【特別企画】野球早慶戦直前 應援指導部リーダー部インタビュー

応援席を指揮する菱田主将(應援指導部提供)

現在全カードで勝ち点を挙げ、首位をひた走る慶大野球部。もちろん東京六大学野球の主役は選手達だが、そこで繰り広げるドラマに華を添え、客席に集う人々のみならず日本の応援文化をもリードしてきたのが応援団・應援指導部という存在だ。通算36回目の優勝、そして華の早慶戦を控えた今回、神宮球場に集う人々を「統率し、ひとつの応援を作り上げる」役目を果たす應援指導部の菱田幸太郎主将(政4・慶應志木)、そして早慶戦などの応援企画を務める田坂壮(経4・慶應)に話を聞いた。

――まずはお互いのことを紹介してください

田坂:彼は菱田くんといいます。慶應志木高時代はラグビーをやっていました。恰幅のいい感じです。彼の良さは、人柄の良さにあると思います。周りの同期や後輩に、なにか押し付けるではなく、うまく力を引き出すことができるタイプの主将だと思いますね。

 

菱田:はい、こちらは田坂くんです。中学までサッカーをしていて、慶應義塾高校から應援指導部にいます。応援企画という、応援内容の統括と責任者となる役職です。実行力があります。あと喋りも上手い。そうした周りを巻き込む力、というのが魅力です。悪いところは、話が長い(笑)

 

田坂:短くしようと努力はしています。ただ気持ちが溢れちゃうので…。

 

応援への思いを熱く語る

――ご自身の入部のきっかけを教えてください

菱田:中学高校と慶應で6年間ラグビーをやってきて、大学でもラグビーを続けるか、新しいことをするかという選択を迫られて。自分がチームに貢献するのには限界があるかなと思いました。では新しいことを始めようとなった時に、不器用な自分でもみんなのため、慶應全体のために動けるということで應援指導部を選びました。

 

田坂:高校で入部した時のことを振り返ると、僕が1年生だった頃に3年生だった先輩がきっかけで。その方は初めて心の底からかっこいいと思える方でした。そんな風になりたいという憧れがきっかけでした。大学でも應援指導部を続けるか迷いました。もともと、大学は理工学部に進んで研究や留学などをしようと考えていました。でも学生時代の時間をどう使うかと考えた時に、言ってしまえば勉強や留学は大人になってもできる、だったら今という時間を全力で捧げられるものを選ぼうということで應援指導部を続けることにしました。高校の時から野球部や吹奏楽部門にも知り合いがいたので、その仲間と一緒にまた活動がしたいというおもいもありました。

 

――普段はどんな活動をしていますか

田坂:練習は週に3回、火曜水曜木曜に3部門(リーダー部、チアリーディング部、吹奏楽団)バラバラで練習をしています。早慶戦など大きい行事の前に、3部門合同で練習する機会も年に数回設けています。そして毎週末応援に行っていて、野球はもちろん準硬式野球、アメフト、ラクロス、サッカーなど依頼があればなんでも行っています。1日に3,4試合入ることもありますが、うまく人員を分けてなるべく多くの体育会を応援できるように努めています。そしてこの部活の特徴として、実際に試合を応援するだけでなく集客にも取り組んでいます。応援するにあたり、お客さんがいないと応援「指導」もできないので、どうしたら人が来てくれるかなどを考えるなど、意外と頭を使って活動しています(笑)

 

――普段から体育会の人たちと関わることがあると聞いたことがあります

菱田:体育会の選手達とは様々な関わりがあります。試合中の応援だけでなく、その後のレセプションであったりとか、普段から一緒に食事に行ったり飲みに行ったりして公私共々仲良くしているところがあります。

 

田坂:僕はヨットの応援によく行っているんですが、葉山にある合宿所に泊めてくれるんです。合宿所に一緒に泊まって同じものを食べて、ミーティングにも参加するというホットな体験をさせてもらえます(笑)。ただ試合の応援だけではなく、お互いいい友達の方が心から応援したいと思えるので、色々な部活と関係を持つというのもある意味応援活動のひとつなのかなと思います。

 

――他大の応援部などと関わりはありますか

田坂:なんの競技においても早慶戦は規模が大きいので、早大の応援部とは連携をとってやっています。例えば最近あった早慶レガッタでは、レースとレースの間に時間がありますが、その間にどのような企画をしようかというのを慶應だけで決めてしまうと、色々不都合が生じるんです。特にレガッタは応援席が隣同士なので、お互い好き放題やるとどんどん音が大きくなるとか、お客さんの満足度が下がってしまうと意味がないので、うまくやるための打ち合わせをとっています。また、六大学の応援団、應援指導部で作り上げる「六旗の下に」というイベントがあり、ひとつのステージを作り上げるという機会も年に数回あるので、普段から食事に行ったりなど親睦が深いです。

