東京六大学野球春季リーグ戦もいよいよ大詰めを迎え、その最後を飾る早慶戦が行われた。優勝の可能性こそ消滅してしまった両校だが、伝統の一戦で負けるわけにはいかない。この熱戦を一目見ようと、神宮球場には多くの観客が詰めかけた。試合は、投手の加藤拓也(政4)、岩見雅紀(総3)の2ランなどで早大先発・大竹を早々にノックアウトすると、その後も攻撃の手を緩めず、先発全員安打の13安打、9得点の猛攻で、終始試合の主導権を握った。投げては、先発の加藤拓が苦しみながらも4失点で完投。快勝劇を見せた慶大は、大久保監督に監督就任後の早慶戦初勝利をプレゼントし、4季振りの勝ち点獲得へ王手をかけた。
5月28日(土)東京六大学野球春季リーグ戦 早大1回戦
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
慶大 | 0 | 2 | 3 | 0 | 0 | 0 | 2 | 2 | 0 | 9 |
早大 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 2 | 0 | 0 | 4 |
慶大:○加藤拓(4勝2敗)―須藤
早大:●大竹(1勝2敗)、黒岩佑、柳澤、北濱、吉野和―吉見
| ポジション | 選手名(学部学年・出身高校) |
1 | [4] | 倉田直幸(法3・浜松西) |
| H | 齋藤大輝(商4・慶應義塾) |
| 3 | 清水翔太(総3・桐蔭学園) |
2 | [9] | 山口翔大(環4・桐光学園) |
3 | [3] | 山本瑛大(商4・South Torrance) |
| R | 小原徳仁(文3・慶應義塾) |
| 4 | 小原和樹(環1・盛岡三) |
4 | [5] | 沓掛祥和(商4・慶應義塾) |
5 | [7] | 岩見雅紀(総3・比叡山) |
| R7 | 重田清一(環4・佐賀西) |
6 | [8] | 柳町達(商1・慶應義塾) |
7 | [2 | 須藤隆成(環4・創志学園) |
8 | [1] | 加藤拓也(政4・慶應義塾) |
9 | [6] | 照屋塁(環3・沖縄尚学) |
初回、慶大は相手先発・大竹を攻め立てる。山本瑛大(商4)、沓掛祥和(商4)の連打が飛び出し、二死一、三塁のチャンスを作った。しかし、ここは岩見が三振に倒れ、無得点に終わる。
一方の加藤拓の立ち上がり。安打と盗塁で二死二塁のピンチを迎えると、続く石井の当たりは二遊間を襲う強いゴロに。これを二塁手・倉田直幸(法3)が好捕すると、ランナーの飛び出しを確認し、迷わず三塁へと送球。ここで、早大三塁コーチが走者の三倉と接触し、球審・青木はインターフェアの判定を下した。ランナーアウトが宣告され、加藤拓は幸運な形でこのピンチを凌いだ。
すると直後の2回。須藤が相手捕手による打撃妨害で出塁を果たす。続く加藤拓の打席、初球のことだった。ジャストミートされた打球は、ぐんぐんと伸び、慶大ファンの待つ左翼席へと突き刺さる2ランホームランに。「打った瞬間分かった」という自画自賛の当たりで、昨年、春秋ともに完封負けを喫した天敵・大竹から貴重な先制点を奪った。
勢いに乗った慶大は3回、先頭の山本瑛が四球で出塁。その1死後、岩見は初球をフルスイングすると、またもや左翼スタンドへと飛び込む2ランホームラン。更に2点を追加し、試合は完全に慶大ペースに。打線の勢いは止まらず、続く柳町達(商1)が右中間への三塁打、須藤隆成(環4)がライトへのタイムリーをそれぞれ放ち、もう一点を加えた。ここで、早大ベンチは大竹の交代を決断。昨年苦しめられた大竹を鮮やかに攻略し、3回途中でマウンドから引きずり降ろした。
援護を受け、テンポ良く投げ込みたい加藤拓。しかし、この試合では制球に苦しんだ。不用意な四球を許す場面が目立ち、走者を得点圏に背負うイニングが続く。持ち前の粘り強さでなんとか踏ん張り、5回までは無失点に抑えた。だが、続く6回。2つの四球などで1死二、三塁とされると、木田にタイムリー二塁打を浴び、2点を失った。
早大の2番手・黒岩佑に4~6回を三者凡退に封じ込まれていた慶大打線。7回、代わった3番手の柳澤から、山本瑛のこの日2本目となるヒット、沓掛の四球で2死一、二塁とする。ここで打席には、先ほど本塁打を放った岩見が入った。岩見は、4球目をしぶとく右前に運び、二塁走者の山本瑛がホームイン。「右方向への意識」が功を奏したタイムリーヒットで、再び流れを寄り戻した。その後、相手のバッテリーエラーも絡み、この回2点を追加する。
