【競走】葛藤だらけの競技人生でも「やっぱり陸上が好き」 副将が語る第108代とは/4年生卒業企画「光るとき」 No.29・井上丈瑠

競走

25年度に卒業を迎える4年生を特集する特別企画「光るとき」。第29回となる今回は、競走部の副将・井上丈瑠(経4・長岡)。中距離ブロックのランナーとして充実感を得る瞬間もあったが、ラストイヤーには高校生の時のタイムを下回るほど苦戦した時期もあった。副将として求められている自分と現実のギャップに葛藤を抱きながらも、支えとなったのは仲間の存在だった。

小学生の頃から水泳やサッカーをしていた影響で身体機能が鍛えられていた井上は、マラソン大会でも好成績を収めることもあり、走ることに自信を持つようになった。そしてその思いから中学生になると同時に陸上部への入部を決心し、井上の競技人生が幕を開けることになる。

高校生時の井上〈本人提供〉

浪人を経て慶大に入学した井上は、走りにブランクがあることに加えて競技力の高いイメージがあった競走部への入部を大いに悩んだという。それでも入部を決意したのは、競走部の対面新歓でのちの同期や先輩との出会いがあったからだ。「みんな競技力があるのに物腰が柔らかくて、こんなに居心地が良いチームがあるのだと感じました。そしてこのチームでなら、自分も陸上を続けたいなと思えたんです。」

ひたむきに陸上と向き合う中で、特に印象的だった大会として挙げたのが、2年生時の六大学対校陸上だ。800mで出場した井上は、事前の戦力分析では出場選手12人中“ダントツの最下位”だったという。しかし結果は8位入賞。チームに貴重な得点をもたらした。この試合を振り返って井上は、「チームで競技をする楽しさを初めて感じられた試合でした」と語る。

チームに貢献した六大学陸上〈本人提供〉

 

だが、井上の競技人生は決して順風満帆ではなかった。むしろ、悩み苦しんだ日々が大半を占めていた。とりわけ4年生に上がる3、4月のシーズンインは、体調を崩してしまった影響で特に苦しんだという。「六大学陸上や関東インカレ、さらには日本インカレも今年度はすごく前半に大会が集中していたので、シーズンインが大事だということは分かっていました。でも、走っても走っても全然調子が戻らなくて。あの時期はかなりしんどかったですね。

また井上は第108代副将として、自身に最も求められているのは「結果」であると自覚していた。しかしその思いとは裏腹に、結果が思うように伴わない矛盾を抱え、自問自答を重ねる日々を過ごしていた。それでも悩みや不安を自分の中だけで抱え込むのではなく、積極的にチームメイトに共有するようにしていた。同期だけでなく、後輩たちや他の競技ブロックのメンバーにも相談することで、技術的な面を吸収しつつ、副将としてブロック間の交流の機会も作ろうと陰ながら努力していたという。

第108代の副将として

第108代全体に対する想いを井上はこう語る。「第108代は競技力のある代に挟まれた学年でした。一つ上には、豊田兼(令7環卒)さんや三輪颯太(令7環卒)さん、下にも須崎遥也(商3・丸亀)林明良(政3・攻玉社)などのタレントが揃う中で、僕たちは3年生に上がるまでは全国大会で入賞した選手もいなくて、代全体として結果を残せていませんでした。」

その一方で、同期の“仲の良さ”はどの代にも負けないという誇りを持っている。特に同じ中距離ブロックの同期には感謝を伝えたいと話す。「中距離ブロック内で何か施策を打つときも、6人いる同期全員でミーティングを開いて話し合っていました。その時は真剣に話すし、プライベートの時はバカみたいにふざけるという、メリハリのある6人です。この6人がいなかったら、自分もここまで楽しく大学陸上を続けることはできなかったと思います。」さらにブロックの垣根を越えて代全体として悩みを相談し合えた横のつながりが、最後のシーズンで鈴木太陽(環4・宇都宮)をはじめ、大躍進を遂げた要因ではないかと語る。

最高の同期と〈本人提供〉

 

そんな井上が考える慶大競走部の魅力とは、“個々人がとれる選択肢の幅が広い自由さ”である。「自分自身でオーダーメイドの練習を考えて目標を達成していくプロセスを辿れるというのは、他の大学にはあまりない強みなのかなと思います。」たとえコーチにメニューを提示されてもそれをやるかどうかは個人の決断に委ねられている。つまり、“自分の思い通りの陸上を実現できる場所”、それが慶大競走部なのである。井上は、後輩たちにそのような「個人がそれぞれに描く“思い通りの陸上”を続けてほしい」と話す。後輩たちの持つ高いポテンシャルを、井上は確信している。だからこそ「僕なんかが『頑張ってください』と言わなくても後輩たちは自分の力を発揮してくれると思います」と話しながらも、「悩みがあればこれからもいくらでも相談に乗りますよ」と、後輩を鼓舞するラストメッセージを綴った。

8月に行われた早慶戦直後のインタビューでは、「おそらくこれからは陸上を続けない」と話していた井上だが、今はその気持ちに変化が生じているという。「引退してみて、やっぱり自分は陸上が好きだったのだということに気付きました。」今後は市民ランナーとして、「1500mの方で記録を狙って頑張ろうと思っています」と未来へ前向きな表情を見せている。

井上の大学陸上生活は困難ばかりだったかもしれない。しかしどんな壁にぶつかっても、「陸上が好きだ」という気持ちは今も変わっていない。その揺るがぬ思いを胸に、新たなステージに向かって走り続ける勇姿を、これからも見せてくれるに違いない。

(取材・記事:小林由奈)

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