 

インタビューに答える田坂

――塾生の應援への注目について感じることはありますか

田坂:正直早稲田でやるデモンストレーションと、三田キャンパスでやるデモンストレーションでは、三田の人はあまり見てくれないという問題があります。やはりキャンパスの中庭が広かったり、就活で忙しいなどの理由はあると思いますが、見てくれる人は見てくれるのにそうではない人は素通り、という現状です。それへの対策も打とうということで、ぱっと見ただけで、これは何をしているのか、というのがはっきりわかるようにしていきたいと思っています。今は色んな娯楽もあって、なんでもできる時代だからこそ、週末に体育会の試合を見に行くということの価値が相対的に薄れつつあることを危惧しています。その価値をいかに上げられるかということを模索しています。やはり慶應にいるからには、「慶應に来てよかったな」とみんなに思って欲しいです。それを強く感じられるのが、野球の早慶戦をはじめとした週末の体育会の試合にあると思うので、その情報を我々應援指導部がしっかり伝えていけないかなと考えているところですね。僕たちが本気で応援を楽しく、魅力的なものにすることができれば、慶應を志してくれる受験生も増えるかもしれませんし、ただ応援をするというよりは、慶應全体の魅力を高めて発信できるのではないかなと思います。

 

――そもそも“應援指導部”という名前の理由は

田坂:例えばいわゆる「応援部」や「応援団」は自らが直接選手達に向けて応援をする、それもひとつのあるべき姿だとは思うのですが、僕たちはある意味「間接的」に応援するというのが念頭にあります。なので僕たちが試合中に向くのは選手達の方ではなく来てくれたお客さんです。そこにいる人達に、応援を強要するのではなくどうしたら心から「応援したい」と思ってもらえるか、を追及しています。例えば僕たちがいくら大きな声を出せるように練習したところで、それには限界があります。僕たちが目指しているのは、その僕たちの声を、お客さんを通じて何倍にもさせて選手に届けた方が、より力強い応援になるのではないかという思いがあります。

 

菱田:野球の早慶戦はかなり歴史があるイベントなんです。應援指導部ができる前は客席で喧嘩のような、ある種危険な状態に陥ることがあったそうです。その中でお客さんを統率し、ひとつの応援を作り上げる目的で應援指導部が作られた、ということは伺っております。

 

――印象に残っている野球の早慶戦はありますか

菱田:やはり優勝を決めた昨年秋の試合は印象的ですよね。僕たちは今まで優勝を体験したことがなかったのもありますし、昨年秋のリーグ戦は開幕から東大に負けてスタートして、続く法大には勝ち点を奪われ、追い詰められた状態から野球部の選手達が頑張ってくれて優勝を決めた瞬間というのは、目に焼き付いています。その後優勝パレードをしていても、「慶應の力ってすげえな…」と感じましたね。パレードを見ると、野球部の選手もいるし、塾長や塾生、家族もいて社中一体となっているなあと感動したのを覚えています。神宮球場からキャンパスまで車線をひとつ塞いでパトカーまで配備して、あんなに長い距離をパレードできるのは慶應と早稲田くらいなんですよね。そこもまた素晴らしいと思います。

 

田坂:やはり僕も挙げるとするなら昨年秋の試合ですね。僕たちが1年生の時は春秋共に2連敗、2連敗で早稲田1勝もできなかったんですよ。こんなに勝てないのか、というところから僕たちは始まっているので。昨年の春はあと1つ勝てば優勝、というところで逃してしまって。その中で秋は早慶戦2連勝で優勝という、僕たちの中ではストーリーがありました。単純に勝ったということを上回る喜びがありました。僕は昨年の優勝祝賀会でマイクをやらせていただいたんですが、何を言っても盛り上がるし、みんなの表情も輝くし、すごい光景だなと感じました。それを在学中に経験できたのは、とても価値のある、恵まれたことだなと思っていて、それをまた今年優勝がかかった早慶戦を迎えられるかもしれないというだけでもありがたいことですし、優勝が全てというわけではないですがその状況を無駄にせず、たくさんの塾生に来てもらって、経験してもらえたらいいなと思います。

 

