4年ぶりに大学選手権ベスト4に入り日本選手権の出場権を得た慶大。その相手はトップリーグ3位の神戸製鋼だ。神戸製鋼との対戦は12年ぶり。その当時の慶大主将は現監督の和田康二であった。神戸製鋼の注目選手はCTBジャック・フーリーとLOアンドリース・ベッカー。ともに南アフリカ代表で世界的に有名な選手であり、特にジャック・フーリーは世界最高峰のCTBだ。日本人選手もWTB今村雄太・PR山下裕史など日本代表の常連選手を擁するトップリーグ屈指の強豪チームである。格上の相手に胸を借りる形となった慶大であるがトップリーグ3位との実力差は明白だった。相手の早いペースに全くついていけず、またブレイクダウンやスクラムでも歯が立たず次々に点を取られていく。何とかして完封負けは避けたい慶大であったが神戸製鋼の堅い守備を突き破ることが出来ず0-100の大敗を喫してしまった。
第51回ラグビー日本選手権1回戦 vs神戸製鋼
2014/2/16 (日)12:00k.o
得点 | ||||
慶大 | 神戸製鋼 | |||
前半 | 後半 | 前半 | 後半 | |
0 | 0 | T | 6 | 10 |
0 | 0 | G | 3 | 7 |
0 | 0 | PG | 0 | 0 |
0 | 0 | DG | 0 | 0 |
0 | 0 | 小計 | 36 | 64 |
0 | 合計 | 100 |
得点者(慶大のみ) なし
ポジション | ||
1.PR | 三谷俊介(総4・国学院久我山) | →18吉田貴宏(総3・本郷) |
2.HO | 佐藤耀(総2・本郷) | →17神谷哲平(総3・桐蔭学園) |
3.PR | 青木周大(商3・慶應) | →16眞鍋泰明(経3・慶應) |
4.LO | 小山田潤平(経3・慶應) | |
5.LO | 白子雄太郎(商3・慶應) | |
6.FL | 木原健裕(総3・本郷) | →19大塚健太(環2・国学院久我山) |
7.FL | 徳永将(商2・慶應) | →20廣川翔也(環1・東福岡) |
8.No8 | 森川翼(環3・桐蔭学園) | |
9.SH | 渡辺諒介(経4・慶應) | →21猪狩有智(経4・慶應志木) |
10.SO | 佐藤龍羽(環4・茗溪学園) | →23川原健太郎(環3・小倉) |
11.WTB | 服部祐一郎(総3・國學院久我山) | |
12.CTB | 石橋拓也(環3・小倉) | |
13.CTB | 大石陽介(環4・修猷館) | →22宮川尚之(環4・成蹊) |
14.WTB | 下川桂嗣(商3・修猷館) | |
15.FB | 児玉健太郎(環4・小倉) |
試合開始早々、慶大はトップリーグの実力をまざまざと見せつけられる。1分にラインアウトからCTB田邊にトライを許したのを皮切りに4分にWTB大橋、7分にSO正面にインゴールを割られ開始10分経たないうちに21点のビハインドを負ってしまう。神戸製鋼のBksが繰り出す早い展開に慶大は全くついていけなかった。その後一度は敵陣深くまで進むものの14分にNo.8マパカイトロ、24分にPR山下にトライを許し点差は31点に広がってしまう。特にスクラムでの劣勢が目立ち、マイボールですら中々キープすることができない苦しい状況であった。そんな中28分、前半最大のチャンスが訪れた。佐藤龍羽(環4)からパスを受けた頼れるエース・児玉健太郎(環4)が中央を突破しゲイン。インゴールまで走り切ることはできなかったがその後ボールを持った選手を徳永将(商2)が押し出して敵陣深くでのマイボールラインアウトを獲得。これをきっちりキープしゴール前でのFwd勝負へと持ち込んだ。しかし反則でチャンスを逸すると38分に日本代表WTB・今村にトライを奪われ0-36で前半を取り返した。
後半も試合は神戸製鋼ペース。1分にマパカイトロ、8分に今村にトライを奪われ点差は48点にまで広がってしまう。その後も神戸製鋼の素早い展開にディフェンスラインの整備が追いつかず大外で人数が余ってしまう場面が目立つ。LOベッカーに2連続でトライを取られたあと、慶大はSOのポジションに「フィジカルが強い」(和田監督)石橋を配置し状況を好転させようとするが神戸製鋼の勢いは止まらない。CTBアンダーソン、LO伊藤、FL前川が立て続けにトライを奪い実力の差を見せつける。慶大はケガから復帰した宮川尚之主将(環4)を投入するも神戸製鋼を止められず伊藤、今村が再びトライを奪い点差は93点まで広がってしまう。何とかして一矢報いたい慶大は相手のペナルティーでゴール前まで前進。15人全員が密集に集まりトライを奪いにいくかここでまさかのターンオーバーを許しWTB濱島に100メートルの独走トライを許し万事休す。0-100と数字通り完敗を喫してしまった。