しかしその裏、相手4番・石井の本塁打などで2点を献上し、またも追い上げを許してしまう。粘り強く投じていた加藤拓だったが、100球を超えたあたりから、疲労の気配がやや見受けられた。
スコアは7-4。未だどっちつかず、といった状況に、慶大打線が止めを刺した。8回、先頭の須藤は5球目を上手くすくって逆方向へと運ぶと、打球はそのままスタンドへ。この試合3発目の左翼席へのホームランに、慶大応援席は大いに盛り上がった。さらに、照屋塁(環3)、山口翔大(環4)の安打などで、2死一、三塁とすると、打席には途中出場の小原和樹(環1)を迎える。「無我夢中だった」という小原和だが、思い切りのいいスイングで三遊間を抜くタイムリーヒットを放った。早慶戦初出場の小原和にとって嬉しい一打が飛び出し、再び点差は5点差に。試合の行方はほぼ決定付けられた。
投球数が140球を超えていた加藤拓であったが、8、9回もマウンドへ。「体の使い方を意識して、修正した」というその言葉通り、終盤はランナーを出しながらも無失点に抑え、試合を締めた。計10安打を浴び、10四球を与えるなど、本来の姿とは程遠い内容であったが、要所を締め、4失点にまとめた。試合は、9-4で慶大の勝利。快勝劇を見せた慶大は、大久保監督に監督就任後の早慶戦初勝利をプレゼントし、4季振りの勝ち点獲得へ王手をかけた。
慶大打線の破壊力が存分に発揮された一戦となった。この試合のキーとなったのは、2回に加藤拓が放った一発だろう。相手先発の大竹は昨年の早慶戦で、2季連続で完封勝利を挙げている。まさに、慶大打線にとっては天敵だ。今季、大竹の状態が完全ではなかったとはいえ、苦手意識のようなものも存在したかもしれない。そんな中、加藤拓の豪快な一撃は大竹に対するネガティブなイメージを完全に振り払った。チーム全体を勢い付けたという意味で、それは大きな一打となった。
また、効果的に追加点を奪うことで試合を終始優位に進めた。7回に岩見が放ったタイムリーや、8回の須藤の本塁打は、苦しむ加藤拓を大いに支えたことだろう。今季、好投する加藤拓を援護出来なかったゲームが続いただけに、ようやく理想の試合運びが実現出来た。明日、早大の先発は防御率リーグ5位の竹内が予想される。柳(明大)、田村(立大)ら、各大学のエース級に苦しんだ今季。好投手相手にも、本日のような試合展開へと運べるか。慶大打線の真価が問われる一戦となる。
【Keispo pick up】 通算20勝達成 慶大野球部史に残るエース 加藤拓也
節目の20個目の白星は、「大学入ってから一番苦しかった」投球によって得たものだった。今季抜群の安定感を誇っていた加藤拓だが、この日は乱調。毎回のように走者を背負い、三者凡退はわずかの一回。その中でも要所では好投し、失点は4に留めた。幸いにも、打線の援護に恵まれ、大舞台で見事通算20勝を達成した。2回には、自ら本塁打を放ち、その記録に花を添えた。20勝は、「大学に入ったときは想像もしていなかった」数字だという。しかし、加藤拓は不断の努力で星を一つずつ積み重ね、ついに大台へと到達した。間違いなく、慶大野球部史に残るエースとなるだろう。
記事:小沢 光市
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| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
[4] | 倉田 | 二ゴロ | 二安 |
| 空三振 |
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H | 齋藤大 |
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| 空三振 |
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3 | 清水翔 |
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| 投犠打 |
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[9] | 山口 | 二ゴロ | 遊ゴロ |
