2023年シーズン、「UNITE」をスローガンに始動した鎌田率いるUNICORNS。春には活動停止という苦難もありながら、その経験を糧にして鎌田も、そしてチームも成長を続けてきた。その成果を出す場となる秋シーズンの幕が、いよいよ上がる。
※記事末尾に、4月29日(
秋リーグより本戦復帰となった慶大だったが、トップリーグではさらなる事態が起こっていた。日本大学が不祥事により参加資格を停止され、TOP8は7チームでの開幕となることが決定。相次ぐ不祥事に対し、アメフトそのものにも周囲の目線は否が応でも増えていた。そんな中で迎える秋の戦い、慶大は従来よりも大幅にメンバーを欠いての開幕となった。昨年まで100人を超えていたはずのベンチにいるのは80人程度。昨年までグラウンドで活躍していた選手が、何人も姿を消していた。しかしこればかりはいまさら嘆いても仕方のないこと。今いる戦力で最高の戦いをするしかないと、UNICORNS全員で前を向いた。
そんな戦力ダウンが避けられない中で迎える最初の試合は、まるで巡り合わせのように、宿敵・早稲田大学。これには鎌田も「春に試合が中止になって迷惑をかけてしまったというのもありますし、絶対に情けない試合はできないなというのは強く感じていました」と語る。
そして、早慶戦という文化には比較的長く触れてきた慶應義塾高校出身の鎌田。「早稲田がめちゃくちゃ嫌いとか、そういうことは特にないです」と笑みをこぼす。ただ、試合に関しては「伝統的にずっと続いているものですし、絶対に負けてはいけないという空気がある。チームには『早稲田だけは絶対に勝つ』という気概を持っている選手が何人もいる」と、その重さを語る。
鎌田は早稲田を「試合を重ねるにつれて徐々に強くなっていくチーム」と分析していた。今回はお互い初戦ということもあって、早稲田の戦力は決して、手が届かないほど強くはない。そう感じていた。
そんな早慶戦は、前半はキック1本を決められたのみで3-0と、前年度の東日本王者に必死に食らいつくことができた。しかし後半はスタミナ面を中心にその差が激しくなり、17-0の完封負け。鎌田は試合後、コンディションや暑さなどの体力面を課題にあげた。やはり実戦から数ヶ月離れていた慶大は、試合勘を多少なりとも失ってしまっていたのだった。
その後、格上の法政大と明治大に連敗。2年連続で東京ドームにて行われた法大戦は、後半に怒涛の追い上げを見せるもあと一本が出ず。明大戦は全く歯が立たない完敗であった。ここまで人数はもちろん練習の習熟具合も、何もかもが不足していた慶大。鎌田は「とにかく勝ちが欲しい」と焦ったという。1戦目の時点での目標はもちろんシーズン全勝。しかし、法政に負けて2敗がついた時点で日本一への道は事実上絶たれてしまった。終わったことをとやかく言っても仕方がないと切り替え、チームに対し「セカンドベストで勝ち越しを目指そう」という話をした。前だけを見て、ただひたすらに練習を重ねた。
一戦必勝で臨むこととなった第4戦、中央大との一戦。この試合は、試合開始直後のワンプレーで試合が決まった。キックオフのボールをキャッチした倉田直(理3・南山)がそのままディフェンスをかき分けてタッチダウン。途中キックによる失点はありながらも、先制点を守りきって今季初勝利を手にした。試合後のミーティングでは他の部員と同様に、鎌田の目にも大粒の涙が溢れていた。この試合について鎌田は試合後に「極論ディフェンスが点を取られなければ負けることはないので、完封しようとは言っていました」と語った。
この指示を裏付けるように、この日の鎌田は個人のプレーでも絶好調。「4thダウンなどの勝負どころで気合を入れて止められた。何回もこれが上手くいくことはあまりないので、勝ててびっくりしてしまった」と振り返る通り、中央大の猛攻を何度も防いでみせた。石塚大揮(経3・慶應)は試合後のインタビューに「鎌田さんが全て止め切ったというところが今日の守備の全て。みんなプレーは良かったのですが、やっぱり鎌田さんがとんでもなく大きかった。(今日のMVPは)鎌田さんです」と語っていた。鎌田は頼れる主将の姿を、自らの背中で見せた。
念願の初勝利を掴んだ慶大ではあったが、戦績は未だ1勝3敗。日大を除く7チームの最下位は入れ替え戦を戦わねばならず、慶大にもその可能性は残されていた。しかしその状況でも、鎌田は前を向き続けた。否が応でも気になってしまう状況にあっても、「残り2試合を両方勝ってイーブン(引き分け、3勝3敗)に持ち込もう」と、チームを鼓舞し続けた。続く立大戦は落としてしまうが、気持ちを切り替えて、横浜スタジアムという大舞台で行われた最終戦の東大戦に挑んだ。
