今季のリーグ戦を15勝2分1敗という素晴らしい戦績で終え、2部優勝、1部昇格を成し遂げたソッカー部女子。その躍進を支えた要因の一つとして、ホームアウェイ問わず送られる大きな応援の力が挙げられる。今回のインタビュー企画では、保護者を代表して中村美桜(理4・慶應湘南藤沢)選手の父・貴裕さんにお話を伺った。いつもポジティブな声かけでチームを勇気づけている保護者の皆さん。その中でもひときわ大きな声援を送る貴裕さんに、応援へのこだわりやソッカー部女子の魅力を語ってもらった。
(このインタビューは11月2日の最終節の試合前に行いました)
――保護者の皆さんは、どのような形でチームを支えていますか。
ソッカー部女子の部員は22人おり、保護者の中には、仙台や広島、韓国など、下田グラウンドには簡単に来られない場所の方も多くいます。Youtube配信を見ながらリモートで応援いただいている方もいる中、保護者として”一体になった応援チーム”をつくりたいと考え、グラウンドの臨場感をリモートの方にも出来る限り伝えるために「今、こんな状況になっています!」とチームの近況を保護者の全体グループLINEで共有しています。
試合の応援では、ホームの試合はもちろんのこと、国際武道大学戦や順天堂大学戦をはじめとした、太鼓の音を含め、相手の応援の声や音が大きいアウェイの際にも、選手が相手の応援や雰囲気に呑み込まれて萎縮してしまわないように、チームカラーの黄色の応援グッズを使って盛り上げることや、大きな声で、選手の皆が安心してプレーできるような声援を送ることを意識しています。

後期第4節からのアウェイ4連戦にもたくさんの慶應ファンの姿が この4連戦を3勝1分で終え、1部昇格を手繰り寄せた(写真は後期第4節の国際武道大学戦撮影)
――その応援グッズをご紹介いただけますか。
はい!まずは4年生の保護者で一体となって作ったうちわです。特にここ最近の気温上昇で、夏の試合では選手も大変な状況にありますが、応援の保護者達も勝負の一翼を担っているので、猛暑の中でも精一杯応援できるよう、仰いで使うこともできるうちわを作成することにしました。ホームではサイドライン際で応援するので、選手と区別できるようシャツは黄色を控えているのですが、少しでもチームカラーで客席を彩れたらと思い、黄色のうちわにしました。

『細部に宿せ』のチームスローガンが入ったうちわ
『細部に宿せ』というのは今年のチームスローガンで、「細かいところまで徹底してこだわっていこう」という想いが込められています。私たちも色やロゴにこだわり、慶應の”応援魂”を宿すべく、選手のシュートシーンの写真を切り抜いて黒抜きしてデザインに入れるなど、工夫して作りました。ちなみにこの黒抜き選手は、保護者や選手からは「誰かわからない」との回答が多かったのですが、黄監督はうちわを見た瞬間に選手名を当てており、細部の観察力がすごいと思いました(笑)。
昨年度の保護者から受け継いだのがこのメガホンです。悲願である“1部昇格”の夢は、先輩保護者達から引き継いだ夢でもあり、「がんばれ!」「もう一歩で届くよ!」などと声援を送る際に使っています。

昨年度から使用している黄色のメガホン
※メガホン誕生秘話は、昨年度行った大橋桜子選手(令7商卒)の父・義弘さんへのインタビューから!
【ソッカー(女子)】選手の親御さん単独インタビュー!最も近くで見守ってきた父が語る思いー「子供のサッカーの応援の集大成」 | KEIO SPORTS PRESS
こちらは、早慶戦で配布されたハリセンです。

『原動力』は、2年前のチームスローガンで「サッカーを始めたきっかけや、今なぜサッカーを続けているかなどは選手によって異なるが、その原動力を忘れずに練習に取り組み、皆で1部昇格を目指す」というものでした。ハリセンは大きな音を出すのに有効なので、私は2年前からこれを使い続けています。保護者が応援グッズなどを使いながら、精一杯応援することで、チームの一体感をさらに増すことができると思っています。
OG保護者や慶應のOG達、男女ソッカー部の関係者など、たくさんの方に応援に来ていただけることが本当にありがたく、うちわなどを配りながら皆で応援しています。
――4年間チームを見られてきた中村さんは、今年のチームの強さはどんなところにあると考えていますか。
『細部に宿せ』というスローガンの通り、パス連携に向けたこだわりや意識は強く感じています。
パスの出し手は、受け手が取りやすいように、角度やスピードなどを考えて丁寧なパスを出す。受け手は、周囲の状況を素早く確認して、次のプレーをイメージしながらトラップし、またパスを出すといった、“パスの連携”に向けてこだわって練習してきたことが、グラウンドで体現できていると感じています。また、キーパーからのビルドアップは昨年からのチームコンセプトですが、リスクを伴う戦術でもあります。声かけを怠らずに陣形のバランスを保つことや、パスがカットされたときに、即座に他の選手がカバーしたり、ロングシュートを打たせないようにまず相手の正面に体を入れてシュートコースを消すようなプレーが徹底されており、リスク対策も含めた“細かな連動”が今年のチームの強さだと思っています。