――今季ここまで印象に残っている野球の試合はありますか

菱田:慶應志木高の同期のよしみがあるので、菊地(恭志郎=政4・慶應志木)が頑張ってくれた立大2回戦ですね。今の慶應は投手のリレーが凄いですし、その中で最後は石井も投げていたので、志木で始まり志木で終わる、みたいな、とても嬉しかったですね。やはり志木高のピッチャーはすごいなと思いました。立大は1回戦は負けてしまい、首位同士の試合で負けられない中で志木高の同期が勝ってくれたというのが印象に残っていますね。

 

田坂:開幕から東大といえど油断はならない、という中でしっかり勝ってくれたし、その後の法大は逆転勝ちでした。立大も1試合目は落としましたが3試合目に逆転勝ちを決めてくれました。落とした1試合目も9回に点を重ねるなど、今年は特に逆境に強いですね。やられている時にそれを跳ね除ける力が今の野球部にあるのではないかと思っています。そこにしっかり應援指導部も合わさって雰囲気を作りながらやっていきたいと思っています。

 

菱田:今年はチーム力があるなと思います。飛び抜けたエース級投手や強打者がいない中、チーム全体で戦っていく姿勢が今年は強いのかな、と感じていますね。まさに「社中一体」です。

 

インタビューに答える菱田主将

――応援の中で気をつけていることはありますか

菱田:波を作ること」です。お客さんと一緒に盛り上がって、落ち込んで、というのもいいと思うんですが、それだけでは應援指導部が野球部についていくだけの存在になってしまいます。そこでひとつ流れを変えられる言葉、落ち込んでいる時に前向きになれる言葉、逆に応援席が浮き足立っている時に落ち着かせられる言葉などかけられるのが大事かなと、意識しています。

 

田坂:応援を強制するのではなくて、お客さんが思わず声を出してしまうような、感情を引き出せないかなと考えています。「声を出してください」と言って出してもらうこともひとつの応援だとは思いますが、慶應らしく柔らかな、かつ人をまとめていけるような言葉づかい、振る舞いをしていきたいと心がけています。加えて、今年は3部門全体でひとつの応援をやっていきたいと思っています。練習はバラバラですが、部門の壁を極力なくして、パフォーマンスの仕方は違えど、応援に対する思いは同じでありたい、そうすることでより強い、三位一体となった応援を作り上げたいです。今年は野球のリーグ戦で台に吹奏楽団の1人が旗を持って上がるなど、新たな取り組みをしています。応援席では学ランを着た暑苦しい人たちが応援を強要しているのではなく、見ていて楽しくなるような応援を作りたいと考えているので、神宮球場に見に来られた方はぜひそこも注目してもらえると嬉しいなと思います。

 

――応援する側として嬉しかった出来事は

菱田:やはり体育会の人達に「ありがとう」を言われるのが嬉しいですよね。客席にいる人達の嬉しそうな顔を見るのも、喜びのひとつと思っています。

 

田坂:もちろん試合に勝って、体育会の人達が喜ぶ姿を見るのも嬉しいですが、僕たちはお客さんを対象にしているのもあるので、試合結果の善し悪しに関わらず、また来たいと思ってもらえるとありがたいなと思います。また来たいと思ってもらうのが僕たちの使命だと考えています。

 

――好きな応援歌はありますか

田坂:チャンスパターンメドレーの「突撃のテーマ」→「コールケイオー」→「ダッシュケイオウ」の流れが1番好きですね。個人的に、あれを流すととてもテンションが上がるんですよね。あれは試合中ではあと一打が出れば得点という、本当にチャンスの場面で歌われるものなので、これらが流れたらチャンスなんだと思ってもらって結構です。もうひとつは、「慶應讃歌」です。普段のリーグ戦では歌われませんが、野球の早慶戦などで勝ったあとなどに歌われます。野球の早慶戦に限った話をすると、勝った時だけ2番を歌えるんです。負けた時は1,3番だけを歌います。2番の歌詞は勝った喜びを表現したものなので。それで去年の早慶戦に勝って1,2,3番を歌えた時には思わず涙が出て、すごい力を持った曲だなと実感しました。今年はぜひ歌いたいなと思いますし、この歌を知ってほしいなと思います。応援に来てほしいなと思います。慶應中等部では音楽の授業で習うので、内部生であれば歌えたりするんですが、大学から慶應に入った人たちは結局「若き血」や歌えても塾歌、チャンスパターンメドレーだけになってしまうので、そこが残念です。それをいかに伝えるかが僕たちの使命でもありますね。

 

