【バスケ】九州電力・酒井祐典選手インタビュー

酒井祐典九州電力・酒井祐典選手インタビュー

近年の日本バスケット界で最も有名な兄弟は竹内兄弟だが、慶大バスケ部を語る上で、欠かすことの出来ないのは酒井兄弟だろう。共に、慶大に大学日本一の称号をもたらした名選手である。この度、その弟である酒井祐典選手が現在所属する九州電力が、オールジャパンで慶大と対戦することとなり、試合後にお話を伺った。慶大での4年間で3度インカレ決勝の舞台に立ち、2008年には優勝を果たすなど、華々しい成績を残した酒井選手に、慶大卒業後の日々や、慶大バスケ部への想いなどを語って頂いた。

 

「仕事を優先させて、その延長線上でバスケをやりたいということで今の会社に入った」

 

――母校との対戦でしたが、振り返っていかがですか

組み合わせが決まった時からずっと楽しみにしてました。社会人になった時から母校と対戦したいとずっと言っていて、慶應としても、オールジャパンに出るのは自分らの代以来ですし、しかもそこで自分らと当たるということで、本当に楽しみにしてました。今日は先輩の偉大さを見せ付けようと思っていたんですけど、上手くやられてしまって。悔しいですね。

――それでも御自身は22得点16リバウンドの大活躍でした

うちのチームがちょっと重かったですし、シュートも入らなかったですね。その中で、個人的にはディフェンスよりもオフェンスを重視して攻めた結果、まあ悪くないかなという感じだったんですけども、チームが勝たないと意味がないですね。これを反省として持ち帰って、今月末に社会人の大会があるので、そこに向けてまた頑張りたいと思います。

ドライブからポストプレー、スリーポイントまで豊富な得点パターンは今も健在

ドライブからポストプレー、スリーポイントまで豊富な得点パターンは今も健在

――ありがとうございます。話題は変わりますが、卒業されてからの日々についてお聞きします。お仕事の方はどのような形でやられてるんですか

九州電力の本体に就職しまして、今電力会社はかなり大変ですけども、何とか頑張ってやってます。実は正直な話、進路を決める時に、もっと上を目指そうと思えば出来たんですよね。でも、そこはやっぱり仕事を優先させて、その延長線上でバスケをやりたいということで今の会社に入ったので、仕事はしっかりやってます。

――JBLのチームからも声が掛かっていたんですね

そうですね。ただ、JBLのチームには行かないということを先にお伝えをして、僕の所まで話が来ないようにしてました。耳に入るとどうしても誘惑に負けてしまうので(笑)。

――そうだったんですね。今はバスケットはどのくらいのペースでやられているんですか

火曜、木曜と土曜の午前中の週に3回ですね。平日は仕事が終わってからなので、夜の8時から10時の2時間です。でも仕事が優先なので、残業がある選手はもちろんそっちを優先させて、練習には5人も集まらない時もありますね。

――そうなると両立はかなり大変ですね

学生時代も勉強と部活を両立していた自信があったので、社会人でもやっていけるだろうと思ってたんですけど、やっぱりそこはそんなに甘くはなくて、1年目はかなり苦労しましたね。2年目からは慣れてきて、怪我もありましたけど、バスケットの方も結果を残せるようになって来ました。チームとしてもオールジャパンでも結構勝ってますし。

――確かに、毎年九州電力がオールジャパンを盛り上げているような印象があります

僕は今4年目なんですけど、僕が入った1年目で日大に勝って、その次の年が明治、去年が筑波で、学生相手には3年連続で勝ってるんですよね。そして、今年4回目にして母校相手に初の黒星ということで(笑)。まあ負けたのが母校で良かったかなと思います。

――毎年国体にも出場されていますが、今年は岩下選手のいる東京との対戦がありましたね

そうですね。今年も長崎代表に選んでもらって、2回戦で岩下のいる東京と当たりました。延長の末負けてしまったんですけどね。まあ相変わらずデカいなと(笑)。最近は3×3の方でも頑張ってるみたいなんで、忙しそうだなと思います。

※岩下達郎(総卒・芝高):慶大で酒井と同期。205cmの身長を活かし、センターとして活躍。現在は三菱商事で働くかたわら、3×3のDIME.EXEでプレー。DIME.EXEは昨年、悲願の日本一に輝き、クラブチーム日本代表として世界大会にも出場を果たした。

――卒業してからの慶應との繋がりという意味では、早慶戦ではよくお見かけするのですが

早慶戦は都合が合えば絶対に行くようにしています。今の現役の子達とは被ってないんですけど、これからもこういった繋がりは大事にしたいですね。OBと選手の繋がりもそうですし、OB同士の繋がりという意味でも早慶戦は皆さん集まるので、そういったことも楽しみに九州から駆け付けてます。

――今でも同期の方との交流はあるんですか

ありますね。集まれるのであれば、早慶戦もしかり、年末もみんなで過ごそうということで、東京に集まったりしますね。あとはプライベートでも福岡の方に遊びに来てくれることがあったので、その時は色々とおもてなしをしました。