どんなときも選手が声かけを怠らずに、こだわってプレーしている
その中でも、今年は4年生がその徹底ぶりを支えているように思います。過去を振り返りながら、チームに足りないものが何なのか考え、相当な時間をかけて話し合った上で『細部に宿せ』のコンセプトを作ったこともあり、練習してきた“細部”を、グラウンド上でいかに体現するか、勝利に結びつけるかに強くこだわっていると思います。

主将・小熊選手を中心に4年生の献身が目立った
ーー今年のリーグ戦で最も印象に残っている試合を教えてください。
実は今晩、選手や保護者、監督なども一緒に懇親会を予定していて、事前アンケートとして全く同じ質問を全保護者、選手にしたのですが、リーグ戦18試合の中で、選ばれた試合が9試合。かなり意見が分かれました(笑)。私自身も、2年越しの雪辱を果たしたアウェイの立教戦や、大雨の中、後半41分まで2―2の状況から勝利を勝ち取った順天堂戦など、様々なシーンが印象に残っています。その中でも最も印象に残っているのは、町田でのアウェイの国士舘戦です。

アウェイでの後期第2節・国士舘大戦 勝利すればシーズンで初めて自動昇格圏の首位に立つ状況で迎えた
国士舘は、慶應が目指している1部で昨年まで戦っていたチームであり、フィジカルが強く得点力もある強敵です。勝利を祈願しながら町田のグラウンドに行ったところ、黄監督から「今日は総力戦で戦いたい。保護者の皆さんも一体となってほしいので、ベンチの裏に結集して、ぜひ力強い応援をお願いしたい。」という話がありました。

黄大城監督(撮影は後期第4節 国際武道大学戦)
急いで保護者全員にこれを伝え、ベンチ裏に移動し、「全力応援しよう!」と皆で話しました。屋根のあるスタンドだったのですが、大きな声を出して応援すると、音が跳ね返り、拍手の音も鳴り響きます。天王山決戦だったこともあり、試合開始前の円陣の時から大きな声で応援していたのですが、いいプレーが出るたびに拍手と歓声で慶應サイドが沸き、特に、芽衣(=髙松芽衣、環2・植草学園大学附/ジェフユナイテッド市原・千葉レディースU18)の2得点の直後は大喝采で、選手たちからも「今日の試合は慶應のホームでやっているみたいだった」と言われました(笑)。直前の試合で恭佳(=岡田恭佳、環3・十文字)のけがもあったのですが、保護者席の横で一緒に応援してくれており、試合前は、選手たちが恭佳の3番のユニフォームを高々と掲げてくれました。

試合前、岡田選手の3番のユニフォームを掲げるイレブン
得点を決めた時も、試合が終わった時も、選手たちが恭佳のところに駆け寄り、力強く握手して共に喜んでおり、彼女の魂もグラウンドにあり、その魂が勝利を引き寄せたと思うと、目頭が熱くなりました。この試合はリーグ戦全体の中でもターニングポイントの試合となった面もあり、勝利できて本当に良かったと思っています。

髙松選手の2得点で勝利し、首位に立った慶大 そのままシーズン終了まで首位を守り抜き、1部昇格を達成した

試合後、髙松選手と握手を交わす岡田選手
ーーソッカー部女子の魅力はどんなところにありますか。
メンバー全体が、ファミリーのようなところだと思います。今日がリーグ戦の最終戦ですが、早慶戦や皇后杯等を含めると今年だけで20試合以上一緒に応援している保護者もいます。試合に出ている選手、出ていない選手に関係なく、皆慶應ソッカー部のことが大好きで、ホームでもアウェイでも大声援で一緒に応援しています。試合後の懇親会などで喜びを分かち合ったり、サッカー談義をしたり、各お子様の好プレーを称えあったり、大家族のように団結できているのが、魅力の一つだと思っています。
(インタビューの横を試合のアップに向かう野口初奈(環3・十文字)選手が通りかかる)
中村さん:初奈、試合、頑張ってね!応援してるよ!
野口選手:ありがとうございます!今日はジャケットですね。かっこいい!記事楽しみにしていますね!
中村さん:ありがとう!こっちも頑張るね(笑)
この場面以外にも、部員と保護者が試合に向けて前向きな声をかけ合うシーンが数多く見られた。
ホームのみならず、アウェイでも多くのファンが駆けつけるソッカー部女子。OGやOG保護者も含めた団結力、そして、どんな試合展開でも送られる前向きな声援は、チームの伝統となっている。今年度も部員、チームスタッフ、ファンが一体となって戦い、22年から掲げてきた“1部昇格”の目標を4年越しに結実させた。
来季は5年ぶりとなる念願の1部の舞台。黄色に染まった観客席からの声援が、飛躍を目指す荒鷲の背中を押す。


※1、※2:当該写真は中村さん提供
(取材:柄澤晃希)


