【ソッカー(男子)】責任と結果と闘い続けた主将 夢を乗せてマリノスへ/4年生卒業企画「光るとき」 No.71・田中雄大

ソッカー男子

25年度に卒業を迎える4年生を特集する特別企画「光るとき」。第71回となる今回は、ソッカー部主将・田中雄大(商4・成城学園/三菱養和SCユース)。浪人生活を経て、慶大ソッカー部の門を叩き、3年時からスタメンに定着すると、ラストイヤーには主将に就任。プレーで、声で、チームを引っ張り、4年ぶりの早慶戦勝利へ導くも、チームは入れ替え戦の末に2部へ降格。主将という立場に君臨し続けた田中の4年間の船路を辿る。

 

プロサッカー選手になるために、そしてサッカーだけが人生ではないと考えた田中は1年の浪人期間を経て、慶大へ進学。最初はBチームでのスタートだったが、地道に練習を重ね、1年時の早慶戦では途中から出場するなど徐々に出場機会を増やす。下級生時代を振り返って「監督やコーチへのアピールというよりかは、自分の能力を上げることに焦点を当てて、試合の前日でも『これ以上やれることはない』と思えるまで練習していました」と語った。

2年目は、出場機会も激増。早慶戦ではスタメン出場も果たした。一方慶大は2部昇格を目指しリーグ戦を戦うも、最終節で敗北を喫し自動昇格とはならず。勝負は2部参入プレーオフに委ねられることとなった。浦安で行われた青学大とのプレーオフでは慶大が先制点を奪い、リードした状況で後半へ折り返す。迎えた51分、ペナルティエリア内にいた田中にフリーの状態でパスが送られると、田中はそれをそのまま冷静に押し込み、追加点。これが決勝点となり、2-1で試合終了。悲願の2部昇格を自らのゴールで成し遂げた。

中町監督率いる新体制で迎えた3年目は、背番号も8に変更。中盤の要としてチームを支え、FKやCKも任されるようになった。関東リーグは22試合中19試合に出場し、第16節・拓大戦では2ゴールを決めるなど、持ち前の勝負強さを発揮した。チームも目標とする「1部昇格、2部優勝」を達成し、笑顔で長い1年の幕を下ろした。田中はこの年、同期の角田、GKの村上健(令7政卒・國學院久我山)とともに2部のベストイレブンに選出されるなど内外ともに認められる存在に。田中自身も「上手くいきすぎた、出来すぎたシーズンでした」と振り返った。

4年目、田中は自ら立候補し、主将に就任。開幕前のインタビューでは「副将の角田惠風(商4・慶應/横浜F・マリノスユース)とか西野純太(総4・駒大高)が良い雰囲気を作り出してくれているので、自分はプレーの中で、背中で見せて、引っ張っていければなと思います。自分はなんでも出来るとか、特別なにか力を持っているわけでもないので、周りの力を借りながら、周りの力を活かしながら、最終的に目標が達成できれば去年よりいい1年になるのかなと思います」と話した。

4年ぶりの1部の舞台。開幕戦こそ勝利するも、そのあとは6試合連続で勝ち無し。第8節の東洋大戦は角田の劇的なFKで逆転勝ちしたものの、その後もなかなか勝利を掴みとれず。2勝3分6敗でリーグ最下位という苦しい結果で前期リーグを折り返すこととなった。そんななか、副将の西野がケガから復帰。勢いづいた慶大は、アミノバイタルカップで最後の最後に明大を下し、全国出場への切符を掴み取る。リーグ戦の結果は振るわなかったが、勢いそのままに早慶戦へ進むこととなった。

早慶戦の2日前、慶大に吉報が届く。田中の横浜F・マリノスへ加入内定が決まったのだ。プロサッカー選手になることを目標に慶大へ進学した田中の長年の夢が叶った瞬間だった。そして4度目の出場となった早慶クラシコ。3年間の雪辱を果たしたいなか、38分、田中がペナルティエリアに鋭いクロスをあげると、この試合で引退が決まっていた西野がヘディングで押し込み、先制。田中の素晴らしいアシストでリードした慶大は2-1で勝利。4年生の執念が形となり、4年ぶりの早慶クラシコ勝利を成し遂げた。

その後、全国大会・総理大臣杯を初戦で敗退した慶大は1部残留を目指し、後期リーグに挑む。前期リーグや全国大会でチームとしてなかなか結果が出ないなかで、田中の主将像も変化していった。「要所で中町監督と話し合いをする機会があったなかで、なんとか1点、1勝を掴むために、プレーで示していくだけじゃなくて、自分の一声だったり、ミーティングでの発言だったり、小さなところからでもチームが変わっていってくれればという思いがあって。前期のままではいけないという強い気持ちが、自分を変化させたのかなと思います」と語った。

試合を追うごとに「まだいける」「こっからだぞ」という田中の言葉が飛び交うようになった慶大は、なんとか自動降格圏から抜け出し、1部リーグ10位で1部2部入れ替え戦へと進むことになる。入れ替え戦の相手は昨季だけでプロ内定者を7人も輩出している強豪・法大。引き分け以上で残留という条件だった慶大だが、試合はほとんどチャンスを作り出すことなく、0-3で敗戦。非情にも1年での2部降格が決まった。試合後、田中は思わず膝を落とす。法大の選手たちが歓喜に沸くなかで、田中はただ地面を見て、顔をうずめていた。試合後、時間を置いて出てきた田中は「結果を残せなかったというのは主将として責任を感じていますし、情けないという気持ちです」と赤くなった目で話した。

法大戦から約4カ月。現時点で横浜F・マリノスでの出場はない。プロの道は決して容易ではないことを痛感する日々だ。それでも、田中はきっと努力を続けている。私がひとつ印象に残っていることがある。それは高精度のクロスボールでも、強烈なミドルシュートでもない。それは早慶クラシコの約1カ月前、練習が終わった誰もいないグラウンドを、気温30℃を超える酷暑だったにもかかわらず、一人で走り続けている田中を見たことだった。田中がソッカー部の主将として君臨できるのは、実力以上の努力の裏付けがあったからだと思い知らされた真夏日だった。どんなに辛い状況でも、責任や重圧を感じても、ソッカー部主将としての矜持がある。田中雄大はもう止まらない。長く続くプロ生活、彼はまだ錨をあげたばかりだ。

(取材、記事:塩田隆貴)

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