名古屋の日本ガイシホールで行われた全日本学生弓道選手権大会。団体戦に続き、13日の午後には個人戦が行われた。村田賢祐主将(法4)は序盤から抜群の安定感で的を捉え続けると、その勢いは小さな八寸的に入っても全く落ちない。怒涛の9連中で個人準優勝を達成した。さらに翌日の遠的大会では、同じく村田主将が一気の10連中で優勝、遠的日本一に輝いた。最後の個人戦に挑んだ主将が、全国の舞台で頂点に立った。
第63回全日本学生弓道選手権大会
8月11日(火)、12日(水)、13日(木)@日本ガイシホール
男子個人戦
選手名 | 3次予選 | 射詰(尺二) | 射詰(八寸) | 遠近競射 |
平井遼太郎 (総1・早稲田高) | ○○ | × |
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廣田将也 (法1・慶應湘南藤沢高) | ○○ | ○○○ | ○× | ○ |
山下健太 (商1・慶應高) | ○○ | ○× |
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恩田悠暉 (政2・慶應志木高) | ×○ |
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蜂谷康一郎 (商2・都立桜修館中等教育学校) | ×× |
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稲熊渉 (総3・城北高) | ○○ | ○× |
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佐久間淳 (環3・慶應高) | ○× |
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菅谷脩 (法3・韮山高) | ○○ | ○○○ | × |
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小野和也 (法4・慶應高) | ○× |
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村田賢祐 (法4・慶應高) | ○○ | ○○○ | ○○○○× |
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※ まずは一手(2本)の3次予選を行い、2本詰めた者のみが射詰(尺二・36㎝)に進む。さらに3本詰めたものは的が八寸的(24㎝)に変更される。射詰はサドンデス方式で進められ、外した者は順位決定の遠近競射により10位まで決定する。最後まで残った者が優勝となる。
6月の全関東では最後の1本まで残るも、惜しくも優勝を逃し6位入賞に終っていた村田賢祐主将(法4)。その試合後、最後の個人戦となるインカレに向けて、村田主将は「次は優勝します」と宣言していた。だが団体戦の疲れも取りきれないうちに行われるうえ、1本外したら終わりの個人戦を再び勝ち抜くのは非常に難しいことである。だが村田主将はそうした不安を跳ねのけ、見事に有言実行の快進撃を見せてくれた。
3次予選、射詰の序盤から着実に的中を重ねていく村田。団体戦の時よりも一段と離れの切れが増し、特に的の中心を捉え続けていたため、にわかに入賞への期待が高まっていった。インカレの個人戦は出場選手が非常に多いため、序盤の段階では1本引くと次の出番まで1時間近く待たされることになる。よって長時間にわたって集中力の上げ下げを繰り返さなければならず、選手にはかなりの精神力と技術の高さが求められることになる。しかし村田は毎射、気合のこもった表情で的に向き合い続けた。
通常の尺二的5本を終え、勝負は面積が半分以下の八寸的(24㎝)に突入する。ここまでくれば周囲は学生弓道の猛者ばかり。皆全国の舞台で自身の名をとどろかせようと、必死に小さな的を狙い、矢を入れてくる。村田は的が変わっても中心に矢を集め、全く外す気配がない。合間に順位決定の競射が入るため、射の間隔は毎回10分近く空いてくる。村田は一旦アリーナ後方に下がり、目をつむって高まる興奮を抑えていた。「遠近競射をやっていて、「入賞が確定したな」と考えると抜いてしまう」と正直に語ってくれた村田。そこで今後のチームの戦いを見据え、「もっと大事なことがあるよね」と自分に言い聞かせていたという。介添えの小林由紀恵(看4)が献身的にタオルで仰ぎ、敗れた慶大の選手は必死に声を出して応援していた。慶大一丸となって村田を支える姿も印象的であった。
徐々に人数が減り、会場の熱気も高まってくる。ついに八寸的の射詰も5本目に。残るは村田と明大の黄金ルーキー・田之頭の二人だけだ。田之頭は若い勢いそのままに早々に的中させ、アリーナの視線は村田一点に注がれる。外せば負けー。その矢は無情にも的をかすめてしまった。この瞬間、今年の日本一の学生射手が決定した。仲間に声を掛けられ、敗れた村田の顔にも笑みがこぼれる。慶大勢29年ぶりのインカレ個人優勝はならなかったが、全国の頂点にあと一歩まで迫ったのはまさに快挙と言ってよい。個人では準優勝、ここでの忘れ物は王座決定戦で団体日本一となり、必ずや取り戻してくれるだろう。
試合後、村田は就活の影響で「8月に入って1日も弓を引いていなくて、復帰してはじめて引いたのが10日ぶりだった」と明かしてくれた。当然それほど長いブランクから、すぐに試合で最高のパフォーマンスを出すのは難しい。しかし村田には長い弓道生活で培った技術と勝負勘、主将としての強い精神力がある。「割り切って今出せる技術でどこまで的に入れられるか挑戦していた」ことが、逆に力みや慢心を取り払い好成績につながったのかもしれない。大舞台で「こんなに緊張する場面はなかなかない」経験を積み、さらにたくましくなった村田主将。秋には最後のリーグ戦で大暴れし、悲願の王座決定戦・日本一へチームを導いてほしい。一般の学生と同様に就活をこなし、さらにインカレの頂点で輝く姿は、まさに慶應の體育會の象徴と言えるのではないだろうか。
また他の慶大勢も1年生の廣田将也(法1)、さらに菅谷脩(法3)が八寸的に進む健闘をみせた。特に廣田はルーキーながら9位・10位入賞を競う遠近競射まで残る大活躍。惜しくも中心からの距離の差で入賞は逃したが、他大のセレクションで入学した選手と十二分に渡り合える力を示した。敗退後は村田の隣で正座をし、息詰まる射詰の様子を見守っていた廣田。「やはり本物だと痛感した」(廣田)という村田の隣で感じたことを、今後の成長に生かしてほしい。
※遠的で村田主将は優勝!遠的日本一に輝く!
