慶大の体育会を深掘りしていく連載企画。「What is 〇〇部?」。第30回目は「稽古あるのみ」をひたむきに体現する合氣道部の稽古を取材した。主将・太田百和(文4・都立西)へのインタビューを中心に、稽古を通して「自己の人間的完成を目指す現代武道」ともいわれる合氣道の魅力に迫る!
10月某日、蝮谷合氣道場には威勢良く仲間を鼓舞する声が響き渡っていた。2年生から4年生までが各4人ずつ、1年生が8人 所属する慶應義塾體育會合氣道部は、学年・男女を問わず日々稽古を重ねている。
月火木金土の週5回、2時間半のハードな稽古を通し、「稽古あるのみ」を体現するチームを目指す。その目標の先、毎年秋頃まず待ち構えるのは「全日本心身統一合氣道競技大会」。合氣道にはさまざまな流派がある中で、この大会では慶大が所属する流派同士で演武における動きの大きさ、技のキレを他大学や道場と競う。今年度は9月13日、墨田区総合体育館部道場で開催された。〈大学部 団体の部〉で金賞・最優秀賞を獲得した慶大。主将・太田は「結果自体は悪くなかったが、内容には悔しさが残った」と振り返る。
最初は準備運動をやった上で、実際は相手がいてやる技の動きを単独で行う。その後、受け身の稽古、組になって相手を投げる練習を繰り返し行う。練習の最初から最後にかけて技のボルテージが上がっていくようなイメージだ。
道場は常に活気に満ちている。それは部員全員の「〇〇ファイト!」という掛け声。先輩から後輩へ、後輩から先輩へ、同期へ、名前と共に気合の言葉を通して喝を入れる。これはただの応援の意味ではない。合氣道において気持ちが大きくなる時こそ、声が出るのだ。掛け声をして感情を昂らせることは合氣道において必須条件ともいえるだろう。
慶大合氣道の歴史は1956年に三田祭にて演武会が挙行された過去に遡る。「稽古あるのみ」という精神のもと、ひたむきに稽古に打ち込む姿が評価され、1972年には體育會団体として體育會に昇格した。現役部員はこの歴史を顧み、直向きな姿勢で日々汗を流している。
真剣な稽古の中で際立っていたのが、「学年の壁を超えたチーム力」だ。上級生と下級生とのいわゆる厳しい上下関係だけではなく、部員全体の仲間としての結びつきが顕著だった。二人一組で行う練習では実践を交えながら、下級生のペースに笑顔で寄り添う上級生がいた。そして上級生の指導に真剣な眼差しで「もう一回お願いします」と応える下級生。休憩時間や稽古終了後には下級生が上級生へ他愛のない話をしに行く姿。自己精神の安定、相手の「心」への理解の両者が釣り合った時、「心身統一合氣道」が成立する。部員全体でこの精神を体現し続ける。
道場には「萬有愛護」の掛け軸が掲げられている。万物が有するあらゆる性質を愛すこと、その心なしには相手と和合しながら心技体を鍛錬することはできないのである。
9月の演武大会後、次に迎えるのは10月26日「早慶合氣道定期競技会」。早大合気道部と優賞を競い合う。
この早慶戦は他競技と比して例外的だ。それは慶大と早大との流派の違いにある。早大の流派はいわば柔道。身体的な部分で相手と競う。一方の慶大は普段そのような競い合いではなく、演武を通した技のキレや美しさで「心」を中心に争う。
換言すれば、早慶戦に向けて慶大は早大の流派に合わせて調整する必要がある。その中で、「いかに慶大らしく技で勝てるか」に期待がかかる。
ーー合気道を始めたきっかけは
アニメ『名探偵コナン』の遠山和葉がやっていたのを見て、興味を持ったのがきっかけです。もともと小中学校で空手をやっていたので武道に興味があって、大学で始めることにしました。
ーー空手と比べた合気道の魅力は
私がやっていた空手は試合が主体で、体の大きい相手に勝つのが難しいと感じていました。それに対して合氣道は、小柄な人が大柄な相手を制するというイメージがあり、そこに魅力を感じました。ただ、合気道を始めてから、空手の経験が生きていると感じることも多く、今では空手をもう一度やりたいとも思っています。また、合氣道は技の動きにその人の性格が表れます。稽古や人からの指摘を通して、自分の良くない部分と向き合い、改善しようと努力し続ける点も魅力の一つです。
ーー4年間で印象に残っている活動は
夏合宿です。新潟で8泊9日行われるのですが、非常に厳しい稽古を乗り越える中で、部全体の結束力や学年を超えた関わりが強くなったと感じます。
ーー主将として意識していることは
人に頼ることですね。もともとマネジメントや事務作業などが苦手で、一人で抱え込んでしまい、部全体が停滞してしまった時期がありました。自分のプライドよりも、部が円滑に回ることの方が大切だと気づき、仲間を頼るようになってからは、より主将としてのびのびと活動できるようになったと感じています。

ーー部の雰囲気作りとしてやっていることは
1つ目に、体育会だからと言うよりは、武道をやるということにおいて一定の緊張感って絶対に必要なんです。散漫だと怪我をしてしまうというのもあります。聞いたことあるかもしれないんですが、合氣道って試合をしないとか、争わないとかなんていう風に言われる一方で、やっぱり侍さんがやってたことが元になっている「武道」なんですよね。そういう意味で本当に殺す勢いで攻撃するとか、今度は投げる側は、それを捌いて投げるとか。そういうことは必要なんです。
でも、部活としてやる以上は、ただただ厳粛なだけだと面白くないのでそこは気をつけています。それはただワイワイしていればいいって問題でもなくて、合氣道自体が楽しくないといけないと思っています。でなければ合氣道部である意味がないので。合氣道をどうやったら楽しく思ってもらえるかっていうところが特に、今指導する側として気を付けています。
ーー後輩への指導の際に気をつけていることは
変に手加減をしないことです。中途半端な気持ちで技をかけても、本当の稽古にはなりません。普段の稽古から本気でやることで、技が上達するだけでなく、万が一の事態にも対応できる力が養われると考えています。ちゃんと道場で出来るだけ本気でやるっていう事を重視しています。

ーー座右の銘は
「浩然の気」という孟子の言葉です。これは、広々としていて物事に動じない強い精神を意味します。一つのことに囚われず、広い視野で物事を捉える大切さと、良くないことには立ち向かう強さの両方の意味が込められており、道着にも刺繍して常に意識しています。

ーー早慶戦を含めた、今後の意気込みは
現在、早慶戦では8連敗中です。とにかく、ひたすら稽古をして、勝つ。それだけです。

貴重なお話をありがとうございました!
(取材:塩田隆貴、島森沙奈美、伊勢日向乃)


