関東大学リーグにおいて、健闘している慶大。去年は1勝もできずに幕を閉じたリーグ戦だったが、今年の慶大は勝てる試合できっちりと勝利を収めている。彼らをパワーアップさせたのは、間違いなく今夏に行われたトロント遠征だろう。今回は9月24日に行われたトロント遠征報告会に同席させていただき、竹田恒治慶應義塾体育会アイスホッケー三田会会長、安藤直哉主将(政4・慶應義塾高)に、お話を伺い、遠征について振り返っていただいた。
まず、冒頭のあいさつで遠征に帯同した竹田会長は、今回のような本格的な遠征は初めてであり、中身の濃い、充実した遠征になったと語った。続いて樋口美雄慶應義塾体育会スケート部部長が今回の遠征で技術的、並びに精神的なことを学んだと述べ、選手たちを称えた。
会の途中では、山下礼主務(政4・慶應義塾高)がスライドを用いて今回の遠征について、報告した。事前勉強会、メル若林氏による講演、カナダ大使館訪問、そして壮行会の様子をスクリーンに映し出し、遠征に向かうまでの準備段階も報告し、現地でのトレーニングや交流内容についても説明した。トロント大学ではトレーナーの方からの指導のもと、最新設備が整ったセンターで筋トレ、陸トレ、トロント大学の選手たちとの合同練習を行った。トレーニング以外では、日本総領事館においてのレセプションディナーに参加、またカナダ女子アイスホッケーのオリンピック金メダリストの講演も行い、チームビルディングについても学んだ。実際に行われた試合の映像を流し、ゴールを決めた瞬間や試合終了時には出席者からは拍手が送られた。
山中武司ヘッドコーチは全日本女子の試合が控えていたため、報告会は欠席。ビデオメッセージで「思うような成績が秋リーグで残せていないが、この遠征の成果が出た、と言えるように」と巻き返しを誓った。
今回の遠征で選手たちは一生忘れることのない、且つ貴重な体験ができたはずだ。現在秋リーグでは、3勝。今後もトロント遠征の熱が冷めることなく、さらに強いチームを目指し、最後は笑顔でリーグ戦を終えてほしい。
※今回使用したお写真は、スケート部ホッケー部門マネージャーの皆様に提供していただきました。ありがとうございました。
竹田恒治慶應義塾体育会アイスホッケー三田会会長
今後選手としてあるいは社会人として、成長していく上で、国際感覚を醸成してもらいたい
――総合的に見て今回の遠征はいかがでしたでしょうか
大きく分けて2つの目的を持って、遠征に行ったんですけども、一つはアイスホッケー部ですから、アイスホッケーそのものを本場のカナダから学ぼうと。チーム力のアップと、個人のスキルアップにつなげようというのが一つで、もう一つはアイスホッケー以外のこともこの期間に大いに学ぼうということで。どういうことかというと、異文化に直接触れて、文化とか歴史とか価値観の多様性を感じて、彼らが今後選手としてあるいは社会人として、成長していく上で、国際感覚を醸成してもらいたい。そういう2つの目的で行ったんですけども、選手はそうした遠征の趣旨をよく理解してくれて、意欲的に色んなプログラムがあったんだけども、取り組んでもらって、アイスホッケーの面でもそれ以外の面でも、非常に学ぶことが多かったのではないのかな、ということから、非常に中身の濃い充実した遠征になったんじゃないかな、と思っています。
――一番良かったプログラムというのは
やっぱり、カナダっていうのはアイスホッケーの発祥の地で、それでものすごくレベルが高いわけで。レベルの高い選手と試合をすることによって、色々学ぶことも多かったと思うのだけれど、2つ彼らにとって学ぶ点となったのは、1つはカナダの選手のアイスホッケーに対する取り組みの姿勢の真剣さ。それから、プレーに対して彼らは非常に忠実だと。取り組みの精神と、プレーの基本に徹するということを慶應の選手は改めて感じて、その重要さがよくわかってくれたんだと思っています。それと、今回初めてこういう形でトロント大学の学生と氷上の上で、氷上外でも、あるいは総領事館に全選手呼ばれて交流の機会があったので、色々感じたことはあったと思うんだけど、やっぱりコミュニケーションの難しさということを彼らは本当に感じたと思う。したがって、コミュニケーションがいかに大切かということをわかって、これから語学だとか外国のことだとか、歴史とか、そういうことの必要性がわかってくれたらいいな、と同時に、彼らはいかに彼ら自身が日本のことをわかっていないかということを感じたんだと思う。向こうのカナダの学生たちからすれば、日本はどうなんですか、という質問が出てくる。それに対して、答えられないということで、彼ら自身が国際人になる、社会で活躍するためには、もちろん、言葉だとか外国のことを知ることも大事だけれども、それと同時に、日本のことを知らないと、外国では認められないということも学んでくれたんだと思う。
――学生としてだけではなく国際人としての第一歩を踏み出せた遠征だった