| 右飛 |
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| 空三振 | 二安 |
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[3] | 山本瑛 | 左中2 |
| 四球 | 空三振 |
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| 右安 |
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R | 小原徳 |
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4 | 小原和 |
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| 左安① |
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[5] | 沓掛 | 左安 |
| 遊ゴロ |
| 右飛 |
| 四球 | 左飛 |
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[7] | 岩見 | 空三振 |
| 左中本② |
| 右飛 |
| 右安① |
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R7 | 重田 |
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| 左飛 |
[8] | 柳町 |
| 捕邪飛 | 右中3 |
| 二ゴロ |
| 空三振 |
| 二ゴロ |
[2] | 須藤 |
| 打撃妨害 | 右安① |
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| 空三振 |
| 左本① | 見三振 |
[1] | 加藤拓 |
| 左本② | 中飛 |
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| 一ゴロ |
| 見三振 |
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[6] | 照屋 |
| 遊ゴロ | 左飛 |
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| 空三振 |
| 二安 |
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| 投球回数 | 打者数 | 球数 | 安打 | 三振 | 四死球 | 失点 | 自責点 |
○加藤拓 | 9 | 45 | 178 | 10 | 10 | 10 | 4 | 4 |
◆監督・選手コメント
大久保秀昭監督
長い試合だった。監督就任以来早慶戦初勝利となり、素直に嬉しい。昨年4連敗し、選手も僕も悔しさを感じていた。優勝できなかったことが一番悔しいが、それと早慶戦は別物ということで、選手も切り替えて臨んでくれた。それが、いい形で現れたと思う。大竹投手を打ち崩したが、今シーズンは彼自体の調子が良くなかった。加藤がいきなり出鼻をくじく形となって、あの一本は大きかった。ピッチング自体は、あまり褒められるものではなかった。最後まで投げ切ってくれたことは良かった。2連勝で、勝ち点を取ることをこの2週間目標としてやってきた。打線はいい感じで来ている。相手投手は変わるが、なんとか慶應らしい攻撃をしたい。
沓掛祥和副将(商4)
久しぶりの早慶戦は人が多くて楽しかった。とても緊張して昨日全然寝られなかったが、勝ててよかった。途中、流れが行きかけたりしたが、追加点がちゃんと取れたし、全員攻めの姿勢ができていた。2アウトからでも山本瑛が出れば、自分がつないで、岩見が還すという形で、2アウトからでも点がとれるというのは相手にとってダメージが大きかったと思う。6回から加藤拓も調子が悪くなってしまったが、「お前しかいないからフォアボール出してもいいから頑張れと」声を掛けた。今日は守備のミスがなかったのがよかった。2連勝が大切だと思うので、今日勝った勢いに乗って明日も勝ちたい。
