【野球】選手の心身に寄り添い続けてきたコンディショニングスタッフ~太田陽×大倉真結~/早慶戦裏方特集

野球対談

9月13日に開幕の東京六大学野球2025秋季リーグ戦も、残すは最終第8週・早慶戦のみ。東大・立大から勝ち点を獲得し、5勝6敗1分、勝ち点2で現在5位の慶大は、11月1日・2日に5勝5敗、勝ち点2で現在2位の早大と戦う。伝統の一戦を前に、選手たちが最高のパフォーマンスを発揮できるように、舞台裏で支えてきた人たちがいる。今回は日々の練習や試合の合間に、身体のケアやメンタル面のサポートを担うコンディショニングスタッフ・太田陽(総4・金沢)×大倉真結(環4・桐蔭学園)の対談です!(このインタビューは10月26日にZoomで実施しました)

――トレーナーになったきっかけは

大倉:元々フィギュアスケートをやっていて、高3のときから大学の体育会にお世話になっていたんですけど、週に1回しか活動できなかったので、せっかく慶應に入ったんだから何かどっぷりつかりたいなと思っていました。そんな中、父が以前野球をやっていたので、一緒に春の早慶戦を見に行ったんですね。そこで観客が一丸となって応援している姿がかっこいいなと思い、こういう景色で裏方として選手をサポートしたいと思って、1年生の6月中旬頃に入部を決めました。マネージャーやアナリストといったさまざまな役割がある中で、私がコンディショニングスタッフを選んだのは、3年間取り組んできたフィギュアスケートの経験を少しでも部に生かし、貢献したいと思ったからです。

 

太田:僕は大倉より遅れて8月の終わりごろに入りました。僕は総合政策学部に入学して、最初は普通の大学生活送っていたんですけど、高校までずっと選手として野球をやってきたので、「野球がない生活というのは退屈で、生きている感じがしない」と思っていました。そんな時に、たまたま授業で野球部の当時4年生の方と知り合って、その方にいろいろ野球部の話を聞いている中で、「アナリストとトレーナー(コンディショニングスタッフ)ならまだ入れるよ」という話を聞きまして。アナリストとトレーナーを考えたときに、高校時代に何度も怪我を繰り返していた経験があったので、そういった選手を1人でも助けたい、少しでも役に立ちたいという思いと、自分の怪我の経験を生かせるのはトレーナーなのではないかと思い、野球部にトレーナーとして入部しました。

 

――普段はどのような仕事、サポートをされていますか?

太田:僕がメインでやっているのはウォーミングアップの指導です。毎日試合の日も練習の日もウォーミングアップをやるんですけど、そのメニューを指示したり、自分で考えてやらせたりしています。あともう一つは、選手がウエイトトレーニングをほとんど毎日やっているんですけど、トレーニングのスケジュール調整を行っています。

 

大倉:私は太田とは違って、選手の練習後の治療やリーグ戦ではベンチ裏に入って身体を冷やすためのスムージーを作ったり、ランチパックを切ったり、そのようなサポートをしています。

 

――選手と接するうえで、普段から心がけていることは

太田:僕は干渉しすぎないことを心がけています。例えばウォーミングアップやトレーニングに関しても、僕的にいいと思っているメニューを「100やれ」と言うのではなくて、選手が「どこを意識したらいいか」「何をやったらいいか」を自分で考えることが、メンタルや考えの向上につながると思います。僕が全てをやらせるわけではなくて、選手が自分で考えながらやれるというのを心がけています。

 

大倉:私は試合前に選手と帯同させていただいている中で、集中して1人で過ごしたいなど選手それぞれあると思うので、それに合わせて意識して対応していますね。

 

――特に印象に残っている場面や支えてきた選手とのエピソードを教えてください

太田:4年間で1番嬉しかったのが、大学2年生の時に優勝したフレッシュリーグです。その時大倉がAチームと帯同していた関係で、僕は自分たちの学年のフレッシュリーグをずっと担当していました。その時は朝6時頃から練習をして、そのあと神宮で試合に行き、帰ってきてからは選手の治療などを行うなど、朝から晩までずっと付きっきりでサポートしていました。当日、コンディションがあまり良くない選手が何人かいて、リーグ戦では資格を持つ大人のトレーナーが対応してくれるのですが、フレッシュリーグでは大人のトレーナーが帯同せず、すべて自分で対応しなければなりませんでした。さらに、ベンチでの仕事も1人で担当していたので、優勝したときはリーグ戦優勝や日本一になったとき以上に嬉しかったのを覚えています。

 

大倉:私は大学2,3年のときかな。1個上に斎藤快太(令7商卒・現日立製作所)という選手がいて、その方が腰の怪我で走れなかったんですね。その状態で鹿児島キャンプも行っていました。そんな中、キャンプ中も夜の11時ぐらいまでずっと治療器で治療をしたり、トレーニングも付き添って、私ができることはお手伝いしてやっていました。その後キャンプが終わって、その後のリーグ戦に守備固めとして出て、グラウンド上を走っている姿を見たときは「この仕事をやっていてよかったな」と感動しましたし、やりがいを感じました。

 

――逆に、選手をサポートするうえで難しかったことなどのエピソードはありますか

太田:選手の状態を自分の目で見たり、言葉で聞いたりすることはできますが、実際に選手の状態はわからないので、選手の状態をしっかり把握できているかというところがすごく難しいなと思っています。僕たちトレーナーという選手と指導陣の間に立つポジションにいることは、監督たちのやらせたいことを僕たちは選手にやらせないといけないし、一方で選手のコンディションを無視するわけにはいきません。うまく調整しながら、「少しきついことでもその選手にどうやってやらせたらいいのか」「このコンディションの中でどういうことをやらせたらいいのか」を考えたり伝えたりすることは難しいと思います。