「神戸製鋼が強かった」。多くの選手が試合後こう語ったように、トップリーグとの差が明白であった。随所に慶大らしいタックルが見られたが、Fwdの平均体重が17kgも神戸製鋼の方が上であり、同じ土俵で戦うには厳しい面もあった。今後の日本選手権の方式にも一石投じる試合であるのかもしれない。それでも「トップリーグ相手にも通用した部分もあった」(石橋)と選手が手応えを感じた部分があったのも事実。この試合が来季に向けたいい経験になることを願いたい。
宮川組の挑戦はこの敗戦で完全に終りを迎えた。振り返って見るとこの一年は例年以上に波乱万丈であった。このチームが始動するとき、状況は決して良くなかった。そんな中招聘された和田監督はその人格とラグビー理論でチームをまとめ上げ春シーズンは早大に完勝するなどそれまでチームにあった「負けぐせ」を取り除いた。対抗戦の開幕戦で筑波大に勝利するも宮川主将がけがで離脱し青学大にまさかの敗戦。大学選手権出場も危ぶまれたが明大戦には勝利見事に勝利。これで流れに乗るかと思われたが早慶戦、帝京大戦には大敗。「今季の慶大は強いのか弱いのかがわからない」、そんな声も聞こえるようになった。大学選手権セカンドステージは明大・東海大・立命大と同じ死のグループに入った慶大は明大に敗れたものの2勝1敗で目標としていた大学選手権ベスト4を達成した。
目標を達成しこの日までラグビーをすることができた一番の理由。それは「ディフェンス」であろう。それまでの慶大は精神論に偏ることが多かったが、和田監督は「ディフェンスで粘りロースコアで勝つ」という明確な方針を打ち立てそれに沿ったトレーニングメニューを組み選手たちがそれを実践。チームのスタイルを明確にできたからこそ目標を達成できたのだろう。来季は和田監督2年契約の最終年、また今季の主力の多くが4年となる「勝負の年」になるだろう。【ケイスポ的MOM】チーム支えた2本の柱 宮川&児玉
主将として1年間チームを引っ張ってきた宮川。1年次からトップチームに絡み2年次にスタメンに定着するも昨季は満足なプレーが出来ず今季に懸ける思いは強かった。しかし今季もけがが重なり国立の舞台に立てなかった。主将であるのにピッチに立てない時期が多く歯がゆい思いもした。それでもこの試合ではそのけがをおして出場。得点こそ奪うことはできなかったが正確なパスで攻撃を組み立てた。
一方の児玉も1年次からレギュラーの座を確保しその実力は確かであったが、昨季は宮川とともに満足のいくプレーができなかった。それでも今季は主力として1年間奮闘。この試合でも随所に見られた高いランスキルと美しいフォームから繰り出されるロングキックはチームに不可欠なものであった。卒業後はパナソニックに進む児玉。レギュラー争いは厳しいものになるが、持ち前の不屈の精神でトップリーグの世界でも躍動してくれるだろう。
(記事・住田 孝介)
以下コメント
和田康二監督
(今日の試合を振り返って)神戸製鋼さんが強く、完敗でした。選手は最後まで得点をとることに全力を尽くしてくれて、感謝しています。今年は大学選手権ベスト4を目標にやってきて、今日の相手と戦う位のチームにはなっていませんでした。(佐藤龍羽が下がった後のSOについて)石橋をSOにしました。川原が怪我明けだったのと、試合展開の中でフィジカルが強いSOが必要ということで石橋にしました。(社会人との体格差について)まずはこういった相手との対戦があまりなく、もしこのレベルで戦うのであればまだまだそのレベルでの戦いが少ないです。まずは帝京大がターゲットですが、それでも大きな壁になっています。大学選手権優勝が第一の目標と考えていています。
SO宮川尚之主将
(今日の試合を振り返って)一言でいうと、神戸製鋼さんが非常に強かったです。そんな中でも後輩たちはトップリーグに対しても通用する部分があると感じており、今後の慶大蹴球部の財産になっていくと思います。(トップリーグ相手に通用したこととは)ディフェンス面ではオフロードで繋がれた部分もありましたが体格差のある相手に対してもしっかりタックルが出来ていました。(ゴールラインギリギリの所で割れなかったが)根本的な体格差が外から見ていても歴然だったと思います。(怪我をしていたが)先週復帰したばかりで、怪我は完治しておらず和田監督のご好意でメンバー入りしました。(試合で意識したこととは)厳しい試合になるとは思っていて、その中で主将として後輩たちに声をかけることは意識しました。点をたくさん取られてしまったので、ゴール下に集まる機会が多かったので、次につながるプレーをしようと声をかけました。
FL濱田大輝副将
