9月13日に開幕の東京六大学野球2025秋季リーグ戦も、残すは最終第8週・早慶戦のみ。東大・立大から勝ち点を獲得し、5勝6敗1分、勝ち点2で現在5位の慶大は、11月1日・2日に5勝5敗、勝ち点2で現在2位の早大と戦う。伝統の一戦を前に、選手たちが最高のパフォーマンスを発揮できるように、舞台裏で支え続けてきた人たちがいる。今回は対戦相手の傾向を分析し、データに基づいた戦略を練るアナリスト・小鴨樹生(総4・立正大立正)×峰岸里帆(政4・白百合学園)の対談です!(このインタビューは10月24日に対面で実施しました)
ーー普段の活動について
小鴨:練習と試合でやることは分かれているんですが、 普段の練習では、 日々の練習風景の動画撮影や、 ラプソードというボールの回転数などが分かる機器を使った測定、 そしてそのデータのフィードバックを練習では行っています。
ーー選手と話してデータと感覚をすり合わせるような感覚か
小鴨:データに関心がある選手とは特に密にコミュニケーションをとっていて、 データ面でいくつか聞かれる事 はあります。
ーー他にも裏方の役職がいくつかある中でアナリストに就いた経緯は
小鴨:僕は高校3年生まで選手として野球をしていたんですが、 やっぱり慶應野球部となるとレベルも高くて、 自分が選手としてやっていくのはなかなか厳しいかなとも思っていました。 でも、 慶應野球部への憧れは強く て、 これまでの自分の野球経験を一番現場に近い形でチームの勝利に活かせるのがアナリストというポジション だと感じて、 アナリストを志望して今活動しています。
峯岸:私は高校までずっと女子校で、 野球とはまったく無縁の生活を送っていたんですけど、 大学に入って『トップレベルのことに何か打ち込みたい』という思いがありました。 その中で、 幼い頃から好きだった野球で自分の力を使ってチームを支え、 直接チームの勝利に貢献したいと考えた時に、 アナリストというポジションなら自分の手でチームを支えられると思い、 アナリストになろうと決めました。
ーーアナリストは色々なデータを扱うと思うが、 データに関することが元から得意というのはあったのか
小鴨:得意だったというわけではないんですが、 中学時代に所属していたチームが、 相手の打球方向などに応じ て守備シフトを変えるような取り組みをしていたので、 無意識のうちにデータと野球の関わりを意識しながらプ レーしていました。 野球界でも年々データの導入が進んできていて、 その分野にもともと関心があったので、 次は自分がデータを用いて野球に携わろうと思いました。
ーーアナリストというポジションは創設されて日が浅い。 先輩の数も少なかった中での不安などはなかったのか
峯岸:最初は、 私たちの2つ上の代に1人、 1つ上の代に1人という状況だったんですけど、 一番上の先輩がいろいろと基盤を築いてくださって、 それに習って活動を進めていく形でした。 今は人数も増えてきていて、 1つ下の学年にはプロレベルにデータの知識を持っている子もいるので、 そういう子たちにいろいろな知恵を借りながら、 試行錯誤できているのかなと思います。
ーーアナリストをする中で自分なりに意識している点は
小鴨:僕がデータを選手と共有するときに意識しているのは、 まず、 選手がこちらから伝えたデータをどう反映 させているのかを、 自分が納得いくまでしっかりコミュニケーションを取ることです。 あとは、 自分がデータを 扱う中で感じたことや気づいたことを、 選手とお互いが納得いくまで共有すること。 とにかく『密にコミュニケ ーションを取る』というところを一番大事にしています。
峯岸:私も普段から、 選手とよくコミュニケーションを取ることを意識しています。 データ以外の話題で会話している何気ない日常の中でも、 選手の本音や悩み、 強化したいポイントがポロッと出てくることがあるので、 そういう時にも気を配って、『選手のために自分に何ができるか』を考えながら行動するようにしています。
ーーアナリストとしてどのような形でチームに貢献したいと考えているか
小鴨:データがあることによって、 選手の持っている実力に『+αの力』が加わって、 それが神宮の舞台での結果 につながってほしいという思いで、 これまでやってきました。 そういう形でチームに貢献できるように、 日々取 り組んでいます。
峯岸:リーグ戦期間中は『データ班』といって、 選手やスタッフと一緒に他大学の投手の資料を作成する分析班 を組むのですが、 アナリストとしてこれまでトラックマンや分析ソフトを見てきたからこそ分かる視点で、 少しでも貢献できているのかなと思います。
ーーアナリストの活動で大変だと感じたことは
峯岸:最初の頃は、 データにあまり興味がなかったり、 知識がない選手も本当にたくさんいて、『もしかしてデー タっていらないのかな…』なんて思ってしまう時期もありました。でも最近は、知識の豊富な下級生のアナリストが入ってくれたり、 人数も増えたことで活動の幅も広がって、 データに興味を持ってくれる選手や、『こういう データが欲しい』と言ってくれる選手も増えたので、 すごく良かったなと思っています。
小鴨:データと野球の関わり自体が、 まだまだ新しいものだと思うので、 初めの頃はこれまでの経験や感覚をもとに野球をしている選手が多いなと感じていました。 なので、 データへの関心を高めたり、 普及させたりするのが一番大変だなと感じていました。 でも今は、 データに興味を持ってくれる選手も増えましたし、 アナリストの人数も増えて、 個人単位の関わりからチーム全体でデータを活かす体制に少しずつつながってきているのかなと思います。
