【Last message】全国ベスト8への到達、光ったチーム孝行の奮闘/4年生特集「Last message〜4年間の軌跡〜」 No.26・朝比奈孝達(アメフト部) 

アメフト

24年度に引退を迎えた4年生を特集する「Last message~4年間の軌跡~」。第26回となる今回は、朝比奈孝達(法4・立教新座)。慶大アメフト部UNICORNSの副将として、表裏両面でチームを支えた。立大の高大一貫校からわざわざ浪人をしてまで慶大の門を叩き、大学4年間を未経験のアメフトに捧げた。試合経験が少ない中でも副将に立候補し、まさに大車輪の活躍を見せた朝比奈が、異例とも思える選択を取り続けた理由。そして、後輩に今最も伝えたいことは何か。

 

UNICORNSのOBである父をもつ朝比奈孝達(法4・立教新座)。高校まではラグビー部に所属していた。進路選択で朝比奈は「スポーツで日本一になりたい」という思いを胸に、スポーツの規模が大きい大学への進学を目指した。1年の浪人の末に慶大へと入学した朝比奈は、父の後押しもあり、熟慮の末にアメフト部を選んだ。

ラグビー経験者ゆえに楕円球には慣れていたものの、今までになかったショルダーとヘルメットの重さという洗礼を受けた。またラグビーとアメフトでは、似たプレーでも全く異なるテクニックを用いることが少なくない。朝比奈の挑戦は、ここから始まる。

4年への進級を前にして、UNICORNSで行われた新幹部決め。朝比奈は実戦経験が少なく、また自身がリーダー向きでないことは自覚しながらも、副将への立候補を決意する。その意図は、「学生最後の集大成で、ただ選手として貢献するよりも大きな形でチームを支えたい」という思い。UNICORNSで多発する不祥事を自分の代では絶対に起こさせないという役割を、幹部として担いたい。日本一を絶対に獲りたいからこそ、環境整備に身を置く覚悟を示した。その熱意はチームメイトからも評価され、副将に任命されることになる。

持ち前の熱意とパワフルさでチームをけん引

しかしアメフトの神は、さらに朝比奈に試練をぶつける。4年の秋に、今度はポジションのコンバートを経験する。夏以降、木村海道や大坪英泰の怪我で、OLの層が薄くなったUNICORNS。DLが本職の朝比奈は、その穴埋めを全うする役割を求められた。同じライン職とはいえ、やることはOLとDLで大きく異なる。過酷ではあったが、チームのために歯を食いしばった。

こうして迎えた学生最後のリーグ戦、朝比奈にとって特別な立大戦で、彼が魅せた。「練習した最低限はできた」と本人は振り返るが、チームメイトからは「ミスを数えられるOLに転属して、目立ったミスがないのは本当に凄い」(木村)「急にOLになったのにきちんとシーズンに間に合わせることができる器用さ、気迫はすさまじい」(大坪)と評され、その貢献度は本人の想定以上。立大QB・星野を「中高時代に一緒にラグビーをしていたのでやりにくいところはあった」としつつも、自分の選択が間違っていなかったことを勝利で証明した。この活躍も相まって、チームは関東3位で全国大会へ進出。最後に勝ち点が立大と並び、直接対決を制したが故の3位通過であり、全国大会への朝比奈の貢献は計り知れない。

「目立たない」は、OLにとって最高の褒め言葉

全国出場に湧くUNICORNSだったが、朝比奈はまた一つ壁にぶつかっていた。立大戦で脳震盪を起こしたのだ。現在も通院が続いているというほど、その傷は大きかった。結果として、彼の選手としてのラストイヤーは、ここで唐突に終わりを迎えてしまった。ショックは大きかったといい、「選手として貢献したい部分があって試合に出たかったので、辛かった。今でもたまにしんどくなる」と振り返る。チームメイトが治療に専念してほしいという方向でケアしてくれたこともあり、朝比奈はここで立ち止まる時間を設けた。「そういうもん、人生は。何が起こるかなんてわからないし、これをチャンスにして人として強くなれたら」という思いが、最後まで裏方でチームを支えるという決断につながった。

全国大会初戦で関学大と激突し、惜しくも敗れた慶大。その時を、彼は「今までの人生で試合に負けて泣いたことはなかったが、今までで一番後悔を噛み締めた瞬間」と振り返る。自身の怪我はもちろん、チームとしても、まだできたことがあるはずだという念は強い。とはいえ、全国ベスト8という結果に対しては前向きに捉えている。「未経験者が多い代で、頑張らないと結果が出ないというのはわかっていた。春からやり切ったからここまで来られた」と語る。日本一には届かなかったが、全員でシーズンを完走するという目標は無事達成し、引退を迎えた。

4年間の集大成を終えた姿が西陽に映える

卒業後の進路については、脳震盪が完治していない現在は、いったん現場から距離を置くことを決めている。ただ、後輩たちを後押ししてあげたいという思いは持ち続けており、「また再びアメフトに関われるのならば、スタッフとして戻る覚悟はある」と語る。

後輩に対して、彼が願うことは一つ。それは、全員が何事も起こすことなくシーズンを完走すること。彼のUNICORNS在籍4年間のうち、部は実に3度も不祥事を起こし、その度に活動が止まった。そして問題がなかった今シーズン、これだけの結果を残せた。朝比奈は、後輩のポテンシャルをして全員がアメフトに全力を注げば、自分たちの結果をも超えていけると確信している。

残念ながらこの記事の公開前に1件問題が露呈してしまったが、今後はもう二度と朝比奈の耳目に暗い話題が届かないこと、そして日本一の吉報が舞い込むことを、信じてやまない。

まずは怪我の完治、次なる一歩はすぐ目前だ

(記事:東 九龍)

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