(今年一年振り返って)春は怪我で出ることはできなかったのですが、秋はずっと出られて筑波戦からあがっていけました。春からやってきたフィジカルや一対一の局面でのレベルは上がっていて、逆に青学戦負けたことでチームがまとまったかなと思います。春にも言っていた家族のようなチームにしたいと言ったんですが、後輩やスタッフ、学生コーチも一体となって最終的にはいい結果になったと思います。(副将として)春は出ることはできなかったのですが、主将やFWリーダー、BKリーダーに支えられ後輩も力を貸してくれました。秋はチームの心の支えになると言うのは出来たかなと思います。(4年間は)今思えばあっという間かなと思うんですが、やっぱり長かったですね。もう本当に苦しいことばっかりで、8割くらい苦しいことでした。でもやっぱり慶應の歴史あるタイガージャージ着て出られたのはすごい財産になるのでそれを生かして今後の人生も歩いていきたいなと思います。(後輩に伝えたいこと)今の状況が羨ましいと感じていて、今がスタートだったらいいなと思うんでこの状況を生かして来年帝京に勝ってまたこの舞台に戻ってくることを祈っています。
PR三谷俊介
(試合を振り返って)トップリーグの上の方のチームとやらせて頂いて胸を借りて試合したんですけど、率直に強いなという印象です。(今季を終えて)途中波があったりしましたけど最後まで諦めずにやることでチャンスを与えられて、それをものにできた結果が今に結びついていると思います。(4年間を振り返って)僕にとっては濃い4年間だったのでいろいろなことを学べましたし、これから生かせることもたくさんあると思うんですけど、なによりラグビーやっていて良かったなって思いました。(後輩へのメッセージ)自分が何を目標に頑張っているのかということを常に念頭において、一日一日やることを先延ばしにせず目の前にあることに全力で取り組んで欲しいと思います。
SH渡辺諒介
(今シーズン振り返って)競った試合モノにして目標のベスト4達成できて良かったです。(今日の試合は)フィジカル面が圧倒的に違いましたね。プロはやっぱり強いなと思いました。(後輩に伝えたいこと)今年一年色々やってでも日本一は厳しかったので何かを変えてチャレンジして欲しいなと思います。(4年間を振り返って)やっぱり何だかんだ言っても長かったというのが正直な感想です。慶應大学のラグビー部でラグビーができたことは幸せなことですし、ラグビーを通して色々な仲間に出会えてよかったです。
SH猪狩有智
(今日の試合を振り返って)自分たちのラグビーがトップリーグにどれだけ通用するかという中で全然通用しなかった部分が多かったので、後輩たちがその差を埋めて帝京大を倒す糧にしてもらいたいです。(自身のプレーを振り返って)試合に出られない時期もありましたが今日まで自分のベストを尽くせたので技術面ではいろいろありますが、悔いはないです。(神戸製鋼について)個々が本当に強く外国人選手を止められませんでした。(トップリーグ相手に通用したこと)技術もフィジカルも相手の方がかなり上でしたが、ディフェンス面では1次2次で止めれば粘れると感じました。(4年間を振り返って)いろいろありましたが、常に自分のベストを尽くし目標としていた国立にも行けたので悔いはないです。これからは後輩たちが日本一になれるよう応援したいです。
CTB石橋拓也
(今日の試合を振り返って)トップリーグのレベルを実感することができました。(自身のプレーを振り返って)相手が強いのでタックルで抜かれる部分もありましたが、通用した部分もありました。そこを伸ばしていきたいです。(トップリーグに通用したこととは)タックルです。(神戸製鋼について)1人1人が強く上手かったです。(途中からSOに入ったが)事前に練習はしてなく急に入りました。(今季を振り返って)ポジションが変わり大変でしたが非常に充実していました。(来季に向けて)この差を埋めていきたいです。
CTB大石陽介
(日本選手権を戦って)集大成だったので何か後輩に残せたらなと思って体張ろうと決めていました。試合は最初に取られまくってしまって、今年一年試合の入りが悪くてそこを最後まで修正できなかったので来年3年生には頑張ってもらいたいと思います。(今季を振り返って)勝てる試合を落としたり危ない試合を勝ったりいろいろあったんですけど、試合を重ねるにつれてディフェンスが整備されてきたり成長していったチームだったなと思います。(大学4年間を振り返って)長かったですね(笑)。練習きつくて長くて、やっと終わったという感じも今はあるんですけど、少し寂しい気持ちもあります。(後輩に伝えたいこと)真面目に練習して僕たちの成績は少なくとも上回ってほしいと思います。
FB児玉健太郎
(今日の試合を振り返って)今日で引退ということで、悔いはないです。(自身のプレーを振り返って)キックはイマイチでしたが、ディフェンスで頑張れたところもありましたし、ランでも少し良いのがありました。(神戸製鋼について)個人個人が強かったです。(トップリーグに通用したこと)ディフェンスでは通用した部分もありました。(来年はトップリーグの世界に入るが)まずはフィジカルを鍛えてチームに馴染み、試合に出られるようにしたいです。慶大でラグビーしていたときが人生のピークにならないように何かしらにチャレンジしていきたいです。(4年間を振り返って)いろいろありましたが、悔いはないです。
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