 

――”チーム”が強くなるために、トレーナーとしてできることは何だと思うか

太田チームの雰囲気づくりというところに貢献できると考えています。例えば、ウォーミングアップは練習や試合の1番最初にすることなので、そこで良い雰囲気を作ることができれば、その後の練習や試合への入り方も良くなると思っています。

 

大倉:練習を見ていて少しでも足や肩などを気にしている選手がいたら、話を聞いてあげてヒアリングすることによってとにかく怪我をさせないようにというのは意識しています。

 

――怪我や不調の選手に向き合うとき、どんな思いでサポートしていますか

太田:最初に言ったことと少し似ているんですけど、干渉しすぎないことを意識しています。全部自分たちが「これをやれ、あれをやれ」と指示しても、選手は怪我をしているとき、メンタル的にも状態が良くないと思うので、どうしてもやる気が落ちてしまうと思います。そのため、選手の意見を尊重した上で、最低限「これをやった方がいいのでは」と伝えるようにしています。ただ、干渉しすぎないと言っても、その選手には寄り添う必要があるので、よく話をしに行くようにもしています。例えば小原(大和=環3・花巻東)が怪我から復帰したんですけど、久しぶりに野球をやっている姿をこっちも見られてとても嬉しかったので、少しでも“野球のモチベーションを保てるように“というのは意識しています。

 

大倉:怪我している選手に「あれやれ、これやれ」というのは首脳陣とか大人の方の役割なのかなと私は思っています。私自身野球の経験をしていないので、そういう人に「あれやれ、これやれ」と言われても、怪我をしている選手からすると嫌かなと思うので、私は寄り添うことを意識しています。私自身フィギュアスケートをやっていたので、そのときに調子が悪かった話をして共感してあげるだとか、1回バッティングセンターに行ったことがあるんですけど、私は本当に打てないし投げることもできなかったので、「打てて投げているだけで本当にすごい!」ということを言って、少しでも選手に寄り添うように意識していました。

 

――選手を支える立場として、この1年で自分自身が変わったと感じる部分はありますか

太田:最上級生になって1番変わったなと思うのは、チームに対して何でも言えるようになったことだと思います。去年までもウォーミングアップを先導でやっていたんですけど、やっぱりどうしても先輩が怖かったり、気を遣う部分はありました。今年は最上級生が同期というのもあるので、そういった人にも言えるようになったっていうのは1つ成長だと思いますね。下級生に対してこれまでは若干遠慮していた部分もあったのですが、下級生にはまだ高校から上がったばかりの選手も多いため、しっかり言うべきところは言わなければならないと思っています。そのため、たまには心を鬼にして、少し強い口調で「やれ」と伝えられるようになったのが、自分の成長だと感じています。

 

大倉:最上級生になって後輩もいっぱい増えるというのは、野球部で初めての経験だったので、対応や話し方があまりわかりませんでした。しかし先輩になってからは、1年生や2年生が話しかけやすい雰囲気づくりを意識するようになりました。それがうまくできているかはわかりませんが、後輩も話しかけてくれるようになったので、参加しやすい雰囲気を作れたのかなと思います。

 

――今後の目標、挑戦していきたいことはありますか

太田:僕は来年から報道機関に行くことが決まっているので、選手やスポーツの輝いている部分だけでなく、チームの裏方の仕事や、選手が裏でどのような思いを抱きながら頑張っているのかといったことも伝えられたらと思います。

 

大倉:私の就職先はトレーナーとは全く関係のない業務になりますが、根本的な部分で「人を支える」「人に寄り添って考える」という点は非常に共通していると思います。だからこそ、人を支え寄り添う素晴らしさを忘れず、社会人になっても貫いていきたいと考えています。

 

――後輩のトレーナーに1番伝えたいこと、大切にしてほしいことは?

太田:全員我が強くて個性的なので、僕や大倉の姿を正解にしないでほしいと思います。「太田さんみたいになりたい」ということを言ってもらえることはありますが、僕の姿というのは僕の中では正解かもしれないですけど、彼らにとっては正解じゃないと思います。自分がなりたいトレーナー像や、自分がチームに求められているということを自分でしっかり受け止めて、自分なりに考えてやってほしいな。がむしゃらにやってほしいなと思っています。

 

大倉:トレーナー部門は太田と大倉で最初に立ち上げられました。最初は本当に試行錯誤の連続でしたが、3年の山本(柚子=理3・戸山)や北殿(智一=文3・広島国泰寺)が入ってきてくれて、その下の1、2年生も選手思いで頑張っているなと感じます。その思いをそのままトレーナーとして何ができるのかを考えて、新しい業務や新しい形での選手のサポートをしていってほしいなと思います。

 

――最後の早慶戦を前に、選手たちにどんなサポートをしたいか

太田:最後の早慶戦だからといってやることは変えたくないなと思っています。これまで毎日積み重ねてきたものがあるので、何か新しいことをみんなにやらせたり、やってもらうというよりかは、今までやってきたもの集大成として日々過ごしていきたいと思います。だから、ウォーミングアップのメニューも変える予定もないですし、トレーニングをもっとやらせるとかそういうつもりもありません。今までやってきたことを朝からチーム全員でやっていけるようにすることを選手にも期待していますし、僕自身もやっていきたいなという風に思っています。

 

大倉:太田と同じようにここから新たに変えるということはしなくていいと思うんですけど、早慶戦で野球人生に終止符を打つ選手もたくさんいるので、悔いなく過ごしてもらいたいと思っています。そのためにできることをしていきたいし、一瞬一瞬を大事に過ごしていきたいと思います。

 

(取材:工藤佑太、記事:河合亜采子)

タイトルとURLをコピーしました