――今でも交流があるんですね。卒業されてから慶應バスケ部の動向は気にされていましたか

そこはやっぱり見ますよね。自分と被っている代は特に。家治の代は全然勝てずに2部に落ちて、そこから桂の時にもがいて、蛯名の時に上がったんですよね。しかもインカレでも東海とかなりいい試合をしたみたいで。こっちまで足を運んで観戦するのはなかなか出来ないんですけど、かなり気にして見てはいますね。オールジャパンで当たりたいっていう気持ちもありますし、単純にやっぱり母校には勝って欲しいですしね。

――それはきっと現役の選手達も嬉しいと思います。ちなみに今蛯名選手の話が出ましたが、彼はずっと酒井選手を目標にしているとおっしゃっていましたよ

そうなんですか。それは初耳ですね。果たしてそれが良かったのかどうかはわからないですけどね(笑)。でも目標にしてくれてたのは嬉しいです。プレースタイルも似てる所がありますし。ただちょっとあいつはファウルが多いですけどね(笑)。退場しちゃうんで。でも嬉しいですよ。

 

「バックアップの力とそれに応えようとする選手の信頼関係、かつ、選手とスタッフとの信頼関係が大事」

「リバウンドは身長ではない」

 

――慶應は今年からHCが変わりましたが、印象はいかがですか

伊藤君をはじめ、フロント陣が慶應らしくちょこまかとやってきて(笑)、あとは新しく入ったサワ君がインサイドですごく頑張ってましたね。ちょっとタッパはないですけど、伝統のひたむきさとか、がむしゃらにやる姿勢も随所に見られて、バランスの取れたいいチームだなと思いました。

――特に気になった選手はいましたか

マッチアップした大元君は、この前の延世との試合を観たんですけど、その時もかなりシュートが入ってたんで、彼は抑えようと思ってました。今日はそこまでやられてないと思うんですけどね。あと今の代は基本的に僕とは被ってないんですけど、権田君は内部生なので、練習に参加してたりしていて面識があって。やっぱり慶應は縦の繋がりが強いので、そういう意味で彼みたいな内部生が頑張るとチームも盛り上がりますし、そこは僕としては気を付けてましたね。

大学時代の酒井選手。当時の佐々木三男HCに「彼がいないと試合にならない」と言わしめるほどに、その存在感は絶大だった

大学時代の酒井選手。当時の佐々木三男HCに「彼がいないと試合にならない」と言わしめるほどに、その存在感は絶大だった

――今の慶應は優勝争いという所からは少し遠ざかっているのですが、何か今の現役の選手達にアドバイスはありますか

自分達の時は結果を残し過ぎましたもんね(笑)。僕は4年間のうち3年インカレ決勝に行ってますし、それは他の大学でもなかなかないと思うので。

――では、酒井選手の代は何が良かったのでしょうか。もちろんいい選手が揃っていたというのもあると思うのですが

選手の層としてはそんなに厚くないんですよね。固定のメンバーで回して、たまにAOで選手が入って来てっていう形なので。そういう技術的な所ももちろんあるんですけど、ただそれだけでは絶対勝てないので。そのバックアップ、学生コーチやトレーナー、下級生といったサポートの力は、うちは本当に強かったと思います。僕なんて栄養面から色々指摘を受けたりしましたし、身体のケアをしっかりしろということで。そこの意識の高さは1つ要因かなと思いますね。他の大学は学生同士でそこまでやるというのはなかなかないのかなと思いますし。バックアップの力とそれに応えようとする選手の信頼関係、かつ、スタッフとの信頼関係も大事ですね。当時で言えば佐々木先生ですよね。まあかなりビッグマウスでしたけど、やっぱりあの人について行こうと思わせる何かがありますし、上手く言葉では言えないですけど、ついて行けば結果は残せるだろうっていう自信はありました。そこらへんが上手くマッチしたので、あれだけの結果が出せたかなと思いますね。それについても、僕らに出来て現役の子達が出来ないっていうことはないので、そこらへんをもう一度見つめ直して、一人ひとりがチームのためにどうやって貢献するのかを考えてやってもらいたいなと思いますね。僕の考えとしては、勝つことももちろん大切ですけど、それだけではないので。色んな人がいる中で、全員が人間として成長出来る場であるのが大事だと思っているので、部員一人ひとりが成長していってもらえればなと思いますね。でもやっぱり勝って欲しいんですよね(笑)。

――それがOBとしては本音ですよね

本当に個人的な考えを言うと、リバウンドを頑張れば試合は絶対安定するんですよ。自分は185cmしかないですけど、大学時代リバウンド王になれたので、本当に気持ちの部分ですよね。