その手がかりにしてくれれば、嬉しく思います。(帰国後の選手たちの様子は)彼ら全員に感想文を書かせたのだけれど、やっぱり非常に学ぶことが多かったと。アイスホッケーについては基本的なことを彼らは忠実にやる、ということが非常に訓練されたということで、それをいかにプレーに生かすかという大切さを学んでくれたんじゃないのかな、と思います。
――3年に1度遠征を、という話があったが今後の予定や展望、三田会として予定している支援等は
4年に1回、ってやると行けない人も出てきちゃうので、3年に1回であれば、どこかでみんなが大学在学中に遠征できるという機会を与えたあげたいな、ということから3年に1度です。それと、遠征するにはそれだけの資金が必要になってくるので、それだけの財源の確保ということを考えると、3年に1回というのが我々の実力かな、と思っていまして。3年間、財源の確保に努力して、ぜひ3年後にまた彼らにカナダの遠征をさせてあげたいな、と思っています。
――今後遠征以外のことで三田会が予定、計画していることなどは
アイスホッケーのビジョンというのは、世の中に出て世の中に役に立つ人材を輩出するということで、ビジョンのカードを作っているんですね。学生全員に配って、毎日見るようにしているんですけども。その中に、僕らは「グローバルな人間として」という項目を加えたいと思っているんです。今までは福澤諭吉の教えに学んでね、日本のためになる人を輩出すると。それだけじゃダメだと。グローバルな社会で通用する人間にならないと、日本のためにもなかなか働くというのが難しい時代になってくると思うので、グローバルということをビジョンの中に付け加えたいと思っていますけどね。そういう一環として、この遠征があったので、続けたいと思っていますけども、できれば向こう(カナダ)からも日本に来てもらいたいし、もし日本で、慶應で勉強したい、アイスホッケーがしたいという人がいたら真剣にそういう受け入れもしたいと。そういうことによってやっぱり全員が留学することはできないけれど、海外の人が慶應のグループに入ってくれるなら、いろんな異文化だとか違った価値観、言葉、コミュニケーションとか色々学ぶところもあると思うので、できれば、体育会から、スケート部から、慶應の中にそういった動きを出していければな、と思います。
安藤直哉(政4・慶應義塾高)
これから遠征で得たことをどう活かすか、というのが大事
――今回の遠征を全体的に振り返って
期間は1週間だったんですけど、本当にあっという間だなという感じでした。全体的にアイスホッケーと交流という2つの趣旨があって、アイスホッケーの合宿だけではなくて、交流もあって。ただ、僕たちがアイスホッケーを通して交流できるというのが1番のメリットだったので、どちらも通じてどちらも成果を上げられたというのが良かったです。いい経験になりました。
――成果を上げられたと1番感じられたイベントは
個人的には3試合、違う相手と(試合を)やらせていただいて、接戦が2試合あって、その2試合勝つことができて、全然情報のない相手に対して、結構すごくカナダのプレースタイルで荒かったのですが、そこに負けないで試合に勝つことができたことが大きかったと思います。
――カナダの選手と対戦して、不足しているなと感じたり痛感したことは
やっぱり体格の差というのは致し方ないということはあるのですが、パスレシーブの精度だったり、細かいパックの使い方というのが上手いですし、あとやっぱり大きい体をどう生かすかという、そういった体の使い方というのもすごく優れていて、僕たちよりアイスホッケーを詳しく知って、理解しているな、と感じました。
――カナダでの選手たちの様子は
1週間という短い期間で何かを得ようとする気持ちをみんなからすごく感じましたし、英語しゃべれる人としゃべれない人といるんですけど、相手の(カナダの)人と交流して、発見とか気づきというのを氷の上でも氷の外でも感じようとする意志はすごく感じました。
――樋口部長が先ほど技術的な部分と精神的な部分、というお話をされていましたが、遠征ではどちらがより大きく感じられたでしょうか
やっぱり技術的な部分というのは1週間で飛躍的に向上するか、というとそうではなくて、精神的に学んだことが今後意識だったり、生活に落とし込むことで結果的に長い期間を要して、技術的にも向上するのかな、と思っているので、これから遠征で得たことをどう活かすか、というのが大事なんじゃないかなと思っています。
――今回の遠征でご支援・サポートして頂いた方々に向けてメッセージを
この遠征は僕たちがやりたいからって言って実現したものではなくて、OBの方であったり、多くの関係者の方々が関わってくださって初めて成り立ったものなので、本当にこういうものをプロデュースしていただいて、感謝していますし、やはりこれから経験を積んだだけではなくて、これからの我々の行動であったり、試合でのパフォーマンスであったり、色々なもので恩返しできたら良いな、と思っています。
(取材:椙本彩愛)