ここに来て慶大は本来の持ち味である攻撃を存分に発揮。45-20で完勝を収めた。「これまでの試合ではオフェンスが点取れていなかったのが、この時はうまくいった。ディフェンスに関しても点数はちょっと取られてしまい、決して完璧な試合とはいえないものではあったが、シーズン最後にしていい試合はできた」と振り返った。現役最後の試合を、その努力の集大成として勝利で飾れたのは、何よりの思い出になった。そしてこの試合をもって慶大は6位以上が確定。入れ替え戦の回避と来季のTOP8残留が決定し、鎌田が率いた2023年シーズンのUNICORNSは、その戦いに幕を下ろした。
1年間の活動を振り返り、「よくやり切ったなと自分でも思っている」と総括する。コロナ禍はもちろん不祥事もあって、毎年のように活動停止の期間を挟むことになった4年間。普段のUNICORNSの主将と比べて鎌田への負担が何倍も重かった4年であったことは想像に難くない。「同期の人数も減ってしまった中で、仲間たちと最後までやり切れたことはよかったことかなと思っています」と、ここでも4年間ともに戦ってくれた仲間に感謝の言葉を述べた。
試合を全て終えた後の納会で、鎌田が後輩に伝えたことは2つだった。1つは、自分たちが叶えることができなかった「日本一」への思いを託すこと。そしてもう1つは、「仲間を大事にすること」。仲良くすること自体は、チームプレーでは欠かせない要素となる。ただ同時に、厳しくするところは厳しく、ダメなことはダメと言えなければならない。年度の途中で同期を数多く失ってしまった、鎌田はじめ2023年度の4年生メンバーが誰よりも痛感していることだ。鎌田は「自分たちがアメフトをできているのは、決して当たり前ではない。応援してくれる観客の皆さんはもちろん、裏方の人、OBの人、試合にきてくれる應援指導部やケイスポなどの取材、そうやって支えてくれる人がいるからこそ、僕たちにはそれに応える責任がある。その自覚を持ってアメフトを楽しんでほしい」と後輩に向けてエールを送った。
来年のUNICORNSに期待していることを聞くと、「日本一はまあ当然として」という言葉を笑いとともに挟んで「関西の大学に勝って欲しい」という答えが返ってきた。アメフトには実力が西高東低、すなわち圧倒的に関西のチームが強いというパワーバランスがある。それは高校でも大学でも、社会人でも同じだ。現に今年の大学王者決定戦、通称甲子園ボウルは関西学院大学の優勝で幕を閉じた。それだけ関西の壁というのは高く、険しい。ここ数年はそこに挑むチャンスすらなかったUNICORNSだが、来年からはそのチャンスも増えることになっている。当たるからには関東の、慶應の力を見せつけて、そして慢心せずに勝って欲しい。それが鎌田の願いだ。
大学卒業後はアメフトから離れる鎌田。取材の最後に、「鎌田さんにとってアメフトとは?」という問いをぶつけた。鎌田は笑いながら「ベタですけど、ほぼ人生ですね」と答えてくれた。高校からアメフト部で活動し、高校から大学に至る7年間の全てをアメフトに捧げていた彼にとって、この7年間は宝物であり、そしてさまざまなことを教えてくれる先生でもあった。この経験を糧に新天地で輝く姿を、UNICORNSの後輩とともに個人的にも、大いに期待したい。
(記事:東 九龍)
(写真:☆→慶應義塾大学アメリカンフットボール部提供、★→長掛真依、表記なし→東九龍)
☆2024年度 アメリカンフットボール早慶戦について☆
記事公開の本日からちょうど1ヶ月後の4月29日(
試合概要は以下の通りです。詳しくは慶應義塾大学アメリカンフットボール部のWEBサイトをご覧ください。
『第72回早慶アメリカンフットボール対校戦』
■開催概要 日時:2024年4月29日(月・祝) ■試合スケジュール(予定) 10:00 開場 ■入場料 前売り券/当日券:一般1,000円、大学生/高校生500円(
会場:駒沢陸上競技場
主催:慶應義塾体育会アメリカンフットボール部/
共催:一般社団法人 関東学生アメリカンフットボール連盟
後援:東京都アメリカンフットボール協会/夕刊フジ
協力:日本フラッグフットボール協会
10:30 フラッグフットボール戦 慶應義塾フラッグユニコーンズ×ワセダクラブテディベアーズ
上記終了後 フラッグフットボール戦 ジュニアユニコーンズ×ワセダクラブジュニアベアーズ
13:00 大学戦 慶應義塾大学×早稲田大学
※中学生以下、障害者手帳をお持ちの方は無料
4月1日(月)よりチケット販売開始です。