酒井選手と言えばリバウンド。この日も22得点16リバウンドの活躍だった

酒井選手と言えばリバウンド。この日も22得点16リバウンドの活躍だった

――どうしてそんなにリバウンドを取れるんですか。今日も慶應の選手達が不思議がっていました

どうですかね。持ってるんでしょうね(笑)。でも本当に気持ちだと思います。確かに泥臭いんですよ。それこそシュートを打つ方に回って、華やかな所がいいっていう人もいますけど、シュートもなんだかんだで入っても40%なんで、残りの60%は落ちるので、そこをマイボールにすれば攻撃回数も増えて試合を有利に進められますし。その泥臭い部分を頑張れるプレーヤーがいるチームは安定します。勝利に繋がるかは分からないですけど。今の現役で言えばサワ君とかですかね。まだ身体が細いので、これからが楽しみですね。リバウンドは身長ではないので、気持ちを全面に出して、それこそ僕とか蛯名みたいなプレーを参考にしていって欲しいなと思いますね。慶應を支えてるのはそういうプレーだと思うので。

――そういったルーズボールやリバウンドは慶應の伝統の1つですよね。ちなみに御自身が卒業してから感じる慶應の伝統というのは何かありますか

九電に来て思ったのは、やっぱり慶應の一人ひとりの意識の高さはかなりのものだなと。1個1個の練習に対する考えが深いんですよ。これはこういう風になるからこう連動してこうなるんだっていうような、考えるバスケが浸透してるのはすごいなと思いますし、そういう環境にいれたのは本当に恵まれてたなっていう風に社会人になって気付きましたね。

――OBをはじめ、縦の繋がりが強いのも慶應の伝統の1つですよね

それももちろんそうです。OBの方達のバックアップがすごいですからね。

――現役の時はどう思っていましたか

自分は好きでしたね。おごってもらってたんで(笑)。ちょっと口が悪いですけど、いざ自分が社会人になってみて、あれだけ毎週行くのは本当にすごいなと思います。今日も1月1日からあれだけ多くの方が観に来るわけですから。OBになってみて改めて気付く所ではありますね。現役の時はどうしてもそういった感謝の気持ちは薄いかもしれないですけど、薄いなりにも感謝の気持ちを表に出して伝えていった方がいいですよね。まあ口酸っぱく言われてるんでしょうけど。

 

「引退後も何らかの形でバスケットに携わりたい」

 

――少し話題を戻しまして、御自身の今後のキャリアについてお聞きします。選手としてのキャリアは九州電力で終えられると思うのですが、その先についてはどのようにお考えですか

いや、まだそこについては全く考えてなくて、とにかく今はバスケットを楽しんでっていう感じですね。いつ引退するとかっていうのも考えてないですし、九電のコーチ陣に回って下を鍛えたりとかっていう気持ちもまだないですね。わがままな考えなんですけど、自分が試合に出てなんぼだと思っているので、そこはまだまだ貫き通していきたいと思ってます。

――指導者になるということもお考えですか

それももちろん選択肢の1つではありますね。九電なのか、クラブチームなのか、具体的なことはまだ全然考えてないですけど、これだけ20年近くバスケットに携わっているので、引退してバスケットが全くない生活というのは考えられないので、引退後も何かしらの形で携わりたいとは思いますね。

――将来的に、酒井選手に慶應を率いて欲しいと思っているファンの方もいると思うのですが

本当ですか。ただそれはなかなか厳しいですね(笑)。これから九州から東京に出てくるというのは。ただ、何らかの形で貢献したいとは思ってますよ。自分が教えることだけが貢献ではないと思っているので。例えば、高校生のリクルートとかは、僕の場合は母校の大濠高校がバスケも強いですし、文武両道で頑張ってるので、そこからいい選手に慶應に来てもらったりすることで繋がりを持っていけたらなとは思ってます。

――ありがとうございます。それでは最後に、後輩達にメッセージをお願いします

まずは自分らを倒しての2回戦進出なので、NBLのチームと対戦出来るのを楽しんでもらいたいですね。4年生に対しては、これが学生最後の大会になると思うので、プレーヤーは今まで練習してきたことをコート上で発揮する。出られない人は各々の持ち場でしっかりとサポートをする。後輩達はその姿を見て、先輩達よりもいい結果を残したいという風に思って、頑張っていって欲しいと思います。ただ来年は負けません(笑)。打倒慶應で頑張りますので。

◆酒井祐典(さかい・ゆうすけ) 185cm/85kg/F/26福大大濠高・慶大・九電

慶大バスケ部OBで現在は九州電力でプレー、今年で4年目となる。高校時代は名門・福大大濠で主将を務め、鳴り物入りで慶大に入学。同期の二ノ宮康平(現・トヨタ自動車アルバルク東京)、岩下達郎の3人はトリオと呼ばれ、1年時から主力として活躍した。2年時にはシックスマンとして、チームのリーグ戦1部昇格、インカレ優勝に貢献。3年時にはスタメンに定着し、関東トーナメントで優勝、インカレでも準優勝を果たす。4年時には副将を務め、関東トーナメント準優勝、リーグ戦準優勝、インカレ準優勝と輝かしい功績を残した。身体の強さを活かしたオールラウンドなプレーが持ち味で、2~4番ならどこでもこなす器用さも持ち合わせる。大学4年時のリーグ戦では185cmと決して大柄ではない中で、リバウンド王にも輝いた。兄の泰滋も慶大バスケ部OBで、主将も務めた。現在はNBLの日立サンロッカーズ東京で活躍している。

※この取材は、1月1日のオールジャパン 慶大対九電の試合後に行いました。

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