山本瑛大(商4)
慶應らしく勝てたので良かった。バッティング練習からみんなが意識高く取り組んでいて、2週間あったのでいい準備ができたかなと思う。ピッチャーの足元から右方向へのバッティングを徹底的にしていた。今日は3番だったが、打順はどこでも関係なく自分の仕事は塁に出ることかなと思うので、それができて良かった。最初はヒットを狙っているが、追い込まれると食らいつく感じで打っている。第一打席は直球を続けられて追い込まれたが、甘い変化球を叩けたので良かった。2本目の右方向のヒットはこの2週間で準備したことが助けてくれたように感じる。明日も勝つ。
須藤隆成(環4)
序盤に倉田がワンヒットを止めてギリキリのプレーで相手に流れをやらずに、次の回で点を取れたのが大きかった。加藤は乱調だったが、内野も外野もしっかり守れて、打つ方もしっかりと打って勝てたので良かった。加藤もかなり悩みながらやっていたが、点差を見ながら対応して結果的に勝てたので、上手く試合の流れを見ながらできたと思う。ホームランは狙っていなかったが、2打席目3打席目に長打を狙おうとしたときに三振をしてしまったので、やはり長打は狙わないようにしようと思った。明日は、しっかりとストライクを取っていれば2、3点以内には抑えられると思うので、こちらの打線が4、5点を取って勝ちたい。
加藤拓也(政4)
投げ終わって、ほっとしている。6回から急にストライクの入れ方が分からなくなってしまった。8.9回はそんな悪い感じはなく、持ち直した。体の使い方を意識して修正した。点差もあったので、同点まではいいかなと、アウトを1つ1つ積み重ねる感じで投げた。ほんとに点数以上に苦しかった。大学入ってから一番苦しかった。通算20勝という数字は大学入った時は想像もしてなかったので、ちょっと驚き。1つ1つ勝ってきたことがこの数字につながった。2年ぶりの早慶戦勝利だったが、なんとか1戦目で勝ちきることが自分の使命かなと思っていた。ホームランはバントのサインが出なかったので、来た球打とうかなと。今回は打った瞬間わかったので、転ばないように気をつけた。バッティングの練習は今日の朝が初めてだった。上手くいってよかった。
岩見雅紀(総3)
やるべきことをしっかりやって、それが勝ちにつながった。結果何より勝てて良かった。スタメンとして初めて迎える早慶戦だったが、いつも通り臨めたと思う。第1打席は打ち気が先行してしまった。2打席目以降の感覚でいければ良かったと思う。ホームランを打った第2打席はちょっとバットに先っぽだったが、しっかりヘッドを利かせて打てた。センター方向を意識していた中、左中間に飛んでくれた。いくら加藤さんが投げているとは言え早慶戦、何が起こるかわからないので打てて良かった。第4打席のタイムリーは詰まっていた。自分の感覚では正直ラッキーだと思う。引っ張りじゃなくて右方向を意識していた。でもしっかり振り抜いた結果、落ちてくれた。次の1点が欲しい場面だったから、大きかった。明日は早慶戦2連勝出来るように頑張る。
柳町達(商1) 初の早慶戦だったが、応援がすごくて、テンションが上がった。早稲田には負けられないので、絶対に勝とうという意識で臨んだ。1打席目は抑えられたが、2打席目は感じはつかめたので打てると思った。打席に入っていい感じで振れて、間に飛んだので良かった。今日得た課題は2打席目の以降の打席はゴロが多く、引っ掛けたりしてしまったので、修正していきたい。今日勝った勢いのまま、明日も勝って2連勝して勝ち点を奪いたい。勝利につながる一本を打ちたい。
小原和樹(環1)
こんなに観客が多いところでの試合は初めてだったけれど、緊張というよりは楽しめた。今日は先輩たちが序盤で流れを作ってくれたので、途中出場だったけどやりやすかった。公式戦出場は4回目なので神宮には慣れてきたと思う。雰囲気とかもあるが、人工芝が初めてだったので、速い打球とかに慣れてきた。今日は無我夢中で打席に立ったので、綺麗ではなかったがヒットが打ててよかった。初打点にもなったので嬉しい。守備では、いつもファインプレーを意識して守っている。早大の吉見選手の5打席目は、すごく速い打球で焦ったが結果ダブルプレーをとれてよかった。チームを盛り上げるのが僕の役目だと思ってるので常に全力を意識してる。明日も先発でいく意識で頑張っていこうと思う。