「点が取れるという手応えがある」
―再登板が決まったときの心境はいかがでしたか
ないね。再登板が決まった以上がんばるしかない、それだけだよ。
―昨秋は終盤まで首位を走っていたものの4位、どこが足りなかったと思いますか
まぁ息切れだね、全体的に。負けるときはそんなもんかな。
―昨シーズンの収穫はどんなことが挙げられますか
それはわからん。卒業生がいるわけだから、去年のことはまったく関係ないよ。
―現在のチーム状態はいかがでしょうか
いいんじゃないの。まぁまぁいいと思うよ。去年出ていた選手もたくさんいるからね。
―白村(商卒)という柱が抜けた投手陣を誰が引っ張っていますか
今はみんなで引っ張っている状態かな。特に誰といるわけではないからね。
―その中で先発、中継ぎといった役割は監督の中で決まってきているのでしょうか
今はオープン戦の様子を見ながら決めていて、先発候補は三宮(商3)、加嶋(商3)、それから加藤(政2)かな。大学の場合は1カード2試合だから、この3人のうち調子の良い投手を先発で使っていくという形になるよ。
―昨シーズンと比べて伸びたと感じる選手は
全体的にレベルアップはしていると思うけど、新戦力になる選手がまだ出てきていないからわからないな。
―今シーズン期待する選手は
やっぱり横尾(総3)、谷田(商3)、藤本知(環4)のクリーンアップトリオかな。それとピッチャーだね。そこがうまく噛み合っていけば、よそと試合ができるかなというふうに思っているよ。
―その強力クリーンアップの前に立ちはだかる早大・有原、明大・山﨑、法大・石田といったドラフト上位候補を意識しますか
そうだね、でも監督に就任した最初の年(2010年)は早稲田に3人のドラフト1位(大石、斎藤、福井)がいたからね。学生さんはそういうドラフトにかかるようなピッチャーを意識するかもしれないけど、おれはプロで40年以上やってたわけだから、プロに入ったとしても出れるか出れないかのような選手を怖がっても仕方がないと思ってる。だからそれを意識するよりも、彼らを打ち崩せるバッターを作っていこうと思ってやっているよ。おれから見たら、いずれの投手にしてもみんなひよこだから、大したことはないと思うよ。
―今年のチームカラーはどのようなものですか
攻撃のチームにしたいね。今までは守り中心だったんだけど、それは攻撃力が無かった、整わなかったから守りで点数をやらないようにして勝っていくというスタイルにしていたわけで、今年は点が取れるという手応えがあるんだよ。
―それは1年生のときから主軸を打つ横尾選手、谷田選手の存在が大きいからですか
そうだね。でも、えらそうに言っているけど、潰さないとね。ドラフト候補の投手陣を。さっき挙げた3人以外にも立教の2人(齋藤、澤田圭)もおるでしょ。だから、ピッチャー陣を見ていくと、有原や山﨑よりも立教の2枚看板の方が怖いんじゃないかな。あの2人の方が力あると思うよ。エース級が2人いるというのが大きいね。
―オープン戦で照屋選手(環1)がいい活躍を見せていますが、春の1年生の起用は考えていますか
1年生はまだ経験するだけだから、難しいんじゃないかな。ベンチには入るかもしれないけどね。人数が多いからなかなかすべての選手をじっくり見るのは難しいんだよ。
―主将・佐藤旭選手(商4)についてはいかがでしょう
高校でもキャプテンをやっていたから、結構うまく引っ張っていくんじゃないかな。キャプテンがしっかりすれば、チームも締まっていくしね。今までもそうだった。やっぱりキャプテンが先頭に立ってやっていくような人でないとなかなかチームはまとまらないよ。
「今シーズンはおもしろい野球ができるかな、と思っている」
―大学野球5年目になりますが、六大学野球で優勝するには何が最も重要だと感じますか
どの大学も力は一緒だからね。紙一重なんだよ。去年の秋だって、明治に勝っていれば優勝してるわけだしね。でもそういうところで負けたら4位になるとか、紙一重の部分がいっぱいあるわけだよ。1試合やったら長く間が空くっていうように、プロと違って休みが多いからコンディションを維持するのがとても難しいね。だから、選手全員のコンディション作りがうまくいったら、優勝できるかなと思っているよ。秋は勝ち点3つとってから、1週空いた後の明治戦でどん底に落ちて、そこから早慶戦へも落ちて行ってしまったから、あそこで上げていかないといけなかったね。そういったコンディションや雰囲気作りが難しいかな。
―慶應にも東大を除く4大学のように野球推薦制度があればと思うことはありますか
ない。絶対ないよ。それがあったらおもしろくないもん。伊藤(現阪神タイガース・環卒)がキャプテンで優勝したときはね、4年生の中に甲子園経験者は一人もいなかったんだよ。でも伊藤は、それこそが僕たちの誇りですって、優勝インタビューのとき言ったんだよ。今の選手もみんなそうやって、野球だけで入ってきたわけじゃないってことに誇りを持ってると思う。確かに甲子園組もいるよ。でも、伊藤の代だけは一人もいなかったんだ。その中で、よその大学は甲子園経験者ばっかりでしょ。15人ぐらい野球推薦で採るわけだから。その中で、推薦のない慶應が優勝できたというのが自慢ですとあいつが言ったのが、とても印象に残ってる。おれはその言葉を聞いてから、六大学の催しがあるときには、ウチは素人ばっかりですから、って皮肉も込めて言うようになったんだよ。相手の監督がそろっている中でね。そうやって皮肉たらたらに言うのがうれしいもん(笑)。大学に入ってきてから野球を教えないといけないからしんどいですよ、ってね。そんな推薦制度なんていらないよ。まあ、そういう制度があったら80人ぐらいでやりたいというのはあるけどね。でも、そういう制度が無い中で勝つというのが一番楽しい。
