人が本当に良くて、そういった意味でも魅力的でした。

水泳初心者でも丁寧に指導してもらえると語る松本
竹崎:まず1つ目に、色々な面でユニークな部活だというところが大きいと思います。遠泳を行うという点もそうですし、それに加えて、泳ぐだけでなく横に船をつけたり、ボートで泳ぐ人を支えたり、潮流や天気を読むといったこともあります。単に泳ぐだけではなく、さまざまな経験を積んだり、多方面で努力できる部活なのかなと思っています。
松本:魅力は本当に人の良さだと思います。僕は大学に入ってすぐで、何もわからない状態だったんですけど、みんなが温かく迎えてくれて、「こんなに優しい人たちがいるんだ」と感じました。そういう雰囲気にすごく惹かれました。
竹崎:やっぱり1番の魅力は「達成感」だと思います。多くの部活では年間にいくつか試合があって、その都度結果を残すことが目標になると思うのですが、僕らの部活動では「遠泳」という本番が年に1度しかありません。その1回に向けて、1年間プールで練習を重ね、遠泳の計画を立て、また練習して…というサイクルを続けています。だからこそ、1年間の集大成として遠泳を成功させたときに得られる達成感は、他ではなかなか味わえない特別なものだと思います。
妻井:合宿が長期間にわたるのは、葉山部門の一大イベントがすべて詰まっているからです。遠泳を3回実施するほか、普段から取り組んでいる日本泳法の全国大会にも出場します。また、遠泳に向けた操船やボートの練習も行うため、内容は非常に盛りだくさんです。その中でも特に印象的なのは、やはり遠泳そのものですし、その準備段階から全員で協力しながら作り上げていく過程も、とても楽しくやりがいがあります。そして、1か月間、仲の良い部員たちと寝食を共にできるのも、この合宿ならではの魅力だと思います。
竹崎:僕が特に面白いというか魅力的だなと思っているのは、泳ぐ以外にもいろんな経験が1か月という短期間で一気にできるところです。海で活動するとなると、どうしてもまとまった時間がないとできないことが多くて、例えば船を出して操船したり、ボートを漕いだりといった機会は普段なかなかありません。だからこそ、1回1回の練習の中で自分の上達を実感しやすいのが、この合宿の面白さだと思っています。そして、1か月の合宿を終えたときに、自分の成長をはっきり感じられる瞬間が本当に楽しいです。

夏合宿には葉山部門のイベントが詰まっていると語る妻井
妻井: 葉山部門には「4本柱」と呼ばれる活動方針があり、そのひとつに「初心者指導」 があります。その一環として、「幼稚舎遠泳合宿」と呼ばれる、幼稚舎生に海での安全な泳ぎ方や遠泳の魅力を伝える活動も行っています。私たちは普段から海で活動しているため、そうした知識や経験を活かして子どもたちに指導できることに、大きなやりがいを感じています。塾高生に関しては、高校水泳部葉山部門の部員と週に1度の合同練習や、合宿中に長い時間を共に過ごすことで自然と仲が深まり、距離の近い関係を築くことができていると思います。
竹崎:高校生のうちから、上の世代の人たちと関わる機会がある部活というのはあまり多くないと思っていて、そういった点でこの部活は特別だなと感じています。特に合宿などでは、高校1・2・3年生だけでなく、大学4年生まで含めた幅広い世代が一緒に活動していて、みんなで1つの目標に向かって取り組めるところが、この部活の大きな魅力の1つだと思います。