菱田:そうですね、僕たちは三田会に行って応援歌を先導する機会もあるんですが、そこで年配の卒業生の方々が肩を組んで「若き血」や「慶應讃歌」、「丘の上」を時には泣きながら、また時にはとてもいい笑顔で歌っているところを見ると、歌の持つ力はすごいなと感じますね。

 

田坂:結局、年に1回早慶戦に来るだけでは覚えられないので、毎週末とは言わなくとも、今週末は野球のリーグ戦を見に行ってみようとか、もちろん野球以外の競技もたくさんあるので、月に1回でも応援に来てくれるとでより歌を、慶應を知ることができてもっと楽しくなると思うので、もっとたくさんの人に来ていただきたいなと思います。中にはコアなファンの方もいらっしゃって、彼らは当たり前のように全部歌ってくれます。そんな完璧を目指さなくてもいいので、なんとなく歌えるよ、という塾生が増えてほしいなと思います。

 

――今回の早慶戦ではどのような企画が予定されていますか

菱田:僕たちだけが先導して、というのもいいですが、せっかく慶應義塾の仲間なので、色んな人が前に出てもらって一緒に応援する企画を用意しています。

 

田坂:他のサークルや団体を呼んで出演してもらう企画を打ち合わせしています。日曜日は毎週試合前に行われるフレッシュリーグも早慶戦なので盛り上げる企画も準備中です。

 

菱田:応援席に早大の応援部がやって来る陣中見舞いというものもあるので、広辞苑にも載っているような早慶戦を肌で感じてもらえたらな、と思います。

 

――早慶戦の魅力とは

菱田:内野から外野席まで埋まって、塾生もOBも、社中が一体となっているところですね。

 

田坂:年代とか関係なく、ただひとつの慶應という繋がりであの神宮球場の客席が埋まる、慶應最大のイベントというイメージがあります。僕たち應援指導部としては、それをもっと魅力的なものにしていきたいと考えています。春の早慶戦はサークルの新歓イベントのひとつに設定されることもありますが、できればそれで終わりではなく、それをきっかけにまた神宮球場に行ってみようと思ってくれるような人が1人でも多くなるように僕たち應援指導部がやっていくしかないな、と思います。

 

――お二人にとって「応援すること」とはなんだと思いますか

菱田:「応援」と「指導」ということを考えると、「人と人とを繋ぐこと」かなと思います。お客さんとプレーヤーと、僕たち指導部員が繋がってひとつのチームになるというのが応援ということなのかなと思います。

 

田坂:何が1番理想的な応援なんだろうというのはずっと考えていて、それは感情の一体化なのかなと思います。試合の中で、この場面はまずいぞ、となったら緊張感をもった応援席にするのが理想だと思います。今は勝っているけど最後の1人まで抑えてこそ試合に勝ちなんだ、という選手たちと同じ目線、近い感情でいてほしいと思っていて、それを繋ぐために僕たち應援指導部がいるんだと思います。いかに試合の状況を僕たちが察知して、伝えられるかだと思います。それを部員161人全員できるので、そこは安心していただいて大丈夫だと思います。

田坂もリーダーとして応援を指揮する

――早慶戦を見に来る塾生に向けてメッセージをお願いします

菱田:塾生がひとつの場所に集まれるのは、大学生活4年間で入学式、卒業式くらいだと思いますが、その中で早慶戦というイベントがあるのはとても意味があると思いますし、せっかく数ある大学の中で慶應義塾を選んで来ているのであれば、やはり慶應を感じられる場所が大事だなと思うので、ぜひ来て感じてほしいです。

 

田坂:早慶戦を見に来る、来ないはやはり個人の自由ではあります。でも僕の高校から大学生活を振り返ってみると、應援指導部として早慶戦のようなイベントに携われるのはありがたいことだなと感じますし、そこで色んな場面に直面してそこにいる人たちと感情を共有する、という経験はなかなかできないものなのだと思います。来てもらった以上後悔はしませんし、なんと言っても今の野球部は士気が高まっているとてもいい状態なので、ここを逃すのはもったいないんじゃないかと思うくらいです。なのでぜひ予定が合えば足を運んでいただけたらなと思います。

 

――ありがとうございました!

この取材は5月11日におこないました。

(取材:竹内大志、尾崎崚登)

 

早慶戦は6月2日と3日ですが、早慶戦の前に慶明戦が5月19日、20日におこなわれます。

連勝すれば優勝が決まるカードですので、ぜひ明大戦も応援にお越しいただければ幸いです。

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