第46回全日本学生弓道遠的選手権大会
8月14日(金)@南山大学 名古屋キャンパス競技場
選手名 | 1次予選 | 2次予選 | 決勝射詰(1m) | 決勝射詰(80㎝) |
恩田悠暉 (政2・慶應志木高) | ×× |
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日野浩明 (文2・慶應高) | ×× |
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稲熊渉 (総3・城北高) | ○○ | ×× |
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久慈直仁 (経3・慶應高) | ○○ | ○× |
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佐久間淳 (環3・慶應高) | ×○ | ○○ | ○× |
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村田賢祐 (法4・慶應高) | ○× | ○○ | ○○○○○ | ○○○ |
翌14日に行われた遠的大会には慶大から6人が出場した。遠的競技は60m先にある1mの的を狙って行われる。昨日の雪辱に燃える村田は、怒涛の10連中を達成。予選を突破したのち、決勝射詰でも5連中でタイトルに一歩ずつ近づいた。80㎝的の決勝射詰でも外さなかったことで、悲願の日本一を手に入れた。ついにつかんだタイトル、残すは団体日本一のみだ。
(記事 砂川昌輝)
選手のコメント
村田賢祐(法4)
(今日までどのような練習を積んできたか)とにかく自分のペースをしっかりつくって、自分に集中することですね。相手や周りの歓声も気になるところでしたが、自分のやるべきことに徹すれば普段の練習通りの結果が出せるな、と考えていました。高い的中を出すことももちろん大切ですが、高的中は練習で積み重ねていくものです。いま僕たちがリーグ戦に向けてやらないといけないのは、緊張したどんな場面でも持てる技術をしっかり出すことなので、この点をしつこく言っていました。(桜美林大と試合は引きながらどのような印象だったか)そうですね・・・。2番のメンバーを固定できなかったです。選手を決めるときに、「コロコロ変えていいものか」とすごく悩みました。でももし今回自分たちの中で調子のいい選手を試合で使わないと、今後のリーグ戦・王座で自分が起用を迷ったときに、思い切って「行ってこい」とできないかなと・・・。そこで思い切って変えてみたのですが、今回は裏目に出てしまったなと感じています。(ただ個人戦を含めて、多くの1・2年生が大舞台を経験できたのは今後につながると思います)そうですね。こういう緊張する舞台で引くと自分の射がどうなるのか、が分かったという面ではすごく良かったと思います。ただ下級生だけでなくこれは全体に言えることですが、技術が十分あるとは決して言えないと思います。この試合で得た精神的な成長と、今後1か月で合宿を含めて技術を伸ばすことで、リーグ戦でいい具合に結果が出ればいいなと思います。(個人戦では堂々のインカレ2位でした)言い訳にするつもりはないですが、自分は就活が終わって6日目なんですよね。8月に入って1日も弓を引いていなくて、復帰してはじめて引いたのが10日ぶりだったのもありますし、慢性的な練習不足だとは感じていました。技術は短期間でグッと上がるのは難しいですが、そこは割り切って今出せる技術でどこまで的に入れられるか挑戦していた感じです。(長い遠近競射の間は何を考えていましたか)僕の場合は、遠近競射をやっていて「入賞が確定したな」と考えると抜いてしまうので・・・。それよりももっと大事なことがあるよね、と言い聞かせました。あさってからの定期戦、リーグ戦、王座・東西とつなげていく時期ですし、こんなに緊張する場面はなかなかないので、自分にできることを精いっぱい挑戦しようと考えていました。(これから残り少ない部活をどのように過ごしていきますか)とにかく朝から晩まで弓を引いていきます。そのなかでも自分たちの代が結果を残す、日本一になるのはとても大切ですが、来年以降の3年生以下がいかに自分たちで考えて部活動をやっていけるかですね。答えを教えるのではなく、その答えを導きだすヒントを少しずつ与えながら部活動をやっていければと思っています。もちろん日本一は全力で狙いに行きます。
廣田将也(法1)
(今日までどのような練習を積んできたか)全国大会という大舞台なので。他大は皆セレクションで入っている選手ばかりなので、彼らに負けないように精進してきました。 (全関東でも個人戦を戦いましたが、前回の反省が生きた部分は)欲を出さないことですね。調子が悪かったので、謙虚な気持ちで臨もうと思いました。全関東の時は団体の後でちょっと欲があったのかな、と感じていました。そこの部分では反省を生かしたつもりです。 (昨日の団体戦を見ていた心境は)僕は直前で調子を崩してしまったので、ただ申し訳ないという気持ちでした。本来は8人だったのですが、僕が欠けてしまったことで、7人で戦うことになってしまったのでただ申し訳ないです。自分がこれまで何をやってきたのかな、 という悔しさがこみあげてきました。(八寸まで進めたことの収穫は)確かに収穫ではあるのですが、あまり納得のいく状態ではなかったので。悔しさよりも焦りが強い気持ちです。(リーグ戦への意気込み)村田さんが準優勝で、「村田さんは本物なんだな」と痛感しました。やはり村田さんを日本一に連れていきたいのです。自分が勝ちたいのもありますし、日本一にさせたい人もいるので、そういう強い気持ちを持って戦いたいです。