慶應高時代から葉山部門に所属していた竹崎
松本:普段の協生館での練習では主に水泳をやっていて、合宿のときには船やボートで の練習も行います。基本的には水泳の練習が中心です。
松本: 6月には、夏の遠泳に向けた部内選考として、長時間泳ぎと呼ばれるイベントがあります。年によって内容は異なりますが、5時間、8時間、11時間、時には20時間にも及ぶこともあり、それぞれの距離はおよそ15km、25km、40kmに相当します。
たとえば海で40kmの遠泳に挑戦するためには、まずプールでその距離を完泳しなければ、挑戦する資格を得ることはできません。この選考会が近づくと、練習では1時間を1セットとし、それを複数回繰り返す形で長時間泳ぐための体力と集中力を養っています。
妻井:松本がお話しした6月に行われる選考会以外にも、モチベーションの維持や現状の把握を目的として、年間を通して定期的にトライアルを実施しています。1500メートルから5キロ、10キロといった距離を泳ぐ機会を設けていて、部員たちはそれに向けて日々一生懸命練習に取り組んでいます。現在は1500メートルのトライアルが近づいているため、それに合わせた練習を行っていますが、5キロや10キロのトライアルが近づく時期には、より持久力を鍛えるための長距離練習に力を入れています。
竹崎:遠泳ならではの特徴で言うと、やはり「潮流」だと思います。人間が泳ぐ速度というのは、自然の波や潮の力と比べたら本当に小さなもので、進行方向と逆向きの潮が来ると、一生懸命泳いでいるのに押し戻されてしまうこともあります。だからこそ、潮流の予測やそれに基づいた計画がとても大事になってきます。たとえば、「この時間帯はこういう潮の流れがあるから、陸寄りを通ろう」とか、「逆に沖側を通ったほうがいい」といった予測を、事前にしっかり立てておく必要があります。そうした自然との駆け引きを計画段階から考えて、実際の泳ぎで攻略していくのが遠泳の難しさであり、同時に一番の醍醐味だと思っています。

遠泳に向けて計画を練る部員
松本:泳ぐ人には休憩時間が決められています。1時間を1セットとして、まず29分泳いで1分間の給水、続いて27分泳いで3分間の休憩と給水を取ります。これの繰り返しです。その時間になると、船の上から補給を受け、飲み物はアクエリアスやお湯、食べ物はカロリーメイトやバナナなどが用意されます。実際には、船の上からそれらを投げて、泳いでいる人がキャッチして口にするという形で行っています。
竹崎:遠泳は年に1回しかない貴重な機会で、その1日に向けて1年間練習を積み重ねてきています。だから、きつくなったときには「ここで諦めたら、今までの1年間が全部無駄になってしまう」と思うことで、自然と諦めない力が身についてきます。そうやって気持ちを保ちながら、次の休憩までひたすら泳ぎ続けて、また少し休んで、というのを繰り返しながらなんとか耐えていく、そんな感じです。
松本:僕は、普段の練習の中でもすごく忍耐力が養われると思っています。いつもの小さな練習メニューでも少しずつ忍耐力がついていって、その積み重ねが最終的に遠泳本番でも生きてくる、そんな感覚があります。
松本:僕の今後の目標としては、40キロやそれ以上の距離を泳ぐ遠泳に挑戦することです。その目標に向けて、これからもしっかり頑張っていきたいと思っています。新入生に向けては、この部活に入れば、海に出て泳ぐという本当に唯一無二の経験ができます。大変なこともありますが、その分の楽しさは間違いなく保証します。
竹崎:僕は主将という立場なので、自分自身が上を目指していくのはもちろんですが、それ以上に、部員一人ひとりが掲げている目標を少しでも多く、できれば全員が達成できるように部を引っ張っていきたいと思っています。メッセージとしては、この部活では他では絶対にできないような貴重な経験ができると思うので、少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいです。ぜひ説明だけでも聞きに来てください!
妻井:私はすべての活動において、遠泳なら完泳、日本泳法大会なら優勝、そしてOWS(オープンウォータースイミング)の大会では日本選手権出場を目標に掲げています。その目標に向かって、これからも全力で頑張っていきます。 葉山部門には、さまざまな水泳レベルの人が所属しています。しかし、活動内容が多様であるからこそ、誰もが自分の強みを見つけて活躍できる場所だと思います。 大学で突き抜けた経験をしたい人、少しでも興味のある方は、ぜひ葉山に来てください!お待ちしています!
ーーありがとうございました!
※写真は一部葉山部門提供
前編では、練習内容や部の歴史、船艇訓練など、水泳部葉山部門に関する情報を掲載しております!
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(取材:竹腰環、佐々木瞬、小野寺叶翔、記事:佐々木瞬)


