全日本大学女子サッカー選手権大会、通称インカレは毎年全国から各地域のリーグ上位チームが集まり開催される、大学女子サッカーの頂点を決める大会だ。そして慶大は今季、そのインカレに出場することを目標として現在関東大学女子サッカーリーグを戦っている。9月1日に行われた第2節、開幕戦を惜しくも引き分けで終えた慶大は東京国際大と対戦した。試合は前半に松木里緒(環3・常盤木学園)が2ゴールを挙げ2-0。大学リーグ初白星を挙げ、一歩インカレ出場に近づいた。
この試合で大車輪の活躍を見せた松木だが、今季はなかなかコンディションが上がらず苦しい時期が続いた。ルーキーイヤーからコンスタントに出場を続けていた松木は、チームが関東女子サッカーリーグと大学リーグの両リーグで2部降格となった2016シーズン、1年生ながら22試合中20試合に出場し、いきなり4ゴールをマーク。そして、2部での戦いとなった昨季はチームの中心として12ゴールを挙げチームのW昇格に貢献するなど、一躍チームの点取り屋として注目を集めた。しかし今季、コンスタントに出場こそしているものの東国大戦までの得点はわずかに1。本来のプレーを発揮できず、結果を残せずにいた。「前を向けなかったり、ゴールを意識できなかった」こともあったという松木。「自分のやりたいプレーと(与えられた)役割のバランスが難しかった時期があった」と本人が語るように、戦術上キーとなるサイドハーフというポジションであるがゆえに感じる難しさや苦悩もあった。しかし、なかなかコンディションが上向かない状況でも松木は冷静に自分を見つめ直した。問題点を一つ一つ見直し、修正を繰り返す。コンディションを上げるために食生活や普段の生活自体も見直した。そうしてリーグ戦を戦いながらも、悲願のインカレ出場が懸かる大学リーグを一つの指標としてコンディションを整えていった。
苦悩の時期を乗り越えて
今季からは副務も務めている松木。選手として試合に出ながら副務として事務的な仕事をすることに「最初は慣れるのが大変だった」と言う。しかし大変だからこそ、逆にサッカー面を怠ってはいけないという意識も芽生えた。また、副務としてチーム全体を見るようになったことで、ピッチ内外での責任感や自覚が強くなったという松木。1年生の時は先輩たちに付いていくのが精一杯だったが、今や3年生になりチームのために考えることが多くなった。今シーズン序盤の関東リーグ、慶大は勝ち切れない試合が続きなかなかチームとして波に乗れずにいた。この苦しい状況の中、松木はチームメイトに具体的な指示を出すなど、積極的にコミュニケーションをとることでチーム全体を鼓舞。自身のコンディションが万全ではない中、得点ではなく声掛けなど、今やれることでチームを支えた。そして迎えた大学リーグ。第2節の東国大戦は3連戦の初戦と厳しい日程の中で、チームとしてもインカレ出場に向けて重要な一戦となった。そして松木はこの試合で先発出場すると、2ゴールの活躍を見せチームを大学リーグ初勝利へと導いたのだ。
松木の一番の強みはポジショニングの良さ。昨季からサイドハーフとして出場をするようになって求められてきた部分でもあり、松木自身一番意識をしている部分でもある。守備の面はもちろん、攻撃時には自分がボールをもらうだけではなく味方をフリーにするようなポジションを取ることも意識している。しかし、その中でも得点へのこだわりは人一倍強いという松木。高校時代はFWやトップ下を主戦場としていた彼女にはゴール前での嗅覚も備わっている。「大事な時に良いポジションを取る」。簡単そうに見えて難しいことだが、松木は相手との駆け引きが「楽しい」と語る。この日も1点目、2点目共に工藤真子(総3・日テレ・メニーナ)と佐藤幸恵(総2・十文字)のクロスにゴール前で合わせるかたちで得点を奪った。基本的には左サイドにポジションを取る松木だが、チャンスと見るやペナルティーエリアの中にタイミングよく入り込んでボールを呼び込む。この日の2得点もまさにポジショニングの良さで奪ったゴールだった。この得点は松木のコンディションが徐々に上向いていることの何よりの証だろう。
憧れの舞台へ
そんな松木はまだインカレの舞台に立ったことがない。1年次は主力としてシーズンを戦いながらもチームは2部降格となり、インカレ出場の夢は叶えられなかった。昨季は2部に所属していたため出場権がなく、準決勝・決勝をスタンドで観戦した。しかし今季、インカレ出場は現実的な目標として叶えられるところまできている。「憧れ」とまで語るインカレの舞台。そのために今季は苦しい時期を乗り越えここまでやってきた。チームの最終目標は「インカレベスト4」、その中で自身は「得点が取りたい」と語る。苦悩の時期を経てついに復活の狼煙を上げた松木。そんな遅れてきた慶大の点取り屋がここから一気に爆発し、チームをインカレの舞台へと導く。
(記事:岩見拓哉)