【野球】中等部から10年間の慶應野球部人生 示し続けた誇りと覚悟/4年生卒業企画「光るとき」 No.3・今泉将

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25年度に卒業を迎える4年生を特集する特別企画「光るとき」。第3回となる今回は、野球部の副将・今泉将(商4・慶應)。鳴り物入りで慶大野球部に入部するも、3年目を終えて無安打と苦しんだ今泉。それでも、副将として挑んだラストイヤーの4年春に初安打と初本塁打を記録した。そして、最後の安打となった4年秋の早慶戦での一本には、数多くのドラマがあった。

 

小学校1年生で野球を始めた今泉は、慶應中等部を受験し、見事合格。中等部では野球部に入部した。決して強豪とは言えない軟式の野球部だが、「慶應のユニホームに袖を通してみたい」という想いから、入部に迷いはなかった。

 

塾高に進み、野球部では2年秋からレギュラーを掴んだ。塾高野球部は2018年に春夏続けて甲子園に出場したものの、今泉が入部した2019年以降は全国の舞台に手が届かず、苦しい時期でもあった。

 

身長187センチ。右の大砲候補として期待され、大学野球部の門をたたいたが、1年目は苦戦を強いられた。そんな中でも、結果が出ない今泉のポテンシャルを、堀井哲也監督は誰よりも買っていた。監督のマンツーマン指導の効果が現れ、2年になる春のオープン戦で今泉は覚醒を果たす。現広島東洋カープの齊藤汰直(当時亜細亜大学新2年)から本塁打を放つなど躍動すると、その春にリーグ戦で神宮デビューを飾った。本人は2年時のシーズンを「悔しかった」と振り返るが、ここまでは順調にも思えた。

 

しかし、ここからは誰が見ても茨の道そのものだった。上級生となり、結果を求められる3年目。春のキャンプではレギュラーとして起用されるも、肩にけがを負い、帰京を余儀なくされた。春のリーグ戦出場は、わずか1打席のみ。夏のキャンプではハムストリングの肉離れを起こし、秋のレギュラー争いから完全に脱落した。Bチームでも出場機会を失い、吉開鉄朗(当時商2/新商4・慶應)と毎日続けていた自主練習も、やめてしまおうかと思うほど追い込まれていた。

そんな今泉を立ち直らせたのは、Bチームの先輩たちの姿だった。4年秋でBチームに所属する状況でも、誰ひとりメンバー入りを諦めていなかった。引退試合となる早慶戦の直前まで必死に自主練習する先輩たちを見て、「あと1年ある自分がこんなところで終わっていられない」と気持ちを切り替えて、再び練習に打ち込んだ。

 

副将に就任した4年目。打撃向上のため、メンタルトレーニングを始め、ビジョントレーニングでボールの見方を改善し、過去4度の肉離れをしていた身体を変えるために栄養士をつけ、体重を7キロ落とした。まさに心技体、取り組めることはすべて取り組み、野球人生最後の1年に臨んだ。

 

春の立大2回戦。ついにリーグ戦初安打を放つと、次の試合で初本塁打・初打点を記録。法大2回戦では逆転の3点本塁打を放つ活躍を見せた。しかし、チームは5位と低迷。個人としても、満足できる成績とは程遠かった。このシーズン中、堀井監督から言葉をかけられた。「絶対に下を向くな。お前の一挙手一投足を全部後輩たちが見ているから。お前が下を向くとみんなも下を向くから。絶対、どんなときも顔を上げて堂々とプレーしろ」。

ラストシーズンの4年秋。今泉はベンチスタートが続き、チームも開幕から2カードを落とし、4カード目を前に早々とV逸が決まった。

 

そんな状況でも、今泉は声を出し、がむしゃらに練習し続けた。最後の早慶戦まで諦めなかった1年前の先輩たちのように、誰よりも一生懸命に練習する最上級生の姿が、グラウンドにあった。

 

最終週の早慶戦が終われば、4年生は引退となる。1回戦で敗れ、後がない状況で迎えた2回戦。0―3と3点を追う7回表。三塁側席・左翼席で『若き血』を響かせた塾生と塾員の視線の先には、背番号1の背中があった。「7回の表、慶應義塾大学の攻撃は、6番・竹田くんに代わりまして、今泉くん。バッター・今泉くん」。カウント2―2からの5球目だった。低めの変化球を拾い、右中間に落とした。一塁上で咆哮すると、ベンチが、スタンドが、沸き立った。これが、今泉が放った大学最後のヒットだ。

決して輝かしい成績を残せたわけでも、望んだ栄光を掴めたわけでもない。しかし、中等部から10年間。慶應義塾を背負って戦う者の誇りと覚悟を、これ以上なく示し続けてきたのが、今泉将の野球人生だ。

 

4年秋の早大2回戦。0―3で敗れ、今泉が慶應野球部の一員として戦った最後の試合だ。ゲームセットの後、早大選手と握手を交わし、スタンドへのあいさつに向かう今泉の目には、光るものがあった。それでも、下を向かなかった。顔を上げた。誰よりも、大きく、真っ直ぐ伸びた、堂々とした背中のまま、10年目のグレーのユニホームを脱いだ。

(取材、記事:柄澤晃希)

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