―育成や指導のしがいがあるということですか
そうそう。まぁ、それをわかってくれない人もいるみたいだけどね(笑)
―プロの世界で40年近くやってこられた後に大学野球界からのオファーを受けた理由は何ですか
年が年だったし、そろそろ母校に対する恩返しがしたいという気持ちが強くなった、それしかないね。年収だって三分の一ぐらいに下がる訳だから。そういう事情も分かりもしないで色々と言う人がいるんだよ。でも、今回の再登板の話に関しては、ちょっと躊躇う部分もあったよ。でも、誰もいないんだもん。キャンプ行く2日前だよ。おれが呼ばれたの。それで(選手の調子は)どうですかって言われたって、答えられるわけないだろ(笑)ユニフォームだって間に合わなかったんだ。だから、そういう中で野球をやっているわけだし、なんの色気もないよ。ただ純粋に、慶應大学のみんなと一緒に野球をやろう、そして強くしてやろう、という気持ちしかない。そうでなかったらもっと稼げる仕事しとるよ(笑)まあそういうことです。貧乏監督やっています(笑)
―座右の銘はありますか
「教学半」。教うるは学ぶの半ばたり。中国の言葉だよ。人に教えるというのは、人に教えながらも半分は自分も勉強している、学んでいるという意味。指導者というのはなんでもかんでも上から目線で教えているのではなくて、子どもに教えているときにしても、こうやればうまくなるんだというのがわかるように、自分も半分は勉強しているということだね。『KEIO革命』って本があるけど、読んだことないかな(笑)
―慶大の監督を4年間やられて、何か考え方が変わった部分はありますか
今回の再登板の際に変わったね。2010年から4年間監督をやったあと3ヶ月空いたんだよ。で、3ヶ月空いてる間、全然別のことやっていたんだよ。高校野球指導の資格をとったからそっちをやっていたんだ。そこで高校野球のことをずっと考えているときに、大学の4年間の指導でこういうところを直したほうがよかったなと考えることがあったんだよ。ここはこういう指導だと高校でも通用しないんだなというのを、この3か月いろいろ考えながら、よりよい指導をするための計画を練っていた。そこで1か月前急きょ再登板の話が来たときに、4年間やってきたときは後半勝てなかったら、こういうことがいけなかったんじゃないか、そこで学んだ欠点は取り外そうって思って、今は選手と接しているよ。できるだけ学生の気持ちを考えてやろうと。プロから来たときはへたくそばっかりで、こんな奴らと一緒にやっていくのか、と思っていたから、自分が一生懸命一方的に教えていって、失敗しても怒るだけだった。つまり、プロから来て最初のうちは、勉強にも取り組みながら行う大学野球のレベルに合わせるのが大変だぐらいに思って指導していたのを反省してるんだよ。今は選手が失敗したときはこれはできないことなんだ、って冷静に見れるようになった。そうすると、怒るのではなく、教えよう、という気持ちになれるじゃない。プロ野球の場合は何事も知ってて当たり前、知らなかったらクビという世界だけど、大学野球の場合は知らなくて当たり前だから、念を押して教えていこうというふうにしているよ。その方が、教えられる側が思っていることを引き出せると思ってね。だから、おれが物をいうたびにびびっていた去年の4年生のことを考えると、彼らにはかわいそうなことをしたなと思ってる。監督を前にしてこの考えは間違っているかも、と思うと発言できないよね。友達同士のときみたいに、間違っててもいいから、って雰囲気のときは言えるけど。だから、言いづらい空気を作ったらいけないなと思っているわけだよ。選手に聞いてみないと変わったかどうかわからないけど、自分の中ではそうやって選手への接し方を変えたつもりだよ。まあ、あまり緩めると選手は調子に乗るんだけどね(笑)
―監督として優勝した伊藤隼太選手の世代が理想のチームとお考えですか
いや、まだまだだよ。あれは勝てると思ってないチームが勝っただけ。今回は春季リーグだけと言われているからどうなるかわからないけど、今のチームを来年までやったら1年生から起用している選手を4年間見れるという点でちょっと理想に近づけるかなっていうのはあるね。それでも、今この春で3年間出場したことになる選手がいるというだけで、今シーズンはおもしろい野球ができるかな、と思っているよ。それを自分の中でも期待している。ぜひみなさんにも期待してほしいね。
―春季リーグの目標を教えてください
優勝したい。それだけです。
―春のリーグ戦も試合終了後監督に取材に伺うことは可能でしょうか
機嫌が良い時だけな。機嫌が良い時はな。まあ、慶應スポーツさんならやるよ(笑)
―お忙しい中、ありがとうございました!
(取材 赤尾大 菅谷滉)
今回のインタビューをもちまして、春季リーグ戦開幕直前特集は終了となります。お忙しい中取材を快く受けてくださった監督、選手の皆さま、マネージャーの皆さまにこの場を借りて厚くお礼を申し上げます。
今年度も慶應スポーツでは野球部をTwitter速報やWeb戦評と、全試合精力的に取材して参ります。読者の皆さまに慶大野球部の姿を少しでも多く、早く、正確に伝えていけるよう、日々努力を続けていきますので、何卒よろしくお願い致します。
慶應スポーツ 野球班一同
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