ーーアナリストとして4年間活動する中で自分が1番成長した部分は
小鴨:僕はもともと結構内向的な性格だったんですけど、 アナリストとして、 いろいろな選手に自分から話しかけにいく必要もあったので、『人との関わりをもっと大切にしなきゃいけないな』と感じるようになりました。 そうしていく中で、 人と関わることへの抵抗もだんだんなくなってきて、 コミュニケーションを通してお互いを知っていくことの大切さを実感しました。 そこは自分でも成長できた部分かなと思います。
峯岸:4年間活動する中で、 野球に関するデータの知識が増えたことはもちろんなんですが、 私自身が成長した 部分は小鴨と似ています。 ずっと女子校に通っていたので、 同世代の男子と話す機会がなかなかなく、 最初は全然選手と話せなかったんです。 でも、 いざ心を開いて話してみると、 本当にいろんなバックグラウンドを持った 人たちと出会えて、 さまざまな価値観に触れることができました。 そのおかげで自分の視野も広がりましたし、 『良い縁に恵まれたな』 と感じています。 この経験は、 社会に出てからもきっと活きてくるのかなと思います。
ーー選手に言われた言葉や選手とのやりとりで印象に残っているものがあれば
小鴨:この一言が特に印象に残っている、 というのはすぐには思い浮かばないんですが、 当たり前のように感じ ていた日々の『ありがとう』という感謝の言葉が、 今思い返してみると、 ここまで続けてこられた原動力になっていたのかなと思います。 感謝してもらうためにアナリストとして活動してきたわけではないんですけど、 自分の活動がちゃんと選手に届いていることを実感できましたし、 貢献できたと感じられたのも、 やっぱりその『あ りがとう』という言葉でしたね。
峯岸:ずっと小さい頃から野球をやってきた、 いわば『野球エリート』たちの集団の中に入って、 自分がデータ の話をしたときに、 選手たちが驚いたり納得してくれたりすると、『自分も同じフィールドで戦っているんだな』 と感じることができた瞬間でした。
ーーチームに貢献しているなと感じる瞬間は
峯岸:配球とか球種の割合って、 必ずしも毎回同じではないんですけど、 選手達は分析班が作った資料をもとに 打席に立つんです。 だから、本当に歯が立たない時もあれば、 しっかりそれが活かされて勝利につながる時もあります。 今回の立教戦でも勝ち点を取れたのも、 そういったデータ班やアナリストが作った投手資料だったり、 VRで見られる動画集を選手がうまく活用してくれたおかげだと思います。 実際にイメージトレーニングやシミ ュレーションをした状態で打席に立てたことが、 勝利につながった時は結果として目に見える形で、 チームに貢献しているな、 と感じることができます。
ーー入部した時に戻れるとしたらもう一度アナリストという役職を選ぶと思うか、またその理由は
峯岸:(しばらく考えて)少しトレーナーと迷いながらも、 もう一度アナリストを選ぶと思います。 迷う理由としては、 選手のデータを取るために行う測定会のときに、 体の強度とデータの結果がすごく関係しているなと感じたからです。 選手のパフォーマンス向上を考えると、 体づくりや強化という面からチームに貢献するトレーナーというポジションも、 とても面白そうだなと思います。 でも、 やっぱりデータの世界も奥が深いですし、 これまで選手から感謝の言葉をもらって嬉しかった経験もある ので、 1年生に戻ってもきっとアナリストを選ぶと思います。
小鴨:僕はアナリスト一本で入部したんですけど、 部活動を振り返ってみると、『もう一度アナリストをやりたい』 という気持ちもありつつ、 やっぱり選手として活躍することも1つの夢ではあったので、 正直迷うと思います。 実際に部に入ってみて、 リーグ戦に出ていなくても、 日々努力を続けたり、 切磋琢磨している選手をたくさん見てきたので、 神宮に立つことだけが選手としての成功ではないなと感じています。 選手として挑戦したい気持ちもありますが、 アナリストだったからこそ出会えた有識者の方々や経験もあるの で、 今の気持ちとしてはどちらにも興味がある、 というのが正直なところです。
ーーアナリストの後輩達に期待すること、またかけたい言葉は
峯岸:今年は1年生が8人ほどいて、 これまでにない人数構成だと思います。 今はまだ入部したばかりで、 それぞれが専門性を持って幅広く活動できているわけではありませんが、 これから私たちが引退して総勢14、 5人でやっていく中で、 今までになかった視点を取り入れたり、 データ分析など新しいことにもどんどん挑戦していってほしいです。 そして、 私たちが成し遂げられなかった『優勝』という目標を、 ぜひつかんでもらいたいなと思います。
小鴨:学生野球、 そして高いレベルのアマチュア野球をデータの面から先導していけるような組織になってほしいと思っています。 慶大野球部はさまざまなデータを取得できる環境が整っていて、 多くの方から意見をいただける恵まれた環境にあります。 だからこそ、 メンバー一人一人が自分の関心分野を深めながら、 アマチュアレベルでは得られないような視点を身につけていけるはずです。 データを出すだけで終わらず、 現場でしっかりと活かして、 最終的には僕たちが成し遂げられなかったリーグ戦優勝、 そして日本一という目標に貢献してほしいなと思います。
(取材:工藤佑太、記事:鈴木啓護)


