戦後80年、戦争の記憶を未来につなぐ―『最後の早慶戦』保存会の使命―

コラボ企画

1943年、野球が米国の競技として弾圧されていた中で、早慶両校の関係者の努力の末、戦地に赴く前の最後の思い出として実現したのが出陣学徒壮行早慶戦、通称「最後の早慶戦」。書籍『最後の早慶戦』の保存会を運営し、『最後の早慶戦』復刊プロジェクトのクラウドファンディング立ち上げを牽引した中野雄三郎さんに話を伺った。もう二度と早慶戦の歴史を途切れさせないため、先の大戦を最後の戦争にするため、現代を生きる我々に何ができるのか。

 

中野雄三郎さん 
『最後の早慶戦』保存会会長。慶應義塾幼稚舎出身、慶應義塾大学卒。慶應義塾普通部時代は野球部、慶應義塾高校ではハンドボール部、大学ではテニスサークルに所属。
 
『最後の早慶戦』1980年に出版。2008年に映画化と同時に復版。しかし現在は絶版となり、読むことができない。
 
自身が在学中の早慶戦の思い出は?

私は幼稚舎の1年生の頃から早慶戦を見続けていて、当時は祖父が毎日新聞の関係者だったので、記者席に入って遊んでいました。また、私が大学1年生の時、4年生の先輩に巨人で活躍された高橋由伸さんがいました。その時に優勝して、提灯行列をしたのが良い思い出です。

『最後の早慶戦』保存会を始めたきっかけは?

取材中の中野さん

元々は報道ステーションさんが5月に「最後の早慶戦」の特集の番組をしていました。『最後の早慶戦』の本が話のベースに使われていて、私は取材協力をさせていただきました。その際に、2025年は戦後80年、昭和100年、六大学野球100周年なので何かできないかと思ったのが一つです。また、今2人の子供が中等部に在学しているのですが、子供達に言葉で戦争や歴史を伝えようとしてもなかなか伝わらないので、行動で見せた方が伝わると思い一念発起しました。

「最後の早慶戦」の雰囲気はどのようなものだったのでしょうか?

私の祖父は「最後は早稲田も慶應もなかった」と語っています。選手はお互いを励まし合い戦場へ飛び立ち、そのまま二度と還らぬ人もいました。

私が素晴らしいと感じたのは、早稲田が慶應を戸塚球場に迎え入れるにあたって、明日死ぬかもしれないという極限状態でも、トイレの隅々まで掃除したり、スタンドを綺麗にしたりとしっかり準備していたことです。慶應もそれに応える感じで、両校どちらもスポーツマンシップに加えて、小泉信三先生と飛田穂洲先生のリーダーシップというのがしっかり発揮されていましたし、その結果が試合の敢行に繋がっています。今にも繋がる両校のイズムなのではないかと考えています。

 

今年は戦後80年。日本人の戦争観についてどう思いますか?

近隣諸国との複数の領土問題があり、実際にミサイルも日本に向かって飛来しているので、本土に辿り着いてしまったら戦争状態になる可能性もあります。遠い国のウクライナやガザの話だけではなく、我々ももしかしたらそういう局面になるかもしれないという自分事として、戦争を捉えていくことが必要です。そのような感覚がないと、防衛や政治などへの関心も持てません。

ただの戦争本であれば、大衆から興味を持ってもらえないかもしれません。しかし「早慶戦」であれば、特に早慶両校の関係者にとっては一瞬で身近になります。学生のみなさんと同年代の方々が、ある日いきなり戦地に行けと言われて赴く話なので、みなさんが追体験するという点でも、この本はその役割を全うすると思いますし、身近なこととして戦争を理解するのには唯一無二の作品だと思います。

『最後の早慶戦』を通して、戦争を知らない若者に伝えたいこと

みなさんと同年代の大学生が、ある日突然青春を奪われ、命を断たれたという事実を知ること、そして、その歴史の上に今の平和、今の日常が成り立っているという当たり前に感謝すること、この2つのことを伝えたいと思っています。人それぞれの自由なので、それを強制したり、押し付けたりするつもりはありません。ただ、それを知った上でどう考えるかが重要です。知る機会すらないと、今の日常が当たり前になってしまいます。「最後の早慶戦」を通して、また新たな目線で戦争のニュース、政治の話を考えてほしいと思います。

クラウドファンディングについて

学生からお金を頂こうとは全く思っていません。クラウドファンディングの支援は社会人の方々に協力していただきたいと思っています。大学生のみなさんには、SNSなどで拡散していただけるとありがたいです。

プロジェクトを通して世の中に伝えたいこと

スポーツ史上において、最も悲しくも感動的な話とも言える「最後の早慶戦」を後世に語り継いでいきたいと思っています。早慶のレガシーとして語り継いでいくのはもちろんですが、スポーツを通し、戦争と平和を考える運動として、日本の歴史として、早稲田や慶應に関係がない方、野球に関心がない方にも届けるつもりです。早慶や野球という枠を超えて、戦後80年に戦争や平和について考えるきっかけになってほしいと思っています。保存会は今後も継続していくので、この活動に賛同して協力してくださる方をお待ちしています。

 

 

『最後の早慶戦』保存会

『最後の早慶戦』保存会の公式サイトはこちらから!

 

 

取材・記事:髙木謙、水野翔馬 編集:中原亜季帆

タイトルとURLをコピーしました